魔女の威光
〜一週間後・オルタブルク〜
「ふー。やっと帰ってこれたね」
「今日は良い宿に泊まりたいわ」
シャルルの暴走騒動の翌日から、ロキたちは国中央部に向かって走り続けていた。
そしておよそ一週間後、ようやく到着したのである。
「そのためにはまず魔物の換金だな。宿に泊まる金がない」
「せやけど、帰りは魔物が少なかったしな。あんまし稼がれへんかったんちゃう?」
「炎帝討伐の報告をすれば、いくらか報酬を頂けるかもしれませんよ」
「そうだといいね。じゃあ冒険者ギルドに行った次は王都へ行かないと」
「待った。分担をした方が早いのではないかしら?」
「なるほど。それは良いかもしれんな」
「やけど、国王陛下の前には全員でおらなあかんのちゃう?」
「そうでもありません。今の国王陛下はお優しいですから、不敬罪については気にしなくても良いでしょう。ですが国王陛下は多忙です。法律改変もありましたし、会っていただけない可能性もありますね」
「どっちにしても、誰かは行かないといけないよ」
「ここはお姉さんとリリちゃんが行くわ。ロキ君たちは魔物を換金したら、依頼でも受けてお金を稼いでちょうだい」
「なんだ、アイリスは逃げるのか」
「いや、ロキ君。アイリスお姉さんがおっても魔物を黒焦げにされたらかなわんて」
「そうよ。生け捕りか炭化くらいしか選べないわ」
「お姉さん、それ極端すぎない?」
そういうわけで、アイリスとリリは王都へ。ロキ、フラン、シャルルは冒険者ギルドへ足を運ぶこととなった。
〜冒険者ギルド〜
冒険者ギルドに入ると、意外に中は閑散としていた。
オルタブルクが四大都市の中で最も栄えていないということもあるが、それにしても賑わいが無い。
しかしそれも、ロキたちの登場でざわつきが生まれた。
何せ、絶世の美少女二人を連れた男が、魔物を多数引きずって入ってきたのである。
「換金を頼む」
「承りました」
冷静なのは、換金受付の女性のみ。他の人々は呆然と少女を見つめていたり、ロキが引きずってきた死体の質に驚いていたりと、実に忙しい。
「なぁ姉ちゃん達。そんな男より俺のパーティに来ないか?」
「そんなパッとしねえ奴よりよぉ」
「うげっ。酔っ払い。うちこういう人ら苦手やねん」
「フランちゃん、我慢だよ。酔っ払いは無視したら勝手に過ぎ去るから」
シャルルは酔っ払いを台風か何かだと思っているのだろうか。
「パッとしなくて悪かったな。お前らが昼間っから酒を飲んでいることは構わないが、引き抜き交渉は遠慮してもらおうか。こいつらは俺のパーティメンバーなんだ」
「凄い。ロキ君がまともに話しとる。珍しい」
「面倒くさがって話さないか、殴って解決しようとするあのロキが」
「お前ら喧嘩売ってんのか」
「売ってへん売ってへん。どうかうちらも話し合いで」
「そうだよ。ロキと喧嘩なんてしたらどうなるか、自明の理だもん」
「けっ。良いよなぁ若い男は。若い女と仲良くできて。そうやってモテるのも今のうちだぞ」
「お前みたいな堂々と二股かける奴がいるから風紀が乱れるんだ!」
「面倒くさい絡み方してくるんじゃねえ! やっぱり話しかけるんじゃなかった!」
三人は換金受付の女性に名前を呼ばれるまで、酔っ払いの相手を続けることとなった。
〜王城・謁見の間〜
「魔物の減少ですか?」
「はい。その通りです。おかげで農業は順調なのですが、冒険者の仕事が少なくなっている現状です。魔物討伐に関する依頼の多くは都市郊外に住む農家からのものですから」
王都が一望できる謁見の間で、国王、リリ、アイリスの三人は顔を合わせていた。
「大変ね」
「アレク様、さすがに国王陛下に対してその言葉遣いというのは」
「構いませんよ。堅苦しくされるのは苦手ですから」
「お言葉に甘えさせてもらうわね。魔物が減少した理由は分かっているのかしら?」
「はい。減少とお伝えしましたが、実際には大移動と言った方が正しいですね。南に向かって多くの魔物が移動をしているようなのです」
「残りの神獣がいると思われる方向も南です。何か関係があるのでしょうか」
「わからないけれど、南下しているということは、北の魔物が大都市に入ってくる可能性もあるのよね?」
「はい。その通りです。ゲートは未だ修復途中ですので、今は冒険者を集めて北の警備にあたってもらっています」
「ですが、南に集まった魔物が押し寄せるという可能性もあります」
「ですので、皆様には早急に南へ向かって頂きたいのです」
「わかったわ」
「ロキ様方にも伝えておきます」
「よろしく頼みます。神獣の調査に専念してくださいと言いたいのですが、何分、この国も人員不足で。可能な限り、集まった魔物の殲滅もお願いします」
「ようやくお姉さんに出番が回ってきたわ。殲滅なら任せてちょうだい」
「仕草は可愛らしいですが、言っていることが物騒すぎますよ、アレク様」
両手でガッツポーズをするような仕草は、年不相応と言えばそうなのだが、見た目は可愛らしいものだ。
発言は置いておくとして。
〜アビスブルク・宿屋〜
ロキたち三人とリリたち二人は合流し、アビスブルクまでやって来ていた。
国王の要望通り、南へ向かうためである。
空も赤く染まり始めたため、五人は宿を取った。
女子四人部屋と、ロキの一人部屋である。
「はぁあ。せっかく今日は宿に泊まれんのに、明日になったらすぐ出発やろ?」
「社畜って辛いよね。私たちは国畜か」
「もう少しゆっくりしたいものですが」
「旅の疲れはなかなか抜けないものね」
「あかんあかん。ネガティブになっててもしゃあないわ。今日はゆっくり休んで英気を養おう。明日からは明日の自分に任すわ」
「そうしよっか。そうだ。皆でお風呂入ろうよ」
「良いですね。賛成です」
「お姉さんは遠慮しておくわ」
アイリスは荷物を背負い直して言った。
「なんでなん?」
「ロキ君とお風呂に入ってくるわ」
「ぶっ?!」
「ダメですアレク様! いけませんっ!」
「うふふ。冗談よ。新しい杖が欲しいの。今まで特に必要とも思わなかったけれど、殲滅ならやっぱり杖が必要だと思って。せっかく国王様からせびったわけだしね?」
アイリスは小さな袋を振り、チャラチャラと音を鳴らした。
「なんや、そういうことか。せやったらうちらもついて行くわ」
「そうですね。私も同行します」
「良いのかしら? 杖なんてあってもなくても大きく差は出ないし、見ていても暇よ?」
「いいのいいの。女の子にとっては買い物がエネルギーなんだから。買うのがどんなものでもね」
「そうやで。それにうち、お姉さんとお風呂入りたいし」
「む。フラン様、いかがわしいことはいけませんよ」
「あら。いかがわしいことをするつもりなのかしら?」
「せえへんよ。というかお姉さん、杖なんて持っとった?」
「ええ。亀の魔物と戦っている最中に無くしてしまったけれど」
「杖って結構大事なんじゃないの? 同じものを作ってもらうわけにはいかないの?」
「杖はお守りのようなものよ。時に大切にすることはあっても、無くなったって困りはしないわ」
「そういうものなんだ」
「あ。それよりはよ行かな、お店閉まってまうで」
〜アビスブルク・魔術店〜
ロキを除いた四人は、怪しい雰囲気を放つ店へと入った。
昼間でも薄暗いような店内は、薄暮時というだけあってなおさら暗く、不気味である。
「いかにもって感じのお店だね」
「通路が狭くなっていますから、皆さん気をつけてください」
「ありがとうリリちゃん。それにしても、胡散臭いもんばっかりやな」
「仕方ないわ。魔術なんて未解明のことが多すぎるもの。杖を買うのだって、半分はお守り代わりよ」
「そういえば、フランちゃんは杖とか持ってないよね」
「回復魔法も魔法の一種ですが、私も持っていません」
「そうやね。うちの場合、短剣が杖替わりやな」
腰に差した短剣を指さすフラン。
「そうね。せっかくだから、フランちゃんみたいに防御性能もある杖にしましょうか。先代は木だったけれど」
「大丈夫? 重さとかで変わったりしないの?」
「大丈夫よ。そんなに重いものを買うつもりはないしね」
求める品を探し、四人は店の奥深くへと進んでいく。
「知っているかしら? 実はこのアビスブルク、魔術研究が盛んなのよ」
「そうなのですか?」
「ひっひっひ。その通りさ」
「うわあっ! びっくりしたぁ!」
リリの確認の言葉に肯定を返したのは、この店の店主と思しき老婆。
彼女の座っている位置がまた特殊で、店内に所狭しと置かれている商品棚の一角であったりする。
客からすれば、商品が並んでいるところへ唐突にシワだらけの顔が現れるようなもので、度肝を抜くこと間違いない。
「杖を探しているのだろう? それならとっておきがあるよ」
「うさんくさっ」
「ちょっとフランちゃん。正直すぎるよ」
「シャルル様も大概ですが」
「ごめんなさい。気を遣うことに慣れていないのよ。店主さんで良いかしら? 見せてもらえる?」
「ひっひ。構わないよ」
老婆は商品棚から下りた。
その体躯は、アイリスの半分ほどしかない。
そんな彼女だが、確かな足取りで商品の間を潜り抜け、アイリスがついて行く間もなく商品を手に帰ってきた。
「これだ。手に取ってみな」
老婆が箱から出した杖は、禍々しいという形容詞がピッタリ当てはまるような見た目であった。
捻れあった、よく分からない材質の黒い杖。その先端には、アイリスの髪と同じ明るい青色の石がはめ込まれている。
長さは、アイリスの腰ほどまで伸びた髪と同じくらいだろうか。老婆の身長とも大差ない。
「へぇ。良いわ。強度もあるし、それに何だか特別な力を感じる」
「特別な力って、そんなんわかるもんなん?」
「特に何も感じませんが」
「ひっひ。それは術者の心を食らう杖さ」
「心を食らうって、大丈夫なんですかそれ?」
「問題ないよ。食らう分はそんなに多くないさ。術者の心を食らって、それを魔術に反映するんだ」
アイリスは、杖の宝石に自分の顔が映り込むのを見た。
「面白いわね。いくらかしら?」
「えっ、お姉さん、それ買うん?」
「見るからに怪しいですよ」
「言ったでしょう? 杖なんて所詮はお守りみたいなものよ。お守りが胡散臭いのは当然でしょう?」
「ひっひっひ。それは特別製だからね。金群五個は下らないよ」
「うわ、しかも高いよ。やめといた方が良いって」
「いいえ。もう少し交渉しましょう。店主さん、何かお姉さんに望むものはないかしら?」
「そうさねえ」
交渉というワードに、キラリと目を輝かせるあたり、老婆も商人である。
老婆は四人を見回した。そして、シャルルの鞄に目を留める。
「そこの白いの。鞄の中身を出しな」
「白いのって私? 鞄の中って、これのことかな?」
シャルルが鞄から取り出したのは、小さな人形。
アイリス作の通信機である。初号機はロキと共に瓦礫に埋もれてしまったため、これは二代目。
「よく見せてみな」
「あ、はい。どうぞ」
「魔術の痕跡。これは通信用の魔法だね」
「慧眼ね」
「魔術を付与するなんて技術、心当たりなんてほとんどありゃしない。あんたたち、これをどこで手に入れたんだい」
「お姉さんが作ったんやで」
「まさかっ。そんなことが出来るのはかの有名な東の魔女くらいのものだ」
「その東の魔女というのが、このアレク様です」
老婆は顎が外れんばかりに驚愕を顔で表した。
「東の、魔女? あんたが?」
「そうね。そう呼ばれたりもしているわ」
「なんてこったい。東の魔女に会えるとは、老いぼれの人生も捨てたもんじゃないねえ」
「それで、この人形は交渉材料足り得るのかしら?」
「もちろんだ。ついでにサインも書いていっておくれ。代金はそれで十分だよ」
「あら。ありがとう。助かるわ」
「東の魔女に感謝されちまった。こんなに嬉しいことはないよ」
老婆はウキウキ気分で色紙を差し出した。
「爺さん、見ているかい? あたしゃ東の魔女と今対面してんだよ」
「お姉さんって、もしかして有名人なん?」
「凄い人だったりするの?」
「知識のある人で知らない人はいないと思います。政情に疎い私ですら、アレク様のお噂はかねがね。まじゅの才能に溢れ、たった一人で他の諸侯の軍勢から街を守り抜く偉大なお方だと。それ故に、ミルクの街には手を出してはいけないという不文律が出来てしまうほどです」
「やば、うちら知らんかったやん」
「リリちゃんに馬鹿だって思われちゃうっ」
「気にしないで良いわ。その方がお姉さんも気楽だもの。さあ、帰りましょう。皆でお風呂に入るのでしょう?」
アイリスは照れくさくなったのか、日が落ちて暗くなった道を先行して宿へ戻ったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
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