【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん③
「スタンフォードとか頭良さそうじゃん」
「確かに! でもハーバードも捨てがたいですねぇ」
寧斗の提案にきらきらと目を輝かせながら美多さんが答える。
ラムサール部の活動と称して僕たちはいつものように仮設科学実験室で放課後のティータイム兼雑談に興じていた。
「はあ、呑気だね君たち。そんな合理性のないことをぴーちくぱーちくと」
わいわいきゃっきゃと盛り上がる美多さん達を横目に小言をぼやく。
「感じ悪いぞ楽。せっかくこうして盛り上がってるのに」
絵入さんがいつも通りの無表情で僕のぼやきを指摘してくる。
「そりゃぼやきの一つも出るよ。君たち僕を勝手に部長に追いこんだ挙句、活動記録を一向に手伝おうとしてくれないじゃない」
「「……」」
活動記録という名のレポートを書かされては堪らないと、先ほどまでの盛り上がりがなかったかのように各々急に口を閉ざす。
「ほら、なんか言いなよっ(怒)」
ほらほらぁ!とレポートを片手に煽る僕をみんなが見て見ぬふりをしている。
ぺしんっと顔にレポート用紙を押し付けられた寧斗が観念したのか口を開いた。
「わあーったよぉ! 今度は俺たちも順番で書くから、なっ?」
寧斗が絵入さんや花ちゃんに目配せをして同意を求めるが頑なに目を合わせようとしない。
むしろそれぞれが明後日の方向をわざとらしく向いた。
「性根が腐ってやがる…」
そもそも寧斗も先週から同じ手段でレポートを回避しているから他のメンバー同様に信用出来ない。
御手洗さんのみ辛うじてこちらが頼む前にレポートを書いてくれたが、その時は彼女がちょっとした仏様に見えたほどだ。
「ていうかさっきから何やってんの?」
「あんちゃんが頭の良さそうな単語をミドルネームで登録すればみいちゃんの処理速度が速くなるかもしれないって言ってたから試してんのよ」
ふと思った疑問に花ちゃんが答える。
「プラセボ効果みたいなもんか。んで肝心の名前は決まりそうなの?」
発案者である絵入さんに聞いてみる。
「協議しておいてもらってなんだが、実は最初から何にするかは決めてある」
「えっ、そうだったんですか?」
先ほどまでのシンキングタイムはいったい何だったんだろうか。
絵入さん以外の全員が思ったことを美多さんが思わず口にした。
普通の人なら不満の一つも出そうなものだが、相手は絵入さんだ。常識が通じないのは今に始まったことではない。
「マサチューセッツにしようと思う」
「また噛みそうなところ選んだなあ…」
若干のドヤ顔で超有名な工科大学を発表する絵入さんに思ったことをつぶやく。
「西園・マサチューセッツ・美多…ですか」
実際に美多さんが口にしてみたが、どこかお笑い芸人の芸名のようなニュアンスを感じてしまうのは僕だけだろうか。
「スタンフォードとかハーバードのほうが良くねぇか?」
「……」
寧斗の提案に気持ちがだいぶ揺らいでいるのか沈黙しつつも目が若干泳いでいる絵入さん。
「いや! せっかくですから提案してくれた杏さんの案にしましょう!」
美多さんが意気込んでそう宣言すると瞳の一部に英語でガイダンスのようなものが流れカウントダウンが始まった。
「なんだか緊張するわね…。あんちゃん、噛まないように気を付けてよ?」
「ま、まかせろ」
花ちゃんの助言に若干緊張がうつったのか身構える絵入さん。
と、ここで教卓の前の高そうな椅子で読み物をしていた西園さんが何かを思い出したのかこちらも見ずにこう言った。
「あ、その音声認識登録機能。一回登録されるとセキュリティの関係上1カ月は変更できないからな」
「えっ!? な、なんですって!?」
明らかな動揺を見せる美多さん。
同時に機械的な音声で「ミドルネーム 音声認識開始 ドウゾ」というアナウンスが流れる。
「マサチューセッチュッ!」
「「ああっ…!」」
美多さんの動揺も伝播したのか見事にミステイクをかましてしまった絵入さん。
「えっ!ちょっ!リテイク!リテイクできますよね!?」
慌てて操作したためか勢い余って登録確定を選択してしまう美多さん。
「あっ!あーーーーーーっ!!」
続けて無慈悲に「音声認識登録完了 ようこそ、西園・マサチューセッチュ・美多様」と機械音声で告げられる。
「いやああああああ!」
実験室内に新生マサチューセッチュさんの悲鳴と若干名の堪え笑いが木霊したのだった…。
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