暗黒の襲来
〜翌日〜
王都でも最大の大通りを、とある五人組が闊歩する。
言うまでもなく、ロキたちであった。
早朝、王城でメイクを済ませた彼らは、貸服屋へ。華美に着飾り、王城へ向かっているというわけである。
そんな彼女らは、美女美少女の集まり。ロキは男で度外視されるとしても、彼は彼で一応美形の仲間である。
王都の視線を全て釘付けにしていると言っても良い。
「なんだか注目されてるね」
「そらそうやて。これだけ豪華な格好しとったら」
「ふふ。いい気分だわ」
「早く通り過ぎてしまいたいです。好奇の視線は好きではありません」
メイクはすべて、彼女らの魅力を邪魔しないよう、最小限にとどめてある。
「はぁ。早く脱ぎたいな」
「早すぎるよロキ。これから半日着るんだよ?」
「そうやで。せっかくの晴れ着やねんから、ピシッとし」
「どうせ数人しか出席しないパーティーなのだから、たいして畏まる必要もないと思うけれどね」
「それでも国王陛下の御前ですから、着崩すのはいけませんよ」
「はぁ。面倒だ」
気だるげな態度を取りつつも、衣服のせいか、姿勢は正しいロキ。
美女美少女と行動を共にする彼には、王都中の男性から羨望の視線が集まっていた。
「うわ、ロキ、めっちゃ睨まれてるよ」
ロキの隣に立って、苦笑するシャルル。
彼女のドレスはやはり赤く、とても目立つ。いわゆる、ローブモンタントというものだ。以外にも露出は少ない服装である。
というのも、あまり肌を出すと日差しが辛いのである。このことには、ついさっき気づいたのだが。
幸い、シャルルに似合うドレスがあって助かった。長袖で襟もハイネック。慎ましやかな胸部を誤魔化すにもちょうど良い。同色レース付きの帽子を被ることで、さらに日除け効果。
また、赤いドレスというのはシャルルの銀髪をより美しく見せる。顔がハッキリ見えなくとも、その髪だけで見とれてしまう美しさである。
「ふん。神は崇められて当然だ」
「崇められとる感じとちゃうけど」
フランは先述の通り、紫陽花色のドレスである。陽光に当てられて、まるで朝露のように胸元の装飾がキラキラと輝いている。
「うふふ。きっと嫉妬されているのね」
アイリスは黒のローブデコルテ。引き締まったウエストと、緩い胸部が特徴的である。
肩は全出し。胸元と二の腕辺りをまたいだ羽衣のようなデザイン。それがまた胸部を強調する。
大人の色気。それを正しく体現した衣装と言えよう。
「早く王城へ入ってしまいましょう。人波に酔ってしまいそうです」
若干歩みを速めたリリは、純白のドレスを纏っている。
丈は足首くらいまで。ふんわりとしたスカート部分は、少し控えめではあるが、フリル仕立てである。
袖はパフスリーブ。提灯袖とも言う。短い袖で、リリの華奢な腕を惜しみなくさらけ出している。
胸元から首周りにかけては、目立ち過ぎない程度のレース。
プリンセスと称するのが当然というほど、リリの服装は清純で、衆人の目を奪った。
金色の髪。純白のドレス。これ以上ない組み合わせである。
〜王城〜
軽いパレードというほど人の目を惹き付けた五人は、入城を果たした。
ここでようやく一息。パーティーの前からここまで疲れていては、持たないかもしれない。
妙に張った体を解しながら、パーティー会場へ。
「ほわぁ」
「さすがは王城だな」
「部屋でも凄かったけど、広間はもっと凄いわ」
天井には超巨大なシャンデリア。床は一面の赤い絨毯。壁には一目で高級とわかる金の装飾。部屋の中央には、細長いテーブル。白いテーブルクロスにはシミ一つない。
そして何よりその広さ。たった数人のパーティーとは思えないほど広い。小さめの体育館といったところか。
「どうやら一番乗りみたいね」
「一番を争えるほど、人数がいるわけでもありませんが」
何せ、残りはあと一人。ガラナだけなのである。
神獣については、混乱を避けるため、最少人数にしか広めていない。知っているのは、国王兄妹と、依頼を託された六人、それから宰相くらいなものだろうか。
「そういえばさっき通りがかったとき、庭の方が騒がしかったけど、何かあったのかな?」
「宰相がどうとか言ってたけど、どうしたんやろか」
「あぁ」
「ロキ君、何か知っているのかしら?」
「昨日暗殺に来たからな。返り討ちにして庭に捨ててやった」
「ロキ様、淡々とおっしゃってますが、重大事件ですよ」
「それ、大丈夫なの?」
「パーティーが修羅場と化したりせん?」
そんな不安げな会話の折、会場のドアが開いた。
びくりとするフランであったが、入ってきたのは、赤いタキシードを着たガラナであった。
「どうした?」
「なんや、ガラナか。びっくりさせんとってほしいわ」
「失礼だな」
「申し訳ございません。少々気がかりなことがございまして」
「いえ。聖女様はお気になさらないよう。この獣人が悪いのです」
「ムカッ」
「フランちゃん、落ち着いてちょうだい」
「皆さんお揃いですね」
アイリスがフランをなだめていると、国王が奥から現れた。
「お集まりいただきありがとうございます。どうぞ皆さま、おくつろぎください」
相変わらず物腰の柔らかい国王である。その側には、久しぶりに姫もついていた。
「どうぞ、お座りください。すぐに料理を持ってこさせます」
「お兄ちゃ、国王陛下。言葉遣いを」
「こほん。本日其方等を呼んだのは他でもない。よくぞ、全ての神獣を打倒し、人類の未来を救ってくれた。国王として、感謝の言葉を述べよう」
急に鷹揚な態度を取った国王。
「神獣の討伐、並びに魔神の復活阻止を祝して、この宴を催す。どうか楽しんでくれ」
校長の挨拶が終わったときのように、まばらな拍手が響く。
「それでは、乾杯」
八人は一斉にグラスを掲げた。
国王の話の間に、メイドが料理を並べていたのである。
さすが王城務めなだけあって、行動が素早い。
挨拶が終わると同時に、国王は空気を緩め、いつもの敬語に戻った。
「どうぞ、お召し上がりください」
こうなれば、後は普通の食事会である。
「ふむ。美味いな」
特に図太い性格のロキなどは、いつもの調子で舌鼓を打っていた。
「ほんと。美味しい」
「お肉の脂ってこんなに甘かってんな」
「脂はとろけるように、赤身はホロホロと。絶妙な火入れね」
「さすがは王城です」
「貴様ら、黙って味わうことが出来んのか」
ガラナが苛立ちを隠しもせず言う。
「はは。美味しいものを食べれば、その感動を他の人にも伝えたくなるものです。よく分かりますよ、その気持ち」
「お兄ち、国王陛下、いつも私に感想を長く語られますから」
国王にそう言われては、ガラナも引き下がるしかない。黙ってスプーンを口に近づけた。
「それと、ロキ様。昨晩はうちの者がご迷惑をお掛けしました」
「構わん。睡眠妨害は煩わしかったが、それだけだ」
「あれ、宰相さんの件、ロキ君が犯人やってバレとるんや」
「あれじゃない? 尋問」
「ご名答です。お兄、国王陛下はここに来る前まで、その事件に対処していました」
「お姫様。気にせずお兄ちゃんと呼んで良いのよ? ここには気にする人などいないわ」
「アレク様のおっしゃる通りです。私共は口外致しませんので。ましてや、国王陛下が罰することなどありえないでしょう」
「そ、そうでしょうか」
姫が少し俯いた。国王はそれを微笑ましく見つめる。
そのとき。扉が開いた。
「僕も混ぜておくれよ」
そこには人影があった。
「何者ですか?!」
姫は今までの態度を捨て立ち上がり、国王のそばに控えた。
その所作はまるで、国王を守る騎士のようである。
「お兄ちゃんの近くにいて良かった」
「目撃情報によれば、あなたが先日の爆破事件の犯人ですね。随分堂々と入ってきたものです」
どうやらお尋ね者らしい。
いつの間にか、姫は腰に剣を差していた。
「何事なん?」
「なんかヤバそうだね。あの人、捕まえた方がいいのかな?」
「そうね。というより、あのお姫様、姫ではなかったの?」
「アレク様はご存知ありませんか。国王陛下の妹様。あらゆる才に秀で、陛下の家族兼側近という立場でいらっしゃるのです」
「しかし、侵入者というのは阿呆か。強者ばかりの部屋に入り込むなど」
ガラナはそう言って嘲笑い、姿を消した。
「まずいな」
「え?」
ロキがそう呟いたとき。
姿を消していたガラナが、剣を振りかざして、侵入者の背後に立っていた。
「邪魔だよ」
バァンッ!
およそ、剣が肉体を割いたとは思えない音がした。
「なァっ?!」
振り下ろした剣は、侵入者には届かなかった。
剣は一瞬にして塵と化したのである。
より正確に、スローモーションで伝えるのならば、侵入者が剣に触れた途端、剣が内側から爆散した。細かな粒子になって、真っ赤な絨毯にキラキラと雨を降らせる。
ただの爆発ではない。剣の全てが、直径数ミリの粒子となったのである。その大きさに偏りはない。
「なに、これ」
「どうなっとるんや」
意味のわからない光景に、部屋の者は言葉を失った。
「今の僕じゃ、触れたものを壊すのが限界か」
侵入者。黒いローブの男性はそう呟いた。目深く被ったフードから、白銀の髪が覗いている。
「もう一度聞きます。尋問。あなたは何者ですか」
「くっくっく」
姫の質問に、侵入者は笑っているだけ。
「尋問が効かない?」
尋問の魔法は、姫のものであった。多才という情報に漏れず、魔法の腕にも自信があったらしい。
だが。
「くくく。僕に魔法は効かないよ。それどころか、触れることすら叶わない」
彼は少年のような声で言う。
年齢はおそらく十代後半といったところか。
「だって、僕は何でも破壊してしまうから」
フードの奥に見えた目は、見た目の年齢に見合わず、ギラりと凶悪に光っていた。
「さて。それじゃあオジサン」
「ぬっ?!」
「死んで」
侵入者は手を差し向け、ガラナの体に触れた。
再び破裂音。いや、爆裂音と言うべきか。
「嘘、ですよね」
そこにガラナの姿はなかった。ただあるのは、とくに光りもしない、赤い粒子の雨だけ。
侵入者はそれを無数に浴びて、ロキたちの方へ向き直った。
「あれ。王様は逃げたか」
侵入者から注意をそらさず、視線をサッと国王の方へ向けると、たしかに姿はない。
彼の言う通り、逃げてしまったようだ。
そして、この広間へ続く廊下をドタバタと駆ける音がする。
「侵入者を捕まえろ!」
国王は無責任に逃げたのではなく、きちんと戦力を残していったようだ。
「邪魔だよ。あまり僕を怒らせない方がいい」
彼に斬りかかった者から順番に爆散する。
「おいやめっ!」
「止まれっ!」
「殺されっ!」
真っ赤だった絨毯は、だんだん暗赤色に変わっていった。
「む? ガラナ」
「あら、本当ね」
そして、彼が兵士たちに気を取られている間に、ロキの隣には、さっき爆破されたはずのガラナが立っていた。
タキシードは消え去り、下着姿というのが冴えないところであるが。
「みっともない姿見せんなや阿呆」
「うわフランちゃん口悪っ」
この緊急時に、呑気な会話である。
「爆散したんじゃなかったのか」
「あと一瞬魔法の発動が遅れていれば、俺もああなっていたさ」
ガラナは苦虫を噛み潰したような表情で、次々と爆散させられる兵士を見ていた。
「タキシードが爆散した瞬間に後ろへ飛びつつ、魔法で姿を消すことで、どうにか難を逃れた」
タキシードを消した手が素肌へ触れる前に、逃げ仰せたのだという。
「はぁ。まったく煩わしいな」
部屋に入った瞬間、灰燼に帰す。兵士たちは数分のうちに皆全て、そんな理不尽な殉職を遂げた。
「何者だ」
改めてロキが問う。
王城に侵入した挙句、兵士の一団を文字通り壊滅させた男。
逃げた国王を追わないため、目的は国王の暗殺ではない。
何者か。当然の疑問である。
「くっくっく。僕はね」
赤黒く染まってしまったローブを脱ぎ捨て、白日の下に姿を晒した少年は、凶悪な笑みを浮かべて言う。
「僕は、魔神だよ」
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。




