【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑭
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---時は遡り前日の夕方。
花道生徒会長の自白が終わり…僕、城戸彰も帰り支度に取り掛かっていた。
会長のオネエ疑惑に関しては衝撃も大きかったが、それよりも自分から勇気を出して僕たち生徒会に打ち明けてくれたことが嬉しかった。
あの手の震えようを見る限り相当な勇気を振り絞ったことが容易に推測できる。
あの人を越える立派な生徒会長になれる気はしないけど、せめて不安なく卒業していけるように頑張りたいと改めて思った。
明日の生徒会選挙に向けて資料の準備が終わり、いざ生徒会室から出ようとしたところで入口のドアが向こう側から開け放たれた。
「ちょっと失礼するわよぉ」
聞き覚えのある鼻にかかるような声で話しかけられる。
同学年の立華美咲と鳥牧美歩、下辺雛子が入口を塞ぐように立ちはだかった。
「何か用だろうか?」
あまりいい用件ではないことは明確だった。こちらを見下すかのようにニヤニヤしながら立華美咲は続ける。
「単刀直入に言うわ、明日の生徒会選挙の立候補を辞退しなさい」
……何を言いだすかと思えば、脅迫だったか。
「断る。どういうつもりか知らんが他に用事がなければ帰ってくれ。明日も朝から準備等で忙しいんだ」
「ふぅん。取り付く島もないってわけねぇ。でもいいのかしら? あたしにそんな態度とっちゃって」
「……?」
そういうと立華美咲が懐からボイスレコーダーを取り出す。
再生のボタンを押すと、花道生徒会長の生徒会室での告白を漏らさずに録音した音声データだった。
「理事長の娘が盗聴とはたちが悪いな」
「言うことを聞いてくれないならそれでいいわよぉ。このデータを校内放送でみんなに聞かせてあげるだけだもの」
内容が内容なだけに無下にもできない。これまでに会長の積み上げてきた3年間が台無しにされることがあってはならない。
「……ふぅ」
選択肢なんて初めから僕にはなかったらしい。
「僕はどうすればいいんだ?」
後手に回るのはどう考えても得策ではないが、今はこうするしかないと自分に言い聞かせる他なかった。
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手始めに自筆で立候補を辞退する旨を書かされた。
隙を見てボイスレコーダーを奪おうとも考えたが、取り巻き二人がすぐそばにいる以上余計な動きもとれないまま時間だけが過ぎていく。
「……もう帰っていいか?」
とりあえずこの場を離れられれば会長に連絡は入れられる。
こんな時まで頼るのは不甲斐ないが、会長なら何とかしてくれる気がした。
けれどそんなに甘くなかった。
「ダメよぉ。念には念をっていうじゃなぁい?」
そういうと今度は自宅に電話をさせられ明日の選挙の準備という名目で先輩の家に泊まるという口裏合わせをさせられた。
普段の行いが良いのが裏目に出たのか母さんは何のためらいもなく二つ返事で了承してしまった。
「最初から素直に従えばいいのよ」
そう言って通話が終わったばかりの携帯電話を取り上げられる。
「余計なことはせずにぃ部活棟の相撲部の部室前に行きなさい」
立華美咲の命じるままに指定した場所に向かうと少し遅れて3人組がやってきた。
相撲部の部室の裏手の一部に低木に囲まれた場所があり、その一部が草を模したカーペットになっており立華美咲がめくりあげると地下に続く階段が現れた。
「学園にこんな場所があったのか…」
そのまま連行され進んでいき、独房の様な薄暗い部屋に閉じ込められた。
「美咲さん、ここは……?」
取り巻きの一人、鳥牧美歩も初めてこの場所を知ったのだろう。立華美咲に尋ねる。
「美咲さん特製のお仕置き部屋よぉ」
といって甲高い笑い声と共に外側から鍵を掛けられた。
「くそっ! こんなの監禁じゃなあないか!」
「あの、美咲さん……さすがにこれはまずいのでは」
下辺雛子と思われる声が立華美咲を引き留める。
「じゃあ雛子はあたしが生徒会長になれなかったら責任とれるのかしらぁ?」
「いや……そういうつもりでは」
少しはまともな思考回路の人がいたと思ったのも束の間、逆ギレに近い形で反論され打ち消されてしまった。
「はぁ、もう仕方ないわねぇ。あたしは優しいからチャンスをあげるわぁ」
そういうと鉄扉の下のすき間からシャーっと何かが滑り込んできた。
「なんだこれは……ドミノ?」
箱の表記には1000ピースと書いてある。
「明日の朝にもう一度来るからそれまでに完成させられればここから出してあげるし、さっきの音声データも消去してあげるわよぉ」
1000ピースか……小一時間あれば全然組み立てられる数量だ。
「ふっ、そんなことで良いのか。随分と生ぬるいな」
「ま、あたしは優しいからぁ♪」
じゃあまた明日を楽しみにしてるわねぇ、と吐き捨てて立華美咲たちは帰って行った。
お仕置き部屋の一角に携帯栄養食と常温のコーラが必要数置いてあった。
荷物を取り上げられた手前、携帯電話のアラーム機能が使えない。
時計らしきものもない為時間の感覚が分からないのだ。
「よほどの地震でも起きない限り組み立てたドミノが崩れることもないか……」
返事も貰えるはずもないのに独り言をつぶやいて早速ドミノに取り掛かる。
不幸中の幸いかお仕置き部屋は思ったより広い。
完成させてから十分に距離を置いて眠れば間違って倒してしまうこともないだろう。
フルーツ風味の携帯栄養食をもそもそと頬張りながら僕は明日の解放を目指して白黒の小さな一枚板を慎重に並べ始めた……。
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どこからともなく鳥のさえずりが聞こえる。
「……知らない天井だ」
薄明りの中、寝ぼけた瞼をこすりながらつぶやく。
ふと昨日までの記憶が蘇り、ハッとして横に目をやる。
「良かった…。無事だ…」
昨日組み立てたドミノが規律正しく順列している。
時間の感覚はいまだに良く分からないままだが、空腹状況を鑑みておそらく夜は開けたんじゃないかと推測する。
あとはあの高慢ちきな女にこの完成したドミノを見せてここから解放してもらうのを待つのみだ。
間違って触れて崩してしまわないように今一度距離を置いてから携帯食に手を伸ばす。
「うむ、チョコ味もやっぱり美味しい」
そんな暢気なことをつぶやきながらコーラが常温であることに不満を漏らす。
あとは約束の時間が来るのを待つだけ……
そう思ってほんのりカビ臭い布団に横になった時だった。
何処からともなく威勢のいい掛け声が聞こえる。
「ごっちゃんでーす!! 今日もぶつかり稽古、よろしくおねがいしあーす!!」
ずずぅ・・・・・ん!!
でちっ!でちっ!でちっ!!
「お、おぉい!! 何が起きているんだぁ!?」
地響きと共に部屋全体が揺れ、その勢いは増していく。
カタッ…! カタカタカタカタ……!
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
あろうことかその振動に堪らずあちこちのドミノが連鎖反応的に倒れだした。
「ば、馬鹿なッ!! そうであったッ!! この真上はまさかッ!!」
半ば倒れ込む形でドミノの悪魔の連鎖を止めようとする…が、間に合わない!
「相撲部の朝稽古が行われているのかぁっ!?」
同時多発的に崩壊を始めるドミノになすすべもなくうずくまる。
完全に見落としていた。
ここは相撲部の部室の真下。部室棟は部室と稽古場を兼ねているため土俵および張り手などの稽古を行う柱があるのだ。
「おのれぇ立華美咲ィッ!! 謀ったなぁあああああ!!!」
気が付けば絶叫とともに膝から崩れ落ちる僕を嘲笑う影がすぐそばでこちらを見下ろしていることに気が付く。
「あらあらあらぁ。美しいドミノが完成しているかと思って来てみれば……このざまはなんなのかしらぁ? こんなんじゃとてもじゃないけど解放するわけにはいかないわよねぇ?」
「く、くそったれええええええええええええ!!!」
肉と肉が激しくぶつかり弾けあう音の中、誰にも届くことのない城戸彰の怨嗟の絶叫が立華学園の直下に木霊するのであった……。




