【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑮
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そして時は動き出す…
暴動を起こした抜戸楽討ち入り特攻隊が続々と摘発され教室から退去していく。
「おい! おい抜戸! 生きてるか!?」
霞む視界の中に呼びかける寧斗の顔が見えた。
「う…ここは…」
もみくちゃになったおかげで討ち入り特攻隊女子どもに僕が発見されることはなかった。
ただ、低姿勢でいたせいもあったのだろう。
さすまたや木刀に襲われなかったものの無意識に飛んでくる肘うちや膝蹴りの餌食になり僕の顔面は金魚のランチュウみたいに変貌を遂げていた。
「顔がランチュウみたいになってるぞ」
絵入さんがまさに今自分で思っていたことを追撃のように指摘してきた。
「そうだろうね。健全な時の視界の半分も見えてないもの」
「わ、私は好きですよランチュウ。愛嬌があって…憎めないし…」
御手洗さんが良くわからないフォローを入れてくれたのが逆に切ない。
暴動が鎮静化してまもなく昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。
「結局タイムアップか…。絵入さんが生徒会長になったら僕への暴力禁止を校則に加えてもらわないとね…へ…へ…」
「いや、それがそうでもなさそうなんだ」
絵入さんがそう言ってインカムに手を伸ばす。
「みんな聞いてくれ。眼鏡君の居場所が分かったかもしれない」
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昼休みが終了し、全校生徒が選挙会場である講堂へと向かう。
絵入さんは御手洗さんとともに生徒会室へと向かい本番に向けて花ちゃんと合流したようだ。
飛び入りで立候補したため先にクイーン…立華さんが演説を行い、その次に絵入さんが演説を行う流れになったらしい。
捜索班である僕たちは、相撲部…というワードのみ絵入さんが下辺さんから受諾したのを聞いた。
幸か不幸か顔の腫れ具合を藤崎に見せたら二つ返事で保健室で休んでいい許可をもらうことに成功。
前があまり見えないことも伝えると寧斗の同伴も許してくれた。
部活棟へ向かう途中でインカムが作動する。
「抜戸さん! 私と博士もそちらに合流します! 人手が多いほうがいいですもんね?」
「助かるよ! 美多さんと西園さんは選挙参加しなくて大丈夫なの?」
一応生徒である2人に確認する。
「私たちはそういった行事への参加も免除されているんだ。まぁ免除というか資格がないといったほうが正しいが」
西園さんもインカム越しに応える。
「修学旅行とか行きたいんですけどね~」
「遠出自体が難しいからな…」
どこか寂しそうに二人でつぶやく。
「おっと、今はそんな愚痴を言ってる場合ではない。中庭で合流しようか抜戸、多見」
理由を聞く間もなく話を戻されてしまった。今度時間があるときにゆっくり聞いてみるとしよう。
「あいつらも色々大変そうだな」
寧斗も同じことを思っていたようで中庭に向かって小走りで走りながら僕に目配せしてきた。
中庭に差し掛かり西園さんと美多さんを見つけて駆け寄る。
「ずいぶん早かったね」
それもそうか。中庭は仮設科学実験室のすぐ裏手だし。
「だ、誰ですか!?」
西園さんと美多さんが不審者を見るような目で僕を警戒する。
美多さんに関しては右手の先端がパカっと開いて某横スクロールアクションの青い少年のようにこちらに照準を定めている。
「わあーっ!? 僕だ! 抜戸だ!」
「ば、抜戸さん!?」
どうしたんですかその顔、と先ほど教室で何回かやり取りした反応をまたもやされてしまう。
「じつはかくかくしかじかこれこれうまうまで…」
寧斗が概要を説明してくれた。
「そんなことがあったのか。危うくミタバスターをブッパするところだったぞ」
物騒なことを言いながらもどこか気の毒そうに見つめてくる実験室の二人。
「なんかそんな感じの金魚いますよね」
「……」
無意識だろうけど美多さんの何気ない一言に切りつけられる。
「ほらいくよっ(怒)」
ジンジンと痛む顔面と心を堪えながら相撲部の部室へと向かうのだった。
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---講堂にて
「以上、立華美咲さんの選挙演説でした」
司会進行の女子生徒が凄惨と言って差し支えない立華さんの選挙演説の終わりを告げた。
講堂に集まっている全校生徒の半数近くが絶望の淵に叩き落され啜りなく声や嗚咽が聞こえる…。
ひどい人は過呼吸になり講堂の後方入り口に敷かれた運動マットに安置させられている。
「これで6人目……」
地獄絵図とはまさにこのことを言うのだろう。なんなら自分も若干過呼吸になりつつある。
「大丈夫か華子?」
これから演説予定の杏ちゃんが無表情ながらも心配そうに私の顔を覗き込んでくれた。
「私は大丈夫だよ。ありがとう杏ちゃん」
「それでは次に絵入杏さんの応援演説者、毘沙門花道さん前のほうにどうぞ」
司会進行の声がかかり花道生徒会長が壇上に上がった。
例に倣って先に花道さんが絵入ちゃんを推薦する理由を全校生徒に向けて演説した。
さすがといったところか、自由奔放でありながらも様々なことに対してチャレンジ精神を持ち合わせた素晴らしい人物だと杏ちゃんのアピールポイントをとてもいいほうに印象付けて説明した。
裏方で聞いている私もその熱弁に聞き惚れてしまうほどだった。
このまま終われば間違いなく杏ちゃんの当選は確実だったと思う。
花道さんが壇上から降りて少し下がったところで待機の状態になり杏ちゃんが司会進行に呼び出された。
「杏ちゃん、ほんとにやるの…?」
獣神と呼ばれる有名なレスラーのマスクを一生懸命被ろうとしている杏ちゃんにダメもとで声をかける。
一向に出てこないこちらの様子に気づいた花道さんがギョッとした表情で小走りに駆け寄る。
「ちょ、ちょっと!! さっき言ってたやつマジだったの!?」
マスクをかぶり終えた杏ちゃんが頷く。
「メッセージ性が強すぎて途中で止められちゃわないかしら…」
半ばあきらめたと思われる表情で花道さんが頭を抱えている。
本来杏ちゃんが暴走したときにブレーキとなるはずだった私だが、これは失敗したといわれても弁論の余地がないだろう。
「さすがに全校生徒を前にとなると身バレが恥ずかしいからな」
そう言いながら杏ちゃんは謎のダブルピースを決めて花道さんとともに壇上へと向かっていった…。
「身バレもなにも…名前公表されてちゃってるのに…」
杏ちゃんの入場によって、先ほどまでとは違ったどよめきが講堂に波紋していく…。
「うぇえっ!? あっ、えーっと…絵入杏さんで…よろしいんですよね?」
司会進行の生徒が唐突なイレギュラーに明らかに動揺している。
名前を呼ばれたことで一瞬びくついた杏ちゃんだったが、顔の前に人差し指を立ててシーっという合図を出す。
……なんなら壇のすぐ脇にでかでかと立候補者の名前が掲示されているのでまったく意味のない匿名希望なのだが…。
杏ちゃんの後方で巻き込み事故を食らわないように花道さんができる限り顔を伏せようとしているのがわかる。
「お静かに! お静かにお願いしまーす!」
徐々にざわめきが大きくなる全校生徒に対し司会の生徒が注意喚起を促す。
やっとのことで静まってきたのを見計らって杏ちゃんが首からぶら下げたストップウォッチをピッと止めてから言った。
「皆さんが静かになるまで2分32秒かかりました」
小学校の先生の常套句を言い放って若干満足げにしている杏ちゃん。
司会の生徒のお前のせいだろ…と言いたげな表情から察するに講堂の全校生徒もほぼ同じような表情になっていることが容易に想像できた。
「わたしは人前で話すのが苦手なので…」
そう前置きをしたうえで、
「歌います」
なぜか杏ちゃんのリサイタルが始まった。




