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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん㉔


「ちょっといいか?」

なにやら秘策があるらしくギデオンに接近を試みたいらしい。


「やめといたほうがいいよ。一定の範囲に近づくとすかさずカウンター取ってくるから…」

僕ですら一発もらっただけでこの有様だ。女の子があんなの喰らったら無事では済まされない。…まあ僕も無事ではないのだけれど。


「そこをなんとか…。一瞬でも近づければいいんだ」


「何をしようとしているか分からんが、多見と花道の攻撃にカウンターを放った後に一瞬ラグがあるな…」

懇願する絵入さんを見て西園さんが気が付いたことを教えてくれた。


「ただあの二人だからカウンターも辛うじて避けれている感じだな。ラグといってもほんの一瞬だぞ」

一瞬何かを考えたように絵入さんが俯いていたが、


「わかった」

そう一言言ってすたすたとギデオンの方へ向かっていく。


「すていすていっ」


「なんだ」


「話聞いてただろ? 僕たちじゃカウンター避けれないってよ」


「それはしょうがない。でもやるしかない」


「…はあ~。もうあの蹴り受けたくないんだけどなあ…」

一向に撤退指示を受け入れない絵入さんのスタンスに僕もなにかを諦めた。


「ちょっと待ってね」

そう言って幸運にも近くにあった耐圧マットのようなものを体に巻き付けて絵入さんのもとに戻る。

人間サンドバックとはまさに今の僕のことを言うのだろう。

恐らく受け身が取れないことが何より恐ろしいが、生身でもう一度受けたら気絶する自信がある。


「蹴り飛ばされた僕のことは気にしないでやることやってよね!」


「うん」

そういって人間サンドバックとすぐ背後に絵入さんが隠れてギデオンへと接近する。


「真後ろにいると蹴り飛ばされた僕に当たるかもしれないから気を付けて」

気を付けてとしか言えなかった。

ぐるぐる巻きになっているため視界も不良だし左右どの角度からあの蹴りが飛んでくるかまったくわからないのだ。

先ほどからギデオンの蓄積ダメージを少しでも稼ごうと攻撃し続ける寧斗も花ちゃんも大分疲弊しているのか息が上がっている。


「おまえらあぶねえぞ! それ以上は近づかねえ方がいい!」

カウンターを見越してか寧斗が僕たち二人の身を案じて忠告する。

花ちゃんも少し振り返って僕の方を見る。巻物みたいになった僕を見てギデオンに突っ込もうとしていることを悟ったようだ。


「楽ちゃん、もしかしてそのまま突っ込むつもり? やめた方がいいわよ! こいつ徐々にカウンターの攻撃が鋭くなってきてるわ!」


「えっ、嘘でしょ!?」

聞こえてほしくない情報が聞こえてしまい思わず足がすくむ。

いくら耐圧性が上がっているとはいえ衝撃を吸収できるのにも限度ってものがある。

多少厚着をしたところで相手がダンプカー並みの衝撃を備えてたらひとたまりもないのだ。


「おい、やっぱ私一人で行くか?」

明らかに表情が曇った僕を察知してか絵入さんが顔を覗き込み言った。

情けない。僕一人の犠牲であいつを止められるなら本望じゃないか…!

ちょっとまて、犠牲ってなんだ。これから死ぬみたいに言ってる場合じゃない。

両手がふさがっているためググっと全身に力を入れて意気込む。


「うおおおおおお!!もうどうにでもなれえ!!!」


そういって絵入さんにアイコンタクトを送ると、震える足を無理やり動かしてギデオンに一直線に突っ込んでいく。

機械的な駆動音と同時にギデオンの眼光だけが瞬時にこちらをとらえてカウンターの構えをとる。

襲い来るであろう衝撃に備え身を強張らせるが、回転も加わったギデオンの蹴りが横薙ぎにこちらに飛んできたかと思うと、さながら大型トラックに衝突されたかのように激しく僕の体が蹴り飛ばされ宙を舞った。

フットベースの場外ホームランをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれない。


「かはっ…!!」

あれだけ耐圧に備えたつもりだったのに中に響くように鋭い蹴りの余韻がきてまるで肺がつぶれたかのように呼吸ができなくなる。

大きく宙を舞いながらも一瞬の隙を逃さずに絵入さんがギデオンの背後に急接近してその体躯に触れた。


「もう一匹」

時間にして数秒の…ほんとにわずかな隙で接近には成功したがほぼ立て続けにギデオンのカウンターが作動する。


「あっぶねえっ…!」

離脱が間に合わない絵入さんをすかさずタックルするような形で寧斗がギデオンのカウンターから保護する。

倒れこんだ寧斗と絵入さんをさらに追撃しようとするギデオン。

すぐに危険を察知して駆け寄った花ちゃんがギデオンの脚部の関節めがけて回転を加えながらロッドでの攻撃を叩きこむ。

わずかにバランスを崩したことで寧斗の頭上すれすれをギデオンのカウンターが空振った。


「あっぶな! 文字通り間一髪だったわね」

肩で息をするように花ちゃんも寧斗も体力の限界が近いようだ。


「皆さんお待たせしましたっ! ビームの充填、完了しました…!」


座り込んだ状態で銃身を構えながら美多さんが僕たちが待ちわびた言葉を言い放った。


「寧斗さんも花道さんもギデオンから離れてください! コアの動かせない今しかチャンスはないんです!」


ギデオンの付近から伸びている触腕が明らかに美多さんを警戒して威嚇する。

ビームを撃つのを妨害するために迫ってくるかと思いきや、触腕はスルスルとギデオンの方へと収納されていく。


その直後、先ほどまで弱弱しく点滅していたギデオンのコアが光を強めたかと思うとギデオンの眼光が怪しく光った。


「冷却終了」


絶望しか感じない宣言の後にギデオンが再度動き出してしまった。


-----------------------------


「くそっ! 間に合わなかったか…!」


博士が悔しそうにギデオンを睨みつけてそうこぼす。


「そ、そんな…」

依然コアの位置は頭部にあるが、駆動が再開した今、あの位置に照準を合わせて射撃をしても間違いなく先ほどのように位置をずらして避けられてしまうだろう。

冷却の完了と同時にギデオンのアップデートも進行しているのか、その背部からワイヤーを幾重にも重ねたような無機質な翼が形成されていた。


「試しに撃ってみますか? 先ほどより早くコアの移動ができますけど」

実質無敵になったギデオンが不敵にこちらを見据えて嘲笑する。

最早打つ手がなくなった。

思考がまとまらない。

成す術ががなくなり俯く私の肩を誰かが叩いた。


「大丈夫だ、美多。目にもの見せてやれ」

いつもと変わらぬ表情で絵入さんがそう言った。

そしてギデオンからけたたましい警告音が鳴り響いた。


「深部回路に異物検知」


「しげる、今だ! やれ!」

絵入さんの掛け声と同時にギデオンがショートしたようにその場に這いつくばり動けなくなった。


「動作中枢信号遮断 回避不能」

殺意を持ってこちらを睨みつけるコア目掛けて銃の照準を合わせる。


「拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶」


警告音に混じりながらさながら怨嗟のように警告を繰り返すギデオン。


「いけ!美多!」


「美多ちゃん!お願い!」


「今よ!みーちゃん!!」


周囲のみんなの声に背中を押されギデオンのコア目掛けて一際強い紫線が一筋穿通した。

わずかな沈黙ののちに焼け落ちたギデオンのコアが崩壊した。


「や、やった…!」

博士達が駆け寄ってくる中、ただただ体が冷え切って動かせなくなる感覚が襲ってきた。

同時に眠気に似た衝動がやってきて、私の意識は声も出せずにフェードアウトしていった。


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