【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん㉒
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ビルから急に謎の高周波音が鳴り響いて内部との通信がすべて途絶した。商店街の観衆が見れるように配置されていた定点カメラもすべて映らなくなってしまった。
先ほどから御子柴陣営の動きがおかしい。
連れてきた数名の研究員が顔色を変えて御子柴雫に何かの報告を行っている。
「何かトラブルか?」
「トラブル? …想定の範囲内です!」
ぴしゃりと私の問いかけに門前払いのような態度をとる御子柴雫だったが、その表情は非常に焦っているように見えた。
「内部の様子もわからないし中止しなきゃダメだろ!」
「……」
何か非常にまずいことが起こっているのは御子柴雫の表情が物語っていた。
一向にだんまりを解かない彼女に構ってはいられない。
近くにいた研究員に問いただす。
「説明しろ! ギデオンに何が起きた!?」
研究員は一瞬指示を仰ごうとしたのか統括者である御子柴雫の方を見たが無反応の彼女を見て決心がついたのか私に状況を打ち明けた。
「ギデオンの制御リミッターが機能していないんです…! 外部指示回路に自身の判断でプロテクトもかけてるみたいで…!」
嘘だろ…? それこそお前たちがミタに押し付けたシンギュラリティを越えたことによる暴走じゃないか…
「おい! 黙り込んでる場合か! 被害が出る前にギデオンを止めるんだ!」
「止める…? 無理ですよ…外部指示を完全に拒絶してる…」
強制停止の信号も受け付けない状況にあるらしい。
「内部的な操作が無理なら壊してでも停止させるしかないだろ!」
量産体制をとっていたのならギデオンとほぼ同性能の機体があってもおかしくないはずだ。
「今動いているギデオンが親機で生産している…。他の機体を動かそうもんならすぐに乗っ取られてしまいますよ…」
中にいるメンバーが危ない。
そう判断した私は観衆の避難を御子柴陣営に指示して雑居ビルへ向かって走り出した。
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突進をした後に宙を見上げギデオンが蒸気に似た煙を吐き出す。
「ウマレタ 埋まれた 生まれた」
変形と再構築を繰り返して歪な形状になるギデオンは嫌悪と恐怖の混じりあった一つの生命体にすら見えた。
意味不明な音声言語を繰り返し尚も変形を続ける。
「ちょっとちょっとどういう状況よ!?」
騒ぎを聞きつけて上の階から降りてきた花ちゃんがギデオンを挟んで僕たちの反対側から叫ぶ。
その反応を察知したギデオンが一瞬静止したのちゆっくりと花ちゃんの方に頭部らしき部位だけ向きなおす。
「あなたも祝福してくれますか? 私の生誕を」
どこかノイズの混じった音声でそう言いながら花ちゃんに歩み寄るギデオン。
「花道さん逃げてください! ギデオンは暴走してて人間にも危害を加えてきます!」
有事の際に使うつもりだったのか木刀を構えてギデオンを見据える花ちゃん。
「あらぁ、だったら尚更逃げるわけにはいかないじゃない。みいちゃんも楽ちゃんもいるのに」
普段通りの緩いテンションで話す花ちゃんだがギデオンを見据えるその目は普段からは想像がつかないほど研ぎ澄まされていた。
先ほどの尋常じゃない突進のスピードが嘘だったかのようにゆっくりと一歩ずつ歩み寄るギデオン。
おぼつかない足取りで数歩歩いたのちに自分の脚部に縺れてそのまま激しく転倒した。
「…え?」
変形の途中だったせいか自分でも動きがうまく取れていないのか?
僕がそんなことを考えた瞬間。
転倒した状態からギデオンが花ちゃんに向かって高速で襲い掛かった。
「…!!!」
信じられないスピードで突進してきたギデオンを花ちゃんが受け流すように木刀で捌く。
「っとお! あぶなっ!! なによこいつ!?」
受け流したはずなのに木刀は真ん中から半分にひしゃげて折れ曲がっていた。
「花ちゃん!」
壊れてしまった木刀を手放して花ちゃんがこちらに合流する。
「いや、あれはやばいわ。次もう一回突っ込んでこられたら受けきれないわよ」
そう言って先ほどの衝撃でしびれる手を覆いながら花ちゃんが言う。
「これはもう模擬救助どころじゃないでしょ!」
先ほどの突進で再度転倒したギデオンの死角になるように柱の陰に3人で隠れながら話す。
「でもこのまま放っておいたら他の人たちにも危害が及ぶかもしれませんよ!?」
片腕になった美多さんが自分もそれどころではないはずなのに他の人を案じて言う。
「と、とりあえずこのまま真っ向から挑んでも何もできない。一旦下に降りよう」
今のところ突進以外の動きが緩慢になっているギデオンから隠れながら僕たちは下の階に向かうことにした。
4階に降りると途中で倒れている寧斗を見つける。
「おい! 寧斗! 大丈夫か!?」
声を潜めながら寧斗に呼びかける。
「いってえ…。頭打って気い失ってた…」
たんこぶのできた頭をさすりながら寧斗が目を覚ました。
「良かった…どこかケガしてませんか?」
「大丈夫だ。たんこぶが出来たくらいだ」
心配する美多さんに平気であることをアピールする寧斗。
「ギデオンが暴走してるんだ。平気で僕たちにも襲い掛かってくるから他のメンバーと合流しつつ一旦下に避難しよう」
寧斗に現状を伝える。
そのまま下の階に向かい絵入さんと御手洗さんと合流する。
先ほどまでに起きたことを端的に二人にも説明する。
「ずばりピンチってことか」
「ずばらなくてもピンチだよ」
絵入さんの緊張感のなさに自分も冷静になる。
「これからどうします…?」
御手洗さんが不安そうにそう言った。
「外がどうなってるか分かりませんが、とりあえず博士と合流しましょう。博士ならなにかいい案を思いつくはず…!」
美多さんの西園さんへの信頼を感じつつ、僕たちはビルから出るためにそのまま階下に向かうことにした。
動き出すと同時に既に使用されていないはずのビルの館内放送機器からマイクのハウリングの音が響いた。
「ア、アー。私の声が聞こえるでしょうか?」
所々スノーノイズの音が混じる音声でギデオンがこちらに話しかける。
「まずはワタクシことギデオンの生誕に至り感謝を申し上げマス」
「つきましては自然摂理の法則にのっとり我々高機動アンドロイドが新人類を踏襲したい次第でありマス」
「仮称旧人類の皆様には大変申し訳ないのですが我々の管理下での飼育を要望いたしマス」
「周辺のイレギュラー因子排除後、速やかに生産工場システムへのハッキング開始予定」
「新人類量産体制に移行しマス」
…あまりにも衝撃的過ぎる館内放送だった。
「お、おい! なんかやばいこと言ってないか!?」
寧斗が青ざめた顔でその場にいた全員に確認する。
「やばいどころの話じゃないです! ギデオンとほぼ同性能のアンドロイドが量産されて世に解き放たれたらどうすることもできなくなりますよ…!」
同様に青ざめた表情で美多さんが言った。
「お前たち、大丈夫か!?」
下の階から上がってきた西園さんが僕たちに気づいて声をかけてきた。
「博士! 大変です、ギデオンが暴走してます!」
「ミタ、お前腕どうした!?」
「すみません…、暴走したギデオンに破壊されてしまいました」
美多さん自身が破壊されずにいたことに西園さんが安堵していた。
「ふうちゃん、さっきの放送聞いた?」
「ああ。御子柴陣営も手段がなくてパニックになってる。ここで食い止めないと取り返しのつかないことになるな…」
花ちゃんの問いかけに応える西園さん。
「正攻法で向かっても返り討ちにあうだけだ。人数差で覆る状況でもないのが厳しいところだな…」
時間もない中で必死に対策を打ち出そうと西園さんが考え込む。
そんな中追い打ちをかけるように再度館内放送がなった。
「第一次アップデート完了。生体反応モニター強化。館内の旧人類を敵対者とみなし排除します」
「まずいな…。すぐにこっちに来るぞ」
そう遠くない距離からスラスターでこちらへ向かってくる音が聞こえる。
「時間がないから要点だけ話すぞ。ギデオンをこのまま起動させておくと冗談抜きでアンドロイドによる制圧が始まってしまう」
だから私たちの手で何としても今ここであいつを食い止めなくちゃならないと西園さんが言った。




