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【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑥


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「はっはっは! うちにも跡継ぎ予定の息子がいるんだが、姉達の影響もあってなよなよしておってなあ!」


 道場までの道を歩きながら花ちゃんパパがそんなことを話しだした。

……というか花ちゃんにお姉ちゃんがいたのも初めて知った。


「(お、おいどうすんだよ! これ見学だけじゃなくて入会させられる流れだぞ!)」


「……」


 花ちゃんパパの剣道とはなんたるやの説明も徐々に力が入ってきており、心の準備もできないまま僕と寧斗は確実に入会への階段を駆け上っていた。


 逃げられない状況に若干諦めを感じつつ俯き加減で道場まで歩いていると向かい側からすれ違いざまに誰かが声をかけてきた。


「あれ?どうしたのその人たち?新しい門下生?」


 落ち込んでいる気持ちを晴らすかのような美声に思わず寧斗と二人で顔を上げる。

絶世の美女といっても過言でない二人の女性がそこにいた。


江十夏(えとか)瀬十夏(せとか)、行儀が悪いぞ。門下生に見られたらどうする」

花ちゃんパパが廊下でアイスを舐めながら歩く美女二人に言った。


「あ、あの……こちらの綺麗な女性方は?」

「ああ、先ほど話していた姉二人だ」


……姉達、超絶美人。


「ビビった……芸能人かなんかだと思ったぞ」

寧斗が生まれて初めて見るレベルの美人に赤面している。……まぁ僕もだが。


 江十夏と呼ばれた方のお姉さんは艶のある黒髪で落ち着いた雰囲気を纏っていて、瀬十夏と呼ばれたお姉さんは対照的に綺麗な茶髪のアイドルの様な雰囲気だ。


「二人とも大学に行ってるが休みの日なんぞは道場の方の手伝いをしてもらっている」

こんな美人に会えるならば……と一瞬入会が頭をよぎる。


「花道と同じくらいじゃない? 入門するなら瀬十夏さん特製スポーツドリンクを振舞ってあげるよ」


え……どうしよう。ほんとに入門しようかな。


「せっちゃん、そういってこないだ疲労回復がうんぬんいってとんでもない量のお酢ドバドバ入れてたよね」

江十夏お姉さんのほうがくすくす思い出し笑いをしている。


「ほれ、こんなとこで油売ってないで休憩時間の給水準備してきてくれんか」


花ちゃんパパに促されて美人姉二人は本宅の方へ行ってしまった。

そして僕たちは花ちゃんパパにつれられるままに道場へとたどり着いてしまった。


竹刀のぶつかる音と鬼気迫るような掛け声が聞こえる。


「よーし、いったん休憩だ! 水分補給してくれ!」


花ちゃんパパの掛け声に門下生たちが打ち込みをやめてこちらに集まり始めた。

激しい稽古だったのだろう、皆一様に息を切らしており熱気がこちらまで伝わってくる。


 少し遅れて江十夏さんと瀬十夏さんが大きなジャグをもってやってきた。

暑苦しい熱気がこもった道場に心なしかフローラルな香りが吹き込み中和してくれている気がした。


「師範、その二人は?」

門下生の一人が僕たち二人を気にして花ちゃんパパに尋ねる。


「さきほど会ったばっかりなんだが、入会希望者だ」

いつの間にか見学から入会にハードルが上がっていたが、言い出せる雰囲気でなかったため寧斗とともに軽く会釈する。


 門下生たちが僕ら二人を見ていたが、明らか寧斗と僕へのそれぞれへの視線の期待度合いが違う……。

日々筋トレと喧嘩慣れで体格のいい寧斗と比較し、一般的な高校生の体格の僕は自分で言うのも切ないがショボく見えるのだろう。


  何か運動でもやってたのか?などの質問が飛び出したがなぜか僕には飛んでこなかった。


……なんだろうこの居心地の悪さは。


そんな僕の様子に気づいたのかわからないが美人姉二人がそそそっとこちらに寄ってきた。


「ね、ね。大丈夫? 置物みたいになってるけど」

瀬十夏さんが気にかけてくれたように聞いてきた。

思いのほか距離が近くて心臓がスタンピード。そして……めっちゃいい匂いがする!!


「た、多分戦力として見られてないんですよ僕は」


もう一人の子ガタイいいもんね~と瀬十夏さんが慰めるようなからかうような表情で言った。


「まぁまぁ、せっちゃん特製はちみつレモンでも食べて元気を出しなよ少年♪」


「せっちゃ~ん、それ作ったのあたしなんだけどなあ」


江十夏さんと瀬十夏さんが両サイドで僕を間に挟んで戯れている。

あ、あれ? 一転して極楽浄土になってきた……。


 門下生たちに興味を持たれなかったおかげでお姉さま方二人に構ってもらえて役得だった。

その様子をものすごい殺気のこもった目で見てくる門下生の存在も多々感じられたが……。


そんなことをしていると道場の足元にある通気窓付近から声をかけられた。


「ちょっと! あんたら何してんのよ!」

花ちゃんが通気窓の格子の隙間越しに見える。


「実はかくかくしかじかで……」

「急にいなくなった理由はそういうことだったのね」

花ちゃんパパに連行された下りを伝えると気の毒そうな表情で納得してくれた。


「あ、花ちゃん。やほー」


「せっちゃん、ちょっと悪いんだけど今来た二人連れて帰るから父さんたちの気をうまく逸らしてくれる?」


「ん。事情は分からんが承った」


 二つ返事で江十夏さんと瀬十夏さんが協力してくれることに。


江十夏さんが門下生に囲まれて身動きが取れなくなっている寧斗に近寄っていくと、女神が降臨したかのように門下生は道を開けた。


「まるでモーセの十戒ね……」と花ちゃんが笑うのを堪えている様子だった。


江十夏さんは寧斗が抜け出せるようトイレに行きたいと進言するように耳打ちしてくれた。

僕もそのタイミングで道場から離れることに成功。


 道場の外で僕と寧斗は無事に花ちゃんと合流することに成功。

事後で江十夏さんと瀬十夏さんに僕たち二人はおなかの調子が悪くなったから今日は帰ったと花ちゃんパパに伝えてもらい毘沙門家を後にしたのだった。


-----------------------------


---帰り道にて。


「あなたたち危うく入門させられるところだったわね……」


「いろいろとタイミングの悪いことが重なっちゃって……」

僕と寧斗の弁明に仕方がなかったと花ちゃんは励ましてくれた。


「まあ、あのとおり剣道一筋の父親だからなんとしてでもあたしにもっと男らしくしてほしいみたいなのよね」

どこか遠い目をしながら花ちゃんが話し出した。

「剣道自体は嫌いじゃないのよ。精神統一……っていうの? 心が研ぎ澄まされる感覚はなんだか気分がいいし」


 でも普段の言葉遣いとか頭ごなしに注意とかされちゃうとすぐ衝突しちゃうのよねぇ……と面倒くさそうに話す花ちゃん。


ふと気になったことを聞いてみる。

「そもそも花ちゃんがフェミニンな感じになったのってなんかエピソードあるの?」


「まあ……確実に姉二人の影響ね。三人とも物凄く仲が良くて、ある程度大きくなっても一緒におままごととかお洋服遊びとかしてたから」

まぁもちろん喧嘩もするんだけどね、と付け加えるがどこか楽しそうな花ちゃん。


僕も同じ境遇だったらと考えると分からなくもない。


「結果オーライかもしんねぇけど俺たちにバレてよかったじゃんか。素でいれるのって楽だしな」


「あらやだぁ、キュンと来ちゃうじゃないの~寧斗ちゃん♪」

冗談めいた表情で花ちゃんが寧斗を茶化す。


「茶化すなよ!」

寒気が走ったようなリアクションとともに寧斗が取り繕う。


「普段からお世話になってる生徒会のメンバーにも、本当は打ち明けたいとは思ってるけどなかなか一歩踏み出せないのよねぇ」

ため息とともにうなだれながら話す花ちゃん。いろいろと葛藤があるようだ。


「徐々にでいいんじゃないの?」

勇気のいることだし、焦らなくてもいいんじゃないかと僕は思う。

「そんなこんなしてるうちに卒業しちゃうのよ、きっと」


そんな他愛もない会話をしながらすっかり夕暮れ時になった帰路を三人で歩いた。





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……時は少し遡る。


 美咲さんに呼び出されて普段一緒の鳥牧未歩(とりまきみほ)とともに学校近くの喫茶店に来ていた。


「ちょっとぉ聞いてよぉ未歩、雛子ぉ~」


甘ったるい猫なで声で美咲ちゃんが私たちに話しかける。


「こないだ塾の帰りにさあ、うちの生徒会長を見かけたから後をつけてみたらさぁとんでもないもの見つけちゃってぇ!」


「え! ……なんですか美咲さん?」


内心ではストーカーみたいなことしてるなぁと思ったけど口が裂けてもそんなことは言えない。


「あの人さぁ公園で野宿してるんだよ? やばくなぁい?」


「ええっ!!? そうなんですか?」


 何かの見間違いじゃないだろうか。会長のファンクラブの一員である私は、あの花道生徒会長に限ってそんなはずがないと驚きながら聞き返す。


「まじまじ。そしてさぁ、それだけじゃなくってぇあいつオネェだったんだけど!」


「別の人とかっていう可能性はないんですか?」


「ないない。自白してたもん。なぜかうちのクラスの冴えない系男子もいたんだけど」


その冴えない系男子とは恐らく抜戸君のことだろう。

転校してきてから結構経つけど、興味がないのか美咲さんは一向に彼の名前を覚えようとしない。


「あたしさぁ持ってるよねぇ、とんでもない弱み握っちゃったんじゃね~?」

「美咲さんどうするんですか?」


 未歩が聞かなくてもわかりきっているようなことを尋ねる。

これまでに絵入さんに執拗な嫌がらせをしてきたけど、絵入さんの周りに強力な変人が増えてからちょっかいを出しても不運にも返り討ちや罰が当たったとしか言いようがない痛い目ばかり見てきた美咲ちゃん。

 流石に少しは凝りておとなしくなるかなぁと思っていたがまだ懲りていないようだった。


以前に比べると明らかに絵入さんにちょっかいを出さなくなった……いや、出せなくなったこともあり別のいじめの対象を探していたのかもしれない。

「ちょっとでも評判を下げといた方が来年のあたしの次期生徒会長の期待値もぉ上がっちゃうんじゃないかしらぁ?」



そういいながら、極悪極まりない表情で美咲ちゃんは悪だくみをしていた。



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