【第6話】バッドラックジハード④
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突然の対面に何も言い出せず固まっているとそのまま補色さんがパイプ椅子の上にあった肝油缶を拾い上げる。
「これ、姉のですよね?」
そういって一粒取り出して口に放り込んだ。
缶の成分表の記載を見回しながら口内の肝油を噛まずに転がしている。
「小さい頃に私が食べると賢くなれるよって言って渡して以来、基本ずっと持ち歩いているんですよあの人」
変わった人ですよね、と懐かしむような憐れむようなどちらともとれる表情で話す。
どう反応していいか分からずに沈黙している僕に気づいてか、補色さんは続ける。
「ああ、心配しなくてもここで言い洩らしたりしませんよ…抜戸楽さん」
あなたの帝麗での事件のことは。
そう言った。
「…!!」
「といっても帝麗と立華が合併したら自然と周知されるでしょうけどね」
帝麗との合併。
それはすなわち僕自身の呪いとの対峙を意味する。
「あの学園は異常性は君も普段いるならわかるだろ…!」
僕が救うことはできなかったあの少年は今も中に囚われているのだろうか。
離れた今でも夢にまで出てくるあの日の恐怖。
帝麗の生徒である補色さんが知らないはずがない。
込み上げる吐き気を必死で抑えながら尋ねる。
「…あいつは…キョウは…まだ幽霊のままなのか?」
僕の問いかけになぜか驚いた表情でこちらを見て補色さんが答える。
「…驚いた。まだ気づいていなかったんですね?」
「…まだって?」
何の気づきのことを言われてるか全くわからない。
もちろん補色さんが何に驚いているのかも。
「これがあなたにとって朗報となるかどうか知り得ませんが…」
今は学園にいませんよ。
そう言った。
今はもういない。
それがどういう意味なのか、怖くて僕は聞き返せなかった。
「この学園では姉を助けていただいたようなので忠告がてら合併の話をしようと思ってここに来ました」
「合併は早ければ私の姉妹校交流が終わり次第にでも動き出すと思います」
「もちろん合併後は母体である帝麗の校則に準ずることとなるでしょう」
「悪いことは言いません。あのような悲劇を繰り返したくなければ別の高校へ移られることをお勧めします」
そう言うと補色さんは立ち上がり、手に持っていた肝油の缶をパイプ椅子の元の場所に置いた。
「では私はこれで。お体の方ご自愛なさってください」
「まあ、もう会うことはないかもしれませんけど」
そう言って保健室から去っていった。
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昼休みになり、戻ってこない楽の顔を見に保健室に来てみた。
保健室に入ると明らかに困り果てた様子で保健室の先生がうろうろと右往左往している。
「ああ…どうしましょう~」
なぜか肝油の缶を抱えて。
「あ、それ私の…」
楽が追加で食べるかと思って置いていった肝油缶である。
肝油缶を指さすと半泣きになりながら保健室の先生がガシッとしがみついてきた。
「おわぁ!?」
思わず変な声が出る。
「うう~良かったぁ!! あなた抜戸さんを連れてきてくれた人ですよねぇ!?」
「そうだが…」
「彼、書置きだけ残して家に帰っちゃったんです~!」
そう言って“家に帰って休みます ありがとうございました”と書かれた紙を見せてくれた。
「藤崎先生にもお伝えしたんだけど…そういうこともあるでしょうとか言って全然心配してないんですよぉ~!」
「……」
あの担任ならとなぜか納得してしまう。
「無事に帰宅できたか後で確認しに行った方がいいわよね…」
おろおろしながらそんなことを言う先生がだんだん気の毒になってきた。
「私、家近いから帰りに寄ってみるけど…」
そう伝えるとまるで生き返ったような表情でひたすらにお礼を言われた。
挙動不審におろおろと徘徊す先生を後目に保健室から出ていつも通り仮設科学実験室に向かう。
「お、どうだった?」
先に購買でパンを買いに行ってくれていた寧斗達と合流する。
「なんか家に帰ったらしい」
「あら、だいじょうぶなのそれ?」
一人で帰宅した旨を伝えると花道が心配して尋ねてきた。
「保健室でもちょっと様子が変でしたもんね…心ここにあらずって感じで」
華子も心配そうにつぶやく。
「肝油の食わせすぎじゃねえのかぁ?」
「うっ…!」
寧斗の見解にあながち否定できず言い淀む。
「放課後家に見舞いに行こうぜ」
もちゃもちゃとはみ出し焼きそばパンを頬張りながら寧斗が提案する。
私もはみ出しメロンパンを頬張りながらそれに頷く。
「…って、はみ出しメロンパンってなによ!?」
はみ出さんばかりにカットされたメロンの果肉が挟んである私のパンを見て花道が我慢できずに遅延つっこみをいれた。
「見ての通りだ。はみ出してるだろ」
購買で定期的にやるチャレンジシリーズのパンが今週ははみ出しシリーズだったのだ。
焼きそばパン、メロンパンのほかにも花道のはみ出しカレーパン、華子のはみ出しあんぱんなどもあった。
「あたしとかこちゃんのに関してはあまりはみ出さないほうがいいと思うんだけど…」
言われてみれば確かにただ包み損なっただけにも見える…。
「さっき美多ちゃんのとこに持って行ったのは何パン?」
お供えと称して持っていったのは確か…
「はみ出し食パンだったかな…」
「もはやそれは何がはみ出してるんだよ…」
呆れた様子の寧斗がそう呟いていた。




