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【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑩


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単独[たんどく]

定義

ただ一人または一つであること。他とは無関係に存在・行動すること。


「なんで急に意味を読み上げたの絵入さん」


何かの間違いだろうと現実逃避をしている僕たちに絵入さんが追い打ちをかけてきた。


……単独ということは他に立候補者がいないということでやはり間違いないのだろうか。


「それぞれ情報収集しつつ昼休みにまた集まりましょうか」


ここで悶々と考えていても仕方がないという結論に至った。

花ちゃんの提案に賛同し僕たちはとりあえず教室へと向かった。


 教室に入るや否や、教壇の前で高笑いとともに次期生徒会長候補と書かれたタスキをかけた立華さんが選挙活動パフォーマンスを行っていた。


「あたしがぁ、生徒会長になったらぁ特別風紀委員を設立したいと思ってま~す」


「な、なんですか特別風紀委員って」

御手洗さんが不安を煮詰めたような表情でつぶやく。

「黒板になんか書いてあるけど字が特徴的過ぎて読めないな」

……きっと恐ろしい内容に違いない。


後ろの席で頭を抱えて悩んでいる俊介に聞いてみた。

「クイーンから見て著しく風紀を乱している生徒には強制的なペナルティが課せられるルールらしい」

ちなみにその選定基準は完全なる独断と偏見によるといった恐ろしい公約付き。


 さらに恐ろしいことにすでにペナルティ候補の名簿もできているらしく、なんとなく予想はついたが絵入さんを筆頭に僕たちの名前もあったらしい。


「俊介立候補してみれば。今なら余裕で当選できるんじゃない?」

「やだよ。ただの自殺行為じゃないか」

この状況で対抗馬になろうもんならクイーンの嫌がらせを一身に受けそうなのは明白だった。

クイーンに良い印象を持つものが果たしてこの学園に何人いるのだろうか?

そんな彼女が当選した後の無秩序な学園は誰もが望みはしないだろう。

唯一の希望だった城戸君が候補にあがらない今、ほかの誰が立候補してもクイーンよりはマシだという判断に至ることだろう。


問題は当選した後のことだ、よほどのサポートがない限り生徒会長自体が大変な仕事なのにクイーンの後発的な嫌がらせのリスクも付与されると思うと誰も立候補しないのは当然の流れと言わざるを得ない。


だからといってこのまま選挙当日を迎えると、クイーンの不戦勝が確定となってしまうのも事実だ。


「そういえば生徒会の眼鏡はなんで立候補しなくなったんだ?」

絵入さんがみんなが疑問に思っていたことを尋ねた。

「なんか昨日急に代理の人が城戸の出馬取り消しに来たらしい」

「代理?」

本人じゃないところに疑問を抱いた。

「まぁ俺も聞いた話だから詳しくはわかんないけどな」


うーむ……。事件の匂いがプンプンする。

「事件の匂いがしますな……」

ありもしない口ひげをいじる様な反応をした絵入さんと思考が被った。

「花ちゃんも城戸君と何か話してるかもしれないし、お昼にまた情報共有しようか」

「そうですね」

御手洗さん、寧斗、絵入さんが頷いた。


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そして昼休み。いつもどおり仮設科学実験室にて。


「その城戸君が失踪したのよ…」

「……なんでホラー調で言ったの?」

「いやいや結構なホラーでしょ!?」

携帯のライトで自分の顔を下から照らしながら花ちゃんが言った。


花ちゃんが生徒会のメンバーに聞き込みをしたところ、先日僕たちが生徒会室で花ちゃんのカミングアウトを行った後から誰も城戸君を見ていないらしい。


「見ていないって言ってもさすがに家にはいるよね?」

そうじゃなければ失踪だ。城戸君のうちの人が騒がないはずがない。

「今朝がた体調を崩したからしばらく学校を休むっておうちの人から連絡がきたらしいわよ」

そこは安心して良さそうだけど、と花ちゃん。

「体調崩してたとしても連絡くらいはとれないのか?」

寧斗が花ちゃんに聞く。

「それが生徒会のグループロインで連絡したけど既読が付かないのよ……」

返信できないほど体調を崩しているんだろうか。それはそれで心配だ。


「今週末にはもう公開演説と選挙があるし、それまでに何とかしないと……詰みね」

詰みとは立華さんの不戦勝のことを言っているのだろう。

学園の規約上、一度決まってしまうとなかなか取り消しはできない。

ましてや理事長の娘とあらば尚更のことだろう。


「まぁなんにせよ今日の帰りに城戸君の家に挨拶がてらお見舞いに行こうとは思うけどね」

生徒会のメンバーだからというだけではなく、純粋に花ちゃんが心配してのことだろう。


「さっきから話しているそのクイーンとやらが生徒会長になるとまずいのか?」

西園さんが僕たちに聞いてきた。


「まずいっていうか、この学園が終わる」

「まずいどころの騒ぎではないではないか」

分かりやすく伝えたつもりだったが驚きを通り越して呆れる西園さん。


状況が切迫していることは伝わったようだ。

何か手伝えることがあれば協力すると実験室の二人から心強い言葉をもらえた。


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 学校の帰り道、

花ちゃんの案内のもと、城戸君の自宅へと向かうことになった。

城戸君の家は商店街とは別の方向であった為、絵入さんと僕のみが付いていくことに。


玄関のチャイムを鳴らすと城戸君のお母さんが出てくれた。

「はーい?」

「こんにちは、立華学園の花道です」

「あら花道君! こんにちは。今日はどうしたの?」

城戸君の具合を伺いに来たことをお母さんに伝えると信じられない言葉が返ってきた。

「えっ? 彰なら昨日の夕方に電話がかかってきて、選挙当日までなんだか下準備で先輩の家に泊まるって言ってたけど……」

私はてっきり花道君の所だと思ってたわ、とお母さん。


いるはずの城戸君がいなかったことに動揺しそうになった僕だが、

花ちゃんが表情を一切崩さずに城戸君のお母さんと会話を続ける。

「…ああ、そしたら書記の所かもしれません。演説の内容をまとめると話していたので」

「そうですか。花道君もしっかりしてるし、同じ生徒会の方々ならこちらとしては安心してお任せできますので」

日頃の行いから生徒会自体が十分な信頼を得ていたおかげか、城戸君のお母さんは息子の所在まで追求するようなことはしなかった。


城戸家を後にしてから僕たちは状況整理をすることに。


「花ちゃんすごいね、咄嗟にあんな返しができるなんて」

城戸君不在の事実を知った時の対応に素直に感心する。


「内心は結構動揺してたのよ? でも事実確認もできてないのに失踪しましたっていうのは早すぎるし、不安を煽ることになっちゃうと思ったのよ。でもまさか家にいないとはね……」

花ちゃんが困った表情で言う。


「でもそうすると城戸君はいったいどこに?」


「多分拉致されてるわよ、彼」


……うすうす可能性としてよぎってはいたが、実際言葉にされると穏やかではない。

推理が得意でないとしてもなんとなく犯人の目星がつく。

当の本人は何を聞かれたとしてもとぼけ切りそうな気はするが。

「絶対拉致したのあいつだろ」

絵入さんが言うあいつとはいわずもがな立華さんのことだろう。

「うーん。あたしも不思議とそのビジョンしか浮かばないわね」

「城戸君が拉致されてるとして、場所は立華さんの家とか?」

「さすがにバレた時のことを考えるとそこまでリスキーな事はしないんじゃないかしら。知りませんでしたでは済まされないでしょうしねぇ」

「確かに…」

「ただ闇雲に探し回るのは得策じゃないでしょうね。こっからは推理パートよ。明日学校で関係してそうな人物に手当たり次第聞いて回りましょう」

「関係人物って例えばだれなんだ?」

絵入さんが尋ねる。

「うーん、そうねぇ……。まずは一番怪しい立華女子、そしてその腰巾着二人ね。そして実は立華女子が単独出馬する前に何人か候補者がいたんだけど悉く辞退しているの。それらの人物に何があったのか確認を取る必要があるわね」


「は、花ちゃん? ちなみに…ちなみにだけど選挙って明日だよね?」

「ん? そうよ。明日の午後からの予定ね」

「タイムリミットってつまり…」

「明日の午前いっぱいってことになるわね……」

「……」



……きっつ。


…絶望的な状況のまま時間だけが過ぎていくのだった。

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