【第3話】といれっとなーばす⑤
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「……私が絵入さんと?」
「そう。基本常に一緒に行動して、人目に慣れてきたら最終的に同じ行動も行ってもらいたいんだ」
自分で提案しておいてなんだが人目を気にしなくなるという点においてはこれ以上の特訓はないであろう。
「なんだおまえら、人を変人みたいに」
「「「……」」」
その場にいた絵入さん以外の全員がこれでもかという訝しげな表情で絵入さんを見た。
そんな中、沈黙を破ったのは御手洗さんだった。
「わ、私やってみます! さっそく父に許可を取ってきますね!」
「え、御手洗さん許可って何の……」
僕が尋ねようとする間もなく御手洗さんは何かを決意したような顔つきで立ち上がって一階へと降りて行ってしまった。
「お、おい。許可なんていらねーだろ……」
寧斗が今まさにみんなが疑問に思っていることを口にする。
「いや、市役所に申請が必要だ」
「そ、そうなんですか!?」
絵入さんの突拍子のない虚言を真に受ける美多さん。
「で、でもほんとに何の許可だろう……」
さほど間もなくして階段を駆けのぼってくる音が聞こえた。
はぁはぁと息を切らして御手洗さんが部屋に飛び込んでくるなり言う。
「だ、大丈夫でした……お父さんも精一杯頑張れって応援してくれました!」
「そ、そう……、よかったね。でもわざわざ許可まで取らなくても……」
許可問題において僕が思ったことを伝える。
「え、でも外泊となるとさすがに無断では……」
御手洗さんがきょとんとしながら答えた。
「外泊?」
「はい……絵入さんと衣食住を共にするんですよね?」
……僕が思ってた提案よりヘビーな内容で受け止めてしまわれていたようだ。
「いや、そこまではさすがに……。あくまで学校生活の範疇での話だったんだけど」
「えっ、そうだったんですね……」
早とちりしてしまったことを恥じるように御手洗さんが小さくなった。
そんな状況を察してか否か、絵入さんがぼそりと口を開く。
「わたしは別に構わない」
気恥ずかしそう答えた絵入さんを見て美多さんがにっこりと笑う。
「せっかく許可もらえたんですし絵入さんも大丈夫ならやってみるのはいかがですか?」
「たしかにな。普段と違う環境に身を置くってのもいい訓練になるんじゃねぇの?」
美多さんの提案に寧斗も便乗する。
「ふ、不束者ですが! よ、よろしくおねがいします!」
そういって御手洗さんが地面に激突しそうな勢いで絵入さんに深々とお辞儀していた。
「ふふっ、それでは嫁入りではないか」
西園さんが御手洗さんの畏まりすぎた様子をみて思わず笑った。
「私の指導は甘くないぞ、果たしてついてこれるかな?」
不敵な微笑を浮かべ絵入さんがそんな冗談を御手洗さんに言う。
「が、頑張ります!」
と、御手洗さんが意気込んでいた。
紆余曲折こそあったが、
こうして御手洗さんの3泊4日の絵入式メンタル強化キャンプが幕を開けたのであった……。
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翌日……。
商店街へ向かう途中の公園で寧斗と二人で絵入さんと御手洗さんを待っていた。
「あの二人うまくやってんのか?」
「まぁ外に出歩く用事とかがなければ大丈夫じゃないかな。絵入さん一人暮らしだ…し…」
重要なことをを思い出して僕は固まった。
「ん?どうかしたのか?」
フリーズする僕の異変に気付いた寧斗が尋ねる。
「忘れてた……。絵入さん一人暮らしじゃないや……」
そう。彼女の住む家には変わったお手伝いのアンドロイドがいるのだ。
「アンドロイド? でもしゃべるわけじゃないんだろ?」
「いや、めっちゃ喋る。…なんなら絵入さんより喋る」
こんなことを言ったら絵入さんに失礼だが、事実なのだから仕方ない。
僕は道代さんのことを寧斗にざっくりと説明した。興味こそ示していたが今一つイメージできていないようだった。
そんなことを話していると後方から聞きなれた声で挨拶をされる。
「おはよ」
「ああ、おはよう…って、御手洗さん!?」
絵入さんの挨拶に振り返ると、今にもしぼんで消えてしまいそうな御手洗さんが隣に立っていた。
「(ボソボソ……)」
「え…、なんて?」
聞き取れずに思わず聞き返す僕におはようございますって言ってるぞ、と絵入さんが代弁する。
「なんでこんなに瀕死なの…」
「昨日晩御飯の食材がないから一緒に買い物に行っただけだぞ」
絵入さんの横の御手洗さんと思しき物体がふるふると体を震わせて救難信号を出している。
「なんか訳ありっぽいが…」
気の毒そうな目で見ながら寧斗がつぶやく。
「……っちゅうを……」
御手洗さんがかろうじて聞き取れない声量で何か言っている。
「え?」
「甲冑を着て買い物に行ったんです……絵入さん」
信じられない理由が飛び出した……。
「ええ…なんでそんなファッションチョイスしたの…」
絵入さんに説明を要求すると、
「ファッションは人それぞれだろう」というなんとも否定しづらい返答が来た。
「甲冑はどちらかというと武装だよ?」
無表情で言い訳をする絵入さんに思わず突っ込みをいれてしまう。
御手洗さんの話によれば絵入さんのその奇行のおかげで警察に呼び止められた挙句、謎の逃走劇を繰り広げたらしい。
御手洗さんは武装していなかったため顔を見られないようにそれはもう必死で走ったそうだ。
幸い制服ではなかったため学校に連絡が来ることはなさそうだが……悲惨とはこのことを言うのだろう。
「…ちなみにそんなんで夕食のおかずは買えたの?」
と、本来の目的が達成できたか確認してみると。
御手洗さんから「…夕飯はカップラーメンでした」わかりやすい回答が返ってきたのだった。
学校に向かって歩いてるうちに徐々に精神面が回復してきたのか御手洗さんが会話に混ざってこれるようになった。
「昨日はホントに辛かったです…あのまま警察に捕まって私の学校生活は終焉を迎えるものだと…」
「兜でうまく前が見えなくて転んだときは正直終わったと思った」
その場面を思い出したのか御手洗さんが笑う。
「ふふふ、わたしあの時本気で置き去りにして逃げようか迷いましたからね」
「結構派手に転んで警察もちょっと引いてたからな」
二人の屈託なく会話する様子を見て、寧斗がどこか嬉しそうに話す。
「なんかついこないだよりすげー打ち解けてるな。御手洗も気が付けばメガホン使ってないし」
寧斗の言うメガホンとは拡声器の事だろう。
「たしかに。あと、御手洗さんたまに相手の目を見るようになったよね」
「え、そ、そうですか? なんか言われてみると恥ずかしいですね」
赤面しながら照れ臭そうに顔を伏せる。
「わたしのおかげだな」
ふふんと得意げに胸を張る絵入さんに対し、
「いや、今聞いた感じちょっとアクセル踏みすぎだから」
一応暴走しすぎないように軽くブレーキを促す。
「あ、そういえば絵入さんのお家になんかすごい召使いさんがいました」
きっと道代さんのことだろう。確かになんかすごいとしか形容しようがない。
そんな会話を交わしながら学校にむかった。
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昼休み。
僕たちはお昼ご飯を買いに購買へと向かった。
御手洗さんは普段お父さんがお弁当を作ってくれるらしいが、今は絵入さん家から通学しているため手ぶらだ。
もちろん自業自得ではあるが昨日食材を買い損ねた絵入さんも弁当がないため僕たち4人は今日は揃って購買パンでランチをすることにしたのである。
仮説科学実験室を経由してきた寧斗が購買前で合流する。
「あいつらなんでもいいってよ」
あいつらとは西園さんと美多さんのことだ。
教室で昼ご飯を食べてると立華さんが嫌味を言ってくることがあるので僕たちは寛げる仮説科学実験室に避難することが多い。
今日もパンを買ったら御手洗さんの状況相談も含めそちらに向かう予定だ。
昼休みに入ったばかりだが、ここの購買パンは競争率が高い。
現着してみるとすでに結構人だかりができていた。
お昼少し前に商店街のパン屋さんから焼き立てのパンが配達されているらしく、基本どれを選んでもハズレがない。
「絵入さん何にするの?」
「これ」
人だかりから少し離れた場所で呆然と立ち尽くす絵入さんに声をかけると、いつのまにかとってきたパンを手に持っていた。
「ア、アストロパン……」
そう表記されたパンは食べ物には似つかわしくない宇宙を表現したサイケデリックな色合いをしている。
どうにも食欲をそそられないカラーリングだ。
「それが食べたかったの?」と聞いてみたところ、
「箱から飛び出して離れたとこに落っこちてた」とのことだった。
販売開始からさほど間もないというのにパン売り場ではいつの間にか奪い合いによる激闘が繰り広げられている。
「こ、こんな状況でパンなんて買えるんでしょうか……?」
御手洗さんが僕たちも少々疑問に思っていたことを代弁してくれた。
「俺こないだ買ったけど、あの砂ぼこりが舞い上がってる激戦区はパンの一歩手前なんだぜ」
寧斗曰くそこを抜けてしまえば案外ゆっくりパン選びはできるとのことらしい。
「……なんかそれ本末転倒じゃないか?」
お祭りと一緒で一種のトランス状態みたいな感じなのかもしれない。
案外パンよりもその手前で繰り広げられる血沸き肉躍るバトルのほうがみんなの目的だったりするんじゃないかと思ってしまう。
「まぁそういう暗黙のルールがあるらしい。……で、抜戸は何を食べるんだ?」
「あったらの話だけど、王道で焼きそばパンかな」
寧斗に聞かれ答える。
「人気商品じゃんか。残ってるかわからんが頑張っていってみるか!」
そういって寧斗とともに激闘の渦へと飛び込んでいく。
人込みで視界がひらけない状況で前進しようとするが押し返されてしまう。
「ぐえっ!?」
それどころかどこからともなく飛んできた蹴りが脇腹に命中した。
しばしの間もみくちゃにされた後にペッ!と戦いの群れから僕だけ弾き出された…。
「一瞬で使い古された雑巾みたいになったな」
「う、うるさいな」
絵入さんのどこか憐れんだような目を向けられ心まで傷つけられる。
再度その前線に飛び込んでみたものの、先ほどより激しいコンボを決められ満身創痍で群れから弾き出された。
なんならズボンが半分脱げていたくらいだ。
「……せめて笑ってくれ」
「……」
目も当てられぬ状況に言葉を出せずにいる絵入さんと御手洗さんが口をつぐんでいた。
突入する勇気を失い、心が折れた僕は絵入さんと御手洗さんと体育すわりで遠巻きから争いが収まるのを眺めることにした。
少しして戦地から人数分のパンを抱えた寧斗が生還した。
「ほらよ、好きなの選びな」
「すげーな寧斗、マジで尊敬するよ」
心なしか後光が差して見える寧斗に感謝を述べ、食べたかった焼きそばパンを受け取って代金を渡す。
「多見さんありがとうございます」
御手洗さんもペコリとお辞儀してグラタンパンなるものを受け取った。
「おうよ。……絵入はそのパンでいいのか?」
寧斗がアストロパンを見て一応確かめる。
絵入さんもこくりとうなずいてお金を払いに行った。
「何味なんだあのパン……」
見た目からおおよその味の予想がつけられないアストロパンを見て寧斗が言う。
「案外美味しかったりして」となんとなく期待値は低そうなことを僕は言った。
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絵入さんが会計を済ませてから僕たちは仮設科学実験室に向かう。
無表情だがどこか機嫌よさそうに変なパンを抱きしめて絵入さんが鼻歌を歌っている。
「それ毒とか入ってんじゃないの?」
絵入さんに半分本気の冗談を言ってみた。
よく見るとパンの袋に「開けよ!新世界の扉!」と書いてある……。
「市販のものに毒が入ってるわけがないだろ」
とめずらしくまともな返答が返ってきた。
「成分表とか見ると大体の味の予想とかできそうですけど、わからないまま食べるほうがドキドキしますよね」
御手洗さんがフォローをいれる中、材料を見ようとする僕と寧斗の気配を感じ取ったのか絵入さんがネタバレを防ぐためか変なパンを一層強く抱きしめた。
そんなやり取りをしているうちに仮設科学実験室についた。
部屋のドアを開けると咲くような笑顔で美多さんが迎え入れる。
「あ、おかえりなさーい!」
「寧斗のおかげで人数分のパンが買えたよ」
テーブルの上に戦利品が広げられる。
美多さんも西園さんもそれぞれ好みのパンを選んでみんなで昼ご飯を食べることに。
「こ、この夕張メロンパン桁違いに美味しいです!」
メロンパンを頬張りつつ目を輝かせて美多さんが絶賛していた。
とても自然な流れでメロンパンを食べているが僕はふとあることを疑問に思う。
「あ、あのさ。大丈夫なの?」
「ん?なにがだ?」
たっぷり詰まった卵サンドを食べながら西園さんが首をかしげる。
「いや美多さんアンドロイドなんだよね?普通の食品とか食べて故障とかしないのかなって…」
素朴な疑問に対して鼻で笑って西園さんが説明する。
「以前もコーヒーの味なんか言ってたから分かっているのかとおもっていたんだが、美多には味覚が搭載されている。もちろん食べたものを彼女のエネルギーに変換する装置もな」
「それってかなりすごいことなんじゃ……」
西園さんの科学技術インフレがすごすぎて、その気になれば今日中にでもノーベル賞とかとれちゃうんじゃないだろうかと思ってしまう。
「味の判定する機械が世の中にはあるんだ。その応用だと思えば簡単な仕組みなんだ」
「そういうもんかな……」
それを簡単と思える西園さんの脳の仕組みがすごいんじゃないだろうか。
「それはそうと……なんだその得体のしれないパンは」
カラーリングからさすがにスルーできなかったのか、西園さんが絵入さんの頬張る極彩色のパンを指さす。
「あふほろふぁん」
口いっぱいにアストロパンを頬張りながら絵入さんが答える。
いまいち聞き取れなかった西園さんに横から補足する。
「アストロパンっていう度胸試し枠の購買パンみたい」
「すごい色してますね……。何味なんですか?」
美多さんが口の周りにメロンパンの食べかすをつけたまま机に乗り出して絵入さんのアストロパンを興味津々に見つめる。
眉間にしわを寄せた絵入さんが味を再確認しつつ答える。こころなしか若干震えている気がする。
「ベースはブルーベリーみたいな感じ……」
「うまそうじゃん」
絵入さんの食レポが案外普通の味でどこかつまらなそうな寧斗。
しかしここで眉間にしわを寄せた理由が発覚する。
「でも後から鯖缶の味も攻めてくる……」
「うわあ……」
想像したくない組み合わせだ。
「なんとなくセロリの味もする」
「今のところ出てきた味の情報のベクトルが恐ろしく全部違う方向なんだが……」
自分の選んだものが卵サンドでよかったという表情を浮かべる西園さん。
誰もが味見を申し出ない中、絵入さんが不意に僕の方を向いて言う。
「楽、ちょっと食べてみるか?」
「……」
正直言葉での伝達ではイメージが付きづらいところがあったのでせっかくだから一口もらってみることにした。
触った感じは普通のパンだ。なにかが中に詰まっている感じはない。
一応匂いも嗅いでみる。
「……うーん、香りはあれだな。練り消しのコーラの匂いだな」
正直あまり食欲を掻き立てられないスメルだった。
「また新たな情報が出てきたな……」
寧斗がアストロパンを流し目で見据えて言う。
数人のギャラリーが見守る中、意を決してパンを口に放り込んだ。
沈黙の中、僕のパンを咀嚼するもちゃもちゃという音だけが反響する。
「あああ、なんて言えばいいんだろう……、不味いわけではないんだけど……ベースはマーマレード系。で、混ざるわけではなくいきなり豚骨ラーメンが来る……」
自分で言っていて思ったが、先ほどの絵入さんの感想と全然違うな。
「絵入さんの言っていた情報と一つも被りませんでしたね……」
御手洗さんも同様の考えだったようだ。
結局誰もが味のイメージをつけることができず、その場にいる全員が一口ずつ味見をしたが三者三様の食レポになるという摩訶不思議な現象が起きた。
昼休みが終わっても、結局何味だったのか分からないモヤモヤは残り、一時的にそのことしか考えられない状況にまで至った。……恐るべしアストロパン。




