【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑯
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相撲部の部室へと到着した。
絵入さんから聞いた情報によると、ここに城戸君の所在のヒントがあるらしい。
さっそく部室の入り口を開けようとしてみた。引き戸はガタガタと音がするものの一向に開く気配がない。
全校生徒が講堂に集合しているため相撲部部員ももちろん中にはおらず、案の定というか部室の扉も開いていなかった。
「まいったな…」
相撲部の部室になんらかのヒントがあるはずなのだが、入れないことにはどうしようもない。
「そもそもだが、部室の中にヒントがあるのか?」
西園さんが尋ねてきた。
「いや、僕が勝手に部室の中だと思い込んでいただけで絵入さんから聞いたヒント自体は相撲部というワードだけだったんだ」
相撲部の誰かが知っているとかだったら正直詰みだ。今から一人ひとり聞いて回っている時間なんてない。
インカムを使って絵入さん達に聞いてみようとしたが通話不可能な状態だった。
恐らく絵入さん達の演説の時間に差し掛かって慌ただしく動いているのだろう。
「とりあえずここに当てを絞って周りを探してみるしかねえな…」
寧斗の提案に賛同し僕たちは相撲部の周囲を探索しだした。
夏の草刈りがまだ始まってないからか相撲部の部室に限らず、部室棟の周囲にこれでもかというほど雑草が生い茂っていた。
「くそっ…蚊がいるな」
同様に藪の周囲を散策していた西園さんがヤブカの集中攻撃を受けてたじろいでいた。
「西園さんだけ異様に狙われるね」
僕と寧斗には見向きもせずにヤブカは西園さんに群がっていく。
「…呑気に見ていないで追い払ってくれてもいいんだが?」
若干恨めしそうな目で蚊の集中砲火を受けながら西園さんが言う。
「博士! 今お助けします!」
そう言って美多さんがスペシウム光線の構えを取って両腕の側面から大量の虫よけスプレーを噴霧した。
「おあああああ!! 範囲を絞れよ!」
たまたま近くにいてモロに直撃した寧斗が悲鳴をあげた。
「わああ!? す、すみません!」
一瞬にしてあたりが白煙に包まれ、蚊の猛攻も止んだ。
だが、それもつかの間。風に吹かれて煙が消えるとまたどこからともなく飛んできて西園さんにまとわりついていた。
「なんて破廉恥な蚊でしょう…!」
「いや、破廉恥かどうかは知らないけど…」
憤慨する美多さんを横目に、蚊を振り払うことで体力を使い果たした西園さんがダウンしていた。
「ぜぇ…ぜぇ…ちょっと日陰で休んでくる…」
藪から緊急避難した西園さんを惜しむように蚊がその場を徘徊していた。
仕切り直して寧斗と散策していると近くの雑木林に異様に整地された場所を見つけた。
「なんかこの辺だけやたらと整地されてない?」
「確かに変だな。あっちになんか張り紙もあるぞ」
トラ模様のロープで一部仕切られた区画に「緑地整備中のため立ち入り禁止」の張り紙のある看板があった。
「管理者…立華美咲だってさ」
稽古場も含めた相撲部の部室の広い外周の一部で僕たちはやっと城戸君の手掛かりになりそうな場所を見つけた。
「その辺の不自然に囲われた低木のあたりとかなんかあるんじゃねーの?」
寧斗がツツジの低木の近くに歩み寄って周囲の草むらを足蹴に調べ始めた。
すると一部の草むらが地面ごとずれて動いた。
「見てよ寧斗、ここだけ草むらに見せかけた人工芝みたいなカーペットになってる」
そしてそのカーペットをずらすと取っ手が付いた蓋のようになっており、開け放つと地下に続く階段が現れた。
「まるでド〇クエだな…」
ちょっとわくわくしたような表情で寧斗がつぶやく。まぁ気持ちはわかる。僕も同じことを考えた。
「これはもしかするとヒントどころか城戸君本人いるんじゃないかなあ…」
階段を下りて中に歩み入ろうとした瞬間、インカムから音声が入った。
「捜索班! 聞こえる!? 状況はどう!?」
明らかに焦った様子の花ちゃんの声が届く。
「どうしたの花ちゃん!?」
「いまあんちゃんの応援演説が終わったわ。あとは本人の演説だけど、あの子リサイタルをやるつもりみたいなのよ…!」
「なんで!?」
「どこまで本気か分からないけど全校生へのメッセージを歌に乗せるとか言ってたわ」
「……」
こっちがまさかと思っても本人は至って本気だったりすることが多々ある人だから恐ろしい。
「絵入さん、時間稼ぎって役割把握してんのかなあ…」
「名前公表されてるのに覆面でやろうとしててかこちゃんもパニックよ…」
その場にいないのに講堂の騒めきが聞こえてくるかのようだ…。
「絵入さんは何を歌うつもりなの?」
「全部の曲目は分からないけど、途中で先生に止められなければ4曲歌うつもりらしいわ」
「結構歌うな…」
花ちゃん曰く、1曲目は渡辺美里さんの「MyRevolution」らしい…。
「こっちはとりあえず城戸君が囚われていそうな地下通路を発見できたんだ。確保出来次第そちらに向かうよ」
「了解、健闘を祈るわ!」
花ちゃんとの通信が終わった。
実験室コンビ二人と合流している時間すら惜しかったので寧斗とともに恐る恐る地下へと続く階段を進む。
入って少し進んだところでこちら側からかんぬきで開錠できる大きな鉄扉にたどり着いた。
と、ここで扉の向こう側から何者かのすすり泣く声が聞こえる。
「う…ううう…どうしてこんな生産性のないことをさせるんだァ…」
声を聴いて城戸君であることを確信する。
寧斗とともに鍵を開けて中に飛び込んだ。
「うっ…!」
その異様な光景に思わず寧斗と声を漏らす。
「だ、誰だ!?」
目隠しをされてロデオマシーンにまたがった城戸君がテーブルの上にあるトランプでタワーを作ろうとしていた。
「あっ…」
ロデオマシーンの不規則な揺れで手元が狂った城戸君はトランプタワーを倒壊させていた。
色々突っ込みどころ満載だが今はそんなことを聞いてる暇はない。
「城戸君! 助けに来たよ!」
ロデオマシーンの電源を切り城戸君の拘束を解く。
「き、君達は確か先日会長と一緒にいた…」
一瞬顔の腫れ具合から僕が誰だか分からないような顔をしたが、寧斗に見覚えがあったのか先日会ったことを思い出したようだ。
「か、会長は!? 選挙はどうなった!?」
「今まさに講堂で演説中なんだ。城戸君が間に合うように代打の絵入さんが時間稼ぎしてるよ」
まだ選挙が終わっていなかったことにひとまず安堵する城戸君。
絵入さんのリサイタルが終わってしまうと候補者がいないためタイムアップとなってしまう。急いで会場に向かわねばならない。




