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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑱



「…く…らく…おーい、楽…」


真っ暗な深いところにいたかと思うとうっすら明かりが差し込んできてどこか遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえる…。

聞きなれた声に混じる心地よい潮騒の音に微睡む。


「……」


僕を読んでいた声が徐々に聞こえなくなりその気配が遠ざかる。

たいして間もなくカラカラと扉が開けられるような音がして潮風が吹き抜ける。

心地よさに身を任せて寝返りをうつと、何かが顔を這う感触とともに頬に激痛が走った。


「あいっ!? いででででででッ!!!!!」

悲鳴とともに起き上がると寝ぼけた視界の中で数匹のヤドカリが素早く僕から離れて逃げていくのが見えた。


「あ、起きた」

殺人甲殻類を派遣したであろう容疑者が僕の顔を見て微笑んでいる。


「まだ痛いっ!!」

振動で挟む力を強めながらもいまだに僕の鼻にしがみついているラストヤドカリを引っぺがして布団に放り投げる。

布団でバウンドしたラストヤドカリも役目を終えた感を出しながらベランダの方へ逃げていった。


「今まで生きてきた中でもぶっちぎりで最悪の目覚めだよ!」


「朝ごはんの時間だぞ」


周囲を見渡すが、いるはずの顔ぶれがいないことに気づく。


「寧斗と花道に何回起しても起きないから起こしてくれって頼まれた」

そういえば何度か叩かれたり寝技をかけられた気がしたが布団の気持ちよさに起きれなかったような気がする。


「わたしもかれこれ10分くらい色々試したけど」


「色々って言うと?」


「つついてみたり、最中を積み上げてみたり」


「……」

まあ、一向に起きない僕にも非があるのは確かだ。


「でも最中からヤドカリって飛躍しすぎじゃない?」


「まさか挟むとは思わなくて…」


「いや挟むでしょ。ハサミが2本もあるんだから」

らちの開かないやり取りをしていると思い出したかのようにぐぐぅっとお腹が鳴る。


「…まあいいか。食堂行こ」


「おなか減った」

絵入さんも空腹の中わざわざ起こしに来てくれたんだしお礼は言っておかないとな。


「ヤドカリは痛かったけど、起こしてくれてありがとう」


「ふっ」

あまり反省の色が見えない返事が返ってきた。


その後相変わらず何を食っても美味いおばあちゃんの朝ごはんを食べて部屋に戻ってきた。


「フェリーの時間って何時だっけか?」

畳に大の字で寝転がっている寧斗が聞いてきた。


「お昼ちょっと前くらいね。いやぁ、一泊なんてあっという間よねぇ」


「夏らしいことは結構できたんじゃない?」

お茶をすすりながらしみじみと話す花ちゃんに聞いてみる。


「花火に海水浴に、夜更かし。あっ! ちょっと恋バナをしてないじゃないの!?」


「恋バナって…」

まるで未練のように思い出して恋バナを求めだす花ちゃん。


「ぶっちゃけ楽ちゃん、あんちゃん達の中で気になる子とかいないの?」


「いや…特に…そういったことは…」

適当に濁す。


「もう、面白くないわねえ」

はぐらかしたことを見透かしてかあまり深く追及はしてこなかった。


「寧斗ちゃんはどうなの~?」


「俺もそう言った感情には至ってないかなあ。家族として接してる感覚に近いな」


「どっちも面白くないわねえ…」

一向に膨らまずに萎んだ恋バナに肩を落とす花ちゃん。


「今日はこのあとどうするんだろうね」

フェリーの出向時間までまだ余裕がある。


「昨日のスーパーまでお土産買いに行くって話してたぞ、確か」

寧斗が言うとほぼ同時に部屋のドアがノックされた。

「はいはーい」

丁度入り口の近くにいた花ちゃんが応対する。


「お土産を買いに行きましょう!」

満面の笑みで美多さんが声掛けに来てくれた。すぐ後ろに西園さん達もいるみたいだ。

僕たちも必要な荷物だけ持って部屋から出る。

フロント付近で掃除をしていたおばあちゃんに出かける旨を声掛けする。


「気を付けて行ってらっしゃいな。汐はついていかなくてもいいかい?」

そういえば昨日のトランプの時に夏休みの宿題がまだ終わってないと嘆いていたのを思い出す。

さっき降りてくるときに汐ちゃんの部屋に”勉強中!!”の札がかけてあったのが見えた。


「道順は覚えたし大丈夫だな」

気を使ってか西園さんが勉強の邪魔にならないよう断ってくれた。


民宿を出て昨日の道順通りにスーパー「ふらっと」へと無事たどり着く。

昨日に引き続き今日も快晴だ。相変わらず潮風が心地いい。

まだ9時を回ったばかりだが島のスーパーは開店時間が早いのか既ににぎわい出していた。

昨日食材の買い出しに来た時にお土産売り場のコーナーがあったのを確認していたため、各々自分の買い物も含め自由に散策しながらのお土産購入となった。

僕は旅館で食べたオジサン最中が美味しかったので箱入りのものを一つ購入。

絵入さんは海ブドウのようなものに手足が生えた得体のしれないキーホルダーを購入していた。


お土産の購入が終わり民宿に戻るころにはフェリーの出航時刻にちょうどいいころ合いとなっていた。

二日間お世話になった民宿のおばあちゃんと汐ちゃんにお礼を言う。


「気が向いたらまたいつでも泊まりにおいで」

機会があったらまたこのメンバーで泊まりに来たいと思った。


「あんまり繁盛してないから次早く来ないとつぶれてるかもしんないよ」

いたずらっぽく汐ちゃんもそんなことを言う。

こうして一泊二日の僕たちのプチ旅行は幕を下ろした。


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