報われそうな想い
〜数週間後・王都〜
ロキたち五人は、国王の招待を受け、王都へとやって来ていた。
「たった数人で祝賀パーティーって、どういうことなんだろうね?」
「誰も知らんけど、ちゃっかり魔神復活を防いだんやし、パーティーくらいするんちゃう?」
「完全に防いだということで良いのかしら? 何か釈然としないのだけれど」
「百パーセントでないことは、国王陛下も重々承知していらっしゃると思います。祝賀パーティーという名目の口止めでしょう」
「それは分かったが、前乗りなんぞする必要があったのか?」
「何言ってるのロキ。国王陛下の御前でパーティーだよ?」
「規模は数人やけどな」
「王都でのパーティーはドレスコードが基本よ。シャルちゃんたちはドレス、持っていないでしょう?」
「ああ。持っていない。必要になったこともない」
「だから、ドレスを貸してもらうところに行くんだよ」
「当日はお化粧もせなあかんし、前もってドレスは決めといた方がええっていうことやで」
「そうか。女は大変だな」
「何を言っているの。ロキ君もお化粧するのよ。うっすらとだけれど」
「うげっ」
「お化粧と言っても、専門の人に任せて座っているだけで良いですから。まずはドレスとタキシードを見に行きましょう」
〜貸服屋〜
王都の貴族御用達。華美すぎるというほどではないが、惜しみない装飾を施した店。
そこに似つかわしくない服装のロキたち五人。
彼らの普段着と言えば、動きやすいシャツやら短いパンツやら。
貴族らしさの欠けらも無いが、そこは王都の高級店。態度を変えるということもなく、そつのない対応で衣装選択スペースに入った。
「わー。結構種類あるね」
「はぁ。また長くなりそうだ」
「ロキ君の分はお姉さんが選んであげるわ。安心して。服でイタズラをするのはリリちゃんにだけよ」
「私にもやめてください、アレク様」
「シャルちゃんとうちはリリちゃんを貰うで。貴族目線が一人は必要やし」
「よし、じゃあ散開!」
まずはシャルルとフランの選択を見てみよう。
「フランちゃんこれ似合いそう」
「ええやん。うちの好きな色やわ。デザインも可愛ええし」
「試着してみてはいかがですか?」
「ほなそうするわ」
フランが着替え、出てきた。
薄桃色のドレスである。
スカートは三段に及ぶフリルの層。腰の左右にはリボンがあって、可愛らしさを強調している。
「ちょっと可愛すぎかな?」
「たしかに、これやったらお嬢様って言うよりはお嬢ちゃんやね。うちの雰囲気に合ってるって言えばそうやけど」
「色合いにもう少し気品を出しましょう。薄紫なんてどうでしょうか」
「おっ、ええやん。着てみるわ」
その紫は紫陽花色と表現すべきか。水色っぽくもある、そんな色合い。
首から胸元、腰周りにかけては、それこそ紫陽花のような、小さな花柄の集まりである。その花たちの隙間から見える肌の色がえも言われぬ色気を醸し出す。
また、スカート部分はチュールのようになっており、フランの雰囲気に合った、フワフワとした輪郭である。
仕上げに同系色のネックレスを付ければ、完成。
「これ可愛いな。リリちゃんシャルちゃん、どう?」
「はい。よくお似合いです」
「うん。パーティーの視線を釘付けだね」
「すごいなぁ。めっちゃ大人っぽく見えるわ。うちこれにしよ」
以外にすんなりと、フランのドレスは決まってしまった。
後から覆らないとは限らないが。
「これとかどうかな?」
さて、次はシャルルの番である。
シャルルが選んだのは、真っ赤なミニ丈のドレス。
スカートの後部には、同じく赤い布で作られたレースがあしらわれている。
首元はバレリーナネック。袖にもハート柄のレースが入っている。
シャルルは試着室に入り、着替えて出てきた。
「どうかな?」
「やっぱシャルちゃんには赤やね。綺麗なお肌も出とるし。可愛いで」
「ですが、少し派手すぎませんか?」
「うーん、たしかに。ミニスカートは苦手なんだよね」
「せやけど、シャルちゃんの綺麗な足とか肩は見せびらかしたいしなぁ」
「色合いを落ち着かせましょう。そうすれば、少しくらい丈が長くても不自然にはなりません」
リリが選択したのは、紺のプリンセスドレス。裾は膝よりも低く、大人びた雰囲気である。
「シャルちゃん、何着ても似合うなぁ。はー可愛い」
「お美しいです。ネックレスとクラッチバッグを合わせれば、どこからどう見ても貴族のご令嬢ですよ」
「えへへ。ありがとう」
「あどけない笑顔とのギャップがほんまに最高や。生まれてきてよかった」
「これであれば、綺麗な肌をロキ様にアピールすることが出来ると思いますよ。色合いも、シャルル様の髪が映えると思います」
ベアトップで肩を全て出すことにより、色気を出すことにも成功している。のだが。
ストン。
「みゃっ!」
「ありゃま」
「シャルル様っ、ごめんなさい!」
締め付けが弱かったのか、それともシャルルの胸の突っかかりが無さすぎたのか。
ドレスは物の見事にシャルルの足元へ落ち、下着姿が晒されることとなった。
シャルルは身を隠すようにしゃがみこんでしまう。
「そんな馬鹿なぁ」
「シャルちゃん。下着姿も可愛いで」
「フラン様、フォローになっていません」
しばしの間、いたたまれない空気が流れたのであった。
さて、ロキとアイリスの方はと言うと、順調に試着を進め、残りは二択となるまで迫っていた。
とはいえ、ロキはほとんど口を出していないわけであるが。
「白か黒か、どちらが良いかしら?」
「白は目立つだろう。黒にしてくれ」
「ロキ君はそう言うけれど、案外良いものよ。汚れが目立つのは難点だけれど、貸出用として置いてあるものだし、その点は大丈夫そうね」
「おい、着ることを前提として物を言うなよ」
「いいじゃない。試着だけでも。さ、試着室に入って」
「はぁ。少し着るだけだぞ」
ロキは半ば強制的に、白いタキシードを着せられた。
「うん。やっぱり似合うわ」
「似合う似合わないはどうでもいい。あまり全身真っ白というのは好きじゃないんだ」
「どうして?」
「天上界にいたときはずっと白装束だった。あまり思い出したくはない思い出だからな」
「よく分からないけれど。それより、フランちゃんが呼んでいたわ」
「どうかしたのか?」
「どうしても見て欲しいものがあるそうよ」
「ふむ? まあいい。行くか。少しくらいは我慢してやる」
すぐ近くにある、女性用貸服選択スペースに向かった。
「あ、ロキ君。こっちこっち。歩いてきて」
「ん? ああ」
「ちょうど良い服装ですね。アレク様、図りましたか?」
「うふふ。少しね?」
アイリスにはあの小型人形がある。少しだけ、シャルルたちの会話を盗み聞いていたのであった。
「おい、何が始まるんだ?」
「ちょっと待っててな。リリちゃん、頼むわ」
「はい。お任せ下さい」
「ロキ君はもう少し待機ね。周りを見渡すくらいは良いけれど、動かないでいて」
「何事だよ」
「ほら、来るで」
ガチャリ。扉が開いた。
そこから現れたのは、純白のウェディングドレスを纏ったシャルルの姿。
いたるところ、純白、純白、純白。身に纏う全てが清らかに美しく輝いている。
圧巻。見る者全てを魅了する可憐さであった。
「新婦の入場や」
そのシャルルの前で、リリがフラワーガールの真似事をしている。
しかし、ロキの目はゆっくりと歩みを進めるシャルルへ釘付けになっていた。
「ロキ君、エスコートよ」
「あ、ああ」
そんなロキは、呆然としたまま、シャルルと腕を組んで少し進んだ。
ロキがふっと隣に目を向けると、ベールで隠されているものの、たしかに笑顔なシャルルの整った顔が見える。
無意識であろう。ロキはシャルルに見とれていた。
「どうや? お店の人に頼んで、結婚式ごっこをさしてもらってんけど」
「ノーメイクですが、よくお似合いです。お店の方から一発オーケーを頂いただけのことはありますよ」
「さあ、ロキ君。どうかしら。シャルちゃんのウェディングドレス姿は」
アイリスに言葉をかけられ、ロキはハッとして、シャルルに向き直った。
「どう、かな?」
「あ、ああ。率直に言おう」
「うん」
「とてもよく似合っている。綺麗だ」
「ほんと?」
「ああ。お前のこの姿を見られるのなら、式を挙げるのも良いと思えるほどだ」
「えっ?!」
ロキの言葉に、その場の全員が驚いた。
ロキがまさか、そんな直接的な言い回しをするとは誰も予想だにしていなかったのである。
そんな予想外に、シャルルはこれ以上ないほど取り乱した。
顔は目と区別がつかないほど真っ赤。すぐにでも、顔から火が出てベールに引火しそうである。
「新郎さん。ベール上げてキスやで」
「ああ」
「ああって、ええ?!」
ロキはシャルルのベールを上げた。
限界まで赤くなった顔が顕になる。
「あわわわわ。ほ、ほんとに結婚、する?」
「悩むな」
「な、悩むって。えええぇ? これ、夢じゃないよね」
「なんだ? 抓ってやろうか?」
「やめて。ロキのは痛いの。リリちゃんお願い」
フラワーガールに頬をつねられる新婦。
シャルルは目に涙を浮かべながら、頬をさすって現実を認識した。
「夢じゃないね」
「まあ、今までのは冗談としても」
「え、冗談?」
「当たり前だろうが。この年で結婚なんぞするか」
「なんだ冗談か。って、この年で? 未来はわかんないってこと?」
「まあ、こうも綺麗だとな。他の人間にくれてやるには惜しい気がする」
「ほ、ほんとに? ほんとのほんと? お嫁さんにしてくれる?」
「約束はしない。せいぜい、神に見合うよう自分を磨くことだ」
今度はシャルルが惚ける番となった。
「アイリス、行くぞ。いい加減着替えたい」
「もう少しシャルちゃんを堪能しなくて良いのかしら?」
「構わん。もし仮に結婚するならば、そのときにいくらでも見られる」
「うふふ。そういうサバサバしたところ、好きよ。将来、シャルちゃんはもっと綺麗になっていそうね」
「そうでなければ、結婚なんて面倒なことはしてやらん」
ロキは男性用のスペースへ戻った。
シャルルは変わらずぼーっとしている。
「シャルちゃん? おーい、シャルちゃーん」
「もう少しだけ余韻に浸らせてあげましょう」
「そうやね。そっとしとこう。そや、リリちゃんは何か選ばへんの?」
「私は自前のものがありますから」
「ちょっと見て行きや。どうせシャルちゃん、しばらくは戻ってこうへんから」
「そこまでおっしゃるのであれば、少しだけ」
「実はな、さっきリリちゃんに着せてみたいドレスがあってん」
そのセリフにより、安易に首肯したことを後悔するリリであった。
「これ、よろしくな」
「ああ、やっぱりですか」
失敗したなぁ。なんて頭の中で考えつつ、作業のように着替えるリリ。悟りの境地である。
長い長いタオルを、どうにかして体に巻き付けたようなデザイン。局部以外は惜しみなくさらけ出すように出来ている。
背中はがら空き。スカートはスカートと呼べる丈ではなく、というより、丈というものが存在していない。
局部さえ隠すことが出来れば良いという、投げやりな思想の元に作られたドレスである。
そして、それを幼児体型とも呼べるリリが着ているのだ。
胸元は虚しく、下手をすればドレスはストンと落ちる。もはや、バスタオルで胸元と下腹部を隠しているのと何ら変わりない。
「うぐふぅっ。この破壊力はすごいわ。お姉さん呼んでこな」
「待ってくださいよ! こんな服恥ずかしいです! 今すぐ着替えますよ!」
「うぐぐ。あと十秒だけ」
フランは必死の形相でリリの姿を目に焼き付けた。
「ふぅ。さすがやわ。うちらのお色気担当は犯罪臭が違うで」
「何も良いことではありませんよ」
「ハッ! ここはどこ? ロキにプロポーズされたんだよね? ゼ〇シィ買わなきゃ!」
「あ、戻ってきたんかシャルちゃん。言っとくけど、プロポーズまではされてへんで」
「ですが、シャルル様にとっては似たようなものでしょう」
「ロキーっ! 絶対結婚しようねー!」
「うるせぇ! さっさと着替えろ! いつまでその格好でいるつもりだ!」
最後には、早々に着替えたロキの叱責が待っていたシャルル。
ただ、その表情は明らかに幸せそうなのであった。
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