【第3話】といれっとなーばす⑩
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---翌日。
ついに学年発表会当日。
いつもの通学路で絵入さん、寧斗と合流して焙煎堂の前で御手洗さんの合流を待っていた。
軽やかなチャイムベルの音とは反して中から出てきた御手洗さんは誰が見てもわかるくらいに意気消沈していた。
「お、おい大丈夫か……」
寧斗が心配するのも無理はない。幽霊とも見間違えそうな今の状態の御手洗さんと夜にでも出くわしたら僕は間違いなく失禁してしまう自信がある。
「あ、いえ……大丈夫です。今日のことが気になってあまりよく眠れなくて」
そうだろうなとは思ったが目の下にクマもできて完全に寝不足だと思われる。
「発表が終わればゆっくり眠れるよ」
それまでの辛抱だと御手洗さんを元気づけた。
絵入さんもちらちらと落ち着かなそうに顔色を窺っている。
「朝ごはんはしっかり食べたのか?」
絵入さんなりの気遣いなのだろう。そんな声掛けをしていた。
「大丈夫だよ絵入さん、ありがとね」
弱弱しい笑顔を見せる御手洗さんに渡すため、カバンから昨日作った(?)お守りを取り出す絵入さん。
「これ……今日頑張れるように」
そういって御手洗さんにぶっきらぼうにお守りを渡した。
「えっ、これ……お守り? 私に?」
恥ずかしいのかうまく視線を合わせられずにこくんと頷く絵入さん。
「うわぁ! すごく嬉しい! ありがとう絵入さん!」
ぱあっと咲くような笑顔で御手洗さんがお守りを喜んでいた。
そのあとも御手洗さんは学校につくまでお守りを手放さなかったのでよほど嬉しかったのだろう。
学年発表会はお昼休みの後に講堂で行われる。
午前の授業を終えた僕たちは昼休みに仮設科学実験室に向かった。
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「いよいよだな。……そのひどいクマを見るに寝不足のようだが」
「博士も御手洗さんのこと言えないですけどね」
御手洗さんと遜色ないくらいに常にクマをつけている西園さんにもっともなことを言う美多さん。
「私はいいんだショートスリーパーだから」
クマができてる時点で熟眠できていないからショートスリーパーを自称するのはちょっと違うような気もする。
「やっぱり目前となると意識しちゃって寝付けませんでした……」
僕たちと出会う前の御手洗さんを思い返せばむしろそのレベルで済んでよかったとさえ思えてしまう。
身投げしそうなメンタリティだったが絵入さんとの強化合宿で鍛えられたのだろう。
「壇上でぶっ倒れないようにちょっと休んでおいた方がいいんじゃねえの?」
心配しながら寧斗がそんな提案をした。
「いやぁ、今寝ちゃったら多分起きれなくなりそうなんでやめときます」
お気遣いありがとうございます、と力なく笑う御手洗さん。
そんな御手洗さんの様子を見て美多さんが思い出したかのように言った。
「あ! そういえばこないだ実験で作った博士の栄養ドリンクありませんでしたっけ?」
御手洗さんにあげたらどうですかと提案する。
「ああ、あれか。リラックスエナジー君プロトタイプMark2」
……プロトタイプなのにMark2とは?と思ったが、個性光るネーミングのエナジードリンクのようだ。
「それ大丈夫なやつなの?」
一抹の不安がよぎって西園さんに聞いてみた。
「失敬な。私の作るものに失敗作などない」
「最初の出会いは暴発音とけむりまみれだった気がするなあ」
西園さんの片方の瞼がぴくっと反応した。
「あれも失敗ではない。煙幕発生装置だったからな、ははは」
「え? あれって確か私の武装パーツの発明だっていってませんでし……」
げほんっ! うっうんっ! とわざとらしく盛大な咳ばらいをする西園さん。
「さてと、話を戻そう。まぁ一応お守りみたいなもんだ。一本持っていくといい御手洗君」
そういって西園さんがドリンクの陳列されてる棚を指さす。
「ありがとうございます! 発表直前に飲ませていただきます」
「常温なんだね。冷やした方が美味しいんじゃない?」
僕の疑問に西園さんが苦笑いで答える。
「あー……それな。成分調整が実験段階で冷やすと爆発するんだ」
「いやいや!失敗作じゃん!」
思わず吹き出しながら突っ込んでしまった。
「し、失敗じゃないもん! 実験段階なだけだもん!」
図星だったのか珍しくムキになって否定する西園さんはなんだかかわいらしかった。
「大丈夫です! 味は美味しいミックスオレなんでっ!」
美多さんが何が大丈夫なのかよくわからないフォローをいれてきた。
「じょ……ふっ!……常温で飲むから大丈夫ですよ」
御手洗さんもちょっと吹き出しそうになるのを堪えていた気がするが、例のエナジードリンクを手に取りお弁当の入れ物にしまった。
「じゃあ放課後にまた来る」
絵入さんが無表情で敬礼を決めて仮設科学実験室を後にした。
「まるで自分が発表するかのような振る舞いじゃねーか」
寧斗に言われる絵入さんを見た御手洗さんがクスクスと笑っていた。
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そしてついに発表の時間が来た。
講堂に全校生徒が集まり学年ごとに着席していく。
発表直前までは10秒おきに手に人という字を書いて飲み込んでいた御手洗さんだったが、結論から言うとあれほど前途多難と思われた発表も大きなトラブルに見舞われることなく無事終了した。
緊張もあり時々声が裏返ってしまうことあったが一緒に強化合宿を終えた僕たちに見守られながらここ数日の彼女の周りで起こった出来事が発表された。
……引っ込み思案の強い自分を助けてくれる友達に出会えたことを。
優秀賞には選ばれなかったが学年発表会自体は無事終わったのであった。
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全ての学年の発表が終わって僕たちは教室に戻ってきた。
極度の緊張にさらされたことは変わらなかったのだろう。
御手洗さんはクラスのみんなより少し遅れて教室に帰ってきて、自分の席に着地すると空気の抜けた風船のようにそのまま机に倒れこんだ。
「お疲れ様」
絵入さん、寧斗とともに近づいて労いの言葉をかけた。
「ふわああああ、壇上で心臓飛び出して死んじゃうのかと思いました……」
安心感からか若干涙目になりながら御手洗さんが答えた。
「エナジードリンクは少しは効いたのか?」
絵入さんが遠巻きに顔を覗き込みつつ尋ねた。
「あっ! すっかり忘れてました! 控えの場所に向かってから思考がほぼ停止していたので……」
そういってランチョンバッグから常温のエナジードリンクを取り出す御手洗さん。
「もうノドからっからです、常温なのが少し惜しいですがいただきます」
そういって封を切ると一口二口恐る恐る口に運んだ。
「あ、美味しいですこれ」
よほどノドが渇いていたのだろう。そういって一気に飲み干してしまった。
「でもミックスオレの味はしませんね。コーラみたいな味がします」
美多さんの言っていたミックスオレ風味とはいったい何だったのか。
自作した飲物の味も正確に把握してないのかとか言ったらまた西園さんが怒り出しそうだなと思った。
「まぁ一番の勇気はこのお守りからもらえた気がします」
そういって絵入さんが渡したお守りを大切そうに見せてくれた。
ずっと握りしめていたのだろうか、うっすらとしわができている気がする。
「役に立ったなら……よかったな」
絵入さんが気恥ずかしそうにポリポリと鼻の頭をかいていた。
一部のクラスメイトが御手洗さんの横を通るたびに「大変だったね」や「お疲れ様」などの声掛けをしていった。
普段話したことがない人だったためか御手洗さん自身も反応に困って「ぱっ……」「ぴっ……」などの奇声を発していた。
「相変わらず俺たち以外とはそんな感じなんだな」
寧斗が少し呆れたように茶化していた。
以前はそもそも認知されてないから話しかけられるということがなかったんですよね、という御手洗さんの悲しすぎる返答に僕たちは小さめの地雷を踏んだような気分になった。
「頑張って自分から話しかけてみようとした時期もありましたが声が小さすぎたのかスルーされちゃって」
「絵入さんに見つかってよかったね」
幸か不幸か……そんなことを思いながら。
「最初はトイレのおばけかとおもったけどな」
無表情で懐かしむようなことを言う絵入さん。
そんな雑談をしているとクラスの中にこちらを面白くなさそうに眺めている人がいるのに気づく。
「……」
御手洗さんも気づいているようだ。いつも通り振舞おうとしていいるがやはり居心地が悪そうだ。
せっかく楽しい気持ちで終わろうとしているのに、どうしてあの人はそれを台無しにするんだろう。
そんなことを考えているうちに、
放っておいてくれればいいのに、
……その人物は僕たちに接触してきた。
「ちょっといいかしらぁ」
立華さんは取り巻きを引き連れて御手洗さんの正面にずかずかと歩み寄ってきた。
御手洗さんは恐怖からか立華さんから目をそらして怯えている。
「さっきの発表のことなんだけどぉ、優秀賞がとれなかったら正直意味がないとおもわなぁい?」
そのへんどう思ってるのかしらぁ、とこれ以上ないくらい厭味ったらしく御手洗さんを責めだした。
「くじ引きだったからしょうがないとはいえ私に権利を譲渡すればよかったんじゃないの?」
「なんだよいきなり突っかかってきて。おめぇだったら優秀賞とってたっていうのかよ?」
すでにちょっとキレてる寧斗がクイーンを睨む。
「そうよぉ」
クイーンは取り巻きがいる手前強気でいるのか寧斗の凄みにもあまり怯まない。
さすがに僕も立華さんの理不尽な八つ当たりに反発する。
「そこまで言うなら立候補でもなんでもすればよかったんじゃないの?」
「そんなことしたらクラスとしての主体性がないじゃな~い?」
こうして突っかかってきている時点でそもそも主体性破綻しているんじゃないのと思う。
そして八つ当たりはなぜか絵入さんにも飛び火した。
「あら、またあなたなのぉ? あたしのクラスで勝手な行動ばっかりされて正直迷惑なんですけど?」
絵入さんが少しの沈黙ののちに何かに気づいたのか僕と寧斗を二度見し、……もしかして私が言われてます?と言いたげな顔で自分のことを指さした。
「もしかしなくても絵入さんでしょ」と呆れ気味に僕は突っ込みをいれた。
「そ……」
と、ここで弱弱しくも憤りを隠せない小さな声が聞こえた。
「そんな言い方ないじゃないですか……!」
それはさっきまで震えていた……というか現在進行形で震えている御手洗さんだった。
両目に溢れんばかりの涙をいっぱい貯めてふるふると震えている。
「はぁ? ちっとも聞こえないんですけど~。もっとちゃんと喋ってくださる?」
先ほど絵入さんに自覚のない煽りをかまされた立華さんは見事に苛立っておりタイミングも悪かったのか御手洗さんに詰め寄って、
……あろうことかその手から絵入さんのお守りを取り上げた。
僕と寧斗が取り返そうとしたが間に合わず、立華さんは絵入さんのお守りをそのまま床にたたきつけた。
---クラス内の空気が凍り付く。
普段無表情の絵入さんも何かを心配したような表情をしている。
「な、なんちゅう罰当たりな……」
……え、心配するのそっち?
しかし、結果的に絵入さんの心配は当たっていた。
「はぁ、なんかしらけちゃった。行きましょう皆さん」
立華さんが取り巻きに声をかけて踵を返した時だった。
「くそが……」
あ、やばい。
多分この流れは寧斗がキレて暴走するのではないかと一瞬身構えたが、
寧斗の声でないことに気づいて振り向く。
「えっ?」
僕の少し後ろで静かに俯いていた御手洗さんが、重く低い声で彼女が決して発することのない言葉を発した。
「御手洗さん……?」
普段かけている度のきつそうな眼鏡を外し、ガシガシと前髪を掻き上げて先ほどよりドスの効いた声で立華さんを呼び止めた。
「おい止まれ、このくそ女」




