【第3話】といれっとなーばす⑥
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下校時刻になり僕たち4人は帰路についた。
「今日はなんか特訓とかするの?」
絵入さんに御手洗さんの強化合宿について聞いてみた。
「今日は週末に備えて休暇だ」
「休暇?」
週末が休暇ではないのか。
「土日は商店街で華子のはじめてのおつかいを決行する」
「えっ、そうなんですか……」
明らかに初耳のリアクションをする御手洗さん。
「お前たち二人にも手伝ってもらいたい」
僕と寧斗をピースサインで指差し絵入さんが告げる。
「私の感覚で進めるとブレーキが利かなくなることが稀にあるから、一応その保険だ」
「ブレーキが利く方が稀だと思うんだが……」
寧斗も思っていたであろうことを口にしてみたが聞こえていなかったのかスルーされた。
「わ、私は一体何をすれば……」
大まかな予告しか発表されていない御手洗さんが恐る恐る絵入さんに尋ねる。
「私の指示したお店でいろんな用足しをしてもらう」
思ってたよりも簡単そうだ。お惣菜とかを買うだけだったらそこまで会話もないだろうし。
「ただし買い物だけじゃない。私が日ごろ疑問に思っていることも店の人に聞いてもらう」
いきなりハードルが上がった……。
「む、無理です会話なんて!」
若干涙目になりながら絵入さんに縋り付き狼狽する御手洗さん。
「大丈夫だ心配するな。私も会話は苦手だ。お前だけじゃない」
……何も大丈夫要素がない。
「絵入さんが苦手なのは会話自体じゃなくてキャッチボールの方だと思うけどね……」
僕が思ったことを告げるとフッと自傷気味に鼻で笑っていた。
「途中まで絵入さんも一緒にいればいいんじゃないの?」
絵入さんも会話が苦手なら練習した方がいいと思って提案する。
「いや……それは……なぁ」
急に難色を示しだす絵入さん。
「道端でヘビイチゴとか食ったりするほうが根性あると思うんだが……」
寧斗が先日の商店街での一件を振り返って突っ込んだ。
「お、おねがいします。いきなり一人はきつすぎて心臓破裂しちゃいますから……」
絵入さんの無茶ぶりを想像してしまったのか御手洗さんは必死だった。
「し、仕方ないな……最初だけだぞ」
最終的に絵入さんが折れる形となった。
僕たちは明日の10時に商店街の入り口で集合する約束をしそれぞれの帰路についた。
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そして翌日……
「さてと、みんな揃ったみたいだけど……」
誰も遅刻することなくほぼ定刻通りに商店街入り口に4人集まった。
「絵入さんは休日も制服なの?」
「……なにか変だったか?」
こちらがおかしなことを言ったのではないかと一瞬考えてしまうほどあっけらかんと絵入さんは答えた。
「い、いや……変ではないけども」
すると、後方から抜戸さん、抜戸さん! と小さな声で何か焦った様子の御手洗さんに話しかけられる。
「絵入さん、どうやら私服を持ってないみたいなんです……」
「え、どういうこと?」
普通に意味が分からず聞き返す。
「ここ数日間一緒に生活して発覚したんですが、制服か甲冑しか彼女着ていないんです」
……本当にどういうこと?
「……寝る時も制服だし帰宅して着替えるのも制服なんです」
そういえば最初に絵入家トラップ殺人未遂事件で救出した時も制服を着ていた気がする。
御手洗さんも気になって道代さんに聞いてみたところ、何度か促しによって服を買いには行ったらしいが結局毎回何も買わずに帰ってきてしまっていたそうだ……。
なぜかパンの耳だけ毎回持ち帰ってきたらしいが……。
「もはや服じゃないじゃん」
いろいろ気になるところはあったが、個人の考えもあるだろうからあまり深く追求せずにしておく。
「んで、これから何するんだ?」
商店街の中を歩きながら寧斗が絵入さんに聞いた。
「おまえらおなか減ってるか?」
それぞれ早めに朝食を食べてたみたいで小腹が空いている程度だった。
「よし、それじゃ最初のミッションは肉屋さんでメンチカツだ!」
御手洗さんをまるで自分の手下を扱うように指令を出す絵入さん。
「あ、はい。そのくらいならなんとか……」
突然の指令に少し驚きつつも御手洗さんは承諾する。
「待て。ただ買ってくるだけじゃない。メンチカツのメンチの意味もお店の人に聞いてくるんだ」
「めっ!?えぇ~……絶対変な人だと思われますってぇ……」
絵入さんの後乗せミッションに怯える御手洗さん。
「変じゃないだろ、店の商品のことを聞くんだから」
「もっとソフトなやつにしませんかぁ……?」
すでにちょっと涙目になっている御手洗さん。
「う……。あ、甘えるんじゃない。これは訓練だ」
ふすっ、と両腕を組んで胸をはる絵入さん。
「あう……どうしてこんなことに」
これから美味しいメンチカツを食べるというのにゾンビのようなテンションで肉屋に足を運ぶ御手洗さん。
とぼとぼ歩いていく御手洗さんを遠巻きに見つつ、肉屋さんから一番近い…といっても辛うじて御手洗さんが見える位置にあるベンチに僕たち3人は腰かけた。
「確かに一緒に行ったら意味ないんだろうけど……遠くない?」
動きはわかるがとてもじゃないが会話の聞こえる距離ではない。
「ふっふっふ。そんなヘマを私がすると思ったかね明智君」
「誰が明智君だ」
意味深な含み笑いをしたかと思うと絵入さんは制服のポケットから小型の機械を取り出した。
「なんだ?ラジオか?」
「いや、小型の通信機だ。昨日道代に作ってもらった」
覗き込む寧斗に答える絵入さん。
電源を入れると消え入りそうな「うぅ~、恥ずかしいよぉ…」という御手洗さんの音声が届いた。
「お、しっかり聞き取れるな」
満足そうに絵入さんがうなずく。
肝心の御手洗さんといえば……さっきからお店の前で回遊魚の如く行ったり来たりしていて逆に悪目立ちしてしまっている。
「なにをしている。揚げたてのメンチカツが冷めてしまうではないか」
「わひゃあっ!!?」
不意に自分の襟のあたりから絵入さんの声が聞こえて軽く飛び跳ねて驚いている。
これによって周囲の通行人に注目された御手洗さんが近くの路地裏に身を潜めてしまった。
「え、絵入さん!?何ですかこれ!?」
絵入さんの通信機からいまだに動揺を隠せない御手洗さんの声が聞こえる。
「通信機だ。離れた距離でも会話が出来るよう今朝取り付けといた」
「そ、それなら事前に言ってくださいよ……心臓が止まるかと……」
「まぁ、困ってたらこれで助け舟も出せるから許してくれ」
絵入さんの説得に渋々息を整え、再度お肉屋さんに向かう御手洗さん。
ガサガサっという衝突音と同時に通信機から蚊の鳴くような声で「あっ!すみませんすみません……」という音声が届く。
「お、おい。ぶつかった電柱に謝罪してるぞ……」
緊張で前を全然見ていなかったのだろうか。寧斗が心配そうにつぶやく。
一通り謝罪すると顔を上げて相手が電柱だったことに気づく御手洗さん。
それを目撃した通行人がくすくす笑ってしまったため見る見るうちに御手洗さんの顔が赤くなるのが少し離れたこの距離でも分かる。
「華子、落ち着け。一回深呼吸だ」
絵入さんの指示に再び深呼吸して自分を落ち着かせようとする御手洗さん。
「あとちゃんと前を見るんだ。周囲の人はなんか適当な野菜だと思え」
「だいぶ難易度高いなそれ……」
絵入さんの無理な注文に思わず僕は口を出してしまう。
「急に野菜っていわれても……」
「カリフラワーかズッキーニのどっちかだ」
案の定困惑する御手洗さんに絵入さんが謎の助け舟を出す。
よりによってなんでその二択なんだろうか……。
「じゃ、じゃあズッキーニで……」
緊張のせいかまともな判断力が働かない御手洗さんは絵入さんの促すままに野菜を選ぶ。
先ほどよりは落ち着いたもののいまだ緊張した雰囲気でお肉屋さんに足を運ぶ御手洗さん。
店頭に立つとお客さんとしての先制攻撃を食らっていた。
「いらっしゃい!買い物かい?」
よく見る元気なタイプのおばちゃんだ。
「あ、えっと……メンチカツ4つください」
御手洗さんはすこし身構えてびくっとしていたが、あらかじめ買うものは決まっていたためスムーズに注文することができた。
「メンチカツね!ほかにはなんかあるかい?」
と、ここで絶好の質問チャンス到来。
「華子、いまだ。ぶちかませっ」
絵入さんもそう思ったのか物騒な物言いで御手洗さんに指令を飛ばす。
「うっ!あ、えーっと…メ…メン……」
「めん?」
今一つ踏ん切りがつかないのか、どもっている御手洗さんに肉屋のおばちゃんが聞き返す。
「めんたいこってこの辺で売ってますかね!?」
が、不発……。
「めんたいこ…ねぇ。魚屋さんに聞いてみるといいかもしれないね」
「あ……ありがとうございまひゅた……」
俯いたままメンチカツの支払いを済ませ負のオーラをまとった御手洗さんがとぼとぼこちらに帰ってきた。
「煮るなり焼くなり好きにすればいいじゃないですか……」
…完全にやさぐれていた。
「ま、まあ初回だったし! 次頑張ればいいよ……ね!?」
フォローの難しさに思わず寧斗にキラーパスをしてしまう。
「んえっ!? そっ、そうだな! メンチカツが買えただけでもう成功みたいなもんだって!」
「はぁ……消えてなくなりたい……」
相当なダメージだったのか、御手洗さんは夏休みの間に一度も水をあげなかった自由研究の朝顔みたいに萎んでいた。
「…ちなみにメンチの意味。諸説あるけど挽肉のことをミンチっていうよね? このミンチが徐々に転じてメンチになったっていうのが一般的みたい」
少しでも淀んだ空気を変えられればと、スマホで調べて絵入さんたちに伝えてみた。
「へぇ、そうなのか」
寧斗がさほど興味はなさそうに答えた。まぁ、調べた僕も同じような気持ちだった。
商店街に入ってからさほど時間は経過していないが初戦から御手洗さんの消耗は激しく、僕たちは近くのベンチで揚げたてのメンチカツを休憩がてら食べることにした。
カリカリの衣の触感もさることながら中からあふれ出る肉汁のうまみに思わず頬が緩む。
「美味しいです…!なんだか少し元気が出てきました」
その美味しさに御手洗さんの気持ちも少し回復したようだ。
「そうか、それはよかった」
御手洗さんの様子をちらちらと伺いながら絵入さんもメンチカツにかぶりつく。
「絵入さんそこ包み紙だよ」
御手洗さんを気にかけすぎたためノールックでメンチカツを食べようとして本体以外を食べている彼女に声をかけた。その様子を見て御手洗さんが笑っていた。
メンチカツを食べ終えて一息ついた僕たちは御手洗さんの意向を確認してみる。
「ちょっと落ち着いてきたんでもう少し頑張ってみようと思います。まだ来たばかりですしね」
前向きな意向を見せてくれた御手洗さんに、「あんまりきついときは無理せず言ってくれ」と絵入さんが気にかけていた。




