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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑪

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古びた引き戸を開ける


「…ごめんくださーい」


中はいかにもおばあちゃんの実家みたいな様相で民芸品の様な置物が所狭しと並べられている。

御用の方はどうぞ、という手書きの紙の横に呼び鈴がおいてあるのを見つける。


ぺなーん…


なんとも力の抜ける呼び出し音が鳴り、少し間が空いたのちに受付の奥からこちらに向かってどたどた走ってくる音が聞こえた。


「はぁーい!! あれ? お客さん?」

日焼けした活発そうな少年が僕たちの顔をみてキョトンとした顔で聞いてきた。


「あ、えーっと。今日ここに泊まる予定の抜戸なんですけど」


「ちょっと待っててね! ばあちゃあん! お客さん来たんだけどー!」

そう言って店の奥に呼びかけをすると店主らしきおばあちゃんがこちらに出迎えに来てくれた。


「お待たせいたしました。ご宿泊の抜戸さん御一行ですね? さあ、お部屋の方にご案内しますので」

おばあさんに案内されるままに店の奥へと進む。


「おじさんでしか経営してないって説は消えましたね…」

そんなことを美多さんが耳打ちしてきた。


あの外観からは想像がつかないくらいに民宿は奥行きがあり、中は古いながらも掃除が行き届いた綺麗な旅館だった。


「ではこちらが男性のお部屋になります」

そう言っておばあさんが部屋の鍵を開けると落ち着いた雰囲気の和室に通された。


女性陣と別れ、僕と寧斗と花ちゃんで中の様子を見回す。


「外の様子からは想像もつかないくらい落ち着いた場所ね」


「いやほんと。実家にいるみたいな安心感もあるしな」

綺麗な畳に大の字になって寝転がる寧斗。

据え置きのポットでさっそく花ちゃんが煎茶を淹れている。


「母ちゃんかよ」


「だれが母ちゃんよ! 女子力が高いって言ってちょうだい」

そんな二人のやり取りを眺めつつ卓袱台に置いてあったパンフレットになんとなく目を通す。


「あ、ここの民宿の名前の由来って魚の名前なんだってさ」

パンフレットに書いてあった挨拶文を見て気づいたことを二人に話す。


「そういえばオジサンって魚いるわよね」


「この島の特産品らしいよ」


パンフレットの案内によると刺身も煮つけも絶品らしい。

そういえばフェリー乗り場の近くのお土産売り場でもここの看板に書いてあった魚の絵をあちこちで見かけた気がする。

花ちゃんの淹れたお茶をすすりながら寛いでいると、部屋にある備え付けの黒電話が鳴った。


慌てて電話に出ると民宿のおばあちゃんだった。


「お客様、昼食の準備ができましたので食堂までお越しくださいね」

食堂の場所までは先ほどの日焼けした少年…多分お孫さんが案内してくれるらしい。

ほどなくして部屋の入り口のドアがノックされる。

覗き穴があったが多分絵入さんたちだろうと思って確認もせずに扉を開けると鈍い音とともに何かにぶつかった。


「あだっ」


「わっ、大丈夫!?」


「…平気だ」


「…なんか扉にめっちゃ近くなかった?」

扉が当たったであろうおでこを抑えてうずくまる絵入さん。


「ほら言ったじゃないですか! 一人バイオハザードなんてするからですよ」

美多さんが絵入さんのやっていたと思われる愚行を注意する。なんだ一人バイオハザードって。


「なにやってんだあんたら…」

呆れ顔で先ほどの少年が主に絵入さんを見て言う。

どうやら先に女性陣と合流して食堂に案内する途中のようだ。

名前は浜砂汐はまさ うしおちゃんというらしい。


「汐ちゃん、おばあちゃんと二人でここの民宿経営してるんだって」

御手洗さんが感心しながら話す。ただ、その呼び方に一瞬違和感を感じて思考する。


ボーイッシュな外見からてっきり同性だとばかり思っていたが、どうやら汐ちゃんは女の子のようだ。

ふう…、あぶないあぶない。また地雷を踏むところだった。

同じ鈍感族である寧斗のほうをちらっと見たが、あちらもなにか腑に落ちた顔をしているあたり僕と同じ考えに至った様子。


「汐ちゃんいまいくつ?」


「12だよ。来年から中学校」

花ちゃんが色々話しかけていたのですぐさま打ち解けることができた。

どうやらご両親は出張で遠くに行っていておばあちゃんと二人で民宿を切り盛りしているらしい。


雑談しながら汐ちゃんに案内されて食堂に来るとものすごくいい香りに包まれた。

そういえば朝から食べたものと言えば絵入さんがおやつで持ってきたパンの耳の黒糖がけくらいだったのでおなかはペコペコだ。


「今日は来てくれてありがとうねぇ。お代わりもあるからたくさん食べてって」

おばあちゃんがそう言ってアオサのお味噌汁を配膳してくれた。

配膳が終わると僕たちに気を使ってか、別の場所で夕食を食べようとしていたので折角だから一緒に食べようと提案してみた。

汐ちゃんは少し気恥ずかしそうだったが、おばあちゃんも嬉しそうに一緒に食卓を囲んだ。


「この刺身めちゃくちゃ美味いけどなんの魚!?」

寧斗がその美味しさに思わず驚きながら尋ねる。


「オジサンだよ。この島の名物ね」

汐ちゃんが自慢げに胸を張って答える。


「……!!」

絵入さんが無言でおばあちゃんの手料理に箸を伸ばしている。

刺身もそうだが他の煮つけや島でとれた野菜のソテーなんかも全部が美味しい。

大量にあった手料理は瞬く間に平らげられてしまう。

食材のもともとのポテンシャルもさることながら、絶妙な味付けと調理法…。このおばあちゃんただものではない…。


「あ、博士が栄養過多で気絶してる!」

美多さんが西園さんの異変に気付いて声を上げた。


「え? うわっ! なんて幸せそうな顔で気絶してるんだ…!」

普段絶対しないような恍惚の表情で西園さんが気絶していた。


「ものすごい偏食をするか、何かに集中して絶食するかのどちらかなんで栄養回路が狂ってるんですこの人!」


「ふっ。写真撮っとこ」

なかなか見れない西園さんのレアな姿を絵入さんが楽しそうに写真に収めていた。


至福のランチタイムを終え、台所でくつろいでいると汐ちゃんが尋ねてきた。


「なあ、あんたたちこれからの予定とかあるのか?」


「そういえば絵入さんが出発前に熱心に作っていた旅のしおりらしきものがあったよね?」

フェリーに乗り込む前に全員に配られたしおりをカバンから取り出す。

渡された時に中までは見ていなかったのでどのくらい書き込まれているのかちょっと気になる。


「……え?」

数ページあるがそれぞれのページに大きく一文字ずつ無秩序に書かれているだけで旅行の予定などはどこにも見当たらない。


「借、多、傷…なんだこれ」

なんならちょっとしたホラー要素すら感じる。


「ゲシュタルト崩壊しやすい文字だぞ」


「ゲシュ…? えっ、なんて?」

なぞにドヤ顔で絵入さんがそう言ったが、意味を知らない僕は反応に困る一方だ。


「本来は心理学用語だが、ずっと見てると普段通り認識できなくなる現象のことだ」

すでにしおりを見た後であろう西園さんがそう付け加えてくれた。


「あ、ほんとだ…。もともとこんな字だったっけって不安になってくる」


って…


「いや、旅のしおりは!?」


「ヒュ…ヒュイ~…」


おおかた製作途中でめんどくさくなったのだろう。鳴っていない口笛を吹いて誤魔化そうとしている。

絵入さんにスケジュールを任せた時点で人選を誤ったと言っても過言ではない。


「ま、まあ狭し島だし目立った計画に盛り込むような観光スポットとかもないようなもんだし…」

ノープランが発覚した僕たちを見て汐ちゃんが苦しいフォローをいれてくれた。


「夏っぽいことできればいいんじゃねえか? 花火とか、海行くとか」

寧斗がそんな真っ当な提案をする。


「まぁそうね。まだ昼間だし散策がてら買い出しにでも行きましょうよ」

ポンと手を叩いて花ちゃんが仕切りなおす。


「それならあたしでよければ案内するよ」

汐ちゃんが願ってもいない協力を申し出てくれた。


「地元のスーパーとかお店に詳しい人がいると助かりますね」


「若干気を使ってくれてる気がしないでもないが…」

素直に感謝する御手洗さんとは対照的に僕は絵入さんの失態へのフォローを感じずにはいられない。


「ばあちゃ~ん! お客さんたちに島を案内してくるね~!!」

元気な声で汐ちゃんが声掛けをすると奥の方からおばあちゃんの了承の声が返ってきた。



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