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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑰


僕たちより遅れて西園さんと美多さんが民宿に帰ってきた。


「悪い、遅くなったな」

なにかを振り切ったかのような様子で西園さんが僕たちに言った。


「片付けの途中で余ってる線香花火見つけてついつい博士と遊んじゃいました」

美多さんもいつもの笑顔を振りまいてそう答える。


「おかえり」

西園さんも美多さんもいつも通りふるまうので僕もいつも通りにふるまうように努める。


…西園さんは美多さんと話すことはできたんだろうか。


僕を含め心配をしている皆の様子を察してか美多さんが姿勢を直して言った。


「さあ! みなさん! 1秒たりとも無駄には出来ませんよ! 私に最高の思い出を作ってください!」


「なんでそんなに偉そうにいうんだ?」

吹っ切れたような表情で僕たちに指令を出す美多さんに西園さんが呆れ顔でつっこんだ。

その様子に僕たちもなんだか気が晴れた。


「おっしゃあ! もう充分ですってくらいに遊びつくしてやろうぜぇ!」


「さっそくオールナイト大富豪やるわよ!」

寧斗の雄たけびとともに花ちゃんも目を潤ませながらそんな提案をする。


「いや、オールナイトは肌荒れが心配だからちょっと…」


「普段スキンケアのスの字もない人が何言ってんの?」

おそらくボケたんだろうが、世迷言を言う絵入さんを切って捨てる。

その様子を見て涙をこすりながら御手洗さんがクスクス笑っていた。


「おーい。風呂の準備できたから入んなよ。交代制だから先は女子だけど」

一階の奥から出てきた汐ちゃんが民宿の大浴場の準備ができたことを知らせてくれた。

ほんとにこの民宿、外観からはとても想像できないくらいに施設内が広くて驚かされる。

男女分かれて一旦部屋に戻り、女性陣は大浴場へと向かった。


-----------------------------


僕たちは部屋のテレビで明日の天気予報を見ながらお茶請けの最中を食べる。


「あ、この最中魚の形してる」

程よい餡子の甘さに煎茶の味が引き立つ。


「髭みたいなのかいてあるからきっとこれ島の名物のオジサンよ」

花ちゃんに言われて良く見ると確かに魚の口元に髭らしき線が入っていることに気づく。

もさもさと最中の咀嚼音が響く中、寧斗が先ほどの西園さんたちの様子を思って言う。


「そういえば、西園と美多だけど大丈夫か?」


「明るそうに振舞っていたけど、空元気かもしれないわね…。記憶をなくさないといけないなんて急に言われて到底受け入れられるもんじゃないわよ」

みいちゃんがフォーマットと稼働停止のどちらを選択したかは定かじゃないけど、と花ちゃんがうつむく。


「もうどうにもできないのかな?」

組織だか何だか知らないが、些か一方的すぎる要求じゃないか。

普段関わっている僕としては、あの美多さんが僕たち人間に反乱を起こすなんて微塵も考えられない。


「同感ね。あたしがその委員会とやらに直接乗り込んで全員往復ビンタしてやりたいくらいだわよ…!」

花ちゃんも憤りを抑えきれずに語気を強める。


「この旅行が終わったらみんなでもう一回話し合ってみないか?」

現状具体的な対策があるわけでもない。

ただこのままじっとしてられるほど僕は聞き分けがいい人間じゃなかったようだ。


「そうだな。ただ猶予はそんなにないって西園も言ってたし、あんまりもたもたもしてられないぞ」

寧斗が確認の意味も込めて言った。

そんな話をしていると内線電話が鳴った。


「あ、抜戸さん」

美多さんからだった。


「私たちお風呂あがりましたのでどうぞ! 花道さんと寧斗さんにもお伝えください」


「ありがとう。じゃあ僕たちも行ってくるよ」


「はい! 先に大富豪始めてるので、後程遊びに来てくださいね~」

そういって電話がきれた。


「風呂上がったら大富豪しにおいでってさ」

電話の内容を寧斗と花ちゃんに伝える。


「いよおし! じゃあさっぱりしに行くとしますか!」

各々着替えをもって大浴場へと向かった。


-----------------------------


「えっ!? ババ抜き初めてやるの!?」


絵入さんが冗談でもない様子でコクリとうなずいた。


入浴が終わって女子の部屋に集合した僕たちはトランプに興じていた。

民宿のお手伝いもひと段落したのだろう。汐ちゃんも少しだけと言って混ざってくれた。


ババ抜きで隣にいた絵入さんが一向に揃っている手札を捨てないのでなぜ捨てないのか聞いてみたら「やり方がわからない」という驚嘆ワードが飛び出してきたのだ。


「トランプやるのがそもそも初めてだそうだ」

西園さんがさらに驚きの事実を打ち明けた。

僕たちが先ほど女子の部屋に来るまで大富豪をやっていたらしいがまず絵入さんにトランプの柄の説明から始めたそうだ。


「さっきのやつの時はこの意地悪そうな顔のやつがめちゃくちゃ強かった」

ルールを知らない絵入さんが大富豪の時のことをふと言ったのだろうが、まさかのババの所持を自己申告した。


「…くっ!」

その様子を見て西園さんが思わず吹き出す。


「だ、ダメですよ博士! え、絵入さんルール…くっ! ルール知らないんですから!」

笑っては失礼だと注意する美多さんもすでに笑ってしまっている。


「がははは! 最後までそれ持ってたやつが負けなんだぞ!」


「げ。そうなのか」

普通に笑っている寧斗が一番肝心なルールを絵入さんに教えた。


「じゃあ持ってること言わないほうが良かったんじゃないか…?」


「うっ…くッ!!」

ここで我慢していた僕も堪えきれずに吹き出す。


「ま、まあとりあえず同じ数字のカードを最初に手札から出すんだよ」

とりあえず今やることを絵入さんに説明する。


「分かった」

絵入さんがペアの手札を捨て終わっていよいよババ抜きが始まった。

先ほどの大富豪で最後に負けたのか御手洗さんからの順番で引くことになった。

絵入さんの隣であったためババを引いてしまう可能性がある。


「杏ちゃんババ持ってるんだもんね…」


「も、持ってない」

嘘をつくな嘘を。

思いっきり御手洗さんの方に手札を向けているため見たくなくても絵入さんの手札の配置が丸見えだ。

まぁ僕は絵入さんに引いてもらう側だから高みの見物である。


「…(杏ちゃんほとんど無表情だからどれがババか全然予測ができないよぉ)」

自分の手札ではなくなぜか御手洗さんの顔を無表情で凝視する絵入さん。

見つめられて困惑した御手洗さんが思いのままにジョーカーを引くのが見えた。


「あうっ」

その衝撃が強かったのか思わず小さく悲鳴を上げる御手洗さん。

その場にいる全員が御手洗さんにババが渡ったことを悟った顔をしていた。


「ある意味このポーカーフェイスはババ抜き向きなのかもしれないわね…」

末恐ろしい子だわ、と花ちゃんが絵入さんを感心した表情で見ていた。

そんなこんなで一回戦は絵入さんとは反対に表情にモロに出てしまう御手洗さんがそのままジョーカーを保有して惨敗した。


「大富豪の時もこんな感じだったぞ」

西園さんが言うにはポーカーフェイスの絵入さんはルールさえわかってしまえばさほど貧民になることなく善戦していたが、

御手洗さんと美多さんは革命を起こそうと企んでいるときに決まってそわそわし出すので対策が練りやすかったらしい。


「なんだか容易に想像できるわね」

花ちゃんがその状況を思い浮かべてにんまりしていた。


「ちなみに多見もその傾向がある」


「うえっ!? 嘘だろ?」


「手札にジョーカーある時に自分でジョーカー見すぎだな」

西園さんの分析に図星だったのか小さく声を漏らす寧斗。


「あ、それは私も気づきました」

美多さんもその癖に気づいていたみたいで寧斗の隣にいたが序盤以外ババを引くことがなかった。

時折席順的なものをシャッフルしながら楽しんだがいずれも白熱したババ抜きとなった。

最終的に絵入さんがぶっちぎりで一度も負けを喫することなく終了した。


「ポーカーフェイス恐るべし…」

思ったことを口にすると無表情のまま「トランプ楽しい」とどこか満足げに箱に戻しながら言っていた。

気が付けば日付が変わる直前まで時間が経過しており、ここでお開きとなった。


部屋に戻ると昼間活動的に動いた反動もあり急激に眠気が襲ってきた。

汐ちゃんかおばあちゃんのどちらかだろう。いつの間にか布団が敷かれており、細やかなサービスまで完璧だなぁと改めてこの民宿の至れり尽くせりに感服する。


「ああ~ん! こんなの極楽以外の何物でもないじゃな~い!」


「ぐへぇ~! 睡魔がやばい…!」

寧斗、花ちゃんもバフっと布団に倒れこむように横になるとそのまま電源が切れるように寝てしまった。


「あ~、僕も限界だ。布団が気持ち良すぎる…」

窓の外から聞こえてくるさざ波を子守歌にしてそのまま僕の意識も深く溶けるように沈んでいった…。


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