【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑳
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そしていよいよ模擬救助当日。
予定の時刻に合わせて商店街の広場に実験室のメンバー全員で向かう。
さながらこれから地球を救うために巨大隕石を破壊しに行くかのようだ。自然と頭の中にエアロスミスの名曲が流れる。
対決開始の場となる商店街の中央広場には既に組織の人員が数名配置されていた。
その中で一際優遇を受けている一人の女性がいた。
「あのプライドの塊みたいなやつが御子柴雫、帝麗技研の総責任者だ…」
既に勝利を確信したような余裕ある面持ちでこちらを見据えている。
…いや、僕たちのことはどちらかというと見ていない。その視線は明らかに西園さんに向けられていた。
「来ましたか。負け戦は分かり切っているのにご足労なことですね」
「……」
同じ研究や開発をする者同士なのになぜこんなに敵対心を向けるのだろうか?
なにか確執があるのかもしれないが、それは僕の知り及ぶところはない。
「美多の劣化版はどこだ?」
「は? なんですかあなたは…」
絵入さんが周囲をキョロキョロ見回して言った。
本人は特に意図して言ったわけではなさそうだったが、劣化版という言葉が十分な煽りになったらしい。
御子柴雫があからさまにカチンときた様子で絵入さんを睨む。
「え、こわっ」
絵入さんは恐らく御子柴雫を相手の元締めだと認識していなかったのだろう。
急に敵意を向けられたことに本人が一番驚いて、御子柴雫から距離を置いた。
「…お前のそういうところ嫌いじゃないぞ」
西園さんが励ましも兼ねて絵入さんにそんな声をかけていた。
しかし絵入さんが先ほど言ったようにギデオンらしき機体がどこにも見当たらない。
「これだけ野次馬が多いとパフォーマンスは大事だと思いましてね」
周囲を探している僕たちを見下したような態度で御子柴雫が言った。
「来なさい、ギデオン」
少し離れた位置の高い建物からバシュっという発破音が聞こえ何かが飛び上がった。
肉眼で補足するのが困難なほどのスピードでこちらに飛翔してくる。
ちょうど御手洗雫のすぐ隣に急制動を繰り返しながらその飛翔体が停止した。
「お呼びですか、マスター?」
人型ではあるが美多さんと違って表情はなく顔に当たる部分には機械的なフェイスシールドが装着されていた。
駆動する音とともに周囲をぐるっと見回し、
「アイコピー。模擬救助の実演ですね。対戦相手を補足しました。」
そう言って美多さんの方を見据えて言った。
「……!!!」
急に美多さんが自分に近くにいた西園さんと絵入さんを両脇に抱きかかえてギデオンと大きく距離を置いた。
「お、おい。急にどうした?」
「や、ヤバいです…! 模擬戦とかそういう次元の話じゃないです…!」
「そ、そんなに?」
珍しく怯える美多さんにこちらまで不安が伝わってくる。
「他の人に聞こえないように内部通信でメッセージが送られてきたんですが…」
そして僕たちメンバーだけに聞こえるようにこう言った。
「あの方、私のこと破壊するって言ってます」
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「おい…ほんとに大丈夫か?」
絵入さんが心配になり美多さんに声をかける。
「多分…いや絶対大丈夫じゃないですけど、ここで辞退したら条件もなにもなくなっちゃうので…」
泣きそうな顔をしながら美多さんが正直に答える。
そんな美多さんを見て僕たちもなんて声を掛けたらいいものか分からなくなる。
「だ、大丈夫ですよ! 私には皆さんが付いてますし、一人じゃないので!」
今日までやってきたことを全力でやるのみです、と言ってややぎこちない笑顔を作っていた。
「下準備の許可がある分、会場はこちらで決めさせてもらった。事前に通達していたがこの雑居ビルを使わせてもらおう」
御子柴雫が指定していたビルを前にして言った。
「ああ、わかっている」
通達通りのこの一番星ビルは7階建ての雑居ビルだ。
一部老朽化が進みテナント利用が出来なくなったこのビルで火災が発生したと想定し救助を行う。
最上階に救助対象の人形が置いてありそれを回収しこのスタート位置に戻ってきた方が勝利となる。
一部とはいえ老朽化が進んでいるため建物の損壊につながる様な行為は禁止。
その他にも細かい条件はあったが基本的には上記を遵守できればある程度の行動は自由といったものだった。
事前に支援を許可された僕たちの作戦は大きく分けて3つ。
まず各フロアに西園さんが設置した対象選択可能なジャミングトラップを設置してある。
性能差で圧倒的に不利な美多さんが出来るだけ同じ土俵に立てるようにギデオンを少しでも弱体化する作戦だ。
「どのくらいのデバフがかかるかは正直不明だ。少し動作が重くなるくらいに思っていた方がいいかもしれない」
そんなことを作戦時には言っていた。
次に救助対象のダミーの設置。
これは最上階における救助人形を事前に商店街の皆様の協力を得て最上階に複数設置させてもらった。
ダミーの人形には美多さんがキャッチできる微弱な電波を発するように細工してある。
…正々堂々? 知らん。なんだそれは。
そして最後に3つめ。
これは極力使う状況になりたくないのが本音だが、相手のギデオンのというかアンドロイドの特性を逆に利用した作戦だ。
人間に危害を加えられないという特性を利用して僕たちラムサール部メンバーが雑居ビル内に突入して直接美多さんをカバーする。
本来この作戦は寧斗と花ちゃんが冗談で言ったものだったが、先ほどの「破壊宣言」を受けて急遽実行に移る形となった。
御子柴雫が実験室の二人に並みならぬ敵意を向けている以上、美多さんが模擬救助中に自己に見せかけて破壊される可能性は非常に高い。
それだけは何としても防がねばならない。正直めちゃくちゃ怖いけど。
作戦の確認が終わると商店街の方々が見守る中、美多さんとギデオンがスタート位置へ向かう。
西園さんは御手洗雫とともに音声通信によるバックアップを行うためスタート位置付近にある待機場所へ向かった。
「くれぐれも無茶はするなよ。相手も何をしてくるか分からないからな」
戦闘機に生身で立ち向かうような用心深さで行け、と西園さんが助言してきた。
言いえて妙だが無謀とはまさにこのことを言うのではないだろうか。
緊張した面持ちで開始の合図を待つ美多さんを横目に僕たちはこそこそと雑居ビルの裏口へと向かう。
裏口に向かう途中で絵入さんが急に立ち止まってぼそぼそと一人で壁に向かって話していた。
「どうした?」
少し後方で壁に話しかけている絵入さん。見えちゃいけないものでも見えてるんじゃないかと色んな意味で心配になる。
遠巻きで良くは見えないが壁にはスプレーで天使の様なキャラクターがいたずら書きされていた。
「あ、いや…なんでもない」
そう言って若干挙動不審な動きをしてから僕たちに合流した。
裏口に着くと、美多さんと同時に僕たちとも連携が取れるようそれぞれが西園さんに準備してもらったインカムを装着する。
裏口から入る前にみんなで一息整える。
「絵入さんと、御手洗さんはくれぐれも無茶しないで。危険だと思ったらすぐに離脱してくれ」
「わかりました」
「…ん」
一応再確認しておくと二人からも返事が返ってきた。
「さあて、いっちょやるとしますか!」
花ちゃんがパンパンと手を叩いてから屈伸の準備運動を始めた。
その直後、インカムに西園さんの通信が入った。
「みんな準備はいいか? 美多たちの最終調整完了後に開始予定だ。ビルの中で配置についてくれ」
もう少しで模擬救助が始まるらしい。
恐怖か不安か分からない感情で心音が跳ね上がる。
「美多もそうだがお前らも危なかったら俺が守ってやっからよ!」
裏口を開け放つとドンドンと自分の胸を叩いて寧斗が頼りがいのある景気づけを言ってくれた。
「地獄で会おうぜ!」
ついでに縁起でもないことも言った。
絵入さんと御手洗さんが3階、僕たち男がそれぞれ4.5.6階に位置どる。
ちなみに僕は5階。花ちゃんが4階で寧斗が6階で美多さんが攻撃されようとしていたら身を挺してカバーに入る寸法だ。
「はあ、めっちゃドキドキする」
人の気配のしない廃ビルの中はほぼ無音でなんとなくディストピア感を感じずにはいられない。
息を潜めて柱の陰にしゃがみこむとビルの外から声援が聞こえ、ほぼ同時にインカムに通信が入った。




