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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第六章・目覚める闇
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甘いミルク

〜数週間後〜



 その後、魔神に関する情報が入ることもなく、平和な日常が繰り返されていった。



「シャルちゃんの故郷、また貿易が遠ざかったな」


「あんな峡谷が出来たんじゃあ、どうしようもないよね」


「橋をかけるか埋め立てるか。魔物の方こそ絶滅レベルだが、新しい問題が現れたな」


「峡谷を越える準備が整ったとしても、また魔物が湧いていそうですね」


「はぁ。道のりは遠いなぁ」



 今は移動中。久々に、アイリスの故郷、ミルクへと訪れるつもりである。


 貯まった仕事の恐怖に耐えかね、全速力で先行してしまったアイリス。その彼女を追いかけて、ロキたちも移動をしていた。



「いやー、にしても平和やね」


「はい。街道でも全く魔物に出会いません」


「冒険者としては致命的だがな」


「いいじゃん。私たちは国王陛下から恩賞を貰ってるんだから」


「そうやね。ほんま助かるわ」


「おかげで再び魔物が発生するまでの期間は凌げそうです」


「まったく、アイリスが全て灰にしていなければ、素材でもっと儲かったんだが」


「しょうがないよ。フランちゃんがメルトの辺りで倒した魔物の利益は入ったし」


「もし死体があっても、持って帰られへんかったやろしな。他の冒険者に横取りされるくらいやったら、燃えてもうたほうがええわ」


「あの峡谷に橋をかけるため、冒険者は仕事が与えられることでしょうが、誰一人飢えないことを祈ります」


「リリはさすがだな」


「うん。このご時世、他人の心配なんて普通しないよ」


「聖女やね」


「いえ。自分の生活があればこそ、他人を気遣えているのです。その点では、私もまだまだですよ」



 ロキの荷物に掴まりながら、リリは微笑んだ。



〜ミルク〜



 夕暮れ頃になってロキたちはミルクへ到着し、以前と同じ、街に入ってすぐの宿に入った。



「あれ、お姉さん。仕事があったんじゃないの?」


「ほんまや。なんでこんなとこにおるん?」


「やけに嬉しそうですが」


「うふふ。それがね。市民の皆がお姉さんの代わりにやってくれていたのよ。集まって議会を開いたりしてね。昔は市長様市長様って頼ってくれていたのに、立派になったものね」


「統治者が留守にしていたんだ。自分たちで街の運営くらいするさ」


「そうだよ。魔物だって移動してたんだし」


「というか、セリフがママっぽいで」


「アレク様の年齢がますますわからなくなりましたね」


「だからと言って、聞くのは野暮というものよ?」



 冷たい笑顔で、アイリスは釘を刺した。



「ということは、ここで俺たちを待つほど、アイリスは暇なのか?」


「仕事、街の人に取られちゃったんだもんね」


「シャルちゃん、言い方容赦なさすぎん? そういうセリフはうちの好みやけど」


「街の民主化は良いことです。それはさておき、アレク様を追いかけて来ましたが、やることが無くなってしまいましたね」


「そうでもないわ。観光がてら、視察しておきたいものがあるのよ。経過観察のようなものだけれど」


「一緒に行くよ、お姉さん。暇なのは私たちの方だし」


「またあのザッハトルテ食べたいわ。連れてってえや」


「厚かましい奴だな。勝手に行けよ」


「おっふ。さすがロキ君。ええ攻め力やで」


「ザッハトルテ? なんでしょうか」


「そうね。リリちゃんにも食べて貰いたいもの。あの喫茶店へ行きましょうか」


「やったー! 美味しいケーキだー!」



 恍惚とするフラン。彼女にジト目を向けるロキ。謎のケーキに首を傾げるリリ。そんな彼女を微笑ましく見つめるアイリス。無邪気に喜ぶシャルル。


 相変わらず、目立つ五人組である。



〜喫茶店〜



「マスター、ザッハトルテを五人分お願いね」


「かしこまりました」



 五人は並んでカウンター席に座った。


 左から、リリ、アイリス、ロキ、シャルル、フランの順である。



「なんかええなぁ。やっぱ雰囲気あるわ」


「少し椅子が座りにくいですが」


「あらあら。リリちゃんには少し高かったかしら。倒れないようにね。倒れても支えてあげるけれど」


「アレク様、体型はともかく、いくらなんでもそこまで子供ではありません」


「ねえロキ。これって実質デートだよね?」


「んなわけあるか。二人ですらねえだろうが」


「男女で喫茶店だよ? デートじゃん」


「男女比を見てから物を言えよサキュバス。毎日全裸で押しかけてきやがって」


「夜になると勝手に吸血鬼モードになるんだもん。仕方ないじゃん。不可抗力だよ不可抗力」


「吸血鬼が全裸になるわけないだろ」


「言ったそばから雰囲気壊すんやめへん?」



 珍しく、フランがロキたちを御する、という状況が発生していた。



「お待たせしました。ザッハトルテとコーヒーです」


「ほわぁ。美しいです」


「うふふ。目を輝かせて。可愛らしい反応ね」


「クールなマスターが頬を綻ばせとるわ。余程可愛いんやろな」


「テーブル席にしておけばよかったね」


「んー! おいひいです!」


「はぁぁ。癒されるわぁ。リリちゃんってどうしてこうも可愛いのかしら。ねぇ、ロキ君?」


「うむ。美味い」


「お姉さんの話も聞かずに黙々と食べるロキ、可愛い」


「シャルちゃん、ロキ君やったらなんでもええんやろ」


「これがコーヒー、ですか。わ、苦いです」


「リリちゃん、お砂糖とミルク、いるかしら?」


「何を言う。この苦味とケーキの甘みが調和して美味いんじゃないか」


「己の理想を押し通すロキ、かっこいい」


「言い方はかっこいいけど、ただ単なるお菓子談義やからな。ほんまにロキ君全肯定やなシャルちゃん」



 賑やかな五人に、さらに微笑む店主であった。


 リリの様子を眺めるアイリスに、店主は声をかける。



「市長。久しぶりの街はどうですか」


「ふふ。そうね。変わらないわ。お姉さんが居なくても、どうにかなるものね」


「まだまだですよ。ですが、市長の負担を軽くするくらいは出来ますとも」


「あら。頼もしいわ」



 店主はカップを拭きながら、ことも無さげに言ってのけた。


 アイリスはその様子に、笑みを深めた。



「それでです。街内の政治はどうとでもなります。ですが、外交関係だけは、魔女の威光がないとどうにもなりません」


「そうね」


「ですから、残り短い適齢期の間にどうかお世継ぎを」


「マスター? 一言余計じゃないかしら?」



 アイリスはギロりと店主を睨んだ。



「ゴホン。適齢期のうちにお世継ぎをお願いしたいのです」


「そうねぇ。とは言っても、なかなか良い相手はいないものよ。ねえロキ君?」


「なぜ俺に振る」


「ロキ君なら気心知れているし、そこそこかっこいいもの。この街の人はおじさん臭くて、あまりタイプじゃないのよ」


「はむはむ。酷い言い草ですね」


「そこそこで悪かったな」


「もー。お姉さん、ロキは私のものだって言ってるでしょ」


「お前のものでもねえよ。手を繋ぐな食いにくい」


「せっかく女の子から手を出してるのに。据え膳食わぬは男の恥だよ?」


「今食ってるだろうが」


「ケーキの話じゃないよ!」


「痴話喧嘩なら他所でやってください」


「あらあら。お姉さんが入る余地はなさそうね」



 よくもまあ、何度も同じ内容の会話が出来るものである。



〜海岸〜



 ロキたちは、アイリスの視察用件を果たすため、海岸に来ていた。



「久しぶりに来たね」


「前は水平線が綺麗に見えとったんやけどなぁ」


「アレク様、あれはいったい? ただの島ではないようですが」


「あれはね、魔物なのよ」


「俺たちが殺したんだがな」



 彼らの視界には、巨大な島があった。


 山が一つ海に浮かんでいるようなものである。


 以前、ロキたちが打ち破った、超巨大な亀の魔物。名は上帝。


 ロキに吹っ飛ばされた挙句、落下ダメージでお陀仏になった亀である。



「動いている様子もないし、報告もない。見たところも、大丈夫そうね」


「なんだ、そんなことを心配しているのか。安心しろ。内臓を潰すように打ち込んだはずだ」


「拳を打ち込むって言うのも変な気がするけどね」


「ロキ様が言うのですから、恐らく大丈夫だと思います」


「そうよね」


「ん? なんか動いたような気ぃするで?」


「怖いこと言わないでよ。また戦うとか嫌だよ?」


「良いじゃないか。あれは雑魚だっただろう」


「魔法がほとんど効かないのは、お姉さんにとって辛すぎるのだけれど。それでフランちゃん、本当に動いたのかしら?」


「んー、気のせいかもしれんわ。ロキ君の加減が間違ってたとも思われへんし」


「ロキの力量って、随分信頼されてるんだね」


「それはそうですよ。一滴の血も漏らさずに魔物を絶命させるなんて芸当、ロキ様にしか出来ません」


「ロキ君しか見ていないと、感覚がおかしくなるのね」


「シャルちゃんには、その感覚がおかしいことも自覚出来ひんみたいやけどな」


「ロキのせいで、だいぶ貶されてるんだけど」


「知るか。シャルの感覚はともかく、異常はないんだろう? なら戻ろう。風呂に入りたい」


「そうですね。街に着いたばかりで、観光をしていたい気持ちはありますが」


「旅の疲れもあるもんな」



 用事は終わったと宿へ戻る四人を、アイリスが呼び止めた。



「ごめんなさい。もう一つ良いかしら。すぐに終わることだから、リリちゃん以外は先に戻ってもらっても構わないけれど」


「水臭いこと言わんとって。うちらも行くわ」


「リリとアイリス二人というのは、少し心配になるからな。リリが襲われかねない」


「というかお姉さん、宿に泊まる気なんだね。家あるのに」


「ええ。みんなと一緒の方が楽しいもの」


「それで、どこへ行くのですか?」


「武器屋さんよ。リリちゃんの鎧、装飾が剥げてきたでしょう?」


「ほんまやね。せっかくの模様やし、直して貰った方がええわ」


「アレク様、お気遣いありがとうございます」


「いいえ。さ、行きましょうか」



〜武器屋〜



「三十分程で元通りに出来るそうよ」


「ほんま? 市長権限とかって、無理言ったんちゃうん?」


「お姉さん、リリちゃんを気に入ってるもんね」


「アレク様、無理を言ってはいけませんよ?」


「本当よ。無理なんてさせていないわ。代金は値引きしてもらったけれど」


「装飾が剥げていたと言っても、リリが強く磨きすぎたせいだからな。妥当だろう」


「三十分ほど待ってもらっても良いかしら?」


「うちはええで」


「私も。ロキの新しい装備も必要だし。未来のお嫁さんとしては、夫の命を託す装備もちゃんと見ておかないと」


「詐称するな。自分の装備は自分で見る」



 三十分間、店内をぶらつくことになったロキたち。



「あら?」


「どうかしたの、お姉さん」


「何か良いものでも見つけましたか?」



 なんとなく分かれた三人組、アイリスとシャルルとリリ。


 アイリスは宙を見て首を傾げていた。



「いえ。今物音が聞こえた気がして」


「鎧が動いたとか?」


「ホラーですかっ?!」


「違うわ。そう怯えないで。以前魔法店に渡した人形があったでしょう? それから通信があったのよ。きちんと切って渡したはずだけれど、何かの弾みで起動したのかしら」


「なんだ。それなら納得だよ」


「ん?」


「今度はどうしましたか?」


「会話が聞こえるのよ」


「お店の会話じゃない? あんまり盗み聞くものでもないよ」


「そうですね。こちらから切れるのであれば切りましょう」


「もう遅いわ。お客さんの望みは杖みたいね」


「ありゃ。もう聞いちゃったか」


「あら? この人、お姉さんの杖と同じものを探しているみたいね」


「あの胡散く、不思議な杖ですか」


「言い直しても意味無いよ、リリちゃん」


「きゃっ。急に切れてしまったわ。不思議ね」


「勝手に聞くなって怒られたのかもよ?」


「そんなはずありませんよ。術者がなんともないのに、魔法が途切れることは有り得ません」


「そうね。まあいいわ。何にせよ、必要ない回線が切れて助かるもの」



 その頃、ロキとフランの二人組は店内を物色していた。



「ん? これは」


「ロキ君、なんかええのあったん?」


「ああ。俺のではないが、シャルにぴったりのものだ」


「うっわ、今のロキ君、めっちゃええ顔してるわ。惚れそう」


「やめろドM」



〜宿・女子部屋〜



「邪魔するぞ」


「珍しいな、ロキ君からこっち来るなんて」


「そうですね」



 リリのチェストプレートを修繕し、ロキが何かを購入した後、入浴を済ませた五人は部屋に集まっていた。



「そういえば、ロキ君は何を買っていたのかしら?」


「たしかに、何か買っていましたね」


「シャルちゃんにピッタリとか言うとったけど、ちゃんとは見てへんかったわ」


「え、なになに? プレゼント? 誕生日はまだだよ? もしかして、結婚指輪?」


「なんでもプロポーズに結びつけるな。これだ」



 ロキが買い物袋から取り出したのは、なんと、猿轡と手錠であった。



「シャルルの夜這いを防止する策だ。今日からこれをして寝てくれ」



 フランは拘束具に発情しているし、シャルルは何故か悔しそう。アイリスとリリは顔を見合わせて言葉を失っていた。



「ようそんなええもん売っとったな」


「良くないよ。なんだかんだ朝にロキとイチャイチャできる時間が増えて、吸血鬼モードも悪くないなって思ってたのに」


「私たちの注意が足りていなかったのかもしれませんが、さすがに酷い仕打ちではありませんか?」


「いいえリリちゃん。ロキ君からされることなら、シャルちゃんはなんでも幸福に変えてしまうわ」


「シャルにこれをさせたくないなら、リリが夜這いを止めさせることだ。言っておくが、やたら力が強いぞ」


「うぐっ、腕力には自信がありません」


「ならシャル、ベッドに横になれ」


「はーい。なんかちょっとドキドキするね」



 寝巻きのシャルルはロキの言う通り横になった。



「両手を頭の上に上げろ」


「こう?」


「そうだ。手錠をするぞ」



 カチャリ。シャルルの手はベッドのヘッドボードに拘束された。



「あとはこれだ。こいつの喘ぎ声で俺は目が覚めるからな。もし手錠を壊されても、安眠は出来るだろう」


「あ、喘ぎっ?!」


「リリちゃん、落ち着いてちょうだい」


「手錠壊すって、シャルちゃんにそんな力あるん?」


「ああ。吸血鬼モードのこいつは恐ろしいぞ」


「んー! んん!」


「よし、完成だ」



 ベッドの上。手を拘束され、声も出せない少女。


 シャルルがそれっぽく身を捩るものだから。



「エロい」



 アイリスとフランは口を揃えて言った。


 わかっていたことである。


 そして二人がそう言うと、リリは過剰反応をする。というのがいつものパターンである。


 結局、ロキの寝不足気味は解消されなかったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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