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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑯

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「なにやってんだあいつら」

はしゃいでいる男子を横目に線香花火もあらかた終わったので片付けを始める。

片付けも終わり、民宿に戻ろうとしたときにミタが何かに気づいて話しかけてきた。


「あ、博士。こんなとこに線香花火まだ余ってますよ」

開封時に風で飛ばされてしまったのだろうか、数本の線香花火の束がそのままの状態で砂浜に落ちていた。


「……」

なんとなく話を切り出すタイミングが今だと、なんの根拠もないけど直感的にそう思えた。

近くにいた絵入と御手洗に先に男どもと民宿に戻ってもらうように伝える。

なんとなくわたしがしようとしていることを察してくれたのか、「風邪ひかないようにね」と一言だけ残してくれた。


「博士?」


線香花火を手に持って再度ミタが尋ねてくる。


「湿気ってしまってももったいないし私たち二人でやっちゃおうか」

10本にも満たない本数でまとめてある線香花火を指さし言う。


「…そうですね。半分ずつ分けてどっちが長く落とさずにいれるか勝負しませんか?」

勝気な表情でミタがそんな提案をしてきた。


「ふっ、いいだろう。えーっと…1.2.3.4…9本あるからとりあえず4本ずつ分けるか」

1本だけ残してミタと半分こに分ける。

しゃがみこんだ姿勢で二人同時に線香花火に火をつける。

浜風に揺られながら線香花火の火球が徐々に安定して火花を散らし始める。


「そういえば、その後どうだ? メンテナンスの時に一応防水防砂のコーティングをしてみたんだが」


「もうばっちりですよ~。動作時の小さなノイズも入りませんし動きもスムーズです」

ありがとうございました、とミタが小さくお辞儀をした。

同時に線香花火の火球が本格的な火花を散らす前にお辞儀の振動で砂浜に落ちた。


「あっ!?」

動作のない私の火球は小さいながらも力強い火花を散らして輝いている。


「まずは私が一勝か」


「ず、するいです! 今のは誘導落下ですよ!」

なんだよ誘導落下って。


「無効試合を要求します!」


「別に構わんが…」

ムキになるミタに思わず笑みがこぼれる。

ひとしきり輝きを放った後で私の線香花火も徐々に光を失い終了を知らせる白煙が小さく立ちのぼった。


「それじゃあ気を取り直して残りの3本で勝負するか」

奇数に変わったことでイーブンがなくなった。これはこれでよかったのかもしれない。

再び二人同時に線香花火に火をつける。

それぞれの花火の行く末を見守りつつ、集中しているせいかまた沈黙が訪れる。

落下する可能性が高い火球が揺れ動く状態を抜け、火花を出す安定した状態になったところで今度はミタが話しかけてきた。


「そういえば博士、なんか悩んでます?」

こちらになんらかの揺さぶりをかけているわけでもなく、本当に不意に思って聞いてきたようだ。


「どうした急に?」


「いやあ、気のせいだったらいいんですけど…。ここ最近どっか上の空なことが多いし」

火花を散らす線香花火と私を交互に気にかけながらミタがぽつりぽつりと話し出す。

私が思う以上に私は隠し事が下手だったらしい。


「うん…。まあ…。悩み…なぁ」


「あ! いいんです! 言いづらいことであれば無理に言わなくても大丈夫です!」


…間違いない。


「ただ私のことで何か困っていることがあれば、できる限りの改善を心がけますのでなんでも言ってください!」


ミタは自分のことで私が悩んでいることに気づいている。


自覚もあったが動揺していたのだろう。私の手元の火花が砂浜に吸い込まれて消えた。


「ミタ、君に話しておきたいことがある」


「な、なんでしょう…」

意を決した私の表情を見て少し怯えたように構えるミタ。


「組織から君の記憶フォーマットの指令が下った」


「記憶の…フォーマットですか?」

事実上の関係喪失。


「ああ。そうだ。試作機としてのデータ収集期間の終了とシンギュラリティリスクの排除を目的とした対処法だ」

震える声で自分に言い聞かせるように理由を告げる。


「それってつまり、皆さんとの記憶が消えちゃうってこと…ですよね?」


「……」


面と向かって言われると現実を突きつけられたようで沈黙することしかできなった。

何かとても鋭利なもので胸をつき刺されたような息苦しさを覚える。


「…組織はもう一つの条件も提示している。記憶のフォーマットはしない代わりに、ミタ…君の永久凍結をしろと」


永久凍結。

電源を切って二度と再起動しないこと。


「えー…あはは…そうですか…」


震えた声でミタがそう呟く。


「……」


「良かったあ、安心しました!」


「ミタ…?」


「私はてっきり博士がミスの多い私を嫌いになって愛想を尽かしたんじゃないかと思ってドキドキしてたんですよ?」


「おまえ…何を言って…」

それどころの話ではないんだ…。


「記憶のフォーマットだぞ!? 今までの思い出も全部忘れてしまうんだ…!」


「でも博士たちは私のこと忘れませんよね?」


ハッとしてミタの顔を見上げる。

…どうしてそんなふうに笑っていられる?

声を押し殺せなくなり、まともに顔も上げていられず膝を抱えてうずくまる。


「ほら! 博士! 残りの線香花火やっちゃいましょうよ」

そう言ってミタが残り少ない線香花火を持ち寄る。

波風でどこかへ吹かれてしまったのか最後の1本だったみたいだ。


「風が吹いてきたから二人で風よけになりながらやりましょう」

そういって半ば無理やり体を寄せてから最後の線香花火に火をつける。


「ほら、博士も一緒に持って」

彼女の手から伝わる温もりは体温以外のなにものでもない。

私の感情の漏出に合わせているかのように線香花火が儚く火花を散らす。

二人とも無言でその儚い火花を見守る中、ミタがゆっくりとした口調で紡ぎ出した。


「私、記憶を消して理由も知らずに博士たちの辛い顔を見ながら過ごすなんて…嫌です。これまでの記憶は私のかけがえのない宝物なんです」


「二度とお話をできなくなるのはちょっと…いや、すごく悲しいですけど、この記憶を残したままどうか眠りにつかせてください」


普段から我儘ばかりですけど、多分これが最後のお願いです。


力強く、まるで自分にも言い聞かせるように彼女がそう言った。

顔も上げられずに小さく震える私に、まるで幼子を宥めるように世界一優しいアンドロイドが寄り添う。

啜り泣く声と波音だけが交互に夜の海に吸い込まれていった。


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