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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑭

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「まさか本当に履くことになるとはなあ」

寧斗が笑いすぎて涙目になったまま僕のふんどし姿をみて言う。


「……」

心なしか女性陣も僕と目を合わせようとしない。

御手洗さんと西園さんに関しては笑いを堪えるのに必死のためか先ほどから小刻みに震えながら時折スイカの方を見て気を紛らわせている。


「楽ちゃんふんどし巻きなおした方がいいわよ。あたしやったげようか?」

絵入さんに渡されたふんどしは広がり切った状態だった。急いで海中で適当に巻き付けたこともあり大き目の布おむつのような外見になっていた。


「い、いいよ! 自分で巻けるから!」

気を取り直していかにもふんどしって感じに近づけるように巻きなおす。


「明日も海に入るんだったらスーパーで新しい水着買ったら?」

汐ちゃんが至極気の毒そうにふんどしで浜辺に体育ずわりする僕に言う。


「いっそのこと明日もこいつのお世話になろうかな…へへ…」


「くッ…!」

諦めに近い感情でそう呟く僕をみて我慢できずに吹き出す汐ちゃん。


「ま、まあ抜戸さん、気を取り直してスイカ割りしませんか?」

美多さんがそう言って励ましてくれる。


「あれ? なんか…?」

一瞬気のせいかと思ったが、美多さんの声に若干のノイズが入っている。


「潮風とかの影響ですかね~? 結構あちこち砂も入っちゃってたし…」

そういいながら肘の部分の連結を解除すると中から砂がザーッと排出された。


「え…?」

それを見ていた汐ちゃんが衝撃の余りフリーズしていた。この反応みるのも久しぶりでもはや懐かしいまである。


「このお姉ちゃんアンドロイドなんだ」

僕がそう告げると目を輝かせて汐ちゃんが驚いていた。


「えええ~!! すごい!! どっからどう見ても人間にしか見えないよ!!」


「ふふん。まあ人間と言っても差し支えないんじゃないでしょうかねっ」

物凄いドヤ顔で胸を張る美多さん。


「ミタ」

テンションが上がってはしゃぐ汐ちゃんと美多さんに西園さんが近づいてきて言った。


「完全防水にはなってるが砂があちこちに入りこんで不具合が起きてるみたいだな。あとでメンテナンスしよう」


「はい博士!」


西園さんはいつもと変わらない表情のように見えて、どこか感情を押し殺しているようにも感じた。

記憶フォーマットの話があったからそう見えてしまうのかもしれない。

この他愛ない瞬間ももうすぐ終わってしまうのだろうか。

美多さんに最後の思い出を作る。

西園さんの願いであるそんな約束を思い出す。

今はこの時を楽しむしかないんだと僕も自分に言い聞かせることにした。


-----------------------------


スイカ割りも終わり少し日が落ちてきた。


僕たちは浜辺から撤収して民宿へと戻ってきた。


民宿に着くと、汐ちゃんはおばあちゃんと夕飯のカレーを作るため僕たちと別れ食堂兼厨房の方へ行った。


「さて、私たちは部屋でメンテナンスでもするか」


「はい博士!」


浜辺で連結部に入り込んでいた砂は大方排除したが、内部の確認もあるため西園さんと美多さんは女性陣の部屋で整備に入るらしい。


「私たちに何か手伝えることとかある?」

御手洗さんが西園さんに問いかける。

いつの間にか手に潤滑スプレーを持った絵入さんも横に並んで返答を待つ。


「いや、特に手伝いは…」

そう言いかけて何かを思いとどまる。

ふと僕たちの方を見たような気がしたので多分そういうことなんだろう。


美多さんの件をこれから打ち明けるのだろう。


西園さんと目が合った花ちゃんが何も言わずにうなずいていた。


「…ああ。そうだな。重たいパーツがあるから少し手伝ってもらおうか」


「潤滑油ならまかせろ」

いつでも噴射できるポーズをとって絵入さんが言った。


「多分それは使わない」


「そうか」

絵入さんが力なく出番を失った潤滑スプレーを下ろしてがっかりしていた。

そもそもここの民宿の備品だろうに。


「じゃあちょっといってくる」

そう言って西園さんと美多さん、絵入さんと御手洗さんが自室へと向かった。


「つらいことだけど何か力になれることはないのかしらね…」

取り残された僕と寧斗に花ちゃんが力なくつぶやく。


「……」

何を話すでもなく無力感だけが漠然とそこにある。

やることもないが、じっとしているとモヤモヤしそうだったので男3人でアイスを買いに行くことにした。


「汐ちゃん、この辺にアイス売ってるとこってあったり…むはぁ」

台所に行くと、もう完成したのか食欲をそそるカレーの香りが漂っていた。


「この匂いは犯罪だろ…」

すぐ後ろにいた寧斗にもキラースメルが届いたのかそんなことをつぶやく。


「少し行ったところに駄菓子屋があるけど、この時間だとやってないかもしれないな~」


「仕方ない。カレーまで我慢するか…」

アイスをあきらめてまた縁側に戻ろうとした。


「アイスねぇ…」

そう言いながら台所に入ったかと思うと、ちょいちょい手招きをする汐ちゃん。


「あたしが買ったやつで良ければ一緒に食べる?」

そういって台所の冷凍庫に入っていた箱売りのパピコを指さす。


「えっ、いいの?」


「昼間に面白いもの見せてくれたから」


「ぐっ…!!」

言わずもがな僕の半強制ふんどし着用のことだろう。


「じゃあいただこうかなあ…!!!」


「どういうテンションなのそれ」

煽りに対して大人の余裕を見せつけようとしたい反面、嫌な記憶がフラッシュバックして良くわからない表情になった僕をみて花ちゃんがちょっと引いていた。


「じゃあ俺白いサワーの方にするわ」

寧斗がラス1と思われる白いパピコを取った。


「あっ…」

汐ちゃんが驚いた顔をしたと思ったら少し涙ぐむ。


「(ちょ、ちょっと!持ち主より先に選んでどうすんのよ!!)」

花ちゃんが小声とともに寧斗の脇に肘うちする。


「うっ! …あ、あ~!! 俺白い色苦手なんだったぁ~!! やっぱり王道のコーヒーチョコ味一択だよなあ~!!」

海辺でをカルピスをがぶ飲みしていたやつがなんか苦しいことを言っている。


「ぐすっ」

目元をこすりながら汐ちゃんが寧斗の戻した白いパピコを持って嬉しそうにしていた。

僕と花ちゃんも茶色いパピコを手に持ち、汐ちゃんの機嫌を取り繕いながら民宿の縁側へと向かう。

ヒグラシの物悲しい鳴き声を浴びながら4人横並びにパピコを嗜む。


「ものすごい夏を満喫している気がするのは僕だけだろうか」

ふと思ったことを口にする。


「奇遇ね。あたしもよ」

花ちゃんも寧斗も同じ気持ちのようだ。


「汐ちゃんは将来どうするとか決めてるの?」

なんとなく気になったことを聞いてみる。

よほど好きなのだろうか、一瞬でなくなった空の白パピコを残念そうに眺めていた汐ちゃんが我に返る。


「ん~、この島には高校がないから進学したら在学中は本土に住むことになりそうかな」

おばあちゃんがいるから自宅から通いで通学したかったらしいが丁度いい時間のフェリーがないらしい。

最終的には民宿を継いでいきたいと言っていた。


「汐ちゃん、しっかりしてるわねぇ」

花ちゃんがしみじみと感嘆していた。

さっきはパピコで泣きそうになってたけどね、と言いかけて地雷を踏みそうだったので寸前でとどまる。

そんな他愛もない会話をしてると二階の一室から「ふっかああああつ!!」という元気な声が聞こえてきた。


「美多さんだ」

どうやらメンテナンスが終わったようだ。

ちょうど夕食の時間になったのでそのまま食堂で全員集合する流れになった。


美多さんに次いで西園さんが二階から降りてきていたので話しかける。


「…絵入さんたちに話せたの?」

僕の問いかけに目を合わせて静かに頷く。

「絵入はそんなに動揺していない感じだったが御手洗の方は衝撃が強かったみたいでな…」

西園さんと話している最中に二階から絵入さんと御手洗さんが降りてきた。

いつも通り振舞おうとしているようだが御手洗さんの目の周りはおそらく泣いたことによってほんのり赤くなっていた。

僕の横を通り過ぎる際に絵入さんがつぶやく。


「…楽達も聞いたんだろ?」


「ん、ああ…」

聞いたとは言わずもがな記憶のフォーマットの事だろう。曖昧な返事をかえす。

「…そっか」と、特に掘り下げずに絵入さんは御手洗さんと共に台所へと歩いて行った。


「まあ、なんだ。本人には私から話すという方針は変わらない。引き続き自然体でいてくれると助かる」

西園さんが力なく笑いながらそんな要望を告げてくる。


「多分、そんなに時間は残されてない」

途中で目を合わせてられなくなったのか気まずそうに俯きながら西園さんが言った。


「……」

そのあとは皆できるだけいつも通りの振る舞いをした。

しかし打ち明けられた人物同士、どこか表情が暗かった。


夕食を終えて男女それぞれの部屋に戻った。

据え置きのテレビでバラエティをただぼーっと眺めていたがあまり内容が入ってこない。

西園さんから美多さんの話を聞いた御手洗さんたちの様子を見てから無意識に忘れようとしていた美多さんの記憶消去の件がまた浮かび上がってしまった。

モヤモヤした気持ちだけが蓄積していく。

そんな重苦しい空気を振り払おうとしたのは花ちゃんだった。


「んもう! 辛気臭いわねえ!」


「うわ、びっくりした」

急に声を出すもんだから僕も寧斗もビクッと体が反射的に震える。


「ウダウダ悩んでてもしょうがないわ。ひとつでもみっちゃんに忘れようにも忘れられないような思いで作ってあげればいいじゃないのよ!」

めちゃくちゃ前向きな花ちゃん思考に僕たちも思わず奮い立つ。


「そうだよな、そもそも思い出残すためにもこの旅行に来たんだしな」

寧斗がすっと立ち上がり部屋の隅に置かれていた買い置きの花火を抱え上げる。


「よし! やりに行くか、花火!」

僕も自分を勢いづける意味もあって寝転がった状態から悶えるようにブレイクダンスのように足を振り回しながら起き上がる。

起き上がるとほぼ同時に部屋の扉がノックされた。

なんとなく誰だか予想がついたが扉の方に向かい覗き穴から誰が来たか見てみた。


「懲りずに一人バイオハザードか…」

扉を開けて話しかける。


「どうした?」

絵入さん一人のようだ。


「花火がしたい」


「奇遇だね。僕たちも今さっきその結論に至ったところだよ」



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