貴方だけの装備
〜翌日・メルト〜
別れを惜しんだフランは、昨日、ヘルプ村に一泊した。
フランの父親はヘルプ村に定住するらしい。助けてもらい、食事を恵んで貰った分を返すのだそうだ。
そして今日、ロキたちはさらに歩みを進め、ロキとシャルルのいわば始まりの街、メルトに来ていた。
「久しぶりに来ると、なんか小さく見えるね」
「王都なり大都市を見たんだ。比べる方が可哀想というものだろう」
「それにしても、異変のイの字も見られないですね」
「魔物が移動しとるって話はデマやったんかな?」
「さすがに国王陛下も、信憑性のない情報を口にはしないわ。最悪の可能性で言えば、完全に後手に回っている場合ね」
「だが、迎え撃たれる様子もないぞ」
「前となんにも変わりない街並みだね」
「きっと別の目的があるのでしょう。私たちを妨害するために魔物を集めているわけではなさそうです」
「そやったら、神獣同士での連絡はしてへんのやな。うちらが作戦を潰し回ってるって知らんわけやし」
「たしか、魔神の復活だったかしら? 条件は分からずじまいだったけれど」
「まあいい。進めばわかることだ。雑魚が何匹集まろうと関係ない」
「潔いね。そういうとこ、好きだよ」
「ナチュラルに惚気んとってくれる?」
〜メルト・武器屋〜
ロキたちはとある目的のため、武器屋へとやって来ていた。
「そういえば、この装備一式を買ったのってこのお店だよね」
「ああ、そうだな。その装備も大分汚れてきたが」
シャルルの金属製装備は、至る所に落としきれなかった血痕が残っていたり、薄く錆び付いていたりと、購入時の光沢が一切見られない。
「この剣だけは丁寧に丁寧を重ねて手入れしてるから、ピカピカだけどね」
「その情熱を少しだけでも防具に与えてやれよ」
「んー、それはちょっと難しいかな」
「どうしてだよ」
「だってこの剣って、ロキにお金出してもらったし。初めてのプレゼントだよね」
「初めてじゃねえよ。もっと前にも菓子やら何やらやってただろう」
「そういうご近所付き合いじゃなくてさ。なんていうかこう、思いが篭ってる的な?」
「わかんねえよ」
「なんというか、ロキの好意が詰まってるというか」
「好意のない奴にプレゼントなんぞやらんだろう」
「へっ? それはもしやプロポーズですか?」
「何でもプロポーズに結びつけるな阿呆」
「てへへ」
「プロポーズではないが、好意のない奴の旅について行こうとは思わん。だからこれは最初のプレゼントではない」
「もうなんでもいいや。ロキから好かれてるならそれで」
「はぁ。何の話だったんだ」
爆破予告をプレゼントされそうな会話のあとで、商品に目をやったロキとシャルル。
そんな二人を横目に、フランが嘆息した。
「ええなぁ、二人だけの思い出話。うちも混ぜて欲しいわ」
「羨むものではないわ。思い出はこれから作れば良いんだもの。より鮮烈にね」
「より鮮烈に? どないすんの?」
「うふふ。それはね?」
「ふむふむ。それええやん。くっくっく。楽しみやで」
耳打ちをしたアイリスの怪しげな笑みに、同調するフランであった。
「これとかどう? リリちゃんに似合いそうだけど」
「え? ああ、私ですか。てっきり忘れられているものと思っていました」
「何を言っているんだ。今日の目的はリリの装備調達だろう。しっかりしろよ」
「は、はいっ。気を引き締めます」
「リリちゃん可愛いからさ、フランちゃんみたいな金属入りの服が良いかなーと思ったんだけど」
「値が張りすぎるからな。我慢してくれ」
「はい。構いません。元々前線に出るわけではありませんから。あくまで気持ちの問題です」
「たしかにわかるかも。なんか、装備に囲まれてた方が安心するよね」
「そうか? 動きにくいだけだと思うが」
「リリちゃんをロキみたいな攻撃力全振りお化けと一緒にしないでよ」
「すごいニックネームですね」
「リリは悪意というものを知らんようだから言っておく。こういうものを誹謗中傷と呼ぶんだ」
やっていられないとロキは肩を竦めた。
武器屋において、防具の種類は多くない。
元々男性向けであるため、デザインも単純なものが多く、価格の差異は専ら素材によるものである。
そして何より、リリに合うサイズがない。
「店員。いるか?」
「あいよ! 何をお探しだい?」
「こいつに合うサイズの防具を。前線に立たせる気はない。気休め程度でも構わん」
「リリちゃん非力だから、なるべく軽いのが良いよね」
「はい。よろしくお願いします」
「おん? よく見りゃ、何年か前にうちへ来た冒険者見習いじゃねえか。見ないうちに逞しくなったなぁ」
「覚えているのか」
「おうともよ! 武器屋へ来る女の子なんて珍しいからな! 装備サイズの目算と一緒に覚えているぜ!」
「うわぁ、そういえばこういう人だったね」
「目で測ってしまうのですか。職人技ですね」
「ふふん、まあな! ちょいとお待ちを!」
店員は店の奥へ在庫を漁りに入っていった。
「シャル、リリの感性はどうなっているんだ?」
「あの変態じみた特技を職人技って、ねえ?」
「仕事にかける情熱がそれを可能にしているのだと思うのですが、違うのですか?」
「あれは思い切り下心だろう」
「ね」
ロキとシャルルは揃って苦笑し、顔を見合わせた。
そこへアイリスが合流する。
「フランちゃんが、見せたいものがあると言っているのだけれど」
「なんだ?」
「良いのでも見つけたのかな?」
「しかし、店員の方は今奥にいらっしゃいます。ここを離れるわけには」
「お姉さんが代わりに待っていてあげるわ。見てきてちょうだい」
「ああ。そう言うのなら」
「私も残ろっかな」
「いいえ。シャルちゃんも見てきてちょうだい。きっと驚くわ」
「驚く? よく分かりませんが、ありがとうございます」
〜向かいの武器屋〜
その場をアイリスに任せ、向かいの武器屋に入っていたフランの元へ向かう。
そして三人は、試着室の前にフランの靴があるのを発見した。
「フランちゃん? 来たけど?」
「見せたいものというのは何でしょう?」
「嫌な予感がしているんだが」
「くっくっく。リリちゃん、おいで」
試着室のカーテンの向こうから、フランが手招きした。
リリは首を傾げつつも、カーテンの前へ立つ。
「リリちゃん、やめといた方が」
「嫌な予感しかしないぞ」
シャルルとロキがリリを引き戻そうとするが、もう遅い。
「リリちゃんゲットや!」
「きゃっ!」
案の定、リリは試着室に引きずり込まれた。
「はぁ。フラン、悪ふざけも自重しろよ」
「今度の犠牲はリリちゃんか。私じゃなくてよかった」
安堵して、試着室から離れておくシャルル。
試着室の中からはリリの悲鳴が。
「きゃあっ! フラン様っ! おやめ下さいっ! もう着せ替え人形は懲り懲りなんですっ!」
「ぐへへ。観念しい」
「リリ、今回ばかりは安心して良いと思うぞ。なんと言ってもここは武器屋だ。まさか水着のようなものが出てくるとも思えん」
「ロキ、それフラグじゃあ」
「そ、そうですよねっ。フラン様が服を脱がしてきますが、布面積の少ない防具なんてありませんよねっ。本末転倒ですもんねっ」
「だからそれフラグじゃあ」
「フラン様っ、下着もですか?!」
「当たり前やんか。これ着るんやで?」
「えっ!」
試着室の中で、リリは絶句した。
「あー、言わんこっちゃない」
「シャル、防具の中にリリがドン引きするようなものがあったのか?」
「わかんないけど、フランちゃんなら見つけ出すでしょ」
しばらくして、シャッとカーテンが開いた。
仁王立ちのフランと、その後ろに隠れて震えているリリ。
「我がパーティのセクシー枠、リリちゃんのビキニアーマーやで」
「うぅ。見ないでください。どうして私がセクシー枠なんですか。一番起伏のない体なのに」
「というより、何故されるがままなんだ」
「これ、経験則なんだけど。フランちゃんって着替えさせるときだけすっごい力強いんだよ。着替えたくなくても強制的に着替えさせられるんだ」
リリの格好は、フランの言う通り、白のビキニアーマー。
その名の通り、布面積で言えばビキニの周りに少し鎧がついただけである。
どう見ても、防具としての役割を果たしていない。
「うぅっ。恥ずかしいぃ。はやく着替えさせてくださいよぉ」
「ロキ君とシャルちゃんに感想貰ってからやで。ほら」
フランはリリをグイッと前に押し出した。
リリは顔を赤くして、なるべく局部を隠そうとモジモジしている。
「フランちゃん、エロい。着せ替え人形って傍から見ると素晴らしいね。脳内フォルダに保存しておくよ」
「せやろせやろ?」
「ここに私の味方はいないのですかっ!」
「はぁ。いい加減着替えさせてやれよ」
「せやったら、ロキ君も感想言ってや」
「ロキ様、早くお願いします」
耳まで真っ赤になったリリの上目遣い。思わずロキも頬を赤らめた。
「お、おう。リリには似合わないぞ」
「あ。ロキのツンデレが発動した」
「リリちゃんのビキニ、よう似合っとるって」
「こんなものを褒められても嬉しくありませんっ!」
「リリちゃんもツンデレ?」
「怒ったみたいな表情も可愛ええわ。もっとやって」
「ふざけないでください! もう着替えます!」
ピシャッとカーテンは閉められた。
〜武器屋〜
「わぁ、これ、良いですね」
「そうだろうそうだろう! こんなこともあろうかと、作っておいたものがあって良かったぜ!」
「サイズピッタリ。ほんと、すごい才能だよね」
「おかげで助かるわけだが」
勧められたのは、ジャストリリサイズのチェストプレート。端にはバラのような模様が描かれ、姫専用装備のような風体である。
「ええやんか。リリちゃんによう似合っとるわ」
「そうね。可愛らしいわ」
「これにしましょう。私、気に入りました」
「ふむ。店員。いくらだ?」
「たまたま作っていた鎧だからなぁ。値段は決めちゃいないんだ。そうさなぁ。金貨五枚でどうだ」
「良いんじゃない? 手が出る値段じゃん」
「その代わり持ち金ゼロになってまうけどな」
「依頼をこなせば良いのよ。魔物も溜まっているでしょうし」
「よし。決まりだ。これをくれ」
「あいよ! まいどあり!」
「皆様、私のために、ありがとうございます。大切にしますね」
ニッコリと笑うリリのその表情に、ロキは剣を買ったときのシャルルのことを思い出した。
〜メルト・宿屋〜
「魔物の話、全然無いなぁ」
ロキたちはリリの装備を購入した後、聞き込みをして回っていた。
「どこかに姿を隠しているのね」
「明日からは依頼をこなすことになる。魔物を駆除して回っていれば、そのうち何か見つかるだろう」
「はぁー。街に被害が出る前に魔物を全て倒せれば、何よりなのですが」
リリは買ったばかりの鎧に息を吹きかけ、布で拭い、光にかざしてはまた息を吹きかけ、という作業を繰り返していた。
「リリちゃん、すっごい大事そうに手入れするね」
「はい。大切な思い出ですので」
「ビキニアーマーも思い出になった?」
「なりませんっ!」
「良いかはともかく、忘れない思い出にはなったようね。良かったわ」
「うぅ。思い出したくありません」
「わかるよ。私もフランちゃんに脱がされかけたことあるから」
「シャルル様ぁ」
「俺も女装させられたことがあったか」
「えっ」
「おい。共感してやろうとしているのに引くなよ」
「あはは。ロキ君の扱いはいつも通りやな」
ひとしきり笑ったフランは手を叩いて言った。
「あ、そうや。せっかくこんな南の方まで来たんやから、シャルちゃんらの故郷に寄ってかへん?」
「えー。両親をみんなに紹介するのってなんか恥ずかしい」
「構わんが、何もないぞ、あんな田舎。特産品はおろか、金もない」
「あら。故郷を田舎呼ばわりなんて、感心しないわ。故郷はたとえどんな場所でも、愛に溢れた場所よ」
「名言出たね」
軽い雰囲気の中、リリだけがバツの悪そうな顔で言った。
「行くにも行かないにも、まずはお金を貯める必要がありますね。このままでは食料もままなりません」
リリの言葉には全員が軽い空気を捨て、重々しく頷いた。
お読みいただきありがとうございます。
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