【第6話】バッドラックジハード①
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もう何度目となるのかもわからない同じ夢を見ていた。
自分が救えなかったとある同級生の夢。
当時の最悪だった状況を見せつけられ、ロールプレイ式に同じ結末を繰り返す。
もはや夢と言うより呪いに近い。
今、彼はどうしているのだろう?
救えなかった事実がある以上、その後の彼の生活が良いものに変わったとは到底思えない。
いっそすべて忘れてしまえれば。…寝覚めのたびにそう思う。
じっとりと全身にかいた汗をシャワーでさっと流し登校の準備に取り掛かる。
…今日もまた一日が始まる。
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「じゃあ元気でな」
夏休み明け初日の放課後。
西園さんが自分の体よりも一回り以上大きな荷物を背負って僕たちに別れを告げた。
先日の美多さんとギデオンの一件があり、帝麗の技術開発部の取締役である御子柴雫が左遷された。
管理責任者が不在になった為、必然的に次席の主任である西園さんが代理として技術開発部を任されることになったのだ。
「んもう、寂しくなるわねえ…」
花ちゃんがやけにキュートなハンカチを握りしめながら別れを惜しむ。
「大袈裟だな…。引継ぎやらであっちに一旦戻るだけだぞ」
期間は不明だがそこまで長くはならないはずだと西園さんが言っていた。
「実験室のカギは花道に預けてあるから出入りは自由にしてくれ。大方の器具はこっちに置きっぱなしだから時々顔を出しには戻って来るさ」
くれぐれも絵入がいろいろ持ち出さないように注意しておいてくれと僕に釘を刺してきた。
「抜戸さんが杏ちゃんの保護者みたいですね」
御手洗さんが小さく笑いながらそんなことを言ってきた。
言うことを聞かない点においては子供というより犬や猫に近い気もしたが余計なことは言わないでおいた。
西園さんと別れた後に僕たちラムサール部のメンバーで仮設科学実験室に向かう。
さっそく花ちゃんが預かっていたカギで開錠し教室内へと入る。
「相棒が出張に行ったぞ、美多」
教室の奥の一室で眠っている美多さんに寧斗が話しかける。
ギデオンとの戦闘の後に活動を停止した美多さんは西園さんに損傷した部分を修復してもらった後も今なお眠り続けている。
僕たち以外の学園の人に見つからないように、さながらコールドスリープのようなカプセルに保管され、機体の劣化が生じないように管理されている。
あれからほぼ毎日のように僕たちに声をかけられているが…目を覚ます気配は残念ながらない。
「いつまで寝てるんだ、もう起きろ」
絵入さんが無表情でカプセルの窓部分をノックする。
「本当よ…まったく。寝坊助にもほどがあるわ」
花ちゃんもあきれ笑いしつつ絵入さんと一緒にノックしていた。
一方通行のコミュニケーションが終わり、いつものテーブルに皆で座る。
部の活動報告を寄せ書きスタイルでまとめつつ、いつも通りのくだらない会話をしながら過ごす。
「あ、そういえば校長に呼ばれてるんだったわ。楽ちゃん、帰るとき鍵お願いできる?」
花ちゃんが不意に思い出したのかそんなことを言う。
「おっけー」
僕に教室の鍵を託して校長の元へ行ってしまった。
特にすることもなかったので活動報告を適当に書き終え皆で校舎を後にすることにした。
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商店街を経由して御手洗さん、寧斗と別れ絵入さんと二人で家路につく。
機嫌がいいのか珍しく鼻歌を歌っている絵入さんに話しかける。
「そういえばさ、最近会ってなかったけど道代さん元気?」
絵入家にいるアンドロイドの調子について聞いてみる。
「元気。昨日も私を探して家中走り回ってた」
その場面を思い出したのか若干のにやけ顔で思い出し笑いをする絵入さん。
「探してたって…何やってたの?」
「肝油のドカ食いしてたら隠されそうになったから缶持ったまま隠れ食いしてた」
「……」
道代さんの日々の苦悩が目に浮かぶ。
「肝油もいいけど、偏食とかしてない?」
「多分してない」
「ふーん。ならいいけどさ」
多分という前置きに引っ掛かる。
「ここ数日はちゃんとタコだけじゃなくてイカも入れてる」
「…一応聞くけどそれってたこ焼きの中身の話?」
「うん」
「今日の昼は購買のパン食べてたよね?」
「うん。たこ焼きパン」
「朝は?」
「朝?イカ焼き」
「え?たこ焼きのイカバージョンってこと?」
「うん」
…偏食どころの話ではなかった。
「それはイカ焼きって言わないんじゃないかなぁ…」
絵入さんの言うイカ焼きは名前こそ一緒だが正確には“中身がイカのたこ焼き”である。
「???」
正確な呼称について説明してみたが今一つ納得していない様子。
説明していて僕もなにがなんだか分からなくなってきた。
「ま、まあいいや。んで昨日の夜は何を食べたの?」
「たこ焼き」
「……。昨日の昼は?」
「イカ焼き」
「うん…うん…。なるほどね…」
噛みしめる様に頷きながら断言する。
「世間一般ではそれを偏食と言います!」
「そんな…! イカとタコ交互に食べてるのに…!」
なんで信じられないような顔してるんだこの人。
「粉ものというジャンルから抜け出せてないんだよおっ!!」
思わず叫んでいた。
「…!!」
その食生活でよく体調崩さずにいられるな…。
「え、なんで!? 野菜とか果物とか食べないの!?」
「く、果物…」
「みかんとかイチゴとか色々さぁ…」
「ああそれなら…ヘビイチゴをたまに摘まんだり」
「野生はノーカン」
そもそも野生ではなくちゃんと市販のものを摂取して欲しい。
「道代が作ってくれるから大根は結構食べるけどな」
「……」
いずれにせよ偏りがすごい。
内情を聞いてしまった以上放っておくわけにもいかないので抜け出たばかりの商店街に引き返しスーパーで買い出しをすることにした。
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買い出しを終えて絵入家に到着する。
「帰宅」
絵入さんが玄関を開けると機械音とともに道代さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。あら? 今日は抜度さんもいらしたんですね」
「お久しぶりです。シーフードと炭水化物に侵食されていると聞いて晩御飯を作りに来ました」
「ああ…助かります。私が言っても全然聞かないので」
そういって道代さんの液晶に困り顔マークが表示される。
商店街のスーパー「じゃんぐる」で購入した炒め用の野菜詰め合わせと豚小間切れを絵入さんちにあった適当な調味料で炒める。
「なんか手伝う?」
家主が若干の申し訳なさを匂わせつつ聞いてきた。
「たしか炊飯器あったよね? お米炊いといてくれる?」
備蓄米のない絵入家で寂しく埃被っていた炊飯器を指さす。
「まかせろ」
炊飯器の外側を軽く拭いて中の釜を取り出す絵入さん。
「げっ…」
小さく悲鳴を漏らす絵入さんの肩越しに炊飯器の中を覗く。
「うわ、なにそれ…」
釜のそこに赤黒い干物の様な物体が横たわっている。
「…赤飯のミイラだ」
幸いカビなんかは生えていないようだが見てはいけないものを見てしまったような気持ちになる。
名残惜しそうにかさかさとドライな音をさせながらそれを引っ剥がしてごみ箱に捨てる絵入さん。
道代さんがいなかったら家庭崩壊を起しても何ら疑問ではない。
絵入さんが炊飯に取り掛かっているうちに僕はシンプルに豆腐とわかめの味噌汁を作る。
絵入さんが余った食材を調理してくれるか怪しかったので食材は極力使いきれる量を買った。
「インスタントの味噌汁も買ったから、余った乾燥わかめはふやかしてなんかのトッピングで使ってね」
そう伝えながら我ながらお母さんみたいだと自嘲する。
「沸騰してるけど味噌入れないのか?」
「味噌の香りが飛んじゃうから火を止めてから入れたほうがおいしいんだってさ」
どっかの料理番組でやってたことを受け売りで教える。
そんなこんなしているうちに肉野菜炒め、ごはん、味噌汁が出来あがった。
「はぁ…お味噌のいい香りがしますね」
洗濯物を畳み終わった道代さんが二階から降りてきた。
「丁度できたし食べよっか」
「楽も食べていくんだろ?」
「ん? ああ、そうだね。絵入さん達が良ければそうしようかな」
そのあと卓袱台を三人で囲んで夕食をとった。
「う、うまうま…」
普段の偏食の反動か、バランスの良い栄養がいきわたって絵入さんも思わず言語機能が低下している。
「ごちそうさまでした」
絵入さんは夕食が終わると満足したのかそのまま座布団に横になり眠ってしまった。
「猫みたいなやつだな…」
調理で使用したフライパンなどを洗いに台所に戻る。
「ああ、いいですよそのままで。片付けまでやってもらったら罰が当たります」
道代さんが気を使ってくれたのでお言葉に甘えさせてもらって予洗いだけしておく。
「さて、絵入さんも寝ちゃったし僕も帰ります」
おなかも満たされて若干の眠気も襲ってきた。
無防備に眠りこけている絵入さんを横目に道代さんに帰宅の意思を告げた。
「今日はありがとうございました。またいつでもいらしてください」
そういって左右に動きながら道代さんがお辞儀の絵文字を表示する。
明日も学校だ。
僕も家に帰ってあまり遅くならないううちに寝ることにした。




