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【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑦


-----------------------------


---週が明けて月曜日。


 男臭い僕の部屋で三人で朝食をすます。


「はちみつ塗ったトーストってなんでこんなに美味しいのかしらね」


コーヒーを嗜みながら花ちゃんが満足げに焼き立てのハニートーストを堪能する。


「はちみつもいいけどスライスチーズのっけて焼くのもうまいぞ」


寧斗が僕んちの冷蔵庫を勝手に漁って見つけたスライスチーズを乗っけて焼いたトーストをこれまた満足げに頬張る。


「君たち二人が来てから僕んちの食糧事情悲惨なことになってるの知ってた?」


「……」


急に無言になる二人。


「いやいや、なんか言いなよ」


「これでも遠慮してるって言ったらどうする……?」

寧斗がわけのわからない開き直りをした。


「昨日晩飯だけで飽き足らずチャルメラ2袋食った人物とは思えない発言だね。ってか音糸もいつの間にか居候みたいになってるし」


 口論を繰り広げてるうちにだんだん時間がやばくなってきたので僕もササっと朝食を済ませ3人で家を飛び出した。

花ちゃんは仕方がないとして寧斗のとこは今日おばあちゃんたちが温泉旅行から帰ってくるので居候も終了となる。

なんだかんだ言ったものの、この週末は二人がいたのでだいぶにぎやかで楽しかった。……時々騒ぎすぎて近所から苦情が来るんじゃないかとひやひやもした。


「明日から寧斗ちゃんいなくなっちゃうんだと桃鉄もできなくなっちゃうじゃない。寂しくなるわね」


「時々スーファミ持ってまた遊びに行くからよ」

思えば休みの夜はほとんど桃鉄をやってた記憶しかない。


「君たちは家主をもう少し接待した方がいいと思うよ。それに次やるときはもっと声押さえてくれるかな?」


「一番騒いでたの楽だろ。最下位になるたびに悶えてたじゃねーか」


「……」

確かにやりだしてみると熱中してしまい負けるたびに悶絶していた気がしなくもなくもなくもない。


朝からそんな桃鉄トークに花を咲かせているうちに学校についた。


「それじゃあ不本意だけど通常モードに戻るから」


花ちゃんがそう言って普段の生徒会長の顔つきに切り替えた。


「おお……すげーな、まるでさっきとは別人の顔つきだ」

寧斗が素直に花ちゃんの切り替え様に驚いていた。


昇降口を抜けて三人で廊下を進んでいく……そこである異変に気付いた。


「なんというか……」


一番注目を浴びている花ちゃんが口を開いた。


「異様に見られているな」


……あまりいい視線ではない。なんとなく僕と寧斗もそれに気づく。

少なくともいつもの立華学園の生徒会長に向けられる黄色い視線とは異なるものだ。


 たまたま近くを通った生徒会のメンバーがいたので花ちゃんは挨拶をする。

しかし会長と認識するや返事はするものの気まずそうにすぐさま足早に去って行ってしまった。


「僕なんかしたかな?」


「「知らん」」


 張り付いた笑顔のまま心当たりのない花ちゃんが僕たちに問いかける。

しかし僕たちも心当たりがないため知らないとしか言いようがなかった。


……が、

案外答え合わせはすぐに行われた。


「うおっ! なんじゃこりゃ!?」

最初に それ に気づいたのは寧斗だった。


 廊下の突き当りを曲がるとものすごい量の張り紙が辺り一面に掲示されていた。


”変態おかま生徒会長”一番目に付くワードがそれだった。


粗雑にプリントアウトした写真とともに出所のわからないゴシップが学園中に貼られていたのだった。


「これあたしがカナブンに襲われた日の写真じゃないのよ!」

動揺のせいか口調がオネエになっている花ちゃん。

そういえば襲撃後はビビッてずっと内股になってたかもしれないわ、と少しずれた反省をしている。


「いやいやそれにしても悪質すぎでしょ! あることないことめちゃくちゃに書かれてるよ」

今日が休み明け初日だし掲載されて間もないだろうに……噂の広まる速さとは恐ろしい。


「年下の男子生徒をパクリッ! 男子諸君ご用心! だってよ!」

寧斗がゴシップの一つを指さしてゲラゲラ笑っている。


「……って、わあああぁ! これ僕んちじゃないか!」

目元に黒いラインが入っているが生徒会長と僕がカナブン襲撃の後にうちのアパートに入っていくところをパパラッチされてしまっていた……。


……不幸中の幸いか、遠くからスマホで撮ったようでえらくピンボケしていて相手が僕だってことは分からなさそうだ。九死に一生というやつだ、危ない危ない。


その時廊下から噂をしながら女子二人が通りがかった。


「写真に写ってる相手は二年生の抜戸って人らしいよ」


「「……」」


寧斗と花ちゃんが心底気の毒そうな顔で僕を見て口を噤んでいた。


僕の穏やかな学園生活が終わりを告げる音が聞こえたような気がした……。



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ぺちゃころ……ぺちゃころ……


 先ほどから棒付きキャンディーを舐めて意識をそちらに集中させている。

……気を抜くと誰かの視線や噂にメンタルが崩壊してしまいそうだからだ。


机に両足をのっけて話しかけるなオーラ全開でいるが、目に見えるものすべてがなんとなくセピア色に染まっている。


「おぅおぅ、わかりやすく自暴自棄になってるなぁ」

寧斗が購買から総菜パンを買ってきてくれた。


「まあ一躍有名人だもんな……悪い意味で」


「……」

ぺちゃころ……ぺちゃころ……


 無言で総菜パンに手を伸ばしたところで俊介が声をかけてきた。


「抜戸、ちょっといいか? ……また生徒会長ファンクラブの人が抜戸に話があるってさ」


「……ちぃっ!!」

あからさまな舌打ちをする。


 休み時間ごとに花ちゃんのファンクラブの人が僕のクラスを訪れてきて罵詈雑言をぶつけてきているのだ。

彼女たちにとって花ちゃんのゴシップはあまりにも信じがたく、僕が花ちゃんの弱みを握った変態だとして都合よく誤変換されてしまったようなのだ。


 今回は呼び出し場所が指定してあり人気のない渡り廊下に呼び出された……。


「本当に迷惑です。会長をたぶらかすのをやめてもらえませんか!?」


これで何度目だろう。僕の弁明もないままに一方的に怒りをぶつけられるのは。

「あのねぇ……! 君が誰だか知らないけど失礼じゃない? 僕まだ弁明もなにもしちゃいないってぇのに……」


「ごまかさないでください! この…淫乱ネゴシエーター!!」


聞いちゃいねぇ。


だんだんこのやり取りに慣れてきてしまっている自分がいる。


 無鉄砲暴言ガールズを適当にあしらって教室に戻ると絵入さんが珍しく嬉しそうな表情で僕の元へやってきた。


「見ろ楽! オニヤンマだ! ベランダで捕まえたんだ!」


「つおぁっ!? 危なぁっ!! 近いよ! だいぶ近い!」

あと数ミリほどでその強靭な顎で噛みつかれるんじゃないかという近さまで巨大昆虫を近づけてくる絵入さん。


「しっかり捕まえてるから大丈夫だぞ」


「いやいやそういう問題じゃなくて」

不用意に昆虫を近づけないでくれと絵入さんに忠告する。


「わかった。まぁこいつも観念してるしそうそう噛んだりは……」


……がぶちゅ。


不意にオニヤンマの頭がすごい角度で回旋して絵入さんの親指に嚙みついた。

よほど痛かったのかその場に悶絶してしゃがみ込む絵入さん。


「いわんこっちゃない……」


「だ、大丈夫だ。ナウシカもキツネリスと和解するのに一度噛まれていたからな……」


絵入さんが噛みつかれた驚きで手放したオニヤンマはすでにどっかへ逃走していた。


「……キツネリスにはなれなかったみたいだけど」


所詮昆虫か、とうっすら涙目で絵入さんが捨て台詞を吐く。


 そんな中、僕たち二人のやり取りを見ていた御手洗さんが周囲をきょろきょろと見つつ歩み寄ってきた。


「だ、大丈夫ですか? 抜戸さん」


御手洗さんが言う大丈夫とは会長との密談の件だろう。


「熱狂的なファンクラブの人たちが聞く耳を持たな過ぎて困ってる」


「さっき廊下でそのファンクラブの人たちが抜戸さんを電気柵で囲うか落とし穴に落とすかの多数決をとっていたので……なんだか心配で」


あいつら僕を猪かなんかと勘違いしてるのか?


 花ちゃんに誤解を解いてもらいたいけどオネエの方に関しては事実だからややこしい。

どうしたものかと迷っていると噂の中心人物である花ちゃんが教室にやってきた。


「抜戸君、多見君……ちょっといいかな?」


教室内のひそひそ声が一層強まった気がしたが……気のせいではないだろう。

寧斗も僕と花ちゃんのもとに集まり、普段通りの様子で応対した。


「どうした花ちゃん?」

寧斗が頼もしくもどっかりと構えて聞く。


「いささか面倒な問題が発生した。相談に乗ってほしいんだが……」


「とりあえずここだと落ち着いて話せないから移動しようか」

後ろからいきなり竹やりとかで突かれそうな気配を感じた僕はやじ馬たちからそそくさと退散し花ちゃんを引き連れ仮設科学実験室へと避難した。





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