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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第六章・目覚める闇
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満月の夜

〜クルス村・晩〜



 満月の夜。空には翼を広げて飛ぶ竜。地上には溢れかえる程の魔物。



「ついに来たか」


「みたいやな」


「あれが竜、ですか」



 月光に照らされた竜の鱗は、青く煌めいている。


 厳しい顔つき、鱗に覆われた四肢、自身の全長の三分の一を占める尻尾。どれをとっても、堅牢極まりない。


 が、ロキたちは迷いなく討伐の計画を立てる。



「あの飛んどる竜もそうやけど、この村の周りを北に進んどる魔物もどうにかせなあかんで」


「リリちゃんの翼があれば、たとえ相手が飛んでいようと関係ないわ」


「そうだな。リリ、俺を運んでくれ。タイマンなら俺が一番強い。それか、たたき落としてリンチにしても良い」


「わかりました。頑張ります」


「まあ、異論は無いやんな。リリちゃんとロキは竜班ってことで。ほな、うちらは魔物の殲滅やね」


「リリちゃん、気をつけて。いざとなれば、ロキ君を盾にしても構わないわ」


「はぁ。相変わらずだな。回復出来るのならそれでも構わんが」


「良いのですか」



 ロキはゴキゴキと手を鳴らした。



「ほな、早いとこ作戦開始と行こか」


「はいっ」



 リリの背に光の粒子が収束。翼の形を成した。



「ロキ様、行きますよ」


「ああ」


「リリちゃんが空を飛ぶということは、パンツが見放題ね」


「っ! ロキ様、押さえていていただけますか」


「こんなときまでいらんこと言わんでええねんで、お姉さん」



 互いに抱き合うような形で、リリとロキは飛び上がった。


 真っ黒な空を背景に、淡い光がだんだんと高度を上げていく。



「ロキ君、リリちゃんをお願いね」


「ほな、うちらも始めよか。殲滅なんて初めてやわ。範囲攻撃はあんまり得意とちゃうんやけど」


「お姉さんに任せてちょうだい。手加減の感覚は覚えたわ。お姉さん一人に任せてくれても良いのよ?」


「お姉さん、さすがに魔力が持たへんて。うちもシャルちゃんも手伝うわ。なぁシャルちゃん。シャルちゃん?」


「あら? 先に行ってしまったのかしら?」


「うちらも追いかけなあかんな。お姉さん、連れてって」


「余計な魔力消費は避けたいわ。走って行きましょう。足音から察するにすぐそこよ」



 アイリスとフランは、村の外へ駆け出した。



〜上空〜



「ふむ。前線はメルト辺りの森か」


「予想以上の速さで進んでいますね」


「メルトには冒険者もいる。ガラナもいたんだったか。フランとアイリスも加われば、殺れないことはない」


「そうですね。数ばかりは多いですが、私がアレク様の魔力を回復すれば良いことです。そのために、ロキ様にはあの竜を早々に」



 倒してもらわなければなりません。


 そう言いかけたとき、リリを抱え込むようにして、ロキが叫んだ。



「リリッ!」


「ひゃっ?!」



 ロキの小盾が火花を散らした。



「ちっ」



 強い衝撃。リリはたまらず、フラフラと空中でよろめくことになった。



「リリ、一度降ろしてくれ。あれはまずい」


「ロキ様、一体何が」


「聞く前にだ。急げ」


「は、はい」



〜地上〜



 ロキの指示に従い、急いで地上へ降り立つ。


 そして、リリが振り返ると、そこには。



「どうしてっ?!」



 満月を背負った黒い翼。対照的な白銀の髪。



「どういうつもりだ」



 ロキだけを映す、真紅の瞳。



「シャル」



 空中で翼をはためかせ、ロキを見下ろすシャルルの姿が、そこにはあった。



「リリ、下がっていろ。お前ではあいつの速さにかなわん」


「ですが、本当に今の一撃はシャルル様が?」


「ああ。金属がこんな抉れ方をするなんて、貫通スキルしか思いつかん」



 ロキの小盾は、見事に真っ二つであった。


 シャルルのスキルもさる物ながら、ロキの受け流す技術も並大抵のものではない。



「まったく。利き手じゃないから良いものを。お灸を据えてやらねばならんな」


「待ってください。シャルル様に攻撃を加えるなんて」


「気にするな。毎朝やっていることだ。それに」


「それに?」


「今のあいつは、シャルじゃない」



 その言葉がシャルルに届いたのか、空に浮かんでいたシャルルはニヤリと笑いながら、地上に降りてきた。



「さすがはロキ。いや、神の御使いだったかな?」


「何の話だ? 最後の神獣」


「ありゃ、バレちゃったの? 面白くないなぁ」



 最後の神獣、蒼帝の魔法は魔物操作(マニプレイトドール)。その名の通り、魔物を操る魔法である。



「まさか神の御使いが、側近に魔物を置いていたなんてね。笑いものだよ」


「その黒い翼。やはり魔物のものか」


「一応言っておいてあげるけど、これは私が外から付けたんじゃないよ? こいつの生まれ持ったもの。こいつはヴァンパイアだったんだ」


「シャルル様が、魔物っ?」



 同様を隠せないリリ。ロキは訝しげな目を向けていた。



「信じられない? もしかして、気づかずに連れていたの? ぷっ、くく。これは本当に面白いね。それとも、余程こいつの擬態が上手かったのかな? ごめんね、操作権を奪って暴露までしちゃって」


「シャルが人間だろうが魔物だろうが、どうでも良い。敵対するならぶっ飛ばす」


「強がっちゃって。動揺が出てるよ?」



 ロキは知らぬ間に、拳を強く握りしめていた。


 シャルルの体を乗っ取った蒼帝は、笑みを濃くして続ける。



「それにしても不甲斐ないなぁ。他の神獣たちは、みんなロキにやられちゃったなんて」


「安心しろ。お前もすぐに不甲斐ない集団の仲間入りだ」


「それはどうかな?」


「言ってろ。雑魚ほど口が回るものだ」


「くふふっ。じゃあ、体で分からせてあげるよ」



 シャルルは飛び出した。



「っ!」


「えいっ」



 可愛らしい掛け声からは想像もつかない、神速の踏み込み。


 ロキでさえまともに捉えられないような動きで、ロキの懐に潜り込んだ。


 そこから放たれる剣閃も、また速い。


 至る所に掠らせながら、ロキは紙一重で避けていく。



「あははっ。その驚いた顔っ。最高だね」


「はぁ。悪趣味なやつだ」


「余裕ぶっていられるのも今のうちだよ。すぐに殺してあげるっ!」



 またシャルルの攻勢が始まった。


 ロキは防戦一方で、ろくに反撃も出来ていない。ロキをして、躱すことで手一杯なのである。



「ちっ」


「ふふふふっ」



 舌打ちをするロキと、狂気を感じる笑みで彼に迫るシャルル。


 リリは、その目にも止まらぬ戦闘を、見守ることも出来なかった。



凍結(フローズン)


「くっ!」



 シャルルは片手でロキを攻撃しつつ、地にもう片方の手を翳し、魔法を発動した。


 ロキは凍りつく足元に向かって、拳を振るう。炎を纏った拳によって、足が止まることを防いだのである。


 が、それは同時に、大きな隙を晒すことになる。


 シャルルの細剣が迫る。その剣閃はあまりの速さに、幾重にも重なって見えていた。



「終わりだね、ロキ」



 しゃがんだ姿勢のロキ。ロキよりも速いシャルルの前では、中途半端なバックステップも悪手である。



「はっ」



 そこでロキは、どうしたことか、篭手をした方の拳を突き出した。


 金属音が響く。


 あわや、シャルルのスキルがロキを貫くかと思われたが。



「いくら中身が変わっていようと、突っ込みすぎる癖は直っていないな」



 ロキはまたもや、シャルルのスキルを受け流した。


 そして、隙が出来たシャルルの脇腹を、一発強く殴った。


 それだけで、シャルルの軽い体は容易く真横へと吹き飛ぶ。



「ぐっ、うっ」


「シャルの体のことは知り尽くしている。染み付いた癖というのは、操作主が変わったところで抜けないものだ。さて、しばらくは動けないだろう。リリ、その間にあれをたたき落とすぞ」


「は、はいっ」


「くっ、ふふっ」



 木に叩きつけられ、這いつくばった蒼帝は、なおも笑みを浮かべる。



「何がおかしい」


「もうすぐだよ。もうすぐで、私は覚醒するんだ」


「あ? 負け惜しみも大概に」


「ロキ様っ! あれを!」



 リリは天を指さした。


 そこには満月が浮かんでいる。


 徐々に赤く侵食されて。



「なんだあれ」


「くふふふっ。ああ、力が戻ってくる。やはり月の力は偉大だ」



 倒れていたはずの蒼帝は、赤い月の光を受けて、すっくと立ち上がった。



「自動回復ってか。厄介だな」


「くふふふっ。ロキは私を殺せないでしょ? 殺さない限り、私は倒れないよ」



 蒼帝は笑みを深めた。



「勘違いをしているようだ。俺はお前を殺すことが出来る」


「勘違いをしているのはどっちかな? リリちゃんの蘇生(リザレクション)は、神の御使い専用なんだよ?」


「なに?」


「魔物に蘇生(リザレクション)なんて効かないよ。ハッタリだと思ってくれても良いけど、そしたらこいつはどうなるかなあ?」


「ちっ」



 ロキは奥歯を噛み締めた。



「ほらほら、行くよ!」


「ぐっ」



 また神速の攻撃が始まった。


 浅い切り傷をいくつも作りながら、ロキは全ての攻撃を避ける。


 貫通スキルが常に発動している状態では、一撃まともに食らうだけで致命傷になりかねない。



「あははっ! 必死だねぇ!」


「くっ。こんのっ!」



 ロキは拳を振るうモーションを入れた。フェイントである。


 実際の攻撃を加える余裕などない。


 が。



「っ!」


「あ?」



 シャルル、もとい蒼帝は大袈裟に避けた。大袈裟と言っても、攻撃が当たらないように、というだけであるが。


 普段のシャルルであれば、髪が燃えるのではないかというほどギリギリのタイミングで避け、反撃してくる。


 それを予想してのフェイントであったのだが。



「ははっ。お前も獣だな!」


「ひっ」


「形成逆転だ」



 ロキは攻勢に回った。蒼帝が苦手とする炎を振りかざし、フェイントの中に本物を混ぜて連打する。



「いいのかな? こいつが焼け死ぬことになるけど」


「火傷くらいならリリが治す」


「火傷で済むのかな? 吸血鬼の弱点は炎だよ? 触れた場所から灰になるけど」


「っ!」


「あはっ。凍結(フローズン)


「ちっ」



 地面が凍りつく。ロキが取るべき行動は、それを自らの拳についた炎で溶かすこと。


 動揺を与えられたロキであったが、その反応は完璧だった。


 しかし。


 篭手を両手共に両断されたロキにはもう、蒼帝の攻撃を受け流す手段がない。大きく立ち回って、劣勢覚悟で躱すしかないのである。



「逃がさないよぉ。氷矢(フリーズアロー)



 ロキの目の前に鋭い氷の礫が出現した。


 ロキは炎を纏った拳でそれらを打ち払うが、その間にも蒼帝は刺突を繰り出す。



「ぐっ!」


「くふふふっ。美味しそうな血だね」


「ロキ様っ!」



 ロキは初めて多量の血を流した。


 ロキの左腕には、一筋、深い傷が出来ていた。



「今回復をっ!」


「させるわけないじゃん。氷壁(アイスウォール)



 走り出そうとしたリリの目の前に、氷の壁が出来た。



「くっ」


「させないって。凍結(フローズン)


「ぐうっ!」



 翼を広げ飛び立とうとするリリの、足元が凍りついた。



「黙って見てて。リリちゃんに出来るのはそれだけだよ」



 蒼帝はロキに向き直った。



「無様だね、ロキ」


「ふん。図に乗るな」


「ああ、怖い怖い。私があと一回刺せば死ぬくせに」


「俺が死んでも、リリが復活させる」


「近づかせてあげないよ。ロキが死んでから三分以内じゃないと蘇生(リザレクション)は発動しないしね」



 蒼帝はくつくつと笑う。



「アレク様っ! 助けてくださいっ!」


「無駄だよ。向こうは魔物の大軍に囲まれてるんだもん。あれを止めるのは難しいんじゃないかな? 前線を止めないと、明日中にあの魔物は王都まで突っ込むよ」


「そんなっ、どれだけの距離があると思っているのですか!」


「足の速い魔物に、無理やり他の魔物を乗せて、全速力で走らせているんだよ。あの速さに追いつけるのは、お姉さんと私とロキしかいないだろうね。可能性はまだあるよ? お姉さんにそんな魔力があれば、だけど」


「その前に、俺がお前を叩きのめせば良いだけだ」


「あははっ。その傷で? 面白い冗談だね」



 シャルルは手を天に差し伸べた。


 蒼帝の本体である竜が、翼を広げて空を舞う。


 徐々に侵食されていく月は、もう八割方赤く染まっていた。



「大いなる瞳が紅く染まるとき、彼の君は再臨する」


「その文言は」


「もうすぐで魔神様が復活なされるんだよ。素晴らしいと思わない?」


「思わんな。お前をぶっ飛ばして、魔神とやらもぶっ飛ばす」


「愚かだね。これが神の御使いなんて、信じられないよ」


「言ってろっ」



 ロキは激痛を訴える体に鞭打って、蒼帝に殴りかかった。



「いいのかな? こいつを殺すことになるけど」



 ロキは黙って攻撃を繰り出す。


 蒼帝はそれを何でもないことのように全て躱す。



「だんまりかぁ。こいつも報われないなぁ。可哀想に。想い人に殺されるなんて」


「あなた! 言って良いことと悪いことがありますよ!」


「そうだね。殺されるのはロキの方だもん。凍結(フローズン)



 凍りつく足元に、ロキは飛び上がった。



「あはははっ。ロキってほんと馬鹿だよね。私の翼が見えないの?」



 シャルルは、空中でも変わらぬ速度で飛翔し、ロキに刺突を繰り出す。


 ロキにはそれを避ける術はない。自らを窮地に追い込む愚策であった。


 そう思ったリリであったが、現実はそうならなかった。


 刺突を繰り出そうとする蒼帝に対し、足を向けたロキ。彼の靴底は、何故か金属で出来ていた。



「まったく。移動で壊れないようにするための金属が、こんな所で役立つとはな」


「それは私も知らなかったよ。で、だから何? 地面に落ちるまではたっぷり時間があるよ」



 落下するまでの間、何十何百と繰り出される刺突を受け流すには、全くもって足りていない。


 が、それは落下するまでそのままであればの話である。



「だから、言っているだろう。突っ込みすぎる癖は直っていないな、と」



 ロキは初撃を受け流してすぐ、その足を犠牲にして、次の攻撃をも受け流した。


 その間に、もう片方の足で、シャルルの体を乗っ取った蒼帝の腹を、思い切り蹴りつけた。


 今度は手加減などしない。ありったけの力を込めて、細い腹を蹴り抜く。



「かはっ!」



 まるで流星のようなスピードで、シャルルの体は吹き飛んだ。


 また、反作用により、ロキもそれに近しい速さで飛ぶ。



「リリっ!」


「は、はいっ!」



 当然、リリが追いつけるはずはないのだが、治療のため追いかけなければならない。


 リリはどうにか足元の氷を振り払い、飛び立った。


 蒼帝の操るシャルルの体が飛んで行った方へ、時々振り返りながら。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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