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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第六章・目覚める闇
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真紅の夜

〜メルト〜



 ロキ、リリ、シャルルと別れたフランアイリスチームは、魔法を使ってメルトの街まで移動していた。


 その郊外で、魔物の殲滅を行っている。



「はぁ。はぁ。キリがないわ」


「前線まで移動するだけで、結構な魔力消費やろ? うちと他の冒険者に任せて休んどきや」


「いいえ。こうしている間にも、凄い速さで前線は進んでいるもの。少しでもダメージを与えておかないと、大都市が地獄と化すわ」



 そこへ近づく鎧の音。



「魔女殿、休んでおくべきではないか」


「うげっ、ガラナ」


「不甲斐ないが、前線に追いつけるのはあなただけだ。ここらの魔物は俺たちが引き受けさせてもらおう」


「そう、ね。わかったわ。少しでも回復して、早く前線に向かいましょう」


「お姉さん、うちもついて行こか?」


「馬鹿を言え。その分だけ魔力消費が増えるじゃないか」


「せやかて、前線で魔力がすっからかんになったら死んでまうわ。お姉さんを守る人員が一人は必要や」


「リリちゃんがいれば、そんな心配もないのだけれど」



 アイリスは空を見上げた。竜が舞う空を。



「まあいい。俺は魔物をなるべく殲滅する。前線は任せた」



 ガラナは街のさらに遠くへ、魔物の対策に戻った。


 アイリスとフランはメルトの街へ入り、しばしの休息を取ることとなる。



「それにしても、シャルちゃんはどこへ行ったんや。いつもやったら独断専行なんて絶対せえへんのに」


「そうね」



 ぼうっと空を見上げていたアイリスは、フランの言葉に生返事をした。


 というのも、空に何か、薄ぼんやりとしたあかりが見えるからである。



「あれ、リリちゃんかしら?」


「え? 向かってくるにも、竜を倒してからやろ? 見間違いちゃうん?」


「いいえ。見てちょうだい。フランちゃんの方が目が良いでしょう」


「どこどこ?」



 フランはアイリスが指さす方向を見た。



「あ、あれ。リリちゃんだけとちゃう。ロキ君もおる」


「そうなのね。何か不味いことがあったのかしら」


「そうやと思う。ロキ君の服が所々で破けとるわ。やけど、竜と戦って逃げたにしては、傷が細かすぎる気がする」


「いずれにせよ、迎えに行ってあげた方が良さそうね。少し行ってくるわ。リリちゃんに魔力回復もしてもらいたいしね」


「うん。頼むで。うちはちょっと魔物殲滅に手ぇ貸してくるわ」


「ええ」



 アイリスは魔法で飛び上がった。眼下には大量の魔物がひしめき合っている。


 そしてすぐ、リリの元へ到着した。



「リリちゃん、何があったのかしら?」


「アレク様! ご無事で何よりです!」


「説明している時間はない。ガラナの所まで連れて行ってくれ。話は後でリリに聞け」


「アレク様、お願いします。私の速さでは足りません」


「ええ。わかったわ。必ず話を聞かせてちょうだい。ロキ君が追い詰められている訳をね」



 阿吽の呼吸。理由さえ話さずとも、アイリスは指示通りに動いた。彼らの信頼関係がなせる技である。


 アイリスは取り急ぎ、ガラナの元へ向かった。



「ガラナさん」


「魔女殿? どうしてここに。前線はどうしたのか」


「ガラナ。頼みがある。俺の重力を消してくれ」


「なに?」


「あれを倒すために必要なんだ。それをしてくれるだけで良い。調整はこっちでやる」


「何を馬鹿なことを。落ちて死ぬのがオチじゃないか」


「いいから早くしろ! あいつが来る前に!」



 ロキは焦りを見せていた。


 ロキが放つ緊迫感に押され、ガラナは魔法を使うことにした。



消滅(エクスティンクション)!」


「よし、行ってくる」



 ロキは大地を全力で蹴った。


 通常であれば、重力のせいで数十メートルまでしか上がらないロキのジャンプ。


 ガラナの魔法によって重力を消すことで、それがなんと、百メートルの大台を軽々と超えることになる。



「届けっ」



 上空に佇む竜に向かって、ロキは燃え盛る拳を振るった。


 意外なことに、蒼帝は避けなかった。


 正面からロキの拳を受け、鱗を何枚も砕かれた。


 そして近くの木を薙ぎ倒しながら墜落した。


 実に呆気ない幕切れである。



「殺ったな。これでシャルも元に」


「私が、何?」



 消滅が解除された重力に従って落下するロキの前に、シャルルは現れた。


 九割方赤く染まった月を背に、黒い翼を広げて。


 三日月のような、醜悪な笑みと共に。



「無防備だね、ロキ」


「お前っ!」


「ふふふふっ。ありがとう。これでこっちの操作に集中できるよ」



 蒼帝は、本体をシャルルの体に移していたのである。


 蒼帝は自らも魔物。魔物を操る能力は、自らの魂にも有効なのであった。



「じゃ、バイバイ」



 落下するロキへ、神速の刺突を繰り出す。



「ぐっ!」



 ロキは残った片足の靴底と四肢の全てを使って、致命傷を避けた。


 代わりに、四肢は風穴だらけで使い物にならない。


 が、墜落するまでにはまだ数秒の猶予がある。



「ふふっ。もう両手両足、使えなくなったね。よく頑張ったけど、これはどう足掻いても躱せないよ」



 シャルルはロキの胴へ貫通スキルを放った。


 その瞬間。



「ロキ君!」



 もはや死まで一秒の猶予もないロキを、アイリスが抱え込んだ。



電磁加速(エレクトロアクセラレーション)! 最大出力!」



 あと数ミリでロキの心臓を蒼帝のスキルが食い破るというとき。


 アイリスはシャルルと同等の速度でロキを連れ帰った。



「ちぇ。逃しちゃった。まあいっか。人間達のところへ連れて行ってくれるみたいだし」



 シャルルの姿をした蒼帝は、また気味悪く笑った。



〜メルト〜



「ロキ君っ! 大丈夫なんか?!」


「リリちゃん! ロキ君を早く! 失血死するわ!」


「はいっ。回復(ヒーリング)!」



 ロキの傷はすぐに塞がった。


 痛みでほとんど無くなっていたロキの意識も戻ってきた。



「ぐっ」


「良かった。間に合いました」


「蒼帝は倒したはずよね。どうしてシャルちゃんがまだ攻撃してくるのかしら」


「蒼帝はまだだ。シャルルに本体を移していた」



 ロキは俯いて、拳を握りしめていた。



「魔物に魂を移すって、そんなんチートやんか!」


「全ての魔物を淘汰しなければ、蒼帝を止めることは出来ない、ということですか」


「そうだ。あの娘を殺さなくては、終わることがない」


「ガラナっ! そんなんっ!」


「出来ないよね?」



 フランはハッとして振り返った。


 そこには、夜空に佇むシャルルの姿。



「あははっ。愚かな人間たちが勢揃いだね。皆一気に始末しちゃおっか」



 シャルルはロキたちの集まる前へ降り立った。



「シャルちゃん! 蒼帝なんか追い出して、いつものシャルちゃんに戻ってや!」


「そうよ。いつものロキ君ラブなシャルちゃんに戻ってちょうだい」


「殺すなんて、そんな悲しいことを言わないでください!」



 リリたちの説得も、涼しい顔で受け流す。



「無駄だろう。殺すしかない」



 ガラナはそう言って、姿を消した。



「そうだね。私を殺すしかないよ。まあ、出来ればだけど」



 シャルルの形をした蒼帝はくつくつと笑った。



「吸血鬼ってね、血の匂いに敏感なんだよ。こんなふうに、ね」


「なっ?!」



 蒼帝はガラナの目の前へ移動し、無慈悲に貫通スキルを繰り出した。


 それから一秒と経たずして、腹から無様に血を流したガラナが現れた。



「あはははっ。姿を消したくらいで勝てると思ったの?」


「ぐ、がはっ」



 血を吐き、蒼帝の前に頭をたれるガラナ。


 蒼帝は剣を振り上げ、下劣な笑みを浮かべた。


 ロキには、その光景を黙って見つめていることは出来なかった。



「シャルっ!」



 ガラナの首をはねようとする蒼帝に、ロキが拳を振りかざした。


 蒼帝は髪を翻しながらそれを躱す。



「俺の声が聞こえるか、シャル! 俺が教えてやった技術は人を殺すためのものじゃない! お前の夢を叶えてやるために、俺が約束を守るために教えてやったものだ! 魔物如きに操られて俺の献身を無駄にするなど許さん!」



 ロキはがむしゃらに拳を振るった。


 しかし意識をせずとも、基本を突き詰めたその型は崩れていない。


 現に、何故か魔法を使わない蒼帝は回避することしか出来ていない。



「お前だけは、お前だけは! 何があっても俺を裏切らないと思っていた! 俺を害するなど考えつきもしないと! 俺の期待を裏切るのか! シャル! 答えろ!」



 ロキは自分の生死もシャルルの生死も考えず、ただ感情に任せて拳を振るった。



「俺はお前のことを好いていたんだぞ! シャル!」



 ロキの気あいの篭った一撃が、蒼帝の体を打ち据える。


 そのはずだった。



「ぐっ、ああっ!」



 ロキは腕を貫かれていた。


 突き出した拳を突き抜かれていたのである。



「あはは。あははははっ! 何を言い出すのかと思ったら、こいつを諭すつもりだったの? 無駄無駄。私が全部の主導権を握ってるんだから」



 ロキは串刺しになった腕を押さえて、キッとシャルルの姿を睨みつけた。



「じゃあ、ロキ。もう終わりにしよっか。氷剣(アイシクルソード)



 ロキに突き刺さった剣をそのままに、氷で出来た鋭利な剣を作り出した。



「ロキの次はリリちゃんかな。蘇生されるのは厄介だし」


「やらせるわけあらへんやろ! 岩石槍(ストーンランス)!」



 蒼帝の足元から岩の槍が突き出した。


 が、その槍は蒼帝を貫くことが出来ない。



「出来ないよね? 親友だもんね。私を殺すなんて出来ない。愚かだねえ」



 フランの良心につけ込んで、蒼帝は笑みを深める。



「邪魔しないんだ? そうだね。ロキは蘇生するもんね。こいつの命に比べれば軽い命だよ。それじゃ、遠慮なく」


「っ!」


「なに?」



 アイリスは、ロキを庇うように、蒼帝との間に立った。



「シャルちゃん。殺せるものなら殺してみなさい。ロキ君は復活する。けれど、お姉さんは違うのでしょう? シャルちゃんはそれでもお姉さんを斬れるのかしら。お姉さんは、そんなことないって信じているわ」


「何? 馬鹿なの? 主導権は私が全部握ってるって言ったよね? そんなに死にたいなら、お姉さんから殺してあげるよ」



 蒼帝は氷の剣を構えた。



「先にお別れだね、お姉さん」


「シャルちゃん!」



 アイリスの瞳には、迫り来る氷の刃がハッキリと映っていた。


 しかし、アイリスは目を逸らさない。



「バイバイ」



 氷の刃がアイリスの首の皮を一枚切り取った。


 蒼帝は、そのまま氷の剣を振り抜いた。


 あわや、アイリスの首が飛ぶかと思われた。


 実際、アイリスもそう錯覚した。


 が、現実はそうならなかった。



「なんで?」


「熱っ!」



 呆ける蒼帝。


 氷の剣は、全て溶け切っていた。


 アイリスは、背後から来る恐ろしいほどの熱量に振り返った。



「ぐおぉぉぉぉ!」



 獣かと錯覚するような慟哭。



「退いていろ、アイリス」


「え、ええ」



 アイリスは退いた。いや、後ずさったと言った方が正しいか。



「な、なに?」



 蒼帝が狼狽える。嫌な予感に従い、ロキの腕を貫いていた剣を引き、距離を取って構え直した。


 ロキは燃えていた。


 全身に青い炎の鎧を纏い、その瞳ですら、強い意志の炎を灯している。



「もう、わかった。お前はシャルじゃない」


「な、何を今更。知っているでしょ? それを知っていて、ロキは私を殺せないの」


「ああ。そうだ。シャルはもう死んでいる。それに気が付かなかった俺の失態だ」



 蒼帝が乗っ取っている限り、シャルルの魂は表層に現れない。かと言って、肉体を壊し、蒼帝を追い出したとて、シャルルが戻る器はない。


 シャルルは既に、死んだも同然なのである。



「神の御使いも今は人間。どうせ私を殺すことなんて出来ない」


「いいや。殺してやる」


「あはは。言うのは簡単だよ。でも、ロキに私を殺せる? その腕で。リリちゃんに治してもらう時間なんて与えないよ?」


「必要ない。弟子の一人ごとき、片腕一本で十分だ」



 ロキは殺意を剥き出しにして、拳を構えた。



「弟子と師、魔物と神。格の違いを見せつけてやる」



 鎧の炎を一層激しくして、ロキは蒼帝に攻撃を開始した。


 フランもアイリスもリリも、それを止めることが出来ないでいた。


 三人にとって、ロキの纏う青い炎が、彼の涙にしか見えなかった。



「死ね! シャル!」


「なんっ、くっ! さっきより速いっ! その傷で、どうしてっ!」


「絶対に殺してやる!」



 ロキは、唇を、血が滴るほどに噛み締めていた。


 今にも泣き出しそうな表情で、拳を振るう。



「ぐうあぁっ!」



 シャルルの声で、悲痛な叫びがこだまする。


 ロキの拳が、片方の肩を捉えた。


 その肩が灰になり、その先の腕がポトリと落ちる。


 ロキはその叫びを聞いても、一瞬すら拳を止めない。


 蒼帝は気づいた。ロキは本気なのだと。ロキは本気で蒼帝を、シャルルを殺そうとしているのだと。



凍結(フローズン)!」



 ロキの足を止めようと魔法を繰り出す。


 が、ロキの熱量の前では無力であった。


 ロキの足元まで覆う炎は、足元を凍らせることなど許さない。



「貫通!」



 スキルを発動しても、シャルルの全てを知り尽くしたロキには当たらない。



「おらあっ!」



 ロキのキックが、蒼帝の大腿を捉えた。


 またそこが灰に変わり、足が無残に倒れる。


 蒼帝は片足片腕で、ロキと対峙した。


 その状態で、勝算があるはずもない。



「ぐああっ!」



 蒼帝は濁った悲鳴を上げた。


 もう一方の足も灰と化したのである。



「くっ! ああっ! この体を失うわけにはいかない!」



 蒼帝は醜くも、片腕だけでも刺突を繰り出した。


 ロキにそれが当たるはずもない。



「があああっ!」



 ロキはその残った肩も砕き、灰に変えた。


 四肢の消え去った蒼帝は、仰向けに倒れた。



「さよならだ。シャル」



 ロキは燃え盛る拳を掲げ、シャルルの整った顔に向けて振り下ろした。



「ロキっ!」



 ロキの炎がシャルルの鼻先を捉える寸前。


 彼女はロキの名を呼んだ。



「ロキ、もういいんだよ。蒼帝は滅ぼされるのが怖くて逃げ出したみたい」



 シャルルの言葉に、ロキは炎を消した。



「そう、か」


「うん。ごめんね。いっぱい迷惑かけたね」


「いいや」



 ロキは拳を解き、シャルルのそばで、膝をついた。



「ロキ、見えないよ。少しだけ、顔を見せて。戻ってきたって、実感させて」



 きっと、蒼帝に肉体を奪われている間、苦しんでいたことだろう。


 そう考えたロキは、シャルルの顔の正面へ顔を近づけた。



「すまない。俺は、お前を、殺そうと」


「いいんだよ。だって」



 シャルルは、ニィッと笑った。



「私は蒼帝だから」



 ロキは虚をつかれた。



氷槌(アイスハンマー)



 その隙に、蒼帝はロキの背後へ氷の塊を生み出した。


 力を抜いていたロキの体に、氷の塊がのしかかる。


 ロキはたまらず、蒼帝の上に倒れ込んだ。



「馬鹿で助かったよ。おかげで私は助かる。吸血鬼は人の血を吸えば、たとえ灰になっていても回復できるんだ。だからロキ、ちょっと貰うね」



 蒼帝はロキの首筋に噛み付いた。



「んくっ。んくっ」



 口の端から、ロキの血を少し零しながら、嚥下した。


 そうすると、落ちていた四肢と灰が集まって、シャルルの体を再び形成した。



「ありがとね。おかげで全回復だよ。って言っても、聞こえてないのかな? 体力を使い果たして倒れちゃったか」



 ロキの体を退け、蒼帝は立ち上がった。



「さて、これでようやく、魔神様の復活を迎えられるよ」



 狂気に満ちた笑みを貼り付けて。



「手始めに、ここにいる人間は皆殺っ?!」



 唐突に、蒼帝は心臓部を押さえた。



「ぐっ! はあっ! 何をっ!」



 蒼帝はもがき苦しみ出した。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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