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【第3話】といれっとなーばす②


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「……御手洗華子みたらいかこです」


 空き教室の机に座った噂のお化けが自己紹介をした。


 流れをまとめると絵入さんにいきなり扉を開けられ驚いた彼女は立ち上がろうとしたが腰を抜かして絵入さんの方に倒れこんでしまったのだそう。


 トイレの前まで這って出た絵入さんたちだったが、誰かに見つかって騒ぎになるのも面倒だったので

立ち上がれずにいた御手洗女子を僕と音糸で両脇から抱え魔界トイレの近くの空き教室に移動したのだった。


 僕たちも軽い自己紹介を済ませる。


「で、御手洗さんはなんであんなとこにいたの?」

素朴な疑問をぶつけてみる。


 長すぎる前髪で表情こそ見えないがハッとしたように顔をあげてぼそぼそと話す御手洗さん。


一生懸命何か言ってるけど声量が脆弱すぎて全然聞きとれない……。


「なんで便所でご飯食べてたんだ?」

隣にいた絵入さんも目撃したことをそのまま尋ねる。


 ビクッと驚いたような仕草の後に絵入さんの方を向いてまたぼそぼそと何かを話す御手洗さん。


「便所はご飯食べるところじゃないだろ。……まあ、あそこが落ち着くのはなんとなく分かるけど……」


「ちょ、ちょっとストップ! さっきから御手洗さんの声帯が仕事してない!」


絵入さんとのみ会話が繰り広げられていたため堪えきれず僕は止めに入る。


「おまえよく聞き取れるな」

良かった、僕だけじゃなかった。

寧斗も僕同様に聞き取れていなかったようだ。


 御手洗さんの声量自体少ないこともさることながら、前髪がフィルター的な役割をはたしてさらにウィスパーボイスに仕上がっているんだと推測する。


「いいもの見つけた」


絵入さんがどこから見つけてきたのか小型の拡声器を御手洗さんに手渡す。


「あ……す、すみません。普段から声をあまり出さないのでこれでも精いっぱい出してる方なんです……」


「そ、そうなんだ」


 拡声器を使っているのに机が少し動いた音とかでも紛れてしまうほどの小さな声だった。

僕たちは耳を澄ませつつ会話を続ける。


「トイレでご飯を食ってたのはとりあえず置いといて、何で泣いてたんだ?」


「泣いてた……?」


ん?と思い当たる節がないように首を傾げる御手洗さん。


「あ……もしかしたら鼻をすすった音……かも知れません。私鼻炎もちで埃っぽいところにいるとグスグスしちゃって……」


 とりあえずお化けとかではないことが判明したが御手洗さんの話から察するに、彼女は自分のクラスにうまく馴染めていないのかもしれない。

 あえて一人でトイレでご飯を食べる……噂には聞いたことがあるが便所飯ってやつかもしれない。

彼女も何らかの理由で孤立してしまっているのだろうか……。

 どこのクラス、いやそもそも同じ学年なのかもわからないのだが。


「どうして自分の教室で食わないんだ?」

と、ここでなんとなく予想はしていたが我らが宇宙人、絵入女子のデリカシー皆無な質問が飛び出した。


「あう……それは……」

少しの沈黙ののちに御手洗さんはぽつりぽつりと話し出した。


「私、クラスに友達がいなくて……一人で食べてた時期もあったんですけど誰かに見られているような気がすると息苦しくなっちゃって……」


「じゃあ私が一緒に昼飯を食ってやろう」

特に迷いもなく絵入さんがそう言った。


「え……?」

予想しなかった答えが返ってきて戸惑いが隠せない様子の御手洗さん。


「い、いいんですか? 私なんかといると暗いやつだと思われちゃうかもしれませんよ……」


「大丈夫。そのかわり弁当に入ってたタコのウィンナーをいただく」


「変な交換条件出してんじゃねーよ!」

音糸が思わず突っ込みを入れた。


「せこいやつだなぁ……」

僕も思ったことを本人に言う。


「いや、お前らあのタコさんウィンナーを見てないからそんなことが言えるんだ」

あの出会いがしらの一瞬でよく弁当の内容を見れたもんだな、とよくわからない感心をする。


「御手洗さん、はじめは僕たちも一緒でもいいかな? 絵入さんとマンツーマンだといろんな意味で大変だと思うから」


「下手したら弁当丸ごとパンの耳と交換させられちまう可能性もあるからな」

僕の助言に寧斗も便乗する。


 散々な言われ様に無表情で否定も肯定もせずに黙秘する絵入さん。

ギクッとした表情から察するに……若干指摘されたことが図星だったのかもしれない。


「ふふっ……」

僕たちのやり取りにおもわず笑ってしまった御手洗さん。

表情が全くうかがえないレベルの長髪のせいもあり若干ホラー要素を感じてしまう。


「そういえば一緒にご飯食べるのはいいけど御手洗さんクラスってどこなの?」

何気なく聞いてみたが直後にとんでもなく失礼な質問を僕はしていたことを知る。


「2-Bですけど……」


「へぇ~……えっ!!?」


御手洗さんの言い放ったクラスは紛れもなく僕たち3人のクラスだった。


「それは僕たちのクラスだよね?」


そうですけど……?とキョトンとした顔で答える御手洗さん。


「そうじゃなくて御手洗さんのクラスを教えてほしいんだ」


と、ここで。

何かにものすごい衝撃を受けたような表情が御手洗さんのわずかな前髪の隙間から見えたかと思うとぼろぼろと大粒の涙を流して泣き出してしまった。


「う……ぐすっ……。私、おなじクラスなんですが……」


「えっ!!? あっ、嘘!? ごめん!」


「うわあ、最低だなお前」


絵入さんが誹謗の視線を向けてくるがどこか焦点が合わない……。

寧斗も僕を責めず両腕を組んで天井を見つめている。絵入さん同様にどこか気まずそうに落ち着かない。


 今この場で御手洗さんがおなじクラスであることを二人も初めて知ったのだろう。

だがこの状況で絶対お前らも知らなかったろ!! とは口が裂けても言えない。


 無意識にとはいえ御手洗さんを傷つけてしまったのは事実なのでただただ平謝りをするしかなかった。

御手洗さんもすぐに泣き止んではいたが僕との間には大きな溝ができてしまったに違いない。


「へ、平気です。お気になさらないでください……。クラスで話したこともなかったですし……」


うっ……! 健気な姿勢で来られてしまうと逆に精神がえぐられるようだ……。

過去に味わったことのない気まずい空気が申し分なく漂う……。


「アナコンダの穴、混んだ」


「……」


 絵入さんが気を利かせてなのかよくわからないダジャレを放ったが不発に終わった。

あれ?あれ?と不思議そうな表情で周りを見渡して、どうやら僕たちが聞き取れなかったと思ったらしい。


「アナコンダの」

キーンコーンカーンコーン。

ここでタイミング良く昼休み終了のチャイムが鳴る。


白けた目で寧斗に睨まれる絵入さん。めずらしく羞恥のあまりに顔を赤らめている。僕が同じ立場だったら数日は寝込むかもしれない。


 しかしこれで懲りる絵入さんではなかった。

ゆっくりと深呼吸し彼女は自ら地雷を踏みに行くスタイルを貫こうとした。


「アナコ…」

「昼休み終わっちゃいましたね! きょ、教室に戻りましょう!」

沈黙を破るように今日一の声をだして御手洗さんが椅子から立ち上がった。


「そうだな、次の授業に遅れちまう」

御手洗さんに習って寧斗と僕も椅子から立ち上がる。

絵入さんに関しては続けざまの失敗のせいか小刻みにぷるぷる震えていた。


「何やってんの、遅刻しちゃうから」

立ち上がろうとしない絵入さんの手を引いて空き教室を後にした。

教室に向かう途中で御手洗さんに聞こえないように少し後ろにはなれて寧斗に確認してみた。


「ねぇ一緒のクラスだって知ってた?」

「・・・俺は学年さえ違うと思っていた」

表情を崩さず、されど僕に対しては申し訳なさそうに寧斗は言った。


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 午後の授業が終わり帰りのホームルームになった。

気怠そうに藤崎が教室に入ってきて言った。


「あーそうそう。来月の末に学年発表会があるんだ。毎年ランダムで各学年から代表で1クラス選ばれるんだが……なんと今年はうちのクラスだぁ」


教室内から「え~、まじかよ~」「あの作文読むやつでしょ?」などの雑談があちらこちらから聞こえる。


「せんせ~、なんで今年はうちのクラスなんですかぁ~?」


足を組んで毛先を指で遊びながら気怠そうに美咲さんが質問する。


「俺もやりたくはなかったんだが、先週くじ引きで運悪くあたりを引いちゃってな」


クラスから冷ややかな視線を受けつつ藤崎が続ける。


「まっ、出来のいい発表をすればクラス全員の成績表に太鼓判を押せるから受験には有利になるぞー」

そういってブーイングをうまい具合に相殺した。


「来週までには発表会の代表を選出しなくちゃなんないから明日のホームルームで話し合いするからなー」


ちょいちょいと背中をペンでつつかれる。

俊介が割とまじな表情で話しかけてきた。


「クイーンのいるこのクラスで代表なんて絶対やりたくないよな……」


俊介の言うクイーンとは立華美咲さんのことで間違いないだろう。


「もし……もし仮にだぜ? オリンピックで人のやることに嫌味言ったりいちゃもんつけたりする競技があったらあいつは間違いなく金メダルだよ」


「……そんなオリンピック見たくない」


想像しただけでも軽く胃もたれを起こしそうだ……。


 そういえば御手洗さんが同じクラスだったということをふと思い出した。

見つけるまでにすこし時間がかかったがどうやら窓際の僕たちと同じ後列だが、教室の入り口に近いところにいた。


 背筋こそピンと伸びているが微動だにせずまるで教室の風景に溶け込もうとしているかのようだった。

御手洗さんの周囲は割かし背の高い生徒が多く、もともとの静かな性格も相まってかその薄すぎる存在感にステルス性すら付与されてしまっていた。


 HRが終わって帰り支度をしている絵入さんに話しかける。


「せっかく知り合いになったんだし一緒に帰るか誘ってみる?」

そういって視線でくいっと御手洗さんの方を指した。

あちらも鞄に教科書などをつめていてこれから帰るところのようだ。

同じ考えだったのか絵入さんも小さくうなずく。


「まあ、帰る方向が一緒ならの話だけどね」

商店街経由だと途中まで一緒に帰れそうだが・・・。


「聞いてみる」

そういうと絵入さんは徐に立ち上がり、タタッと御手洗さんの方に駆け寄って行った。


「なにやってんだあいつ?」

どこかから帰ってきた寧斗が席に着きながら僕に尋ねてきた。


「御手洗さん誘って下校しようって話をしててさ」


「おー、いいんじゃね」

頬杖をつく寧斗と遠巻きに絵入さんの様子を眺める。

……なぜわざわざ背後から忍び寄っているんだろうか。


 その表情の真剣さは職人顔負けのそれだったが、その手にはなにやら隠し持っている。

御手洗さんの方も帰り支度に集中しているようで絵入さんの気配に気づく様子はない。

結局気づかれることないまま背後に立つことに成功。


 どこで手に入れたのか分からないつちのこの様なおもちゃを御手洗さんの右後頭部付近で勢いよく握りしめる。


 ぐえーっという奇妙な鳴き声とともにつちのこから舌がちろりんと飛び出した。


「ひぎっ……!!」

声にならない声を出して御手洗さんが硬直した……。


「お、おい……大丈夫か?」

絵入さんが固まって動かない御手洗さんに声をかけるが一向に動く気配がない。

僕と寧斗も近づいてみると絵入さんが御手洗さんの手首に触れて脈を確認する……。


「あっ。し…死んでる……!」


「絵入さん、その押さえてるとこ親指の第一関節だよ」

当然脈が触れるはずもない。


「う、ここは……」

と、ここで御手洗さんが動き出した。


「ショックで一瞬気絶してたみたいだな」

寧斗が冷静に状況を把握して話す。


「お、おい。びっくりさせるなよ……」

びっくりさせたのはお前だろ。

絵入さんは危うく自分が殺人の罪を被りかけたことに焦ったのかどこか挙動不審だ。


「大丈夫?御手洗さん」

気絶までの流れを伝えると御手洗さんは怒るでもなく申し訳なさそうにしていた。


「……(もにょもにょ)」

そして口元は動いているのだが相変わらず声帯が機能しておらず会話が成り立たない。


「ん」

絵入さんが先ほど空き教室で使った拡声器をすかさず手渡す。

ていうかまだ持ってたんだそれ。


ガガガッ、とスイッチが入った後にやっと御手洗さんの肉声が届いた。

「ご、ごめんなさい……。普段教室で話しかけられることなんて無いから驚いちゃって」


この人普段どんだけひっそりと生きているんだろう……。


「あ、そういえばなんか用事でもありました……?」

御手洗さんが話を元に戻す。


「さっき絵入さんと話してて帰り道が一緒だったら一緒に帰るのはどうかなって」


「俺たち商店街を抜けるとこまで一緒だからよ」


僕と寧斗に言いたいことは全部言われたのか、御手洗さんを見つめてコクコクと真顔でうなずく絵入さん。


「え、いいんですか!?」と今日一の声量とリアクションを示す御手洗さん。


 自分の出した声に周囲を申し訳なさそうに見渡しつつ声を潜めて言った。

……見た感じ誰も聞こえてなさそうだったが。


「(ひそひそ)私の家商店街の中にあるんです、ぜひご一緒させてください」


 絵入さんが僕の方をちろっとみてうれしいような恥ずかしいような良くわからない表情で「作戦成功」と言った。

 この学校に来て初めてのクラスメイトの女友達ができたのだ。その表情の理由はなんとなく想像できた。



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