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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑩

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そして夏休み。


「今日も今日とて暑いなぁ」


寝起きでぼやきながらもさっさと支度を済ませて集合予定の木屋取駅に向かう。


途中で通過した公園でやたらと鳩が群がって羽ばたいているのに遭遇する。

おびただしい数だ…。近づくと襲われそうなので距離を取って歩を進める。


うっすら人の呻き声のようなものが聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。


10分前ぐらいに余裕をもって到着したが、すでにほとんどのメンバーが揃っていた。


「楽ちゃんグッドモーニン」


「おはよ、花ちゃん」

一番最初に僕に気づいた花ちゃんが気さくに挨拶をしてきた。

それに連なって他の皆とも挨拶を交わす。


「あれ? 絵入さんは?」

約一名いないのに気が付いて御手洗さんに聞いてみた。


「家は出たって連絡あったんだけどまだ来てないの」


御手洗さんが言う絵入さんの出発時間は僕が家を出るよりだいぶ早い時間だった。


「寝坊とかじゃないんなら遅刻はないと思うけどな」

寧斗がそんなことをつぶやくと遠目に見慣れたシルエットがうつった。


「あれ多分そうじゃないかな?」

思った通りそのシルエットは絵入さんだった。

近づいてくるにつれて気付いたがなぜか満身創痍である…。


「杏ちゃん、大丈夫!?」

御手洗さんが心配して声をかける。


「…し、死ぬかと思った」

そう言って懐から香ばしいかおりとともに出来立てのパンの耳が入った袋を取り出した。

絵入さんの衣服にはあちこち鳥の羽毛と思わしきものが大量についていた。

本人が説明しなくてもその場の全員が何となく状況を察した。

おそらくパンの耳を狙った鳥類かなんかに襲撃されたのだろう。


「公園で鳩に襲われた」


「前にも襲われてなかったっけ?…あっ!」

ふと先ほど通過した公園で大量の鳩が群がっている情景がよぎる。


「公園ってうちの近くのあの公園?」


「…? そうだ」

あの鳩の襲撃を受けていたのは絵入さんだったようだ。


「なんかごめんね…」

助けてあげられなくて。


「なんで楽が謝るんだ?」

微かなサインはキャッチしていたのだが確認までは及ばなかったことを申し訳なく思う。

せめてものお詫びとして絵入さんにジュースを1本おごることにした。


「え、いいのか?」


まあまあ暑いというのにまさかの缶のコーンポタージュをチョイスしていた。しかもホット。

売り上げを優先するとしたらそもそもこの時期に自販機でホットを取り扱っていること自体に疑問を抱くが…。

消費者である僕の知るところではない。


「あったかいので良かったの?」


「となりの冷たいおしること間違えた」

確かに隣のおしるこはつめたいと表示されていた。うん…これは罠といって差し支えないな。


全員集合したところで電車に乗り込む。

フェリー乗り場のある海浜公園まで僕たちは電車に揺られていくのだ。

夏休みが始まって間もないからか電車内はそこまで混雑しておらず、集団で固まって席に座る。

7人いるので3人と4人のグループに分かれて座った。


雑談をしているうちに海浜公園前の駅に到着する。

電車から降りて合流すると絵入さんがどこか不機嫌そうな表情になっていることに気が付いた。


「あれ? どうかした?」

一緒に座っていた西園さんに聞いてみた。


「缶の中のコーンを深追いして舌を痛めたらしい」


「ふっ」

何となくその場の状況が脳内再生できて笑ってしまう。

そんな絵入さんの不機嫌もフェリーに乗り込んだ後はどこかに行ってしまったみたいで楽しそうにカモメにえさやりをしていた。


1時間ほど波に揺られながらフェリーに乗っていると、平樹々島に到着した。

フェリーから眺めた時にも見えたがさほど大きな島ではなく添乗員さんの説明によると自転車で2~3時間もあれば島を一周できるらしい。


港から少し歩いたところに何軒かの宿泊施設がある。

パンフレットを頼りに宿泊先の民宿を目指す。


「多分この辺のはずなんだけど…」

民宿の名前とざっくりとした案内図を頼りに進む。


「温泉って書いてあるあの大きなホテルじゃないですか?」


「民宿らしいからもうちょっとコンパクトな感じだと思うんだよね」

美多さんの指し示すホテルは結構作りがしっかりしていて民宿といった感じではない。


「あれじゃないか?」

絵入さんが指さす方向を見ると朽ちた外観の掘っ立て小屋がある。


「あれは地元の漁師さんの道具置き場とかだと思うよ」

思ったことをそのまま口にする。


「ちなみになんて民宿なの?」


「おじさん…」


「えっ…?」

問いかけに耳を疑う返答に思わず聞き返す花ちゃん。


「民宿名はおじさんなんだよ」


「え…へえ…、随分とユニークなネーミングねえ」

明らかに反応に困っている花ちゃん。最初に名前を見た僕とほとんど同じ反応だ。


「「……」」

民宿の名前を発表した途端にみんなの足取りが明らかに重くなった。


「…大丈夫かその民宿?」

寧斗がその場の全員が思ったが飲み込んだであろう考えを口にする。


「おじさんだけで経営してるんですかね…?」

なんとなくそうであってほしくない予想を御手洗さんが追撃のように口にした。


「いやぁ…まさか…」

そんなはずがないと断定できない自分がいた。

と、ここで絵入さんが信じられないことを言い出した。


「じゃあやっぱさっきのとこだ」


「え、なんで?」


絵入さんの言うさっきのとことはおおよそ宿泊施設とは思えない外観のあの掘っ立て小屋のことを言っているのだろう。

いや…まさか。何を根拠に言ってるんだ君は。


「おじさんって書いてある看板あったろ」


…ん確定ッ!!


信じたくはなかったが来た道を少し戻り先ほどの掘っ立て小屋に向かう。さほど離れていなかったためすぐにたどり着く。

小屋の屋根らしき部位に古びた看板があり、良く言えば味のある字で「おじさん」と書かれていた。


「こ、ここじゃないですかぁ…!」

美多さんが絶望したような面持ちで僕たちに言葉で追い打ちをかけてきた。


「なんだあれは? 魚の絵か?」

西園さんが看板の一部に書かれたひげが生えたような魚の絵を見てつぶやく。

なんにせよ僕たちの宿泊先はここで間違いないようだ。

来るときのテンションが嘘のように下落し重い足取りのまま小屋…民宿へと進むことにした。



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