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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑮


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汐ちゃんとおばあちゃんも誘って民宿近くの浜辺へと繰り出す。


「花火なんて何年振りかねえ」


「お客さんはやってたけどあたしたちそんなにやってなかったよね」

祖母と孫でそんな会話をしていた。


「抜戸さん達くらいの年代のお客さんなんてめったに来ないからねえ。昼から皆さんの話ばっかりしてるんですよ、この子」

おばあちゃんの話に花ちゃんがニマニマしながら汐ちゃんの顔を覗き込む。


「あらぁ~、そうだったのぉ?」


「べ、べつに普通でしょ!?」

顔を見られたくないのか汐ちゃんが帽子を深くかぶりなおす。

そんな雑談しているうちに浜辺へとたどり着いた。

昼間と違った浜辺の様子に僕たち一同は思わず声を漏らす。


「わぁ~!! なんですかこれ!?」

先頭を歩いていた美多さんが西園さんの手を引いて浜辺へと駆け出す。

幻想的な青白い光を纏ったさざ波があたり一面に浮かび上がっている。


「夜光虫だ」

汐ちゃんがその青白い光を知っていてかそう呟く。


「夜光虫?」


「プランクトンの一種だよ、大量発生するとこんな感じで海辺が光るんだ」

初見の僕にそう説明してくれた。


「まあ、ここまで大量に発生するのはほんと稀だけど。兄ちゃんたちツイてるね」


「すごい綺麗…」

吸い込まれるように幻想的な光に御手洗さんも思わず立ち尽くす。


「あの水は飲めるのか?」

素っ頓狂な感想を言うものも約一名。


「あれをまず飲もうか考えるのは絵入さんくらいだよ」

そもそも海水の時点で飲むものではない。

夜光虫の幻想的な光景を前に僕たちはさっそく花火の準備に取り掛かることにした。

明らかに夜光虫のいる海水に火のついた手持ち花火を突っ込むのはなんだか気が引けたので消火用バケツにあまり光っていないところから海水を汲んで持ってくる。

浜辺には他の観光客らしき人も見当たらず、僕たちが貸し切りで利用しているような状況だった。


「え、いきなりそれいく?」

色とりどりの手持ち花火がある中、絵入さんが迷わずにへび花火を開封していて思わずつっこむ。

まるでそれ以外の選択肢が初めからないくらい真面目な表情で絵入さんが頷く。

さほど厚みのない円柱状の黒い塊を何個か地面に並べてライターを構える。


「それ手熱くなるからこっち使いなよ」

着火用に何本か買ってあったチャッカマンを絵入さんに渡す。


「あ、ありがとう」

珍しく素直にお礼が返ってきた。


「これどんな燃え方するんですか?」

へび花火が初めてらしい美多さんが西園さんらを引き連れ絵入さんの周囲に集まる。


「……」

全員に注目される中の着火で若干の緊張がうかがえる。

チャッカマンで安全にへび花火に着火すると黄色と茶色が混じったような煙が立ち上る中、ずももも…というエフェクトがかかりそうな何とも言えない勢いで黒くて太い燃えカスが蛇のようの這い出てきた。


「「……」」


全員どうリアクションするのが正解なのか分からず誰も一言も発しない。

そんななかこれでもかと言わんばかりにモリモリと這い出すへび花火がなんだか異様にシュールだった。


「元の大きさからは想像できないくらい出てきますね」


初めて見たであろう美多さんが目を輝かせて言う。


「絵面がシュールすぎない?」

さほど光を発するわけでもないへび花火生暖かい目で見守る高校生若干名。

花ちゃんがみんなが思ったであろうことを代弁する。


「絵入、おまえこれ何個買ったんだよ!?」

袋から大量に出てくるへび花火を見て寧斗が呆れながらつっこむ。

明らかに10袋以上はある。


「…足りなかったか?」


「インフレ起こしてんだよ!」


ボケたわけでもなさそうな絵入さんに呆れ笑い混じりに返す寧斗。

一つ一つ始まりから終わりまで見守っていたら結構な時間がかかりそうなのでありったけのへび花火を横並びに並べてみる。

左端から絵入さんが、右端から御手洗さんが順にチャッカマンで火をつけていく。

飛び出す方向はまばらだったが、こうしてみると何かを召喚してるみたいでなかなかに壮観である。

そんな大量の中の一部が同じ方向に這い出しつつねじれてまるで合体しようとしているように見えた。


「ヤマタノオロチだ…」

恐れ多そうにつぶやく絵入さん。


「明らかに8本以上いるけどな」

西園さんが冷静につっこんでいた。


平樹々島にヤマタノオロチを生み出した後、いろんな種類の手持ち花火を楽しむ。

大量にあった花火はあっという間に消費され線香花火だけが残った。

絵入さんが爆買いしたへび花火に比較すると少ない本数しかなくそれぞれが数本ずつ持って火をつけた。


「私これ苦手なんですよね…。いっつも一番輝く前に落としちゃって…」

御手洗さんがいざ着火しようとしている絵入さんにそんな話をしていた。

なんだろう、失礼だがめっちゃ想像できる。


「わたしも振り回すからすぐ落とす」


「振り回したらそりゃ落ちるだろ」


御手洗さんと共感しようとしているが振り回している時点で落ちる原因がそもそも違う。

絵入さんに選ばれてしまった線香花火はもれなく短命であることが確定してしまうようだ。


「持ち手を少し短くするか風上に背を向けてやると成功率があがるぞ」

西園さんが科学的根拠でコツを伝授してくれた。


「あ、ほんとだ。ありがとう西園さん」


「れ、礼を言われるほどのことではない」

屈託のない笑みを浮かべてお礼を言う御手洗さんに照れている様子の西園さん。


「エモいわね」


「どうしたの急に?」

その様子を見てなぜかひとりで満足げにうなずいている花ちゃん。


「楽、見ろよ。メラゾーマだ!」

寧斗が数本の線香花火をねじってまとめたものを僕に見せびらかしてきた。


「あっちぃ!? 火花もデカいよそれ!」

丸々と太った線香花火がバチバチと火花を散らして輝いている。

本来のしおらしさや風情なんて微塵もない。

負けじと僕も数本の線香花火を合わせて巨大な火球をこさえる。


「おお、それもでかそうだな」

落っこちることなくぽってりと太った火の玉からかっこよく火花が出ようとしたとき、

急に横風が吹いてそのまま真下の消火用バケツに吸い込まれていった。

ジュッ…


「「あっ…」」


手塩にかけて育てた僕の線香花火は全盛期を迎える前に消滅した。


「儚いわね。まるで楽ちゃんの人生を表現したかのようなしょっぱいフィナーレを…」


「やめい」

物憂げな表情で解釈を加えようとする花ちゃんを振り払った。

その様子を見て笑っていた寧斗との追いかけっこが始まった。



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