【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑤
西園さんから美多さんの件で相談を受けて、僕たちなりに彼女に最高の思い出を作れるように考えることにした。
「そういえば、この件についてはまだあたしたちにしか話してないのよね?」
花ちゃんが西園さんに尋ねる。
「ああ、そうだ。女性陣は普段から君たちよりミタと交流があるから、なかなか言い出すタイミングが難しくてな…」
「なるほど、確かにねえ……ん?」
と、ここで何かに気づいた花ちゃんが叫ぶ。
「ちょっとぉ!? あたしは女性陣じゃないのぉ!?」
…今そこに食いつくのか。
「うっ…! ま、迷うところではあったが男性陣があの二人だけではいささか頼りなくてな…」
そう言いながら僕と寧斗を横目に苦しい言い訳をする西園さん。
「う~ん。確かにそういわれるとあたしはメンズサイドでサポートに回った方がバランス取れるかもしれないわね…」
「「……」」
凄い言われようだ。
急なディスりに反論しようとするが、感情に任せて暴走しがちな寧斗と判断力のない僕にはなにも弁論できないのが悔しい。
「絵入と御手洗には機を見て話そうと思う…」
問題はミタの方だが…と暗い表情でつぶやく西園さん。
「変わってあげたいところだけど…こればっかりはふうちゃんから伝えないとね…」
花ちゃんの言葉に西園さんもその点については自覚があったみたいでただ静かにうなずいていた。
「まぁ、私の方でも何か思い出になる様なイベントを考えてみるが、君たちの方でもアイデアを出してもらえると嬉しい」
そういって深々と頭をさげる西園さん。
そんな話し合いをしているうちに時間がたっていたのか廊下の方から絵入さん達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
「たっだいま帰還しました~!」
両手に大量のお菓子の入った袋をぶら下げた美多さんが実験室の扉をあけ放った。
それに続くように絵入さんと御手洗さんも実験室内に入ってくる。
「うひゃあ~、空調が涼しくて気持ちいいですね!」
外は大分暑かったのか、三人とも買い出しで汗をかいたようだ。
うち約一名は汗どころの騒ぎではなくずぶ濡れに近い様相なのが目に付く…。
「絵入さんだけ海水浴でもしてきたの…ってうわっ!? 磯くさっっ!!」
ずぶ濡れの彼女は水族館のイルカショーで水をかぶった人並みに海水の匂いを放っていた。
「杏ちゃん、魚屋さんの大きな水槽覗き込んだ時に後ろから他のお客さんにぶつかられてそのまま転覆しちゃったんです…」
「転覆って…船じゃないんだから」
もともと大分乗り出して覗いていたのも要因ではあるんですけど…と詳細を話す御手洗さん。
「海水なのにサワガニがいた気がしたんだ」
「いたところでどうするつもりだったのぉ…」
僕の辛辣な問いかけにも動じず無表情でスカートの裾を絞る絵入さん。
びたたたっと含まれていた水分が廊下に水たまりを作っている。
「え、絵入さん! そんなところで絞ったら誰か通った時にスリップしちゃいますよ!」
美多さんにまともな指摘をされポケットからハンカチを取り出す絵入さん。
…が、もちろんそのハンカチもずぶ濡れになっている…。
「ほら、これを使え」
西園さんが実験室にあった乾いた雑巾を絵入さんに渡した。
「む。かたじけない」
そんなことを言いながらしゃがみこん濡れた廊下を拭きだした。
ここにたどり着くまでにたくし上げて何度も絞ったせいだろうか。スカートが捲れあがってパンツが見えかけている…。
「わーっ!! 杏ちゃん! ストップストップ!」
身を挺してラッキースケベを防ごうとする御手洗さん。
実験室の扉を閉めるとそのまま二人で更衣室へと向かっていった。
「ふ、二人が戻ってくるまでに準備しちゃいましょうか」
そう言って美多さんが買い物袋をテーブルの上に置いて中身を取り出し始めた。
「随分買ってきたなぁ…」
「ふっふっふ~。甘いものからしょっぱいものまで幅広くありますよ~」
その量の多さに思わずつぶやいた寧斗に自慢げに胸を張って答える美多さん。
次々とテーブルの上にパーティ開けしていく。
さすがに全部は食べきれなさそうだったので残りは一旦実験室の戸棚にしまうことにした。
お茶や炭酸ジュースを準備し、人数分のコップを配り終えた頃に絵入さんと御手洗さんが着替えを終えて戻ってきた。
…どことなくまだほんのり磯臭い。
「一応水道で髪の毛は洗ってタオルで拭いてみたんですけど…」
僕たちの表情を察して御手洗さんが最善は尽くしたと言わんばかりに教えてくれた。
「いもチップスが冷めちゃうといけないからな」
いもチップスはもともとあったかい商品じゃないんだけど、と内心突っ込みを入れる。
全員で揃ったところで改名記念のお菓子パーティーが開幕となった。
西園さんもいつも通りの雰囲気でパーティーを楽しんでいるようだった。
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