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【第3話】といれっとなーばす⑨


---------------------------------


 西園さん、美多さんと別れ絵入さんの家へとやってきた。


「散らかってますがどうぞ」

「こないだ来たばっかじゃん」


 前回タコパをした時とさほど変わっていなかったが社交辞令のような口調で絵入さんが言う。


「ってかなんならたこ焼き臭いな!」

 最中ほどではないにせよ確かに残ったたこ焼きの匂いにちょっと驚く。


「それは昨日もたこ焼きをしたからです、抜戸さん」

 部屋の奥からウィンウィンと機械音を立てて道代さんが出迎えてくれた。

というか、え? 昨日もたこ焼きしたの?


「インターバル短くない?」

「あのタコパ以来、杏さんがすっかりはまってしまって……」

「……」


 はまったにしてもとりあえず換気はしないと……。

絵入さんとともに開けられる窓をいったん開けて空気を入れ替える。

来た時よりはだいぶ良くなった気がする。


「ところで今日はいったいどのようなご用件で?」

改めて道代さんに聞かれて本来の目的を思い出す。


「なんか手伝いを頼まれて……そういえば手伝いの内容知らされてないんだけど……」

「おまもりを作ろうと思う」


「おまもり?」

「明日渡す」

うなずきながら絵入さんが答えた。


 あー、なるほど。御手洗さんの発表か。

意図を理解した僕は、もそもそと歩き出した絵入さんと作業場であるリビングに向かった。


 以前初めて訪問した際に道代さんにふろふき大根をおみまいされた場所だ。

絵入さんの救出ミッションで激辛ハバネロが眼球に染み込んだ悪夢が一瞬フラッシュバックする……。


「ん? なんか顔色悪いけど大丈夫か?」

「疲れてるんですか?」


 トラウマの元凶といっても過言ではない二人に心配され複雑な心境に陥る。

平気であることを伝えさっそく作業に取り掛かる。


「ところでどんなお守りをつくるつもりなの?」


「フェルトでキーホルダーみたいなやつにしようかな」


 ガサゴソと先ほどまで抱えていた紙袋から何かを取り出す絵入さん。

……黒焦げになったトカゲみたいなのが出てきた。


「……」


 お次は血文字のような魔法陣が書かれた古ぼけた羊皮紙……


「おかしいなぁ! 本来使用するような材料が一個も出てこないなぁ!」

何かをおっぱじめようとしている絵入さんに我慢できずつっこむ。


「黒魔術でもなさるつもりですか杏子さん……」

道代さんが困ったような顔文字を液晶に表示して尋ねる。


「なさるつもりだけど……?」

まじか。


「え? おまもりは?」


「おまもりはもう買ってある」

そういってポケットからオーソドックスなお守りを取り出した。


「……僕の見間違いじゃなければ交通安全って書いてあるような気がするんだけど」


うぐっ!と痛いところを突かれたと言わんばかりの表情を浮かべる絵入さん。


「色ばかり気にしてたら文字を見てなかった」


「ま、まあ降りかかる災難から守ってくれるって意味では同じなんじゃないでしょうか……」

苦しいフォローをいれる道代さん。


「ま、まあいいや。で、なんで黒魔術なの?」


そもそもあそこ普通の手芸屋じゃなかったのか……。


「おまもりを強化しようと思って」


「おまもりって本来強化するもんじゃないんだけど……」


 手芸屋についても絵入さんに聞いてみたが、普段は普通の手芸屋だが魔法使いキャンペーンだかなんだかでこれらの怪しげな材料が置いてあったらしい。

ちゃっかりおまじない入門書みたいなのまで買ってるし……。


 表紙のサブタイトルで「ハムスターでもわかるブラックミラクル!」と書いてある。


絶対効かないと思うんだけど絵入さんは始める気まんまんだ。


「あまり過激なことはしないでくださいよ……」と道代さんも心配そうに注意を促す。


 こうして、やるだけやってみる?という僕の早々の諦めもあり薄暗い部屋で絵入さんはブラックミラクルをおっぱじめてしまったのであった。


-------------------------------


 絵入さんちについたときには夕暮れ時だったがすでに外は暗くなり始めていた。

……俗にいう逢魔が時ってやつだ。


 道代さんが持ってきた非常用のろうそくに火をつけテーブルの上にのせる。

ろうそくで囲むようにして羊皮紙の魔法陣を配置、その中心に交通安全のお守りを置く。


 絵入さんが入門書に沿って呪文のようなものを読み上げ始めたが途中で「暗くてほとんど読めん」と言っているのが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。


 呪文を唱え始めてほどなくして急に外が土砂降りになった。

窓に激しく雨が打ち付けられる。


……あ、あれ? なんか雲行きが怪しくないか?


「絵入さんちょっとストッ……」

おかしな雰囲気を感じ取った僕は身の危険を感じ、一旦止めようとした。


その時だった。


風も何も吹いていないのに数本灯っていたろうそくの火が音もなく消えた。


「えっ」

突然のことにその場にいた全員が困惑した。


「雷でもないのに…停電ですかね?」

暗闇の中、近くから道代さんの音声が聞こえる。


「道代、電気つけれるか?」


「まってくださいね、内部リモコンで今付けますので」

絵入さんの問いかけにウィンウィンと反応する道代さん。

ピロリピロリと何度か機械音がなったが電気が付く気配はない。


「あれ? 変ですね。信号は飛んでるんですけど反応しないんです」

少し暗闇に目が慣れてきたが一向に電気が付く気配がない。


「確か入口の方にスイッチあったよね」


そういって足もとに気を付けながら電灯のスイッチを押しに歩みを進めた時、


……暗闇に包まれた室内でどこからともなく禍々しい声が響いてきた。



”我を呼び出した愚か者どもは貴様らか……”


「もう! こんな時にやめてくださいよ! 杏さんのいたずらですよね?」

道代さんがいつものいたずらだと思って絵入さんにおどけながら話しかけた……が、

「ち、違う……。私はなんにもしていない」


「え、じゃあさっきの声って……って!! うおおおおおお!? おまもり! おまもりがやばい!」

暗い室内がぼんやりと明るくなったのでそちらのほうを見て絶叫する。


 なんと羊皮紙の上に安置されていたお守りが怪しげな紫色の淡い光を放ち少しずつ宙に浮かび上がっているのだ。


え、絵入さん? 何か召喚されちゃってませんか?


「あわわわわ……」驚いて動けずにいる道代さん。


「お、おい! どうすんの!? どうすんのこれ!?」


 慌てふためく僕たち二人とは対照的に絵入さんは先ほどまで飲んでいた紙パックの青汁をじゅぞぞっと音を立てて飲みながら無表情で答えた。


「……多分まずいことになった」

「いやいや多分どころじゃないから! 確定で大惨事だよ!」


 宙に浮かぶお守りから続けて重々しい声が聞こえてくる。


”わが名は世紀末魔界王、コグレ・デーモン……世界に混沌をもたらす者だ”


……どこかで聞いたことあるような名前だと思ったがそれどころじゃなかった。


”このような小さき器に我を呼び出しおって……貴様ら絶望する覚悟はできているんだろうな?”


魔界王が一生懸命話すさなか、絵入さんが部屋の隅にあった虫退治用の電撃ラケットに手を伸ばす。


「(おいおい!何しようとしてんの!)」

魔界王の逆鱗に触れられてはいけないと思い、僕は囁くような声で必死に絵入さんのやろうとしていることを制止しようとする。


「(絵入さん、それはまずいですって!)」

道代さんも気づいて止めに入る。


”む……貴様ら、こそこそ何を話している”


ほらほら! 魔界王感づいてきちゃってるから……!!


「いや! 何でもないです! そいつが青汁飲みすぎて腹壊したみたいで落ち着かないんです!」


”青汁……? 青汁とはなんだ、小僧”

予想外にも青汁に興味津々な魔界王。


「え゛っ!? あ……えーっと、植物を絞った汁です!」


”なんと、人間はそんなものを好んで飲むのか……”

全員が全員ではないけれどそんな風に解釈したらしい。


”興味深い……我に供物として与えよ……味見がしてみたい”

 なんだかよくわからない展開になってきたが、機嫌を損ねてもまずいと思った僕は素直に絵入さんの飲んだ青汁を魔界王の前にお供えする。


 持った時に気づいたが中身は空っぽだった……。

入ってないことに機嫌を損ねて襲ってきたらどうしよう……。


 魔界王の前に置かれた青汁の紙パックがペコペコっとへこんだり戻ったりした。


”おい貴様…空っぽではないかぁ!!”


終わった……。中身入ってないとダメなパターンだった。


”我を愚弄しているのか……?”


「す、すみません! 恐怖で混乱してて……!」


”く、ふはははは!!! 我を恐れているのか小僧!!”


咄嗟に弁解したのが幸いだったのか魔界王は機嫌を良くし少し饒舌になった。


”気分がいいぞ! 愚か者どもめ! もっと、もっとだ! 我を崇めるがいい! そして刻むがいい我が誇り高き名を! 世紀末魔界王コグレ・デー……!!!”


「地獄へ落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 絵入さんの掛け声とともにカチッという音がなり暗闇の中、青白く光る電撃ラケットが最大アンペアで魔界王に襲い掛かった。


”ぎえええぇぇぇぇぇぇぇえええええええ~~~~~!!!”


 バチバチと火花が飛び散る中、かつて魔界王であったものが羊皮紙の上にベチッと虚しく叩き落された……。

それとほぼ同時に部屋の明かりがつき、フルスイングを決めた絵入さんがすっきりした表情でへたり込む僕と道代さんに「やっつけた」と言った。


放心状態の僕と道代さんとは対照的に黒焦げになったお守りの元へと歩み寄る絵入さん。


「口ほどにもないやつめ」

動かないことを確認した絵入さんがそういったのち、電撃ラケットをビュンっと一振りしてから壁に立てかけた。


「抜戸さん、私は夢でも見ていたんでしょうか」

道代さんが重い口を開いて言った。

「大丈夫、僕も同じ精神状態になってるから……」


 先ほどまで土砂降りだった外の雨はいつの間にか止んでおり、焦げ臭い部屋を換気するため僕は部屋の窓を開けた。


「っていうかお守り真っ黒焦げだけどどうすんの?」

 ちょっと触るのを躊躇われたが黒焦げになったお守りを拾い上げると不思議なことに気が付いた。

何だろうこれ? お守りの周りに薄い膜のようなものが張ってある。

うまく表現できないが、あえて言うなら羽根つき餃子の良く焼けた羽根の部分のようだ……。

 何の気なしに手でぱっぱと払ってみるとその焦げた膜のようなものがはがれてほぼ無傷のお守りが出てきた……。


「な、なんか無事っぽいけど……」

いろんな意味で大丈夫なのか? このお守り……。


「悪魔にも打ち勝つお守りってことだろ」

「絶対違うと思う」


こうして……無事?に強化お守りの製作が終了したのであった。

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