【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす④
-----------------------------
インターホンの死角に入ろうとしているのかデンプシーロールみたいな動きをしつつドアの前に立つ絵入さん。
「なぜ私だと分かった」
「いやさっきからやってるそれ全然死角に入ってないから」
恥じらうようなちょっとがっかりしたような表情を浮かべる絵入さん。
「で、何の用?」
用件だけ聞いてさっさと追っ払っちまおう。
今家の中に入ってこられるのはいろいろとまずい。
「道代が大根おろし作りすぎたからおすそ分けしに来た」
「……大根おろし作りすぎる状況ってあんまなくない?」
しかも手に持ってるのめっちゃでかい寸胴鍋だし。
「そしてなんでミトン付けてるの? 大根おろしでしょそれ?」
「ん? 冷めないようにと思って」
だめだ。そもそも会話が成り立たない。
「重たいから早く開けてくれないか」
「……」
選択肢を間違えるなよ……。自分にそう言い聞かせて深呼吸する。
扉を開けて受け取るだけで絵入さんは退散するだろうか? いや……しない(反語表現)
「あ、あのね絵入さん。僕としては非常に心苦しいんだけど大根おろしは鍋ごと玄関の前に置いといてもらえるかな?」
「なぜだ」
「今ちょっと立て込んでてさ、鍋はまた別の日に洗って自宅まで届けさせてもらうから……ね?」
しばらくの沈黙ののちに「わかった」という返事とともに玄関の前にドサッと鍋が置かれる音が聞こえた。
ドアの前から人の気配がしなくなったのを確認してから周りを見渡しつつゆっくり外に出た。
「よっしゃ、あの宇宙人め。立ち去ったか」
しかし先ほど確かに置かれた音もしたのにブツがない。
「あれ?」
ほぼほぼ一軒分隣の少し離れたところに鍋が置かれているのを発見。
なんでわざわざあんな遠くに……。
一応通路上に絵入さんがいないことを再度確認したうえで鍋を回収し家の中に入る。
「ってうわぁ!! なんでいるの!?」
玄関上がってすぐのところで絵入さんが仁王立ちしていた。
「ふっふっふ。甘いな明智君」
「だれが明智君だ」
驚いて大根おろし玄関にぶちまけるところだった。
「っていうか普通に不法住居侵入だからね?」
「いやわたしはちゃんと許可をとったぞ」
「いや、現に僕が許可してないから」
「玄関でお邪魔しますって言ったら風呂場の方からは~いって返事がしたぞ」
……まじであの人何考えてんだろうか。
ちなみに後々絵入さんにそもそも見渡してどこにもいなかったのにどこから現れたのか聞いてみたところ2階のスロープの向こう側にぶら下がっていたらしい。(※危険だから絶対にマネしないでね)
「落っこちたらどうすんだよ! 事故物件になっちゃうからやめてくれ!」
と、ここで絵入さんがおかしな点に気づいてしまう。
「でも楽は外にいたのになんで風呂場から返事が……」
一気に変な汗が噴き出す。
「えーっと、あれだ……そう! うちにもいるんだよ道代さんみたいなアンドロイドが!」
我ながら苦しい噓だった。
「えっ、そうなのか……今度道代と戦ってもらえるか聞いてみる!」
「わあああああ! ちょっと待ったああ!」
風呂場に駆けだそうとする絵入さんをすかさず引き留める。
「あ、こら! すけべ!」
「ばっ! 違うんだ!」
絵入さんの反応にまずい部位でも触ってしまったのかと思って咄嗟に手を放す。
「ばかめっ、楽が触れたのは服のすそだ」
そして絵入さんは勢いのまま風呂場のドアをあけ放ち意気揚々と叫んだ。
「ごようだごようだー」
「ひっ! おたすけえぇえぇえええええ!!」
「うわぁぁぁ! 誰だお前!?」
僕の家のお風呂場に気の抜けた絶叫が鳴り響いた。
-----------------------------
「あのさぁ……まずとんでもなく近所迷惑だからね」
この二人のせいで僕はアパートを追い出されてしまうかもしれない。
混乱する絵入さんには事の流れを説明した。
……言い逃れできそうにもなかったので花ちゃんの真実についても本人の確認を取ったうえで言及する。
「なんだ、こいつ生徒会長なのか」
「うふふ、あたしったら…こんな短時間で本性を暴かれるなんてね……」
いままでバレなかったことのほうが奇跡なんじゃないだろうかとすら思う。
「ていうか絵入さんも知ってるでしょ。全校集会で見たんだから」
「いや、半分寝てたから知らん」
「えぇ……」
ていうか絵入さんも絵入さんで先輩にも初対面でタメ口聞く精神力は正直すごいなと思った。
「泊めてやればいいじゃん」
「いや君……簡単に言うけども」
別に彼女とかがいるわけでもないし家族が頻繁に遊びに来るわけでもない。
「はぁ……ま、いいか。花ちゃんには納涼祭でお世話になったし」
「え、ほんとに?」
きらりと光る目で嬉しそうに確認する花ちゃん。
「いいけど僕んち来客用の布団とかないから寝具は自分で何とかしてね」
「もちろん! あの重低音クリーチャービートルだらけの公園じゃなければどこだって天国よ」
花ちゃんが嬉しそうに寝袋を指さして答えた。
「ついでに寧斗にも来るように伝えといた」
「なんで!?」
ドヤ顔でスマホを操作し終えた絵入さんが信じられないことをさらりと言う。
「君は僕の家をいったい何だと思ってるんだ」
「秘密基地的な」
「……」
まぁ冷静に考えてみれば寧斗のとこはおばあちゃんと幼い兄弟もいるからうちに泊まれる余裕なんてないと思うけど。
-----------------------------
「スーファミ持ってきたからオールナイト桃鉄やろうぜ」
およそ10分後に少年のようなキラキラした目で寧斗がうちにやってきた。
「え? いやいや困る。健斗くんと恵斗ちゃんは?」
ばっちり泊まる勢いで寧斗が来たもんだから思い描いた展開と違う。
「ああ、ばっちゃが温泉旅行で二人とも連れて数日いないんだよ。俺は停学の影響で単位やばいから家で勉強してろって言われて連れてってもらえなかった」
「じゃあ家で勉強しなきゃあじゃんよぉ……!」
「絵入から連絡が来たときはマジで飛び跳ねて喜んだね」
がっくりと肩を落としたかと思ったらにかっと笑って言った。
「……」
招致したのは僕ではないが、こんなに喜んでいる人に来て早々帰れとはとてもじゃないが言い出せそうになかった。
「そういえばなんで生徒会長がいるんだ?」
一応目配せして花ちゃんに確認を取る。
一人だけ秘密にもできないでしょう、と目線で答えていた。
「じつはかくかくしかじかで」
「お前は本当に多種多様なイベントに巻き込まれるな」
寧斗がしみじみした顔で言う。
「他人事だと思って……」
「まあまあいいじゃねーか! 会長よろしくな」
「紹介のとおりこんなだけどよろしくね。まぁすぐ慣れるわよ」
寧斗も普通に初見でタメ口だったため自分の感覚がおかしいのかなという錯覚すら覚える。
無機質だったはずのワンルームのアパートはすでに男臭くなり始めている。(家主の感覚的に)
「花ちゃんにも言ったんだけど自分の寝具は自分で確保してね」
「大丈夫。そこのソファ使わせてもらえれば」
「僕こう見えて繊細だから自分のベッドと枕じゃないと熟睡できないんだ。日替わりで場所の変更とかもしないからね」
細かいやつだなと僕以外のその場にいる全員がぼやいていた。
そういえば絵入さんが先ほどからスマホをちらちらチェックしている。
その様子に花ちゃんも気づいていたらしくちょっかいを出す。
「あら、好きな人のメッセージでも待ってるの?」
きょとんとした顔で少し考えたのち絵入さんが答える。
「……? まあ好きな人たちではあるかな」
意味深なことをいいつつ、ふふっと微笑んで踵を返す。
「用事ができた。わたしはもう帰る」
そういって帰っていった。
「ほんと自由の象徴みたいなやつだな……」
玄関で絵入さんを送り出したあと家に残された大量の大根おろしとさっそく桃鉄をやりだしている宿泊者二人をみて僕はため息をつくのだった。




