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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん㉑


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「今スタートしたぞ!」

気の張った声で博士が言った。


「おっけい」「了解よん」「おうよ!」「はい!」「…ん」「御意」


待機しているそれぞれの応答も同時通信で聞こえてくる。

全速力でビルの中に突入する。

同時にスタートを切ったと思ったギデオンだったが前方を先行している様子がない。

ふと言い知れない不安が襲ってきて振り返って後方を見てみる。


「建造物の損壊をしてはいけないのであれば飛翔して窓を割っての侵入はできませんね」

スタートを切らずにビルを仰ぎ見ていたギデオンがそんなことをつぶやく。

言い終わるかどうかぐらいのタイミングで陸上で見慣れた構えを徐に取り出すギデオン。


「…うそ」


スタート地点でクラウチングの構えをとるギデオンを視認する。

…いや、視認したという認識が正しい。

ジェット機が放つような音速を越えた発射音が聞こえたかと思ったらギデオンは既に私の前方にいた。

その速度が持続するわけではなかったがそれでも私より速いスピードでビルの階段を上っていく。


「博士! ジャミングお願いします!」

ギデオンが早くも2階に到達したのを見送って博士に指示を送る。


「どんなスピードだよ…まったく」

博士がジャミングを起動したようだがギデオンからの反応がない。

負けじと全速力で私も2階への階段を駆け上がる。

開けた階層だったが対象の姿はどこにも見当たらない。


「こちら3階…! ギデオンは既に3階に到達しています!」

相手に気づかれないようにインカム越しでも小声で現状を御手洗さんが報告する。


「早すぎる…! 2階のジャミングは振り切られたか…!」

初動のジャミングが失敗に終わったと判断してか、博士の声に曇りがうかがえた。


「おい…」「え…」

諦めずに最上階を目指して駆ける中、インカムに再度通信が入った。


「こちら3階! ギデオン、急停止…、どうしたの…?」

御手洗さんの不安にまみれた声が通信で届く。


「そこの柱の陰に隠れている人間、出てきなさい」

そして御手洗さんのインカムが拾ったギデオンの音声が聞こえる。


-----------------------------


「ど、どうしよう杏ちゃん!? 見つかっちゃったよぉ…」

まるで殺し屋に居場所がバレたような焦燥感に包まれて思わず涙目になる。


「……」

若干居心地の悪そうな苦い表情を浮かべたと思ったら杏ちゃんが信じられない行動に出た。


「にゃ、にゃおーん…」

猫の声真似をしながら、なぜか柱の陰から匍匐前進でギデオンの前に出ていく杏ちゃん…。


「何の真似ですか? そこは本来隠れているべきではないのですか?」

私と同様に杏ちゃんの行動が理解できなかったギデオンが困っているようにも見えた。


「なんか色々間違えた…」

そういってちょっと赤面しながら立ちあがりながら制服の土埃を手で払う杏ちゃん。


「もう二人いますよね?」

なんなら私もバレてるし…。人数は間違っているけど。

観念して柱の陰から出る。


「おかしいですね、もう一人小さな気配を感じたんですが…。先ほどの妨害電波で計器が少し狂ったのかもしれませんね」

こちらを補足しながらそんなことを話すギデオン。

どうやらそこまで大きな支障はなさそうだがジャミングは命中していたらしい…。


「あなた方が何を企んでいるかは知りませんが、私にとっては些末な事です」

止められませんよ、プロトタイプ破壊の実行は。そう告げる。


「……」

何を話していいか迷っているとすぐ下の階から美多ちゃんの声が聞こえてきた。


「絵入さん! 御手洗さん! 無事ですか!?」

ギデオンと対峙している私たちの身を案じて間に滑り込むように入ってきてくれた。


「遅かったですね。まともな勝負にならないと思いますが続けますか?」

視線といった視線はないものの冷たく美多ちゃんを補足しているのが分かる。


「…勝った気になるのはまだ早いんじゃないですか?」

美多ちゃんがそういうと何かの起動音とともにギデオンにノイズが走った。


「ジャミングですか…、先ほどのものよりはるかに強力ですね…。指示伝達系統が一部ショートしたようです」


「指向性があるとはいえさすがに私にも響きますね…!」

ギデオンほどではないにせよ美多さんにも多少なり影響が出てしまっているようだ。


「あなたの狙いは私でしょう!? 先に行ってますよ!」

美多さんがギデオンを挑発するようにさらに上の階へと進んでいった。


「多少の妨害が入ったところで性能の差は埋まりません。すぐ追いついて差し上げますよ」

そういうとギデオンも美多さんに負けないスピードで上の階へと駆けて行った。


「はあ…どうなることかと思ったね」

思わず安堵のため息が出る。


「いや、まずいのはこれからかもしれない」


「え?」

杏ちゃんが心配そうに上の階を見ていたので聞き直す。


「あいつ、去り際にリミッターを解除とかどうとか言ってたんだ」


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妨害電波によるデバフでスピードが落ちたギデオンを振り切り4階に上がる。


「美多! 頑張れよ!」

途中で寧斗さんの姿が見えた。


「気を付けて下さい! すぐ猛スピードでギデオンが追ってくると思います!」


「こっちから手を出さなければ正当防衛もしてこないんだろ? なら大丈夫だろ!」


確かにそうなのだが、なんだろうこの胸騒ぎは。


寧斗さんの横を通り過ぎて5階に上がると今度は抜戸さんが柱の近くにしゃがみ込んでいるのが見えた。


「美多さん! ギデオンは!?」


「先ほど距離をあけたんですが直ぐ後方にいたので間髪入れずに追いついてくると思います」


しかしここで異変に気が付く。

先ほどまで追いかけてくる際に聞こえていたスラスターの音がほとんど聞こえなくなっていた。


異変に気付いたとほぼ同時に突如不協和音にも似た謎の高周波音が周囲に一瞬響き渡った。

そして後方から激しく何かがぶつかって弾き飛ばされる音がした。


「美多!! 楽!! 逃げろぉぉ!!」


「えっ…? 寧斗さん?」


寧斗の悲鳴にも似た声が聞こえると同時に赤い眼光を放つギデオンがものすごい速度でこちらへ接近してくるのが見えた。


「抜戸さん危ない!!」


美多さんがすぐ近くにいた僕を庇うために突き飛ばす。

突き飛ばされた僕と美多さんの間をギデオンが駆け抜けたかと思うと、ほぼ同時に美多さんのひしゃげた片腕が宙を舞った。

恐ろしいほどのスピードでギデオンが突っ込んできたのだとやっと理解する。

美多さんが庇てくれなかったら僕にも間違いなく直撃していた。怪我どころでは済まなかっただろう。


「噓でしょ…。リミッターが外れてる…」

瞬時に笑顔が消えた美多さんがつぶやいた。



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