【第4話】ぼーいずびーあんびばれんす②
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休み時間になって仮設科学実験室にみんなで集まっていた。
「あははは! 結局お化け屋敷色強めの催し物になってるじゃないですか!」
美多さんが笑い転げていた。
「美多ちゃん笑いすぎですよ」
じとりとした視線で美多さんを見据える御手洗さん。
「ご、ごめんなさい! 催し物が決まるまでの流れが秀逸すぎて……つい……くっ…!」
美多さんの笑ってしまう気持ちもわからないでもない。
藤崎が「ちょっと涼しくなるようなことやっときたいよなぁ」といった時点で流れは出来上がってしまっていたからだ。
「廃墟風ってまた準備が面倒そうなの考えちゃったよね」
納涼のテイストは大事とはいえ、廃墟風のフレーズにめんどくささを感じずにはいられずつぶやく。
「何売るかとかもまた決めないといけないんだよな」
寧斗がめんどくさそうに頭をポリポリと掻く。
「たこ焼きがいい」
絵入さんが目を輝かせて言った。
「どんだけたこ焼きにはまってんの」
商店街の福引でたこ焼きメーカーを当ててからヘビロテでタコパをしているらしい。
こないだも焼き物臭のすさまじい制服で登校してきてクラスのみんなから絵入さんちって洗濯機ないの?と質問されていた。
道代さんも「なぜか部屋干ししているとこでたこ焼きするんです」と困り果てていた様子だった。
なんなら今日もどこか香ばしい青のりと鰹節の匂いがするような、しないような……。
「なにを嗅いでいるっ」
「絵入さんは女の子なのにフレグランスに気を使ったりしないのかなぁと思って」
絵入さん自身でなぜか胸元の制服を引っ張り寄せて匂いを嗅ぐ。
「そこは普通に袖とかで良くない!?」
胸元が見えそうだったので焦って目をそらす。
「臭いか?わたし」
「お好み焼きの匂いがしてたのは君か」
西園さんが納得したような表情で言う。
「廊下ですれ違う生徒みんながお好み焼き臭くね?って言ってたぞ」
「違うし。たこ焼きだから」
否定する絵入さんだが残念ながら論点はそこじゃない。
「たこ焼き臭いのはいやか?」
「いやではないが……」
たこ焼きの匂いはたこ焼きからしてほしいかな、と伝えると「そういうもんか」と言っていた。
「準備とかでお手伝いできることがあれば言ってくださいね~」
美多さんが屈託のない笑顔でそんなことを言う。
「あれ?お前らは準備とかないのか」
僕も疑問に思ったことを寧斗が先に尋ねていた。
「私たちにはクラスがないからな。なんならここが教室だし」
そういえばそうだった。西園さんは特約で在学を許可された特待生。
履修はすでに高校生の範囲を終えているため登校している確認だけ取れれば大丈夫なのだそうだ。
「ちなみに私が2年で美多が1年ということになっている」
「そうだったんですね。それなら当日はお時間あれば私たちの教室に遊びに来てください」
御手洗さんの提案に西園さんも美多さんも嬉しそうに賛同していた。
「絶対に御手洗さんの幽霊コスプレ見に行きますね」
「あっ…ぐっ……ちょっと忘れかけてたのに……」
御手洗さんの古傷が開く前に僕たちは教室に戻ることにした。
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数日かけて放課後の空いた時間で僕たちの教室は廃墟風の何かに変貌を遂げていった。
いささかやっつけな感じもあるが100均で買ってきた大きな綿やハロウィンセットの組み合わせで薄暗くすればいい感じに廃墟っぽく見えてきた。
---そしてあっという間に納涼祭当日。
「寧斗、俊介、焼きそばの具材切れそうだから買ってきて」
「ういー」
僕たちは調理班で大奮闘していた。
良くも悪くも目立ちたがりなクイーンは接客がしたかったらしく、取り巻きとクラスの仲のいいメンツであっという間にそちらの役を抑えてしまったのだ。
まあ……コミュ難な僕たちにとっては願ったり叶ったりだったので結果オーライというやつだ。
「絵入さん焼きそばにちょいちょいハバネロソースいれようとするのやめてくれる?」
「……!」
道端で急に人に出くわした猫みたいな反応を示す絵入さん。
いたずらのつもりなのか何度か目を離したすきに注入されてしまっている。
来店して運悪く当たってしまった他校の生徒が激辛なんて書いてあったっけ?という不思議そうな顔でメニューを見直している様子が幾度となく見られた。
「あのさぁ、注文追いついてないんですけどぉ」
厨房の暖簾をかき分けて立華さんが苦情を言ってきた。
接客中の時とは真逆の態度である。
短パンに白いTシャツを着ていかにも夏の様相だ。
黙っていれば普通に美人なのに性格がすべてを相殺した挙句に、相殺だけでは収まらずにデフレしてしまっているのが僕の知っている彼女だ。
「もう少しで出来上がるからちょっとくらい待ってよ……」
立華さんが普段話すクラスメイトを自分と一緒の接客側にフル采配したおかげで厨房の調理班が明らかに少なくなり業務多忙になってしまっているのだ。
「早くしてよね、お客さん待ってんだからさぁ~」
きついセリフを吐き捨ててシャッと暖簾を閉じて行ってしまった。
「とんでもねえブラック企業だな、おい」
買い出しから帰って来た俊介がぼやく。
客席の方を見ると普通にお客さんと雑談していたり、他校の自分の友達と写真を撮っていたりとずいぶん余裕があるようだ。
「俺ちょっと言ってくるわ」
そういって寧斗がホールの方に出向いて立華さんたちに厨房に人を回せないか聞いてきた。
仕方なさそうに何人か男子生徒が派遣されたがお昼時なのもあって注文が多くまだ全然追いついていない。
「調理スペースが結構小さいですしね……」
御手洗さんの言う通りホールと厨房の割合がそもそも破綻してしまっているのがなおのこときつい。
人員が増えたところでなかなか追いつかないのが現状だった。
そんな中、ホールから怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、いつまで待たせんだよ!」
先ほどまで賑やかだった教室が一気に静まり返る。
ガラの悪そうな他校生が注文したものが出てこないことに苛立っていた。
接客していたクラスメイトが必死に謝罪するが怒りは収まらないようだ。
「ちょっと! あんたらが早く作らないからこんなことになってるんでしょお?」
なんとかしなさいよぉと立華さんが責任転嫁しつつ無茶苦茶なことを言ってきた。
「いやいや、そんなこと言われても」
寧斗が俺が行こうか? と提案してくれた。なんとも頼もしいやつだ。
「とりあえず僕がいったん行ってみるよ」
それでだめそうだったら寧斗助けて、と一応保険をかけておく。
そして一人だと不安だったので俊介も同伴してもらった。
こういうトラブル対応には慣れてないので勢いで出てきたものの心拍数がやばいことになっていた。
「ああん? なんだおめえは」
ガムをくちゃくちゃ噛みながらガラの悪い他校生が僕に突っかかってくる。
近くに座っている取り巻きもその様子を見ながらニタニタ笑っている。
「申し訳ありません、今急いで作ってますので」
これ以上機嫌を損ねるとめんどくさそうなので腰を低くした態度で対応してみた。
「早くしろよ、こっちは朝から何も食ってねえんだからよ!」
いやいやガム食ってんじゃん…と口を突いて出てきそうになったがぐっとこらえる。
「---嘘をつくのはよくないな。君はガムを食べているじゃないか」
教室内に芯のある声が通り、僕の気持ちがいきなり代弁された。
声の方を見ると教室の入り口に腕章をつけた偉く姿勢のいい生徒が仁王立ちしている。
「花道生徒会長だ……!」
すぐ隣にいた俊介が気づいて言った。
「生徒会長だぁ? こっちは客だぞ?」
「客であることは間違いないが風紀的に言わせてもらうとただの迷惑客だ」
動じることなくまっすぐな目でばっさり切り捨てる花道生徒会長。
「なんだとてめぇ!」
苛立った他校生が席から立ちあがり他の取り巻きとともに生徒会長に詰め寄った。
よほど頭に来ていたのか生徒会長の胸倉をつかもうと手を出す。
しかしその手は生徒会長に触れることなく宙をさまよった。
「やれやれ……正当防衛だ、許してくれよ」
そういって次の瞬間に相手のこめかみに手刀をいれて怯ませた後に手をひねり上げて跪かせた。
「わんすあぽんっ……」
不良が情けない声を出してその場に崩れ落ちた。
「場違いだ、退去願おう」
そういって冷ややかに他の取り巻きを睨みつけると相手も敵わないと悟ったのか、気絶した仲間を抱えて一目散に退散した。
少しの静寂ののちに教室から歓声が沸き上がった。
歓声に動じる様子もなく生徒会長が僕に話しかけてきた。
「無事か? 勇気があるな君は」
少し考えるようなそぶりをしたのちに「2年の抜戸君だね」と言われた。
「直接話したのは初めてだったと思うんですが……」
と素直に疑問をぶつけると、
「ああ、全校生徒の名前と顔を記憶しているんだ」
と、とんでもないことを言った。
「引き続き催事に精を尽くしてくれ。僕は巡回に戻る」
そういって生徒会長が教室を後にした。
ホールにいた女子生徒の表情が恋する乙女のようなものになっていた気がするがきっと気のせいではないのだろう。
そんな中、立華さんだけは周囲と違った反応だった。
「腹立たしいわねぇ……完璧超人で人気者なんて」
そんなことを取り巻き二人に話していた。懲りない人だなあと心底思う。
「ところで絵入さん、そのつまみ食いしてる焼きそばあの迷惑ヤンキーに出す予定だったやつだよね?」
「ほーふがふこひはひらひ(※ソースが少し足りない)」
……出来上がっていたんだったら早く持ってきてほしかったが呆れてなにも言えなかった。




