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【第1話】ふぁーすとみーつ⑥


はんぎょくんを被っているせいで視界が恐ろしく悪い僕は状況が呑み込めずにいた。

頭の整理が追いつかないまま、なぜか女子トイレの中からも立華さんのものと思われる絶叫が聞こえてきた。

絶叫はこちらに近づいてきており女子トイレの入り口で彼女と遭遇する形となった。

何が起きたかわからないが立華さんも相当混乱していたのか塩水の入ったバケツを大事そうに抱えている。

「おぽぽぽぽぽぽぽぽぽああああああああああああ!!」

もう訳がわからない僕はとりあえず先ほどのように奇声とともに襲いかかるような動作を取った。

これがとどめになったのか、橘さんは声も出せずに口から泡を吹き出しその場に卒倒した。

もちろんバケツを抱えていたため自分に塩水を浴びせながら・・・。

力ずくではんぎょくんのコスチュームを脱ぐと女子トイレの奥から化け物がひょこひょこと出てきた。

「おわああああああああ!」

心臓が止まりかけるくらいびっくりするがよく考えてみれば絵入さん以外の誰でもないことに気付く。

「どういう状況!?」

もがもがとしか言わない絵入さんをつれてこの場から脱出しなければ。

先ほど脱いだジャージを回収してから絵入さんと思われる物体Xの手?らしきものを引っ張り、人が集まってくる前に僕たちは非常階段のほうに姿をくらました。




周囲に誰もいないことを確認してから、咄嗟に持ってきてしまったはんぎょくんと絵入さんらしき物体を非常階段の踊り場にいったんおろす。

絵入さんらしき物体は相変わらず自力で抜け出せないほどいろんなものにもつれていてもぞもぞと蠢いている。

「なにをどうやったらそんな状態になるんだか・・・」

思わず苦笑してしまう。

いろいろめくれあがってパンツが見えてしまっていることに気づいて、あまり見ないようにしつつ手助けして絡まりを取ってあげた。

「し、死ぬかと思った」

絡まって窒息気味だったのか顔が若干紅潮している・・・。

息を整えるとスカートを直してにやりと不敵に絵入さんが笑った。

「ふっ・・・、思い知ったか女ボスめ」

出会ってからずっと無表情だったがやはり内心は立華さんの嫌がらせにご立腹だったみたいだ。

「そういえばあのトラウマ級の格好はなんだったの?」

「前にしょっぱい水かけられたときに次やられたら脅かしてやろうと思って隠しといたやつ」

「正しく装備はできてなかったけど結果オーライだったね」

「・・・・」

ほぼ無表情だが口角が少し下がっている。

どうやらテンパってちゃんと着こなせなかったことに悔しさが残っている様子。

一息つくとほぼ同時に授業開始5分前の予鈴が鳴った。

「まずい!授業に遅れる!」

僕と絵入さんは急いで階段下の物置にはんぎょくんと幽霊のなれの果てを隠した。

いったん教室に戻ろうとすると絵入さんがツンツンと僕のジャージの裾を引っ張った。

「ん?」

「犯行現場がどうなってるか気になる」

犯人は犯行現場にもどると聞いたことがあるが、まさにこのことだなと思った。

目的地が見えないうちにすでにやじ馬で人だかりができている。

雑踏の中聞こえてくる憶測と噂に耳を澄ます。

お化けトイレに河童が出たらしい、巨大な黒いイソギンチャクの化け物もいた、えとせとらえとせとら・・・

「すごい状況だな・・・・」

目撃者がいなかったことが奇跡としか思いようがない。

それにしても目撃者が少なかったことが影響してか、大分盛りつけられた情報が錯綜している・・・。

「巨大黒イソギンチャク・・・、そんなのが同じ空間にいたのか・・・」

「いや、それ多分絵入さんのことだからね?」

青ざめた表情で勝手に自分が見知らぬクリーチャーと隣り合わせだったと勘違いする絵入さんを訂正しておく。

結局この一連の出来事があった結果、お化けトイレは生徒たちの間で「魔界トイレ」へと呼称がランクアップし畏怖されることとなった。

・・・これは後日談だが理事長の娘が精神的ダメージを負ったということもあり、魔界トイレ事件は職員会議でも取り上げられることとなった。

原因は不明のままだが再発防止のため魔界トイレはとりあえず当面の間は使用禁止になった。

警察が介入するかもしれないという話だったため僕は数日眠れない夜を過ごしたが、立華さんがお父さんである理事長に直談判しその話はなくなったらしい。

・・・なんでも風の噂で聞いたところ、立華さんはトイレ前で失神した際に失禁もしていたらしくプライドの高さゆえに外部に知れ渡るのを恐れて情報規制をかけたというのが理由みたいだ。

クラスではもちろん噂自体の広まりは恐ろしく速かったが、下手に話しているのを聞かれると立華さんに目をつけられるリスクがあるので暗黙の了解で学園でこの話はタブー扱いとされたのである。

そして魔界トイレ事件があってから絵入さんの身辺にも変わったことがあった。

相変わらず小さな嫌がらせと他の女子からの冷遇は続いていたが立華さんに絵入さんに関わると自分にも不幸が降りかかるという根源的なトラウマが植え付けられたらしい・・・。

この前廊下で絵入さんとバッタリ会ったとき「ひっ・・・!」と本能的に身構えていたから、これは相当なもんだと思う。

すぐに我に返って「ぼーっと突っ立ってんじゃないわよ!」と噛み付こうとしていたが、当の絵入さんは落ちてた白菜の形の消しゴムが気になって聞いていなかったため肩透かしで終わったのだった。


魔界トイレ事件から数日後・・・・、

登校中に道端に落ちてる人糞かと思うくらいのサイズの犬の糞を木の枝でつついてる絵入さんを発見した。

「おっす」

「・・・おはよう」

こちらも見ずに返事をして無心に排泄物をいじくる絵入さん。

「ねぇ、何してんの・・・」

「誰かが踏むといけないから端の方に避けようとおもって」

「でもほぐれて広がっちゃってるじゃん」

「・・・・」

少し考えたのち、あきらめたのか絵入さんが木の枝を捨てた。

そして学校に向けて一緒に歩き出した。

無言で学校まで歩くのかと思いきや急に絵入さんが話し出す。

「昨日思いたってチャーハン作ってみた」

「料理とかすんだね、どうだった?」

「卵を炒めたところでご飯がないことに気付いて・・・」

「・・・・」

「そのまま乱雑に炒めて食べたけど、・・・やっぱりチャーハンはおいしいね」

「僕の知ってる限りではそれはチャーハンではなくスクランブルエッグだ」

「・・・そっか」


絵入さんは突然会話したかと思いきや無言で急に立ち止まって周りをきょろきょろしたりと連続性がない行動が非常に多い。

魔界トイレ事件があってから広まった噂により立華さんの学園での横暴な態度が少し落ち着き、僕と絵入さんは日常的に少し会話を交わすようになった。

教室につくとすでに教室で携帯をいじっていた俊介がにこやかに出迎えた。

「おっす、二人ともはえーな」

「そういう俊介こそ」

「俺は部活の朝練があるからな。半強制的な早朝スタイルだ」

俊介はサッカー部の朝練のためほぼ毎日教室一番乗りだ。

「朝練って何時におきるの?」

「大体5時とかだな」

絵入さんの質問に対しそれが日課になりつつあると俊介がかえす。

「もうおじいちゃんじゃんそれ」

「今の時期はまだいいけどさ、冬とか拷問だかんね」

クラス内の立華監視態勢が緩和され、普段僕と話す俊介も最近では絵入さんとちらほら会話をするようになった。


帰りのHRが終わったところで藤崎が帰り支度をしている僕たちに話しかけてきた。

「抜戸、絵入ちょっといいか?お前ら二人部活動はどうするんだ?」

「部活か、そういえば考えてなかったな」

「部活・・・」

「早めに入った方がいいぞ。うちの学校文武両道が校則だから原則的に無所属は認められないことになってんだよ」

「そんなルールがあったんですか」

初耳だ。前の学校では一応所属していたが色々あってやめてしまっていた。

「自分でやりたい部活がないからと言って申請して部活動を作るやつらもいるが・・・」

すき焼き同好部、ギネス認定企画部、黒魔術研究部などと怪しげなのも多数あって若干カオスなことになっているらしい。

帰り支度をしつつも絵入さんも藤崎の話を聞いていた。

「まあ俺も上から急かされちまうからよ、今週末ぐらいを期限に決めといてくれ」

「うへー、わかりました」

藤崎と別れて校舎を後にする。

帰り道にて・・・

「君は部活何にするの?」

「んー、帰宅部とかがあればそれでもいいかなーと思ってる」

「そっか」

絵入さんは何かを考えているような顔をしている。

「絵入さんは前の学校でなんか部活はしてたの?」

「バドミントン」

「え、それすげえ意外」

雰囲気的に運動部のイメージはなかった。

じゃあ同じ部活に入るのかと聞きかけて思いとどまる。

立華さんが睨みを利かせている以上、どの部活を選択しても絵入さんは満足に活動できないんじゃないだろうか。

まあ、僕も最近は一緒に行動していることを認知され始めたし同じ穴の貉なのだが。

思ったことをそのまま絵入さんに伝えてみた。

「あの人が睨みをきかせてる現状では僕たちはどこに行こうと指名手配犯みたいなもんだよな」

「たしかに」

「かといってなんらかの部活に所属してないと校則的にダメなんだろ?はあ、どうしたもんかなあ」

ため息をつく僕を見て絵入さんが何の気なしに言った。

「マイペースでいられる部活があればいいのにね」

「そんな部活があるわけ・・・」

・・・・・ん、待てよ。

「別に探さなくてもいいかもしれないぞ」

「?」

絵入さんが不思議そうな顔で僕の顔を覗き込む。

「僕たちが創設者になればいいんだ」

「それは・・・君が部活をつくるってこと?」

「そう、メリットしかない」

僕たち以外に所属しているメンバーがいないから立華ジャミング(妨害電波)が及びにくい、活動内容は部員で話し合いをもとに決めれるから自由が利く。

あえてデメリットを上げるとしたら部活動の管理として年に一回活動報告をしなければならないところくらいだ。

まぁそれでも立華ジャミングはあるかもしれないけど、知り合いしかいない分僕たちだけで対処できるし変に気を使わなくていいと思う。

「まあ具体的に何部にするかはちょっと各々明日までに考えてこよう」

わかった、と絵入さんがうなずく。

家が近づいてきて分岐路に差し掛かる。

「じゃあまた明日の朝途中の公園で。・・・ああ、そういえば。」

絵入さんと別れようとしたときなんとなく気にかかっていたので伝えた。

「楽って呼んでいいよ。君だとなんか余所余所しいし」

「んえ・・・?・・・うん」

はにかんでるのか、面食らったのかよくわからない表情をいくつか浮かべた後に絵入さんが頷いた。

「私も・・・・」

「え?」

うつ伏せ気味にごにょごにょ言って聞き取れず聞き返す。

「私もその方が呼びやすい」

彼女はそう答えた。


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翌日・・・

学校に向かう途中、待ち合わせた公園で絵入さんはハトの集団に襲われていた。

「うわあ・・・、やめろおまえらー」

朝からなにをやってんだか。

その左手にはパンの耳が大量に入ったビニール袋があり、ハトに何度か致命打を喰らったのか全体的に破けかけている。

傍目にみると旧劇版エヴァの量産機に襲われる弐号機と状況が似ている。

絵入さんを救うべく、走って近づきハトを追い払おうと試みる。

・・・が、敵の数が多すぎた。一瞬警戒して飛び立ちかけたがすぐにUターンし絵入さんの非常食を狙いに行ってしまう。

「絵入さん、だめだ。これは負けイベントだよっ」

そういったが早かったか、ひときわ大きな片目に傷のあるボスらしきハトが低空飛行で絵入さんの脇腹にドムっと鈍い音のする体当たりをかました。

「あぐっ」

体勢を崩した絵入さんはそのまま袋ごとパンを手離し大量のハト達にあっという間に食べつくされてしまった。

ハトの群れを横にうずくまる絵入さんに後から遅れて飛んできた太めのハトがべちゃっ、と糞をつばのように吐き捨ててパン屑の群れに合流していった。

「ううう・・・私の大事な食糧が・・・」

うずくまる絵入さんに歩み寄りポケットティッシュで吹きかけられた糞をふき取る。

「この公園のハト達普段から群れでいるから、次からは鞄に隠して通るようにしなよ」

よほどパンの耳を強奪されたことがショックだったのかしばらく無言でとぼとぼ歩いていた絵入さんだったが学校が近づいてきたところで少しずつ会話し始めた。

よくわからない居心地の悪さから解放され僕もすこし安堵する。

「あ、そういえば昨日の部活の件。結局あまり良さげな部名が思いついてないんだ」

「部名?ふっふっふ。私は一個あるぞ」

絵入さんが少し自慢げに胸を張る。相当自信があるようだ。

「創設理由とかも必要になるからあんまりぶっ飛んだのはだめだぞ」

とんでもないのが飛び出してきそうだったので一応牽制をかけておく。

「大丈夫だ、問題ない。どぅるるるるるるるる・・・」

勝手に一人でドラムロールをはじめた。

そしてポケットから皺くちゃになった白いルーズリーフを取り出して言った。

「でんっ!らむさーる部~!」

「却下」

「えっ!?どうして!?」

むしろなんでそれでOKがもらえると思ったか不思議でならない。

「活動内容がまったく想像できないじゃん」

「まて、理由も聞いてからもう一度判断してくれ」

無表情だが結構焦りをみせる絵入さん。

「ラムサールってあの条約のこと?」

「そう。楽は条約の内容は知ってるか?」

「いや・・・、詳しくは知らないが環境の保護とかだっけ・・・たしか」

死んだ魚みたいな目に少し明りを灯す絵入さん。

「おお、そうだ。注目すべきはその保護の部分だ。私たちは学校で肩身の狭い状況にある、そこでだ」

「我々はいろいろな脅威から保護されるべきだと思うんだ」

「・・・・はあ」

「だから、らむさーる部」

・・・・・。

「えっ!?説明終わり!?」

「だから、らむさーる部」

「なんで二回言った・・・」

活動内容とか創設理由とかどうすんのさ、と絵入さんに聞き返してみた。

部名を考えるので精一杯だったのだろう。少し間があったのちに絵入さんが苦虫をかみつぶしたような顔をした。

しばしの沈黙の後に僕が思いついたことを提案してみる。

「建前上は学校近辺の自然環境保護ってことにしとけばいいのでは?」

「天才か・・・」

「ふはは、そうだろうそうだろう」

目を輝かせて絵入さんが続ける。

「学校環境は複雑で、ときに理不尽だ。そんな中でも自分が安心して落ち着ける場所が一か所くらいは欲しい」

こないだそれが壊れちゃったからな・・・と。

「・・・・えっ、もしかしなくてもお化けトイレのこと言ってる?」

「他にあるわけないだろ」

物好きもいたもんだ。まあ人それぞれといったところだろう。


その日の放課後。

部作成申請書を記入しそわそわとどこか落ち着きのない絵入さんとともに職員室に向かう。

藤崎を発見し申請書を提出する。

「まさかの創設かぁ・・・。おまえら二人で創設すんの?」

肩たたきの棒で自分の肩をリズミカルにたたきつつ申請書に目を通す先生。

ネーミングは個人のセンスだからあまり深くは突っ込まないが・・・と前置きしつつ、

「部活動自体の作成は俺的に全然オッケーだし、多分理由も特に問われず通ると思う」

この学校は自主性を慮る傾向があるから、素行不良につながるような理由がなければたぶん大丈夫だ・・・・と。

「ただ今のままじゃ部活作成は許可できないんだよなあ」

「む、なんでだ」

絵入さんが不満そうに聞き返す。

「ここの注意書き見たか?」

チョイチョイと申請書の下の方に書いてある注意書きを指さす。

※ただし一つの部活動において人数は3人以上を満たす必要がある

と書いてあった。

「あ」

メンバーはもう一人必要だったようだ。

「まぁ作成の意思があるなら俺はもう少し待つよ、3人そろったらまた持って来い」

職員室を後にして僕たちは顔を見合わせた。

「惜しかったね」

「・・・・誤算だった」

幻のサードメンを探したいところだが、僕たちの人脈はゴビ砂漠の水源並みに枯渇している。

そして藤崎からついでにお使いも頼まれてしまった。

僕たちと同時に転校してきたもう一人が間もなく自宅謹慎から復帰するらしい。

その生徒に溜まりたまったプリントを届けてほしいと。

あれ?この状況、前にもあった気がするんだけどなぁ・・・。

・・・・・。

「ちょっと待って、謹慎!?」

「どうした急におっきな声出して」

驚く僕とは対照的にさほどなんとも思ってない様子で絵入さんが尋ねる。

「謹慎になるってことはなんか素行不良なんじゃないの?あんまり言いたくはないけど」

と思ったことを絵入さんに伝えてみる。

「人を見た目で判断するのはよくないことだぞ」

「いや、見た目も何も会ってないから」

謹慎明けの生徒の名前は、・・・多見寧斗?

「これ何て読むんだ?」

絵入さんが名前の書いてある紙を覗き見て僕と同じ疑問を抱いた。

苗字はたみ?そこもあやしいが全体的に俗にいうキラキラネームな感じだ。

「ねいと?ちゃんかな。恐らく女子だな」

まあ、女子ならば暴力沙汰とかそんな謹慎理由じゃないだろう。

・・・・・。

一瞬どこぞの立華さんを思い出してとんでもないいじめっ子じゃなければいいけど、と嫌な予感を感じかけて気のせいだろうと自分を誤魔化した。

「あ」

ここで本日2度目の閃きが走った。

「絵入さん、この多見さんも部活動に誘えばいいんじゃないかな?」

僕たちと同じ転校生だし、変にトラブルメーカーとかじゃなければお互いに気楽に過ごせるかもしれないし。

「おお、冴えてるな楽」


・・・この数時間後に僕はこの時の自分の考えを甘かったと思いなおすこととなる。


「僕たちの家からそんなに遠くないところに住んでるぞ」

「じゃあこのまま行ってみよっか」


絵入さんの提案に乗り僕たちは多見家を目指すことにした。

幻の三人目の部員を求めて・・・・。


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