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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑲

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商店街についてさっそく肉屋のおばちゃんに聞いてみた。


「だってロボットでもなければ腕から捕獲用のネットなんて撃ちだせないでしょ。うちの猫ちゃんもそれで高いところから降ろしてもらえたしねえ」


「「……」」

この子、実はアンドロイドなんですという公表に対しての商店街の方々の反応はそれはそれはシンプルなものだった。


「うん、知ってるけど…?」


「お祭りのときとか空飛んで飾りつけしてくれたもんね」


「変形して転んだ老夫婦を病院まで運んでいった」


エトセトラエトセトラ…。


「ちょっといいですか? 弁解させてください」


「なんだ、言ってみろ」


「私、変形なんてしてません」

多分…、してなかったと思います…、記憶の中では…。

だんだんと言葉尻が小さくなりながらそんな言い訳をする絵入さん。


「でも空は飛んだんだろ?」


「…飛んでないと言えばウソになるかもしれません…」


「飛・ん・だ・ん・だ・ろ?」


「すみませぇん! ジャンプに見せかけて飛びましたぁぁ!!」

西園さんに詰められてみるみるうちに縮んでいく美多さん。


「ま、まあ。結果オーライになったんだからよかったじゃない。これで署名を集めることもできるんだし」

見かねて花ちゃんが助け舟を出す。


「はあ、まったく。商店街の方々が理解ある人たちだったから良かったものの、今後むやみやたらに機能を発揮するのは控えるようにな」


「恐縮です…」

美多さんにそんな注意をしつつ御手洗さんに向き直って礼を言う西園さん。


「ありがとう御手洗君。署名活動が果たしてどのくらいの効果を発揮するかは分からないが私もやれることはやっておきたい」


「ううん! 私も美多ちゃんとこれからも一緒にいたいし、諦めたくない気持ちは一緒だから」

そういって照れながらも自分の意思を表明する御手洗さん。


僕たちは日が暮れるまで手分けして商店街での署名活動を行った。


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数日かけて署名活動をした結果、普段から御手洗さんが商店街で人助けに近い行動をしていた影響もあり多くの人からの署名を集めることに成功した。


「すげえな。軽く数十枚はあるんじゃねーか?」

集まった署名の用紙の枚数を見て寧斗が驚く。

それだけではない。商工会の会長やそれに連なる副会長などの役員の方々の直訴に近いメッセージまで添えてある。

美多さん、商店街においての人望すごすぎる件。


「みんなお話し好きの方が多くて、一度買い物に行くとついつい話し込んでしまうんですよね」

そう笑って話す美多さん。


「と、とりあえず明日にでもこの署名をもって組織に話をしに行ってみようと思う…」

不安そうな表情で西園さんが言う。


「だーいじょうぶよ。これでも相手にされなかったらあたしが乗り込んでいってその完成品だかなんだかいう訳の分からない後釜ぶっ壊してきてあげるわっ」


「お、そりゃいいな! 俺もつれてってくれよ!」

元気づけるつもりでそんなことをいう花ちゃんに寧斗が楽しそうに賛同していた。


「寧斗がいうとシャレにならないから」

僕も呆れて笑いながら寧斗にブレーキをかける。


「撤回まではいかなかったとしても期間の延長とかしてもらえる可能性はある…と思いたい」

まあ、それだと根本的な解決には至っていないのだが。

それは西園さんも重々承知だろう。その伸びた期間でまたなにか対策を考えられればいいのだ。

今はそう前向きに考えるしかなかった。


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「条件は変わらない。話は以上だ」


「そんな…!! 待ってください! これだけの数の人が彼女の安全性を共有してくれているんですよ!?」

私が下した決断に食い下がる西園の娘。

前回の指令で完全に心を折ったと思ったのだが、母親同様にしぶとい奴だと再認識する。


「他に要件がなければご退室願おう。私はギデオンの最終調整で忙しいのでな」


西園風美がキッとこちらを睨みつける。

敗北の悔しさを噛みしめている顔なのか、こちらを敵とみなした顔なのか、いずれにせよこの娘の希望を奪うことが私の生きがいなのだ。

しばらく黙ってこちらを睨んでいたが私が話す気がないとわかると踵を返して部屋を出ていった。


西園風美が出ていった直後に署名の名簿を見ていた部下が血相を変えてこちらに向かってきた。


「統括、署名者の中に組織へ普段から援助していただいている役人も数名います。納得の行ける条件を提示しないと後々の事業展開などに大きな支障を来す可能性がありますが…!」


「なんだと…?」

確かに何度も目にしたことがある有権者の名前があちこちに見られる。

ああいやだ。イライラする。

本来MITAが稼働停止する必要はあまりない。そもそもが西園の娘が悲しむ顔を見たいためだけに私が適当な理由ででっち上げた条件なのだから。

それでも先ほど提示した条件を崩すとなるとあの娘の願いが叶ってしまうことになる。


「……」

ならばどうする?


「統括?」

そうだ、私にはギデオンがある。

部下の声などもはや聞こえてはいない。

どうせこいつらも私の知能や技術にあやかりたいだけの凡骨にすぎない。


「西園の娘を呼び戻せ。提示条件を変更する」


二度と立ち上がれないくらいに真正面から粉微塵にしてやろうではないか。



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「博士遅いですねぇ…」

頬杖をついた美多さんが心配しつつも待ちきれないように両足を貧乏ゆすりしながらつぶやく。


「話し合いが難航してるのかな…」

思ったことを口にしたら実験室内の空気がさらに重くなった…。


「だ、大丈夫ですよ! あれだけたくさんの方から署名頂いたんですから」

御手洗さんがこの場の全員を励ます様に言う。


そうこうしているうちに西園さんが帰ってきた。

あまりにも凄まじい負のオーラを纏っていたので、その場のだれもが納得のいく話し合いができなかったことを察した。


「おかえりなさい博士。…話し合いはどうでした?」

美多さんが恐る恐る尋ねる。

「条件を達成すればミタの稼働停止は撤回してもらえることになった…」

まともな話し合いができたと思った僕たちは少し表情が緩んだ。

しかし険しい表情を崩さない西園さんの様子を見てその条件が容易でないことを察してしまう。


「君たちの考えている通りだ。不可能といって差し支えない条件を提示された」


「どんな条件だったんだ?」

絵入さんが率直に尋ねる。


「ギデオンとの性能比較だ」


「そ、そんなあ!? 無理に決まってるじゃないですか!!」

完成版の名前を出されて美多さんが明らかに取り乱す。

それほどまでに性能に差があるのだろうか。


「ギデオンってあれよね。みいちゃんのデータを基盤に改良を加えられたアンドロイドのことよね?」

そうだ、と答える西園さん。


「改悪と言ってもいい。それほどまでに性能の差は歴然だ」

ミタがカナブンだとすればあっちはヘラクレスかコーカサスだな、と分かりやすい比喩を付け加えた。


「だれがカナブンですかっ!」

分かりやすく貶された美多さんがこれまたわかりやすく憤慨していた。


「性能比較って…具体的には何をするんですか?」

御手洗さんが僕たちも気になっていることを質問した。


「場所は商店街で模擬人命救助を行うらしい」

ミタが先に救助を達成できれば条件達成となる、そう話す西園さん。


「そうはいっても同じアンドロイドなんだろ? 商店街に通い詰めてる美多の方が土地勘とかで有利なんじゃねえのか?」


「その辺は性能差で簡単に覆されるだろうな」

寧斗の疑問にぴしゃりと厳しい返答をする西園さん。

実験室の全員がその条件の困難さに再び頭を抱えようとしていた。

その様子を見ながら西園さんが話を続ける。


「ただそれは下準備なしで真っ向勝負をした場合の話だ」

その瞳には闘志に似た力強さが宿っていた。誰よりもこの勝負に負ける気がないのをその目が物語っていた。


「どうするんだ?」

なにか策があるに違いない西園さんに絵入さんが尋ねる。


「連中は状況中にこちらがいかなる策を弄しようと構わないと言っている」

つまりは美多さんに対しての支援及びギデオンに対しての妨害が可能ということだ。


「じゃああたしたちも協力できるってわけね~」

花ちゃんが肩をぐるぐると回しながら意気込む。


「そりゃいいな。喧嘩で鍛えた俺のゴッドハンドを叩きこんでやるぜぇ」

寧斗も便乗して意気込む。


「ちなみにギデオンの戦闘力だが猛獣で言うと熊くらいだったら数秒で仕留められるからな?」


「「……」」


熊くらい…とは?


「ま、またまたぁ。人間には危害を加えられないようにできてるんでしょお?」

寧斗が若干青ざめた顔で確認する。


「それは確かにあるが、正当防衛で相手を再起不能にすることは可能だ」


「「……」」

寧斗と花ちゃんが途端に静かになった。


「ま、まあ裏を返せば妨害も支障になり得ないというそれだけ確固たる自信が連中にあるということでもある」


「あまり接近しすぎると巻き込みを喰らう可能性も十分にある。我々は基本サポートに徹しようと思う」

性能比較の日までは残り1週間。

僕たちは西園さんの作戦指揮のもと当日までの準備を整えることにした。



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