【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑱
依然夏休みは進行中だが、家にいても特にやることがなかった。
「あ、ラス1だ」
かさかさと口寂しさに寝転がったままテーブルの上にあるオジサン最中に手を伸ばすとキャッチと同時に箱ごと落ちてきて最後の一個であることに気づく。
開封してから数日たったので若干湿気っているがそれでもほのかな餡子の甘みが美味しい。
特に何も考えずに呆けていると近くにあった携帯電話の通知音が鳴った。
「絵入さんだ」
遭難の二文字。
え…どういう状況?
すぐさま相談したいことがあると送信されてきた。どうやら相談と遭難を打ち間違えたようだ。
「……」
厄介ごとじゃなければいいがという一抹の不安がよぎる。
まぁ、絵入さんの持ってくる案件で厄介ごとじゃないほうが珍しいのだが。
了解、と返信。
既読がつくのとほぼ同時にインターホンが鳴った。
「うそぉ!?」
半信半疑で玄関に向かうと先ほどまで連絡を取っていたはずの人物がそこに立っていた。
「おじゃまします」
「なんなら軽くホラーなんだけど」
「ん」
家へと上がりつつコンビニの袋からガリガリ君を取り出し僕に一本くれる。
テーブル前にちょこんと座ると自分の分も取り出してかじり始める。
「奥歯が染みる」
知覚過敏なんだろうか、迷わずかぶりついた割には切なそうな表情を浮かべている。
「不在だったらどうするつもりだったの?」
「2本とも私が食べてやろうと思ってた」
「知覚過敏なのに?」
近年まれにみるワイルドさだ。無謀と言ってもいい。
「んで、相談ってなに?」
さわやかなソーダ味を堪能しつつ絵入さんに本題を聞く。
「風美と美多のことだが…」
少し間をおいて。
「このまま何もしないで諦めたくない」
真っすぐな目でこちらを見てそう言った。
「まあ、確かに納得はできないけど…」
僕たちの中でも一番知恵が回りそうな西園さんが難渋して諦めた問題。
僕たちでどうこうできるイメージがつかないのが正直なところだ。
「美多さんの存続を諦めたくない気持ちは僕も含めみんなも一緒だと思う」
「美多が活動停止したふりで誤魔化しちゃえばいいんじゃないか?」
「さすがに相手も組織だしその辺のことは美多さんから出ている信号とかでバレるんじゃないかなあ」
いずれにせよ僕たち二人で相談していても具体的な解決策は浮かんでこなさそうだ。
「全員集合するか」
絵入さんが携帯電話を操作しだしてラムサール部の皆に招集をかけた。
幸運にもみんな丁度都合がつくらしくすぐに返事が返ってきた。
夏休み期間中だが仮設科学実験室には西園さん達が基本常駐しているらしく、そこに集合することとなった。
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「で、今日は何をするんだ?」
全員揃ったところで西園さんが招集者である絵入さんに尋ねる。
「カンフッ、ファレンス」
使い慣れない言葉を言ったせいか若干噛んでいた。
「カンファレンスって言いたいのかしら…?」
花ちゃんが修正しつつ協議内容を改めて聞く。
「詳細は専務の楽から聞かせてもらおう」
だれが専務だ。
急にキラーパスしてきた絵入さんをじっとりとした目で一瞥し、単刀直入に言うことにした。
「美多さんの件、やっぱり諦められそうにない」
実験室メンバーは一瞬ハッとしたような表情をする。自分たちを思っての提案だったのもあり嬉しいような表情を浮かべて言った。
「ああ…。気持ちは私も一緒だし嬉しいんだが、前にも言ったようにそう言った話が通じる相手じゃないんだ。今回に至ってはな…」
「それでもあきらめたくない」
ただただ本心のままに絵入さんが言った。
「絵入さん…」
美多さんが嬉しくも切なげな表情で絵入さんを見ていた。
「折角みんな集まったんだし、いろいろ話すだけでも話してみようぜ」
「そうですね。もしかしたらなにかいい案が見つかるかもしれませんし…」
前向きにそう話す寧斗と御手洗さん。
「君たちの気持ちは嬉しいが、組織に直談判という方法はないと思ってもらった方がいい。あいつらはミタの稼働停止を譲る気はないからな」
「ちなみに稼働停止の期限っていつなの?」
「夏休みが開ける前までに完了しなければならない」
…実質あと2週間ちょっとしかない。
「2週間なんてあっという間じゃないですか…」
御手洗さんが焦った表情でつぶやく。
そんな中、静かに考え込んでいた花ちゃんが口を開く。
「むむむ…! あたしちょっと思いついちゃったわよ。…署名活動なんてどお?」
「署名活動?」
花ちゃんの提案に思わずオウム返しをする。
「そう。みいちゃんを知る人たちに力を貸してもらうのよ。不遇な処置とかの対応を改めさせるのに企業内でやったりするやつね」
花ちゃんが言うにはきらめき商店街の人たちに署名をしてもらうのはどうかという提案だった。
「確かに普段から買い物なんかでしょっちゅうお世話にはなってますから私のことは知ってそうですけど…」
そう言って口ごもる美多さん。
「…説明ができないんだ。ミタがアンドロイドだということを前提にしないとな」
ふう…とため息混じりに根本的な壁の存在を露呈する西園さん。
「あ…」
西園さんの言うとおりだ。署名活動をするにも、美多さんの稼働停止を棄却させるには美多さんがアンドロイドであることを相手に伝えなければならないのだ。
「美多が本人の意思を無視して他のとこに連れていかれるっていうことにすればいいんじゃねーの?」
寧斗がそんな代案を思いついて話す。
「いや、それもダメだ。署名を提示するには正確な理由がなければ基本的に通らない」
今回のケースに関しては試用期間の終了に伴う稼働停止とシンギュラリティの懸念をしっかりと内容として提示しないと難しいそうだ。
「「……」」
一瞬見えた希望が潰えてしまい、重い沈黙が漂う。
「あ、あのぉ…」
そんな中おずおずと消えそうな声とともに手を上げる御手洗さん。
「どうした?」
西園さんがそれに気づいて声をかける。
「こないだ商店街の方々がお店にいらした時に話してたんですけど…」
お店とは御手洗さんの実家でやっている喫茶店のことだ。商店街の方にも人気で憩いの場所にもなっているらしい。
「ロボットのお嬢ちゃんが来ると商店街が活気づいていいよね…って言ってました」
「は…?」
まるで時が制止したかのように御手洗さん以外のその場の全員が固まる。
「もう! ロボットじゃなくて高性能アンドロイドなのに!」
そんな空気をぶち壊すかのように美多さんが的外れな指摘をしていた。
「おいちょっと待て! ミタ、お前自分がアンドロイドだって言ってたのか!?」
「ええ!? 言ってませんよぉ! バレたら出歩けなくなるからって博士に釘さされてたからそんなこと言いませんって!」
疑惑の眼差しで美多さんを見据える西園さん。
「で、でもそのロボットのお嬢ちゃんって言ってたの商工会の会長さんでしたよ」
御手洗さんの証言を頼りに僕たちは駆け足で商店街へと足を運んだ。




