【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑲
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翌日。校長室にて。
「はぁ…しんどぉ…」
「どうしたのよ死にそうな顔して」
「いや、大変だったんだからね。あの後まじで…」
一夜にして寿命が数年縮んだような衰弱っぷりで校長が吐露する。
「開票が終わって城戸君が生徒会長に当選した後に例の立華さんがえらい形相で飛び込んできてね…。現生徒会と大多数の生徒の強制退学を嘆願されたよ」
「むちゃくちゃ言うわねえ…。通るはずないって分からないもんかしら?」
「理事長との板挟みになる私の立場にもなってほしいもんだよ全く…。説得しても全然食い下がらないから事前に花道君から言われていたキラーワードを伝えて渋々引き下がってくれたんだよ」
恐らくこうなるであろうと予測していた私は、校長に「城戸彰の監禁事案」を校内設備の不正使用のオマケつきで切り札として伏せていたのだ。
城戸君を発見した際に楽ちゃんと寧斗ちゃんに城戸君が監禁されていた地下室の証拠写真を携帯で写真に収めておいてもらっていた。
立華女子も選挙が終わった後は城戸君に口止めでなんとかするつもりだったのかもしれないが、口止めに屈するような城戸君ではないのでいずれにせよ立華美咲の罪状は露呈していたと思われるが。
校長室を後にして仮設科学実験室に向かう。
「花道先輩おはようございまーす」
「あらおはよう。廊下は走らないようにね」
ひらひらと手を返しながらすれ違いざまに挨拶をしてきた女子生徒に応える。
生徒会選挙が終わって数日たったけど、あの告白から色んな反響があった。
恐らくファンクラブ的なものの生徒だと思うんだけど、以前の私のイメージからかけ離れすぎて理解が追っつかない人ももちろん何人かいた。
でも体感的に前より気軽に話しかけてくれる生徒が明らかに増えた。本来の私の性格のほうが親しみやすいのかもしれない。
「はいはーい、お邪魔するわよお」
実験室の入り口を開けるとつい最近出会ったばかりだけど心から信頼できる大事な友達の顔が並んでいてどこか安心する。
「蟹ならほぼ毎週食ってる」
「だから、それは蟹じゃないんだってば」
杏ちゃんと楽ちゃんがいつも通りの問答を繰り広げている。
「アラスカ産の蟹だろ?」
「アラスカは商品名だぞ」
蟹風味かまぼこの話をしているらしい。一向に認めない杏ちゃんに対し呆れ顔で風ちゃんも補足する。
「えっ!? あれ蟹の切り身じゃないんですか!?」
どうやらみいちゃんも蟹だと思い込んでいたらしい。製作した企業としては本物の蟹と間違えてもらえるんだからこんなにうれしいことはないだろう。
「蟹じゃないってパッケージに書いてあるからな」
意外にも見た目脳筋の寧斗ちゃんがかまぼこだと気づいていたことに驚いた。
「花道先輩はカニカマの真実知ってますよね?」
「当然よ。でも蟹のエキスは入ってるからぶっちゃけ蟹食ってるようなもんよ」
かこちゃんの問いかけに応えつつ、自論を展開する。
「そういえば今日はなんで呼び出されたのかしら?」
「ん? なんだっけな…」
放課後にここに来てほしいとあんちゃんから連絡があったので来てみたのだが、当の本人は疑似蟹論争で頭を使いすぎたのか本題を忘れてしまっているようだった。
「なんだっけじゃないでしょ。勧誘するんでしょ?」
「ああ、そうだった」
楽ちゃんが呆れ顔であんちゃんに本題を告げた。
「花ちゃんって部活とかやってるんだっけ?」
「部活? 入学したての頃は剣道部に入ってみたけど、どうせ家でもやらされるし生徒会で忙しくなるだろうから2年に上がるタイミングでやめちゃったけどね」
楽ちゃんの問いかけに何気なく答える。
「へぇ…。…ん? でも確か体育館に全国大会出場の横断幕なかったっけ?」
疑問に思ったのか楽ちゃんがさらに聞いてきた。
「あるわね。一年の時のやつが」
「うえええ!? 一年で国体出場って凄くないですか!?」
みいちゃんがまるで超人を見るような目で驚いてみている。
「まぁ、お腹下しちゃって準決勝までしか行けなかったけどね」
「万全じゃないステータスでそこまで行ける方が恐ろしいんだが…」
ふうちゃんが若干引いた目つきでそんなことを言った。
「とんでもエピソード出てきて本題から逸れちゃったけど…。じゃあどこにも今は所属してないんだね?」
「そうなるわね。…え? なにかしら?」
含み気ににやける楽ちゃんを見て何か企んでいる気配を感じる。
「私の部に入ってくれないか?」
心なしか気恥ずかしそうな表情を浮かべてあんちゃんがそんなことを言い出した。
「いいわよ」
「え!? 即答!?」
内容も聞いてないのに!?と楽ちゃんがあたしの危機管理のなさに驚嘆している。
「だって楽しそうじゃない。あんちゃんの考えた部活なんて」
「……」
いきなりオッケーをもらえると思ってなかったのかあんちゃんがどこか呆気に取られたような顔であたしを見ていた。
「ちなみに何部なのかしら?」
「ラムサール部」
「えっ?…ラム?」
聞き間違いかしら…。国際的な湿地保護条約の名前が出てきたような気がしたんだけど…。
「ラムサール部だ」
「聞き間違いじゃなかったのね!!」
依然無表情で答えるあんちゃん。
「なんてことでしょう、部活動の内容が一切推測できないわね…」
「そういえば俺も特に気にしないで入部したけど活動内容ってなんなんだ?」
あたし同様に活動内容を把握してない様子の寧斗ちゃんが尋ねた。
「私が安全に卒業できるようにサポートする部活だ」
「完全に私利私欲じゃん」
良くそれで申請通ったな、と楽ちゃんが信じられないような表情で続ける。
「いや、通らなかった。だから本家に基づいて中庭の環境整備みたいな感じで誤魔化した」
「なんか聞いてると面白そうね。でも申請したからには月一で活動報告してかないといけないから実際に掃除とかしないと棄却されちゃうわよ」
若干のしたり顔で言い張るあんちゃんに一応重要なことなので告げておく。
「な、なんやて…」
ふざけてる口調のわりには軽く絶望したような表情で明後日の方向を見つめだすあんちゃん。
「その様子だと活動報告書に書けるようなことはまだ何もやっていなさそうね…」
「たしか活動報告書の提出って部長がやるんでしたっけ?」
「そのとおり。一応代表者になるからね」
かこちゃんの問いに答える。
「そういえば部長って杏さんなんですよね?」
みいちゃんが恐らく全員が意見が一致しているであろうことを聞いた。
「いや、部長は楽だ」
「どええ!? 初耳なんですけど!?」
既に刺さっていた白羽の矢を今になって知らされた楽ちゃんが思わず椅子から立ち上がる。
「なんとなく嫌な予感がしたから楽の名前を代筆で書いたんだな」
「書いたんだなじゃねえよ」
憤慨する楽ちゃんを見て寧斗ちゃんが腹を抱えて笑っている。
「部活動の功績ってその他の項目とか自主性の分野で評価されるからちゃんとやらないと内申に響くわよ」
「くそぉ、こうしちゃいられない! 皆どうせ用事ないでしょ!? ほら、中庭行くよ!」
勝手に部長にされたことに対してはもう諦めがついたのか中庭めがけて楽ちゃんが駆けていった。
「まさかこの時期に部活に入るとは思わなかったわね」
「生徒会のほうは大丈夫なのか?」
実験室に取り残されたふうちゃんが聞いてきた。
「大丈夫よ。もう引き継ぎもほとんど終わってるし、後任は城戸君だもの」
「生徒会の活動よりこっちの部活動のほうが大変かもしれないぞ?」
ふうちゃんが意地悪そうに肩をすくめてそんなことを言った。
「それは一理あるかもしれないわね…。そういえばあなた達実験室メンバーも部員なのよね?」
当然のように確認も込めて聞いたが帰ってきた答えは思っていたものと違った。
「いや、私たちは部員ではない。もちろん以前あいつに誘われたが…断った」
「…意外ね。こんなに一緒に行動してるんだからてっきり部員なのかと思ったわ」
思ったままのことを口にする。
「まぁ認識は違えど部員のようなものだ。絵入も特に気にする様子もなくほぼ毎日ここに来るからな」
「まあ、深堀はしないけど気が向いたら理由を話してもらえると嬉しいわ。あたしもあたしで1年もいられないけどこれからもよろしくねん」
「ああ、こちらこそよろしく」
どこか寂しそうな表情をするふうちゃんをやや強引に中庭に連行することにした。
「……なくなるから」
「ん? なんか言ったかしら?」
「いや……独り言だ。気にしないでくれ」
ジワリと汗ばむ肌にセミの騒がしい鳴き声が吸収されてるんじゃないかという錯覚すら覚える。
…高校最後の夏休みももう目前である。
そんなモラトリアムを感じながら、ふうちゃんとともに中庭へとゆっくり歩いていくのだった。




