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【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす③


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 納涼祭が無事に終わって数日後……


 数日かけて放課後に飾りつけなどの片づけをしているうちにあっという間に週末になった。


 夕飯も食べ終えてテレビを見ながらだらける。


「さわやかな夏の思い出ラムネ味出た! ぞーりぞーりさん、ぞーりぞーりーさーん」


ぼーっと見ていたテレビのコマーシャルを見ていたら無性にアイスが食べたくなってきた。


「コンビニでも行くか……」


 半袖短パンのラフな格好で無造作に財布をぽっけに詰め込んで家を飛び出す。


あたりは陽が落ちてだいぶ暗くなってたがちょっとタイミングの悪い蝉がさながら単独ライブのごとく鳴き散らしている。

纏わりつく蒸し暑さはじっとりとしているものの、同時に夏らしさも感じられそこまで嫌な感じはしない。


 コンビニに向かう途中で絵入さんが以前鳩に襲撃を受けた公園に差し掛かる。

ふと何の気なしに遊具のおいてある広場の方に目を向けると人影が見えた。

常設されている街灯のふもとに浮かび上がったその人物に僕は見覚えがあった。

(でもどうしてこんな時間に?)

そしてなぜ寝袋にくるまっているのだろうか・・・。

見間違いではないと思うが一応もう少し近づいて確認することにした。


……うん。間違えようがないな。……生徒会長だ。


「せ、生徒かい……うわぁっ!」

声をかけようとした矢先、僕の真横からブブブブンッ!と重低音を響かせながら巨大なカナブンが生徒会長の元へ一直線に飛んでいく。


……正確には生徒会長の近くにある街灯の明かり目指して羽ばたいていった……


そう思った次の瞬間、


「いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!!!!!」

「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!!!!!」


僕の知ってる生徒会長からはとても想像できない悲鳴が公園に木霊する。


「なんなのよ、もおおぉぉぉ!!!!! こっちに来ないでちょうだいよぉぉ!!!」

涙目になりながら半狂乱になってぶんぶん手を振り回す生徒会長……?


「せ、生徒会長! 落ち着いて!」

生徒会長の声に驚いたのか、カナブンは本能的に綺麗なカーブを描いて外灯のほうへ飛び去って行った。


クロスした両手で表情を隠したままその場に静止する会長。

そしてしばしの沈黙ののちにいつも通りの堂々とした姿勢でこちらに向き直り口を開いた。


「……君は、抜戸君だね。ははは……大変見苦しいものをお見せしてしまったようだ」


「あ、ははは……。だ、大丈夫ですか? なんか口調がすごい感じになってましたけど……」

ぴしっ!という効果音が聞こえてくるような程に会長の眉間とこめかみに皺が寄った。


「な、なんのことかな? 君は少し離れていたし何かの聞き間違いじゃあないだろうか?」

淡々と話そうとしているのが伝わってくるがぱっと見で気づく程大量に変な汗をかいている。


あまり深く踏み込まない方がよさそうだと僕のシックスセンスが警報を鳴らしている。

「あ……そういわれてみれば確かに聞き間違いだったかもしれないなあ~」

会長とお互いに後ずさりしながら愛想笑いをしていると先ほどの戦犯カナブンがブーメランアタックを仕掛けてきた。


「あああぁぁぁぁん!! あたしにとまったら承知しないわよぉぉぉ!!」

再度半狂乱になってものすごい勢いで寝袋を振り回す生徒会長。

このままではらちが明かないので巨大なカナブンを軽くはたき落として、第二第三のカナブンが来ないうちにその場から避難した。


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 虫の少ないところに避難したが会長は小さくなってめそめそしている……。

力が抜けたのだろうか、女の子座りでへたり込んでいるが体格がいいため少し……いやかなり不気味である。

あまり関わり合いになりたくなかったが先日の納涼祭の時の恩もあるしいきさつを聞いてみることにした。


「生徒会長……で合ってますよね?」


 一応確認で聞いてみたが小さく頷いているところを見るとやはり他人の空似とかではないようだ。

少し落ち着いたのかぽつりぽつりと会長が話しだす。


「もう隠しようがないわね……。御覧の通り、これが本来のあたしなの。見た目は男、心は乙女……」

どこかの少年探偵みたいなキャッチフレーズを言い出す生徒会長。


「みんなの前では学園を代表する生徒がそんなんじゃ格好つかないじゃない? だから自分を偽って男らしく振舞っているの……」


「そ、そうだったんでしゅか……」

急展開過ぎて動揺したのか見事に噛んだ。


「そういえばどうしてこんな時間に公園にいたんです?」

気になったことを聞いてみる。


「父さんが性格のことでいちいちうるさくてね、大ゲンカして飛び出してきちゃったらこのざまよ」

なんと納涼祭直後から家出しているとのことだった。


「え、会長。それから今日までこの公園で暮らしてたんですか!?」

「いえ、違うわ。最初の数日は生徒会活動の名目で生徒会のメンバーの家に泊まらせてもらったんだけどそんなに何日もいられないじゃない?」


 公園に居住を変えたのは昨日からだったらしい。昨日も虫の襲撃にあって大変だったとのこと。

そういわれてみれば昨日も泣いたのか目の下は薄っすら赤くなっている気がする。


にわかに信じがたいが、会長は……定義上の話になるとややこしくなってくるがジェンダーレスというやつなのかもしれない。


「と、とりあえず僕のうちに行きましょうか。この近くなんで公園よりはいいと思います」


「ううう……ごめんなさいね。正直もう虫が限界だったのよ、特にカナブンとかカナブンとか・・・」

今にも消えてしまいそうなくらい会長は憔悴していた。


「会長なんて堅苦しい呼び方じゃなくていいわよ。花ちゃんでいいわ」

いや……なんともハードル高めだな。


「わかりました。徐々に慣らしていきます」

学校でたまたまあった時に花ちゃんなんて呼んだらそれこそいろんな波紋を呼んでしまいそうだ。


「は、花ちゃんおなかは減ってます?」

「あら、敬語もいいわよ使わなくて。学校では建前上しかたないでしょうけど」

「……」




 何とも言えない距離感を保ったまま家にたどり着いた。


「散らかってますがどうぞ」

「お邪魔します」

「なんか飲みますか?」

インスタントコーヒーの容器を見せつつ尋ねるがどこかそわそわしている。


「着いたばっかりで申し訳ないんだけど飲み物より先にシャワー借りてもいいかしら。昨日からお風呂に入れてなくてもう限界なの」


「あ、そうでした。どうぞどうぞ!」

屹立としたイメージのある生徒会長が汗臭いとあっては印象が悪くなってしまうと懸念しているのだろう。

「別にそんな汗臭くはないですけどね」

「いやあ! ちょっと嗅がないでくれる!?」

あからさまに匂いを嗅いだわけではないが発言に警戒して会長に距離を置かれてしまった。


「いやいやそんなに嗅いでませんて!!」

ジトッとした目でこちらを見据えながら会長が浴室へ入っていった。


「タオル適当に使っていいですから」

浴室から恩にきるわぁん、とどこかとぼけたような声が返ってきた。


「……」

冷静に考えてみたらすごい状況であることに気づく。


そわそわ……。


「なんでそわそわしてるんだ僕は!?」

相手は男性じゃないか。


 普段友達が遊びに来ない僕にとって自分の居住スペースで他の人がシャワーを浴びているというこの状況が落ち着かない。


あれ?そういえば会長、風呂から出たら何を着るつもりなんだろう。

予備のスウェットがあったので脱衣所に持っていく。


「会長、僕のスウェットがあるんで良かったら使ってください」

「あらぁ、すっごい助かる。洗ってない制服また着るのいやだなーって思ってたところだったのよ」

「いえいえ、このくらいなんでもないですよ」


しばらくして会長がシャワーを終えてご満悦顔で出てきた。


「ああーん!生き返ったわー!」

「ぶっ」

先日の誰もが憧れる生徒会長のイメージとはまるで違う言動が飛び出し、シュールすぎて思わず笑ってしまう。


「え、なんか面白ポイントあった?」

「いや、まるで別人だなあと思って。すみません」

「ほら、いつまで敬語使ってんのよ! あたしまで堅苦しくなっちゃうじゃないの」


「す・・・ごめん」

まだ慣れない。


「ちなみに花ちゃんの本性を知ってる人って他にいるの?」

「それが楽ちゃんあなたしかいないのよ」

「……まじ?」


 今日まで学園の誰にも打ち明けずにきた花ちゃんの苦労はいかほどのものか……。

想像できないほどのストレスを抱えていたことは間違いなさそうだ。


「そんな重要なこと僕に打ち明けて大丈夫だったの?」


「打ち明けるつもりはなかったわよ。……あれは嫌な事件だったとしか言いようがないわね、最悪よほんと」


「……」

確かに不可抗力によるところは大きいと思った。


「まあでも知られたのが楽ちゃんで良かったわ。あんまり言いふらすような人には見えないし」

言いふらすような交友関係の広さもなさそうだしね、と小声で中傷してきた。


「すごい失礼なことを言われたような気がするんだけど」


「まぁそれなりに信頼はしてるってことよ」


なんだかうまくごまかされた気がしてならない。


「花ちゃんはこれからどうするの?」


「んー、そうねぇ。ずっと宿無しってわけにもいかないし……。かといってほかに事情を知ってる人もいないのよねぇ」


両腕を組んで眉間にしわを寄せて唸る花ちゃん。


「生徒会のメンバーに事情を話して泊めてもらうとか」


「得策ではないわね。生徒会長が定住してないなんて印象悪いじゃない」

花ちゃんがどこか悲しげな表情でつぶやく。


「あーあー、どこかにいないかしら? 事情を知っててなおかつ一人暮らしの都合のいいお・と・も・だ・ち」


 そんなのに該当するのなんて一人しかいねーよ、と内心突っ込みを入れる。

そしてすげーあからさまにこちらをチラチラ伺ってくる花ちゃん。なぜかドラクエの倒したモンスターが起き上がって仲間になりたそうにこちらを見ている状況と重なってしょうがない。


 まずい。これはよくない流れだ。直感でトラブル巻き込まれ体質の僕の脳細胞が警報を鳴らす。


「ま、まあ仕方ないですよ。住めば都って言いますし野宿もすぐに慣れると思いますよ。ははは……」

「なんで急に早口で敬語に戻ってんのよ! 無防備な乙女が公園に野宿なんて物騒だと思わない?」

「い、いやだなあ。会長は男だし、なんなら僕よりガタイもいいじゃないですか!」

「あ、あなた! 乙女になんてこと言うのよ! さっきまで花ちゃんって言ってたのはどうしたのよ!?」


家主と入居希望者のやり取りが繰り広げられる中、不意を突くかのようにインターホンが鳴った。


「あらお客さんよ。あたしは隠れてるからどうぞおかまいなく」


「ちっ……」


思わず舌打ちをする。


僕はこういうややこしいタイミングで登場してさらにややこしくする人物に心当たりがある。

心当たりどころではない。一人しかいない。


インターホンのモニター越しに予感していた人物が直立していた。



「や、やあ。こんな時間にどうしたの絵入さん」



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