【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑬
氷水の入った木桶でスイカを冷やしていた浜辺に戻ると、ほかの女性陣もすでに合流していた。
御手洗さんはフリルのついたビキニタイプの水着、美多さんはワンピースタイプの水着を着ていた。
西園さんは恐らく水着を着ているのだろうけど上からややオーバーサイズのパーカーを羽織ってパラソル下の日陰で体育すわりしていた。
同級生の学校指定以外の水着って何気にはじめて見るということに今更気づく。
おばあちゃんに一緒に遊んでいいように言われたのかスクール水着の汐ちゃんもパラソル脇でジンベエザメの浮き輪を膨らましている。
「夏って素晴らしいものだったんだね、多見君…」
「ああ、そうだね抜戸君…」
「あなた達そんなあからさまに鼻の下伸ばしてると下心丸見えよ」
耳まで真っ赤にしている健全な男子高生二人をじっとりとした目で見る花ちゃん。
こんな機会滅多にないので脳裏にしっかりと焼き付けたいが、いかんせんスケベの烙印は押されたくない。
「あくまで自然体だ。意識するから綻びが出るんだ…」
自分に言い聞かせるように唱える。
ぬちゃ…。
「ひぃっ!?」
背中にヌメヌメした何かが急に当たった。
「…絵入さん、これは何かな?」
同時に視界に入り込んだ容疑者に尋ねる。
「昆布」
「その昆布をどうして僕に押し付けているのかな?」
「ねばねばに日焼け止めの効果あるらしい」
本気だかどうか定かではないが一応僕のスキンケアをしてくれているらしい。
花ちゃんが新しく買った日焼け止めを持参しているので正直昆布でやる必要性は皆無と言ってもいい。
「なんならこの短時間で当たってるとこ痒くなってきたんだけど…」
洗い流すために波打ち際へと向かう。
透き通った海水に足がつかるだけでこれでもかというほど夏を感じる。
海に入ったついでに汐ちゃんが民宿から持ってきたビーチボールで遊ぶ。
僕の青春にこんな1ページがあるとは思いもしなかったな。
「博士もこっちで遊びましょうよ~!」
美多さんがパラソル下から微動だにしない西園さんに声をかける。
が、しかし。手を振り返すだけで一向にこちらへ来る気配がない。
美多さんに催促されて僕が直接呼びに行くことになった。
「海はいんないの?」
「入りたくないわけではないが…」
もにょもにょと何かを言っているが今一つ聞き取れない。
「え?」
「水着を見られるのが恥ずかしいんだってば」
そんな可愛いことを言い出した。
「あー。でも他の皆も同じように水着だから大丈夫だよ」
自分で言っておきながら何が大丈夫なのかよくわからない。
「上に羽織ってるしそのまま遊べばいいんじゃない?」
「……」
少し迷っていたようだが諦めたのかとぼとぼ海に向かって歩き出す西園さん。
「うっ…砂も日差しも熱いなぁ…」
そう言ってパラソルから出た途端に降り注ぐ日射を恨めしそうに手で遮る。
「そんなゆっくり歩いてたらそりゃ熱いよ」
ほら駆け足、と西園さんを促して何とか海に入らせることに成功する。
「ふへえ…生き返った」
「あはは、温泉じゃないんですから」
まるで湯治にきたおじいちゃんのような反応をする西園さんを見て思わず美多さんが笑う。
「みなさ~ん、スイカいい感じに冷えましたよ~!」
しばらく浜辺で遊んでいるとスイカの冷え具合を確かめに行った御手洗さんが精一杯の大きな声で招集をかけた。
「おお! やっと食えるな!」
寧斗が我先に海から飛び出していった。
「絵入さん、スイカ冷えたってさ」
「時は来た…それだけだ」
「えっ…あ…そうだね」
ツッコミ待ちなのか、急にプロレスラーらしき名言を言い放つ絵入さん。
突然すぎて特にこれといった反応もできずに僕も海から上がろうとした。
その時。何かとんでもない違和感に気づく。
…母なる海に抱かれてる感じがものすごい。
…主に下半身が。
「ふおおおおおおお!!!!???」
…無い。…先ほどまで履いていたはずの海パンが。
「ん? なんだ急におっきな声出して」
海から上がりかけた絵入さんがオクターブの狂った僕の悲鳴を聞いて接近してくる。
「わっ、ちょっ!! ダメだダメだ! それ以上近づいたら社会的に死んじゃう!」
パニックに陥りながらもまずは冷静になることが大事だと思い深呼吸。
「それは押すなよ?的なあれか?」
趣旨を勘違いした絵入さんが普通に海に入って戻ってきた。
パニックをぶり返しつつも周囲に流されたであろう最終防衛ラインを探す。
…が、ないっ。
「だ、だれかたすけてぇ…!!」
「む…」
思考が停止してべそをかく僕の様子を見て絵入さんが何かを悟ったらしい。
「本来魚も海中で排泄はするからな。学校のプールとかですることよりは情状酌量の余地があるかもしれん」
まあパンツは脱がなくてもよかったと思うぞ、と謎のフォローを始める絵入さん。
…こいつ、まさか僕が海でおしっこしたとおもっているのか?
腰回りのゴムが少し緩いとは思っていたがこんなにすんなり脱げるとは思ってもいなかった。
先ほど一際大きい波が来た時に寧斗とふざけて流木を使った波乗りの真似事をした時に脱げたに違いない。
「何を勘違いしているか知らんが、海中排尿は断じてしてないからな?」
「ふっ…」
仕方なさそうな表情で僕を生暖かく見守る絵入さん。
悔しいが今はここで悠長に説明している暇はなさそうだ。
「絵入さん、悪いんだけどなんか代わりに履けるものとか持ってきてくれないか?」
藁にも縋る思いで絵入さんに救済を乞う。
「それならこん…」
「昆布はだめだぞ。さっき背中かぶれてたの知ってるだろ? 股間なんて敏感な部分に当てていいものじゃないんだ」
「そ、そうか」
一瞬考えた後に何かを閃いたのか荷物置き場へ駆けていく絵入さん。
「ねえ!? くれぐれも内密に頼むよ!?」
寧斗や花ちゃんならまだしも他のウィメンズにこのことがバレたら“全裸海水浴”というあだ名のままセピア色の学園生活を送ることが確定してしまう。
しかし悲しきかな、しょっぱい浜風に煽られながら純白にはためく一反の布をまるで優勝旗のように掲げながら絵入さんがこちらに戻ってくるのが見えた。
しょっぱかったのは潮風なのか、僕の頬を伝う熱い何かだったのか…。いまとなってはもうわからないのだった。




