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【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす 余談

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この学校に果たして美化委員なるものは存在するのだろうか。

そう思ってしまうほどに放置された状況の中庭では雑草やら雑草やら雑草がまるで樹木のようにたくましく生い茂っていた…。


「無理だってこんなの。フロンティアのままでいさせてあげようよ」

絶望的なまでに生育した雑草を前にそんな泣き言しか出てこない。


「ふっふっふー。抜戸さん…! 私の存在をお忘れでしょうか?」

このキュートな高性能アンドロイドである私を!と自慢げに胸を張って主張する美多さん。


「まさかとは思うけど、ここで芝刈り機モードとかやる気じゃないよね…?」


「えっ…なぜそれを?」

まるで予言者にでも出くわしたかのように息をのむ自称高性能アンドロイド。


「ここの中庭、ほとんどのクラスのベランダから丸見えだからね」


「……」

僕の言いたいことは理解できたみたいだが性能をお披露目できなかったことに不満げに口を尖らす美多さん。


「ちなみにだけど芝刈り機はどこから出す予定だったの?」


「……肘ですけど」


「バレるって!」

口惜しそうにしている美多さんを見かねて絵入さんが提案してきた。


「美多を全員で囲んで芝刈りしながら移動すればいいんじゃないか?」


「危険だしそもそも絵面がやばいでしょーが」

間違って足並みが揃わなかったら美多式芝刈り機に切り刻まれる可能性も大いにある。


「今日中に一気にやる必要はないと思うんだよね」

そう言って中庭のほぼド真ん中に位置する小さな池に目を向ける。

苔生した正方形の小さな池には蓮の葉が浮かんでおり、ぱっと見手付かずな様相からは想像がつかないくらい水は透き通っていた。

おそらく浄化ポンプが仕事をしてくれているおかげだろう。

透き通った池の中にはひらひらと優雅な金魚が数種類泳いでいた。


「あ! 見てください! 選挙の日の抜戸さんそっくりな金魚がいますよ!」

美多さんがまるでこの池の主の様に逞しく育ったランチュウを指さして言う。


「……」

あの日から数日たって顔の腫れは引いたが、当日襲ってきた心無い花ちゃんファンクラバーの肘や膝の痛みがフラッシュバックする。

もはや僕の反応が面白くてラムサール部のメンバーを含め実験室の二人も時々いじってくるので気が気でない。

池の水は透き通っているが総菜パンの包装や空き缶などが周囲に目立つ。捨てた人に投げつけ返してやりたいものだ。

何日かかけて綺麗にするとして、とりあえず今日は池の周りを作業することにした。


「杏ちゃん、なにしてるの?」

御手洗さんが池に即席で作った釣り竿の糸を垂らす絵入さんに話しかける。


「さっきピラニアがいたんだ」


「学校の池にピラニアがいたら最早それは事件だよ」

とんでもないウソをつく絵入さんに思わずつっこむ。

池を挟んで対岸で釣りをしているのだが、彼女に恥じらいという概念はないのだろうか。しゃがんだ体勢のせいでパンツが丸見えである。

なぜか近くに置いてあった瓶ジュースのケースをある程度拭いて絵入さんに渡す。


「ピラニアは釣れないだろうけど、これ使いなよ」


「…ん」

無表情で絵入さんが池の中を指さす。


「え? なんかいる?」

絵入さんの指さす先をじっと見ると信じられないものが泳いでいた。


「ピ、ピラニアだあああああぁ!!」

ほんとにピラニアが泳いでいた。


「うおお! まじかよ! 初めて見た!」

寧斗も池の中のピラニアを見つけたのかやや興奮気味に驚いている。


「学校の池でピラニアはまずいですよ!!」

御手洗さんが慌てて絵入さんの背後に隠れる。さすがに飛び掛かってくるわけではないが有名すぎる肉食魚から距離を置こうとする気持ちは何となくわかる気がする。


「あれはコロソマの幼魚だぞ」

不意に背後からやってきた西園さんが至極冷静にそう言った。


「コロソマ? ピラニアじゃないんですか?」


「ピラニアと似ているがこいつは肉食性じゃない。植物を主体とした雑食性だ」

美多さんの質問に答える西園さん。


「最終的に1m近くになるからその辺もピラニアとは違うな」

獰猛な肉食魚じゃないことにはひとまず安心だが、

なんでそんなものが学校の池にいるんだろう…。


「誰かが飼育してたものをこの池に逃がしたのかしらね。ともかくピラニアじゃなくてよかったわ」

危うく全国ニュースになるところだったわね、と西園さんと共に到着した花ちゃんが話す。


「なんだ、ピラニアじゃないのか…」

なぜかちょっとがっかりしている絵入さん。

肉食魚じゃないことが確認できたので僕たちは池の周囲の掃除を再開した。


「そういえば今更だけど選挙演説でリサイタルした意図ってなんだったの?」

空き缶やプラゴミを回収しながら絵入さんに聞いてみた。


「私なりの熱いメッセージだったんだが…」

果たして伝わったかな、と遠い目をして空を見上げる絵入さん。


「メッセージも何も、急に一人カラオケした奇人って言われてたよ」


「やはり誰も意図は汲んでくれなかったか…」

寂しげにそんなことをつぶやく絵入さん。


「曲目の頭文字を繋げるとメッセージになるんだ」


「絵入さんリサイタルでなに歌ったんだっけ?」

近くにいた花ちゃんに尋ねる。


「マイレボリューション、革命前夜、青春アミーゴ……あとイントロで止められたけど蝋人形の館ね」

言うまでもないがジャンルも年代も見事にバラバラである。


「マイレボ…ってことは“ま”か。次が“か”…」


まかせろ…?


「そう、任せろになるんだ」

ふっ、と照れ臭そうに鼻で一笑する絵入さん。一体何が面白いのだろうか。


「分かりづらっ」


「あたしも後々理由聞いて知ったけど、講堂にいた誰一人としてその意図に気づいてなかったわよ」

アイデアの奇抜さは評価してあげたいけど、とさりげなくフォローを入れる花ちゃん。


「肝心の歌の方はどうだったんだ?」

絵入さんの歌唱力を気にしてか寧斗が尋ねる。


「あ、あたしは…ほら。好きよ? 味があるというか…謎の中毒性もあるし…ねぇ?」

その場にいた御手洗さんにも感想を委ねる花ちゃん。


「あっ…ぐっ…! えーっとぉ…わ、わたしも好きですよ! 絵入さんの独特な世界観と言うか…」

今のところ誰も上手だったとは言わない。

そこまで濁した感想を聞かされると逆に聞いてみたくなるのは人間の性だと思う。


「蝋人形の館の口上のあたりで先生たちがだめだ!止めろ止めろ!って騒いでたのは思わず笑っちゃったけどね」

その時を思い出して花ちゃんと御手洗さんがたまらずに噴き出していた。


「ふっ…」

なぜか絵入さんも自嘲気味に笑っていた。


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朝の静寂の中。竹刀のぶつかる音が耳に心地よい。

相変わらず父とは時々衝突するが、二人の姉から説教でもされたのだろうか。

以前に比べ男らしさの押しつけをしてこなくなった気がする。

見知った人たちの前だけでなく、普段から自分を隠さずに生きるようにしたことで心に余裕ができたのかもしれない。

久しぶりに父から1本とれたことに自分でも驚く。


「太刀筋から迷いが消えたな」

無愛想ながらもその変化に感心しているのは自分だけではなかったようだ。


「不思議と自分でもそう感じてるわ」

しばらく鍛錬していなかったにも関わらず足捌きは軽やかだし、なんなら視野も広まっている。


「今なら全国優勝も狙えそうな気がするわね」

ま、今更本気で剣道をやるつもりはないけど。


「その喋り方だけでもどうにかならんのか?」


「アイデンティティだもの。変える気はないわね」

不満そうに眉間にしわを寄せる父だが、それ以上は何も言ってこなかった。


ひとしきり打ち込みを終えて一息をつく。

花柄の刺繡が施された鮮やかな紫のフェイスタオルで汗をぬぐう。

ランナーズハイではないが一心不乱に打ち込みを終えて若干のトランス状態に近いような停止しかけた思考で道場から見える外の景色を見ていた。


ふと先日友人が放った言葉が脳裏をよぎった。


ニュアンス的にいいニュースではなかったからあたしはその時、聞こえないふりをした。


「もう少しで一緒にいられなくなるから」


彼女は確かにそう言っていた。



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