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【第3話】といれっとなーばす⑦

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「次は福引をしてもらう」

「福引……ですか?」


絵入さんがスカートの中に手を突っ込んで4枚の福引券を取り出した。


「ここに4枚の…


「待て、今どっから出した?」

僕と寧斗がほぼ同時に疑問をぶつける。


「見てたろ。スカートの中からだ」

そもそもどこにしまっていたのかが疑問なのだが、あっけらかんと絵入さんは答えた。


「スカートの中って収納場所なくないか?」

僕の思っていたことを寧斗が代弁してくれた。


「お前らのリアクションが欲しくてな。昨日スカートの内側にポケットを縫い付けたんだ」

まんまと思惑にハマったなと言いたげな表情で種明かしをする絵入さん。

その無駄な労力を他に割くべきだと思うのだが……。


「さて話を戻そう。次のミッションは福引だ」

ぴらぴらと4枚の福引券をチラつかせて言う。


「あ、そういえば商店街の周年イベントやってるんですよね」

言われてみれば商店街のあちこちにのぼりや張り紙で宣伝されていることに気づく。


「あれ、でも福引って5枚で一回じゃありませんでしたっけ?」


「ほんとだ。一枚足りないよ絵入さん」


「ふっ。よくぞ気が付いた。それが今回のミッショ」


「あ、でも私お父さんからもらったやつ何枚かあるので出来…」

シュバッ!

目に見えぬ速さで御手洗さんの手元から福引券が絵入さんによって奪い取られた。


「……それが今回のミッションだ。足りない一枚は商店街の誰かに譲り受けてもらう」

「ええ~~~!? そんな理不尽なっ!」

御手洗さんが悲鳴とともに崩れ落ちた。


「む、無理ですよぉ! そんな浅ましいことできません!」

涙目で異論を唱える御手洗さん。


「今回も結構ハードル高めだな」

どこで買ってきたのかオレンジ色のソフトクリームを舐めながら寧斗が客観的な意見をつぶやく。


 御手洗さんがあまりにも不憫だったので助け舟を出すことにした。

「あまり福引に興味がない人とか当たってみるのがいいんじゃない? 普段このへんで買い物をしない人とか」


「普段見かけない人ですか……」

イベントセールも行っているため商店街は普段より賑わっている。

よく見かける人もいればあまり見かけない人もちらほら。


「チラシとか見て遠くから買い物に来てる人だと福引に必要な枚数までたまらないと思うんだ」


「な、なるほど」


 僕たちは4人でベンチに座りながら話しかける対象を御手洗さんに選んでもらうことにした。


「今日初めて会う人に話しかけるなんて……」

ましてや福引券のおねだりまで……、と御手洗さんがぼそぼそ独り言を言って激しく苦悩している。


「やれやれ仕方ない、手本を見せてやろう」


「えっ」


 誰も希望していないのに絵入さんがおもむろに立ち上がっていかにもお金持ちそうなおばさんのもとに駆け寄っていった。

手元のトランシーバーから現場の音声が届く。


「な、なんなの?」


「すまない、幼い弟が病に伏せていてな。ご婦人のその福引券がどうしても必要なんだ」


「ふ、福引券? ああ、さっきもらったこれかしら」


「一枚でいいんだ。幼い妹のために譲ってくれないか?」


「妹? さっきは弟って言ってなかった……?」


「……そういえば妹も病に伏せていてな」


「よ、よくわからないけれどあげるわ。私あまり普段はこっちに買い物に来ないから」


絵入さんが福引券を受け取った。


「恩に着るご婦人、……ではな」


「(病気と福引になんの関係があるのかしら……)」

鳩が豆鉄砲食らったような顔になったおばさんと別れて絵入さんがこちらに戻ってきた。

それはそれは満足げなサムズアップをした絵入さんが僕たちの反応を待っている。


「御手洗さんあそこのカップルとかいいんじゃない?」

「あれっ!?」

一連の出来事が無かったことにされてショックを受ける絵入さん。


「だって手本のての字もない有様だったじゃない」

「警察とか呼ばれなくてよかったな」

僕と寧斗のダメ出しにその場に崩れ落ちる絵入さん。


「あんなに人情温まるやり取りだったのに……」

「会話のドッチボールだった気がするんだけどなぁ……」

勝手に一仕事終えてベンチに座り込む絵入さん。


「アイスを一口くれ。人情で温まりすぎてのどが渇いた」

そういうと嫌がる寧斗のソフトクリームを強引に受け取ってとコーンの底を噛みちぎった。


「てめぇこらっ! どんな食い方だよ!」

「メロン味か」

悪びれる様子もなく答える絵入さんから愛しのメロンソフトを奪い返す寧斗。


「……自由が過ぎる」


 絵入さんの奇行を横目に御手洗さんが攻めるターゲットを再び探す。

向こうの方から僕たちと同じくらいの学生が歩いてくる。


「カップルっぽいけど……この辺の制服じゃないしチャンスかも」


御手洗さんにさっそく情報を伝えると、

「相手が二人ってすでに私のキャパ超えてるんですけど……」


 不安を露にする御手洗さんだったが、これを逃すと長引きそうだと彼女も腹をくくったのだろう。

縮こまりながらもスッと立ち上がり恐る恐るカップルの方へと向かっていった。


 再びトランシーバーの通信で確認する。


「あ…あぁ~どうしようどうしよう」

結構近くまで行ったところで再び迷っているようだった。


メロンソフトのひと悶着が終わり絵入さんと寧斗も通信を聞くため寄ってきた。


「行けそうな感じか?」


「葛藤してる感じ」


 状況を確認する寧斗にざっくり伝える。

狼狽えてその場で足踏みしているためタップダンスを踊っているようにも見える御手洗さん。


こりゃ厳しそうだなと寧斗が小さくため息をつく。


「いや、華子ならやりとげる」と謎の信頼を寄せる絵入さん。


「あ、あのっ! すみません、ちょっといいですか?」

 僕と寧斗の予想に反して、なんと御手洗さんは恐怖に打ち勝った。

最初は急に声をかけられ相手も身構えていたが、所々噛みながらも丁寧な声掛けをしたことで不信感は薄れたようだ。

御手洗さんは今日見た中で一番うれしそうな表情で僕たちのもとに戻ってきた。


「絵入さんやりました! やりましたよ私!」


「もう君に教えることは何もない……」


「「……」」

腕を組んで満足げにうなずく絵入さんに対して、果たして今日なにかレクチャー的なことをしただろうかと思わず突っ込みたくなったが僕と寧斗は堪えた。


 何はともあれ絵入さんの提示した本日のミッションを無事に終えた頃、すでに商店街にオレンジの夕焼けが差していた。


 いろいろ試行錯誤してるうちに時間は結構経っていたらしい。

僕と寧斗と絵入さんに関してはメンチカツとアイス食っただけなんだが。


「そういえば御手洗さんは今日も絵入さんちに合宿だっけ?」


「はい、3泊4日の予定なので今日が最終日ですね」


「このまま住んでもいいけどな」


「私も一緒に暮らしたいくらい楽しかったですよ」

御手洗さんなりにこの数日は充実した日々を過ごせた様子だった。


「無事ミッションも終わったことだし解散するか」

少し名残惜しそうに寧斗が言った。


「いや、まだやることがある」

絵入さんがぴらっと先ほど集めた福引券を取り出す。

特賞のハワイ旅行を指さしドヤ顔を決めている。


「漫画じゃないんだから、そんな簡単に当たらないよ」

「夢も希望もないやつだな」

僕のリアリズムに呆れた視線を送る絵入さん。


「当たったとしても全員いけねえんじゃねえか?」

あ……ほんとだ。下の方に二人一組って書いてある。


「そしたら欲しいやつに高値で売ればいい」


「あ、すごい! 特賞の次の1等は最新のマウンテンバイクですよ!」


 御手洗さんの発見に男子二人はモチベーションが上がった。

ハワイ旅行よりむしろそっちの方が欲しい。


「絵入さん、頼む。僕にマウンテンバイクを当ててくれ」


「いや、まだ私が引くと決めたわけでは…」


「どうせなら今のところ運が一番いいやつが引こうぜ」


「私クジ運とかないんですよね……」

そんな話をしつつ、話し合った結果、じゃんけんでの勝者が福引をひくことになった。

普段これと言って運がいいわけではないが珍しく僕が一回目で独り勝ちを決めた。


「もうハワイもらったようなもんじゃん!」

寧斗が無駄にハードルを上げてくる。


「多分今ので運使い果たしたパターンだよ」と、一応外れた時のために予防線を張っておく。


 福引き券は全部で10枚。2回抽選ができる。

4人で福引会場に向かうと、最終日なのもありそれなりに会場は混みあっていた。

時折からんからんと幸福の音色を上げる鐘の音が聞こえる。


「あれ、もうマウンテンバイク当てられちゃってませんか?」

景品一覧の掲示板を見て、1等のマウンテンバイクの写真に「景品交換済み」の張り紙があることに気づいた御手洗さんが残念そうにつぶやいた。


「えぇ、まじかよ……」とがっくり肩を落とす寧斗と僕。


「もう引かなくていいんじゃない?」

 すっかり意気消沈した僕の提案に「ハワイを頑張れよ」と絵入さんからガチ目の指摘が入った。

一番欲しい商品がすでに誰かの手に渡っていたためあまり意気込んで福引には望めなかった。

それでもこの色付きの玉が出てくる福引きの機械、回し手を持つだけで不思議とテンションが上がる。

 特にもう欲しいものが残っているわけでもないので、「今日の晩御飯何にしようかな」ぐらいの心ここにあらずな意気込みでジャラジャラと福引を回す。


 ジャラジャラ……コロッ


---飛び出してきた金色に輝く玉の色を目にした瞬間に周囲の音が消えた気がした。


「おめでとうございまぁぁす! ついに出ましたぁぁ!!」


その日一番と思われるような大きなハンドベルの音が商店街に鳴り響いた。


「み、みんな! ハワイッ! ハワイがあたっ、あたぁっ!!」


思いもよらぬ景品を引き当ててしまったという高揚感なのか、動揺と興奮でうまく呂律が回らなかった。


揚げたてのマラサダを頬張りながら、開放的な潮騒に身を委ねる妄想をせずにはいられなかった。



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