【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす⑤
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(幕間)
---絵入家の茶の間にて
「絵入さん……ちょっとは落ち着いたらどうでしょうか?」
何度目かわからない廊下の雑巾がけをしようとして道代にストップをかけられる。
「気のせいか廊下も拭きすぎてえぐれてきてるような感じすらしますし……」
「む……」
「その格好もどうかと……」
確かに言われていることは分かるが何かしていないと落ち着かない。
台所に麦茶を飲みに行こうとしたところで玄関から聞きなれた複数の声が聞こえた。
「絵入ちゃーん、きたよー」
「い、いまいく!」
気持ちを抑えられずに玄関に急行する。
玄関で大きめの荷物を持った御手洗、西園、美多の三人が立っていた。
「なんで甲冑着とるんだお前は……」
西園が少し呆れたような表情で私の恰好につっこみをいれた。
「おもてなしの心が強く出過ぎた」
「あはは、なんかいろいろ間違ってますよそれ!」
美多がその様子を見て笑っていた。
楽の様子を見ていたら楽しそうだったので華子たちに連絡してみたら二つ返事でうちでお泊り会をすることが決まった。
「絵入ちゃんなんか廊下すごいピカピカなんだけどどうしたの?」
「みんなが来ると思って拭きだしたら止まらなくなった」
「そうだったんだ。ありがとう」
照れているのを気づかれたくなくて顔を伏せたが途中で自分が甲冑を着ていたから意味のないことに気づく。
動きづらいので甲冑を脱いでいると茶の間から道代が機械音を立てながら来客を出迎えた。
「皆さんようこそお越しくださいました」
さあさあどうぞと補助アームで人数分のスリッパを配る道代。
道代を見ていた西園がどこか一瞬懐かしそうな表情をした気がした。
「どうかしたのか?」
「ん? いや……なんでもない。かなり高性能なアンドロイドだなって思っただけだ」
「道代さんはすごいんですよ。全自動で調理もできますし」
御手洗がまるで自分のことのように自慢げにそう話していて私まで少しうれしい気持ちになる。
「いやぁ……恐縮です」
「むむむ……! 同じアンドロイドとして私も負けてられませんね!」
美多が謎の対抗心を燃やしていた。
それぞれ夕食は済ませていたため夏らしいことをしようということで手持ち花火の買い出しに行くことにした。
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(抜戸家)
「これさあ…借金どうにかなんないの?」
「帳消しにしてくれる効果のカードがあるぞ」
情けない声を出す僕に普段から桃鉄をやりこんでる寧斗が教えてくれる。
「カードも大事だけどあんたはやくその貧乏神を何とかした方がいいんじゃない?」
僕の電車の後ろにいる憎たらしい笑みを浮かべてどこまでもついてくるお邪魔キャラを花ちゃんが指摘する。
「君たち二人がなすりつけさせてくれないからじゃん。さっきからサイコロ増えるカードばかり買い占めてさあ……」
いやいやそういうゲームだから、と声をそろえて嘲笑う二人。
ふと時間を確認するとすでに日付が変わっていた。
「だいぶやってたわね。目も疲れてきたしそろそろ終わりにしない?」
「そうだな……いったん終わるか」
ゲームの電源を落としてそれぞれ床に寝転がる。
僕も貧乏神の呪縛から解放されて気分が少し晴れたような気がした。
ぐぐぅ~っと、同時に三人のおなかが鳴る。
「なんか腹減って来たな」
「大量の大根おろしならあるけど……」
消費したい気持ちもあったので寧斗に提案してみた。
「大根おろしの気分とはちょっと違うかなあ」
が、どうも気分ではないらしかった。
三人で絵入さんの持ってきた大鍋を見てしばし沈黙する……。
「あたしいいこと思いついたかも」
ふと花ちゃんが何かひらめいた様子。
「聞こうじゃないか」
「お蕎麦のカップ麺買って大根おろし乗っけるのはどうかしら?」
「おいおい……天才かよ」
僕たち三人は財布をもって家を飛びだした。
「夜中に食べるのってあんまり美容的に良くないんだけど、大根おろしがあるなら仕方ないわよね」
「理屈はよくわからないけど、僕たち二人が食べてる横で絶対我慢できないでしょ花ちゃん」
生徒会の仕事よりも難題よそれ、と花ちゃんがひときわ真面目な表情で断言する。
最寄りのコンビニでカップそばを買って早々と帰宅する。
カップそばに対して大根おろしが明らかにインフレを起こしていたけど冷房の効いた部屋で啜る温かいそばは五臓六腑に染み渡るほど美味しかった。
「花ちゃんはこれからどうすんの? しばらくはうちに泊まってもらって構わないけど……」
そばを食べ終えて花ちゃんに今後の予定を聞いてみた。
「楽ちゃんにも迷惑がかかるしこのままではいられないわね。とりあえず明日着替えとかを取りにうちに帰ってみようと思うの」
例のお父さんがどんな感じの人なのかはわからないが花ちゃんの話の印象だとかなり厳しいひとのイメージが構築される。
「寧斗明日は暇?」
「特に予定はないな、ばっちゃ達も週明けまで帰ってこないし」
「じゃあ僕たちも散歩がてらついていってもいい?」
花ちゃんにそう提案した。
「あらいいの? 正直一人じゃ足取りが重かったからむしろ大歓迎よ」
そんな流れで花ちゃんちに行くことになった。
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そして翌日。
「え、なにこれ城?」
花ちゃんに紹介されてたどり着いたところはだいぶ敷地が広そうなお屋敷だった。
呆気にとられつつも門の横にあった表札に毘沙門と書いてあることに気が付く。
……この大きな門の名前だろうか。毘沙門という割には猛々しさは控えめなような……。
「……一応確認だけど、花道って名字の方だよね?」
「あらぁ? 花道は下の名前よ。毘沙門が名字。かなり珍しいけどね」
「……まじか」
周りのみんなの呼び方が花道生徒会長一択だったからてっきり名字の方だとばかり思っていた……。
……絶対僕以外にも勘違いしてる人いるだろこれ。
「え、寧斗知ってた?」
「知ってるも何も、体育館の横断幕に書いてあるだろ」
あの剣道の、という寧斗の発言を聞いて記憶に新しい横断幕を思い出した。
「あぁ! あったわ! 全国大会出場のやつ!」
「まぁ、毎回優勝までは行かないんだけどねぇ」
父は剣道界隈では名のある人物なのよ、と花ちゃんがどこか遠い目をしながら言う。
花ちゃん曰く、実家である毘沙門家は剣道場も兼ねており離れにある道場では毎日多くの生徒が己の剣術を磨きに切磋琢磨しているそうだ。
なるほど、さっきから敷地の奥からけたたましい掛け声とともに竹刀の激しく当たる音が聞こえてくるのがまさにそれか。
「門前で待ってると目立し、せっかくだから中に入っていったら?」
父親に出くわさないように道場の方とは反対側に位置する実家のほうへこそこそと入っていく花ちゃん。そんな花ちゃんの誘いに僕たち二人もこそこそと毘沙門家へと足を踏み入れた。
広い日本庭園を抜け道場を横目に毘沙門家本宅の方へ向かう。
がらがらと玄関を開け小さな声で花ちゃんがお母さんを呼ぶ。
「(かーさーん!!)」
はいはーいとどこか間の抜けた声で家の奥から着物を着た女性がぱたぱたと歩いてきた。
「あら花道、着替え?」
花ちゃんが来て驚かないところを見るにどうやらお母さんは家出の事情を知っているようだった。
「そのお二人はお友達かしら?」
僕たち二人に気づいたお母さんが柔らかな表情で会釈する。
それに応えるように僕と寧斗も会釈する。
「父さんは?」
「今は門下生に指導してるところよ。すぐにはこっちに来ないと思うから今のうちに着替えを取ってきちゃいなさい」
こくりと頷いて僕たちにここで待機するように花ちゃんが言う。
花ちゃんが家の中にお母さんと入っていってすぐあとくらいに背後からやけに重々しい声が僕たちに降りかかった。
「なんだ貴様らは?」
恐る恐る振り返ると頭一つ分ほど僕たちより大きい熊のような大男がそこに立って僕たちを見据えていた。
「……」
お、おかあさああぁん!!
すぐにこっちに来ちゃってるんですけど!?
予測していなかった緊急事態にを脳みそをフル回転させて考える。
花ちゃんの友達だとバレれば本人が来ていることが気づかれてしまう……。
……かといってこのままだんまりでやり過ごせそうな相手でもない。
なんとかしてお父さんをこの場から遠ざけねばならない。
「あ、あのぉ……ぼ、僕たち剣道に興味があってでしゅね……」
咄嗟に苦し紛れの嘘をついてしまう。(しかも噛んだ)
「むむっ……! そうかそうか!」
冬眠明けの熊のように険しかった表情が一変して嬉しそうに笑う花ちゃんパパ。
「(お、おい! 俺剣道に興味ないぞ!)」
「(いいから! 今だけちょっと合わせてくれ……)」
そしてそのまま道場に連行されるのであった……。




