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【第3話】といれっとなーばす⑧


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「抜戸さん、そっち焦げそうなのでひっくり返してください」


「あ、はい……すみません」

焼きあがりそうなたこ焼きをぼーっと見つめていると対角にいた道代さんに手厳しく指示された。


「まじで何だったんだろうな、あの謎の盛り上がり」

「上げて落とされた感じとはまさにこのことだ」

「いやいやっ、それ僕に言わないでくれるっ!?」

寧斗と絵入さんに両サイドから詰られて思わずキレる。


 あの激しめのファンファーレの挙句に知らされた結果はまさかの3等だった。

そして今まさに使っているこのかわいらしいたこ焼きメーカーが景品というわけだ。

そのあと引いたもう一回もそりゃそうだとでも言いたげな参加賞のポケットティッシュ。


 祭りが終わった後の放心状態に近い気分のまま、ぶつけどころのないフラストレーションを消化するために絵入さんの家で夕食がてらたこ焼きパーティーをすることになった。


「そもそもおかしくない? 3等なんだから玉の色も青とか緑とかでよくない?」


「ハワイがあたあた言ってたな」


「ケンシロウかお前は」

絵入さんと寧斗のディスりに苛立つ僕。


「も、もうそのへんでやめ……くっ! ……やめましょうよ」

御手洗さんが僕たちをなだめようとしたが、その時の状況を思い返したのか吹き出していた。


「なんなら途中もう笑っちゃってるじゃん」


このオタフクソースの香ばしい香りがなければ僕は帰っているところだ。

焼きあがったたこ焼きを取り分ける。


「あ、すごい! 表面がカリッとしてて美味しいです!」

一口食べた御手洗さんがその美味しさに酔いしれる。


「ふっふっふ。そうなんですよ。表面に油を塗って高温で焼き上げるとカリカリになるんです!」

そういって嬉しそうにウィンウィンとその場で左右に動く道代さん。


「これ少し持ってかえってもいいか?うちの奴らにも食わせてみたくてよ」

寧斗がいってるのは健斗くんと恵斗ちゃんのことだろう。確かにこれは喜びそうなほど美味しい。


「多見さん、ご兄弟がいらっしゃるんですね。みんなで遊ぶ機会があれば今度会ってみたいです」

「おお、そうしてくれ!あいつらも喜ぶ。……まぁ弟の方はちょっとやんちゃだけどな」

そういって鼻の頭をポリポリとかく寧斗はどこか嬉しそうだ。


「ハチの巣にされるぞ」

気をつけろ、と御手洗さんに謎の忠告をする絵入さん。


「え、ど、どういうことですか?」


「水鉄砲でおっぱいを濡らそうとしてくるんだ」


「まぁ、破廉恥な!」

絵入さんの妄言を真に受ける道代さんと顔を真っ赤にする御手洗さん。


「脚色しすぎだから」

もとはといえば相手を刺激しすぎた絵入さんに原因があるため僕が訂正する。


「健斗は怪しいやつか明らかに変なやつにしか威嚇しないからな」

まさに絵入さんことではないか、と本人以外の誰もが思った。


「つまりレアケースだったってわけか……」

変人の自覚がない絵入さんを無視して僕たちはたこ焼きを楽しんだ。


たこ焼きを食べ終え、後片付けが始まると絵入さんがたこ焼きメーカーを名残惜しそうに見つめていた。


「結構持ち運びが大変だからさ、絵入さんが良ければ置いてってもいいかな?」


僕の提案に心なしか嬉しそうに彼女は仕方ないなと言う。


また近いうちに実験室の二人も誘ってやろうと話しながら、僕たちはそれぞれ帰宅したのだった。


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 その後も絵入さんと御手洗さんの特訓は続き、いよいよ発表会の前日。


僕たちは明日の発表に備えて仮設科学実験室に作戦会議兼ランチタイムにきていた。


「見てくださいこれ! めちゃくちゃかっこよくないですか!?」

ピカピカで新品のマウンテンバイクにまたがりドヤ顔でポーズを決める美多さん。


「「いや、ないわぁ……」」


 寧斗と僕の悔しさから絞り出された言葉がハモる。

どこから持ってきたのか、美多さんは2002と書いてある趣旨のわからないサングラスもしっかり着用して僕たちを自覚のないまま煽る。


 先日の強化訓練で行った商店街の福引でマウンテンバイクを引き当てたラッキーな人物はまさかの美多さんだった。


「まあ福引券100枚ありましたからね~」

博士のカフェイン中毒のおかげです、とにこやかに話す美多さん。


「コーヒー豆買ったにしたって100枚ってすごくないか?」と思った疑問をぶつける。


「こないだマスターに取り寄せてもらった豆がかなり高価でな、今君たちが飲んでるやつがそれだ」

特に意識せずに飲んでいたが独特な香りがする気はしていた。

良く味わって飲んでみようと一口すすってみる。


「確か一杯5000円くらいするぞ」

「ごせっ!! ぐ……げほっ! げほげほっ!」


 予想もできない高額に吹き出しそうになったところを堪えたら5000円の液体が気管に流れ込んでしまった。

西園さんに聞いてみたところ、どうやらブラックアイボリーという名のコーヒーらしい。


「人によっては食思をそがれる可能性があるから詳細は各自気になったら調べてくれ」と西園さん。


5000円とわかるとなぜかとても美味しく感じてしまう。

格安のコーヒーを出されても異様に高い値段を聞かされるとそれなりに美味しく感じてしまう心理に似ていると思う。


「好きとはいえよくなくなっちまう嗜好品にそんな大金をだせるな……」

にわかには信じられないといった様子で寧斗がもったいなさそうに5000円を飲み干す。


「私の場合は経費請求すれば学校が支払ってくれるからな」

西園さんの口からとんでもない話が飛び出した。


「あっ! 博士、それ極秘事項ですよ」


美多さんがちょっとまずそうな表情で博士に耳打ちした。


「まあこいつらなら大丈夫だろ。言いふらすような連中でもないし」


「そういわれてみればそうでしたね」


「結構とんでもないことを聞いちゃったような気がするんだけど……」


「まあ、聞かなかったことにしてくれ。ここにいられなくなる」


西園さんの口調が冗談に聞こえなかったのでこれ以上掘り下げずこの話を終わらせた。


「とにかく買い出しが自転車で行けるようになったのですごく楽になりました♪」


 美多さんがマウンテンバイクを教室の横にそっと優しく立てかけて戻ってきた。

僕たちも事前許可をとれば駐輪場から借りていいことになり寧斗とともに歓喜の声をあげた。


 昼ご飯を食べながらここ数日の絵入式ブートキャンプの状況を西園さんたちにも報告する。

美多さんとともに終始気の毒そうな視線を御手洗さんに向けていたような気がした。…多分気のせいではない。


「だいぶテンパらずに話せるようになったと思うんですが……やっぱり緊張してきました」

発表を前日に控えた御手洗さんは本番のことを考えると落ち着かない様子だった。


「発表原稿自体はできてるんだろ?」


「はい、今日の午前中に藤崎先生に見てもらってOKはもらいました」


「じゃあなんも心配はいらない。書いてあることを堂々と読めばいいんだ」

西園さんなりのエールだったのだろう。御手洗さんも勇気をもらえたのか気恥ずかしそうにうなずいていた。


昼ご飯も食べ終えて早めに教室に戻ろうとする。

その場で落ち着かなそうにしている絵入さんに声をかけた。


「絵入さん戻んないの?」


「うん、ちょっとな……先に行っててくれ」

野暮用だろうか、西園さん達に用事があるようなので寧斗と御手洗さんとともに一足先に教室に戻ることにした。



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 楽達が教室に戻っていった。

相談相手に西園を選んだのはちょっとしたサプライズ要素も含ませたい気持ちがあったからだ。

楽達に相談するタイミングがなかったので結局ギリギリにはなってしまったが……。


「わたしなりに華子の応援がしたい、何かいい案はないか?」

西園と美多に知恵を貰おうと思って聞いてみた。


「絵入さんからの応援、御手洗さん絶対喜ぶと思いますよ。う~ん…手作りのお守りなんてどうですか?」

「じゃあそれで」

「即決だなおい」


ちょっと驚いたように西園がつぶやいた。


「まあ発表明日だし時間もないしな、さっそく今日作るか?」

「そうしよう、何が必要?」

「それじゃあ放課後に商店街の手芸屋さんで材料を買いましょう!」


 美多の提案で放課後また校門で待ち合わせることになった。

嬉しいのか、楽しいのかわからないが顔がむずむずする。


そんな表情を見られまいとやや伏せ気味に隠したまま足早に教室に戻ることにした。


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---放課後。


 絵入さんが明らかに何か用事がありそうな様子で帰り支度を始めていた。


「きょうはお前らと一緒に帰れない」

寂しくても泣くなよ、といらぬ心配をしてきた。


「心配しなくても泣かないから」

伝え終わるや否やで絵入さんが御手洗さんに声をかけつつ足早に教室を後にした。

絵入さんが一人で帰るなんて珍しいこともあるもんだ。


「俺たちも帰るかぁ」

あくびをしなが寧斗が帰り支度を始めた。


 僕たちは御手洗さんとともに下校しそのまま商店街に向かった。

絵入さん不在のためどこかぎこちない感じがしたが三人で他愛もない会話をしているうちに焙煎堂に到着し御手洗さんと別れた。


 そのまま商店街の出口付近に差し掛かったところで寧斗とも解散。

のどが渇いたので近くの自販機でジュースを買うことにする。

微炭酸のシュワっとした刺激が渇いたのどに心地いい。


……と、視界の隅で見慣れた姿がちょろちょろと動いているのに気が付く。


「なにしてんだろ絵入さん」


 わたつみ手芸店という看板のあるお店から出てきたみたいだ。

片脇に収まる大きさの紙袋を抱えている。


「絵入さーん、待ってくださーい」


絵入さんを追いかけるように店内から美多さんと西園さんが出てきた。

「早くしないと明日になる」


「お守り自体がもう手作りじゃなくなっちゃった気がするが……まあ、あまり危険なことはするなよ」

呆れたような表情でだぼだぼの白衣を着た西園さんが絵入さんに忠告していた。


「あ」


と、ここで絵入さんと僕の目が合った。

一瞬見られてはまずいような表情をしてその場を逃げ出そうとした絵入さんだったが、

何かを思い直したのか僕のもとに駆けよってきて言った。


「……ちょっと手伝ってくれないか?」


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