ガルダでの最後の一日(後編)
〜数時間前・ガルダ・街頭〜
ロキの死亡と復活に精神を乱されたシャルルが、正気を取り戻した後。せっかくだからとロキ達も街を見て回ることにした。
「完全ノープランで出てきちゃったけど、どこか行きたいとこある?」
「ない。ついでに言えば、時間も大して無い。誰かさんが俺をずっと抱き枕にしていたせいでな」
「ごめんって。あ、あれ可愛い」
「はぁ。勝手なやつだ」
シャルルはある店のショーウィンドウを覗き込んだ。
「気になるなら入れよ。開いてるだろ?」
「そこまでじゃないよ。まさかこれを買うわけじゃないし」
シャルルが見ているのはインテリア。ショーウィンドウに飾られた、シックな振り子時計を注視している。
たしかに、旅の者としては全く縁のない代物である。
「そう言うな。どうせ遊びに行く宛もない。入るぞ」
「あ、うん。じゃあ入る」
〜インテリアショップ〜
「素敵だね」
「ああ。良い趣味をしている」
店内はさほど広くない。しかし、どこか気品のある家具たちが、そこにあるべくしてあるかのように一つの空間を彩っている。
店員と思しき老紳士がシャルルとロキの元へ歩み寄った。
「いらっしゃいませ、お客様。どのような家具をお探しでしょうか」
「ああいえ、見に来ただけなんです。ここの家具、素敵ですね」
「ありがとうございます。どうぞごゆっくり」
「これは手を触れて構わないか?」
「はい。どうぞご自由に」
老紳士はそのまま、姿勢よく店の隅で佇む。
ロキは早速、ソファに腰掛けた。
「ふむ。作りもしっかりしているな」
「横からでも、体重をかけたくらいじゃビクともしないよ」
「ああ。それにこの椅子は肌触りも良い。柔らかく包み込むようなクッションも最適だ」
ソファは二人がけ。ロキの隣にシャルルも腰掛けた。
肘掛や骨組みは黒っぽい木でできており、光沢もある。
クッションカバーは同系統の黒。シックで大人っぽい家具である。
「落ち着く空間だな」
「うん。こういう家って憧れるよね」
店内は黒っぽい色の家具で満たされていた。所々に散りばめられた白い部品が、落ち着いた様相にアクセントを加えている。
そのどれもが気品に溢れ、堂々と胸を張っているようにも見えるほどである。
「ただいま、トータルコーディネートで金群十個、輸送料込みとさせて頂いております」
「あ、いや。私たちほんとに買う気は無くって」
「置くような家も無いからな」
「左様でございますか。では、お二人が愛の巣を手に入れられた際には、是非当店をご贔屓に」
「あ、愛の巣っ」
「ああ。考えておこう」
「ちょっ?! ロキ?!」
「行くぞシャル。買う気もないのに長居するわけにいかんだろう」
「ちょ、ちょっと待って! 発言の真意だけ教えてよ!」
店を出るロキを、慌ただしく追いかけるシャルル。
そんな二人の様子を、老紳士は微笑ましく眺めていた。
「若いですな」
〜ガルダ・宿屋〜
結局何も買わぬまま、ウィンドウショッピングだけをして帰ってきたロキとシャルル。
外は既に夕焼け。空には上弦の月が浮かんでいる。
「はぁあ。なんだ。遠回しのプロポーズじゃなかったのか」
「当たり前だろう。お前が将来良い男を捕まえて、同棲する気になったらという話をしていたんだ」
「ロキも私の事好きって言ってくれたのに」
「嫌いじゃないと言っただけだ。勘違いするな」
「私じゃだめなの? 他に好きな人がいるとか?」
「好きなやつなんていねえよ。なんだお前。今日はグイグイ来るな」
「だってロキってば、度々プロポーズみたいなこと言うじゃん。勘違いもするって」
「はぁ。いくらお前が俺の事を好きだからって、自意識過剰じゃないか?」
「ロキのその言葉こそ自意識過剰だと思うんだけど」
「なんだ、シャルは俺のことが嫌いか。そうかそうか。それは結構」
「そうじゃないけどぉ。でもさー、これだけしつこく迫ってるんだから、その気になっても良くない?」
「しつこい自覚があったのなら止めろよ。はぁ。昔はもっと慎みのある奴だったんだがな」
「あー、たしかに慎みは無くなったかも。フランちゃんがロキと結婚するとか言い出したあたりから」
「それで誘発されるように結婚がどうのと自爆。その上、今じゃフランは俺に見向きもしないからな」
「ほんとだよ。フランちゃんって飽きっぽいっていうかさ。その点私は一途にロキを想い続けてるよ。お嫁さんにどう?」
「はぁ。積極的にも程があるぞ。フランに対抗心を燃やしていたとき以来じゃないか」
「なんでだろうね。そういう気分なんだ。思いっきり愛を伝えたいっていうか」
「勝手にしろ。俺は受け取らん」
「もう、釣れないなぁ」
さすがは幼馴染。愛情を向けるのも、それをスルーするのも、慣れたものである。
「釣れないロキはこうだ」
「ふぐっ」
シャルルはロキに軽くラリアット。
ロキは呻き声を上げ、シャルルはそれを聞いて笑いながら、共にベッドへ倒れ込んだ。
仰向けになったロキと、うつ伏せのシャルル。
突如シャルルはガバッと体を起こし、ロキの顔を真剣な目で見つめた。
「ロキが瓦礫に埋もれてるのを見た時さ、全身が冷たくなったんだ。自然と目から涙が零れてきて、それで、無闇に叫んで。ロキともう会えないって現実から逃げたくなったんだと思う」
シャルルは言いながら思い出したのか、紅の瞳が潤み始めた。
「その時にさ、思ったんだ。こんな仕事をしてる身だから、私もロキも、いつ死んだっておかしくない。なのにどうして私は、ロキに気持ちを伝えるのを躊躇ってたのかなって」
胸の内を吐露するシャルルの姿を、ベッドに倒れたままのロキは真摯に見つめ返していた。
「ロキが私の気持ちに靡かないことは知ってるし、実際に経験もしてるのにね。なのになんで、もっと素直にならなかったんだろうって。すごく後悔した。だからかな。今、ロキに愛を伝えたいし、甘えたいって思うの」
「自分勝手だな」
「あはは。そうかも」
「俺が言えたことではないが」
「ほんとだよ。もう、いっつもロキのせいでどれだけ振り回されてることか」
「悪いと思っている。若干だが」
「若干かいっ」
「ぐふっ」
ツッコミと同時に、シャルルは起こしていた体を落とした。ロキの胸の上に。
シャルルの体重の半分ほどが乗ったそれをロキは無抵抗に受けた。
「お前、ちょっとは気遣えよ」
「やーだよ。にひひ」
ロキの胸の上で、シャルルは蕩けるように笑った。
まるで父親と幼子のように折り重なった二人へ、窓から月の光が差し込む。
「ふ、ふふっ。ふふふっ」
「ん? シャル? どうした?」
シャルルは顔を伏せていた。ロキの胸に埋めていたとも言う。
彼女の様子がおかしい。ロキはそう悟り、一度退かそうと手を出した。
が、しかし。シャルルの手によってそれは遮られた。
「あ? おい」
「ふふふっ。ふふふふっ」
「どうした? 気持ち悪いぞ。さっさと手を離せ」
ロキの手首を掴むシャルルの手。
ロキはそれを振り払おうと動かすが、普段の彼女からは想像も出来ないほど力が強く、体勢のせいもあって、うまく動かすことが出来ない。
「本当にどうしたんだ?」
「くふふふふっ」
シャルルの顔は、彼女自身の前髪によってロキから見えない。
が、声からして笑っているのであろう。それも、先程とは違う、狂気じみた笑みで。
「いい加減っ、離せっ」
ロキがグッと体に力を入れるが、軽いはずのシャルルの体は浮き上がらない。
そればかりか、シャルルはロキの両手を一つに纏め、頭の上に置かせた。
まるでロキが襲われているようである。
現状、そうなのであるが。
「おい、シャル。どうしたんだ。いい加減にしろよ。怒るぞ」
「ふふふっ。ロキはそのままでいて。私が気持ちよくしてあげるから」
シャルルは空いた手で自身のキュロットスカートを脱いだ。それからブラウスのボタンも外す。
先程も見た、白いスポーツブラがロキの目の前で晒された。
白く細い肢体と美しい白銀の髪が月明かりに照らされている。
「どういうつもりだ? 幼馴染に強姦の趣味があったと知って、軽くショックを受けているんだが」
「くふふっ。黙って、ロキ。じゃないと塞いじゃうよ?」
赤い唇に人差し指を当て、何でロキの口を塞ぐのか示唆するシャルル。
彼女の目は、心做しか普段より紅く、そして鋭く光っているように見える。
「いい子だね。それじゃあ、ロキも脱がすよ」
「おいっ」
「ほら、黙る」
「むぐっ」
シャルルは胸をロキの顔に押し付けた。
その間に、シャルルの手はロキの股間をまさぐり、ベルトを外しにかかる。
「ふふふっ。ロキは力を抜いて、待っていればいいの。天井のシミを数えている間に終わるから。天国みたいな心地にしてあげるよ」
シャルルはロキの耳元で囁く。
そうこうしている間に、ロキのベルトは外された。
そのままシャルルはズボンのファスナーを下ろす。飾り気のないロキの下着がシャルルの目に晒された。
「ふぅん。普通だね」
「悪かったな」
「ふふふっ。でも、この方がロキっぽくて良いよ。それと、喋ったらダメ」
シャルルはもう一度、ロキの顔面を胸で押さえる。
「さてと。じゃあ始めよっか。まずは私からね」
シャルルは自分の下着に手をかけた。
ブラジャーと合わせた、白い下着。リボンとフリルのついたそれは、湿り気を帯びている。
「おいっ、さすがにそれ以上はっ」
「ただいまー!」
緊張を孕んだロキの声と、脳天気なフランの声が部屋に響いた。
「ロキ様、シャルル様。素晴らしい体験をっ」
「あらあら」
続いて、リリとアイリスも入ってくる。
「どないなっとるんや」
半裸のシャルルがロキを押し倒し、下着に手をかけている状況を見て、半ば呆然とする三人。
「お前ら良いところに来た! こいつを止めろ!」
「は、はい! 当然です! はしたないこと極まりないです! 結婚前の乙女がはしたない! はしたないっ!」
「あら。同意の上で愛を育んでいるのではないの?」
「この状況で同意があるように見えるかっ」
「う、うちのシャルちゃんの純潔がロキ君に奪われるっ!」
フランがシャルルにすがり付いた。
「奪わねえよ! 奪われそうになってんだよ!」
「もう、うるさいなぁ。いい所なのに」
シャルルは頬を膨らませ、不服そうにしている。
そんな彼女に、リリは顔を真っ赤にして言う。
「な、何を言っちゃっちゃってるのですか! ダメです! 不純異性交遊! ダメ! 絶対!」
「リリちゃん、焦りすぎて言葉がおかしくなっているわ」
「そうやでシャルちゃん。さっきまではあれやったけど、シャルちゃんはもっと慎み深い子やったはずや。こんな逆レイ〇なんてする子とちゃう!」
「フ! ふふふフラン様っ! 言葉遣いには気をつけてくださいっ! じょっ、女性がレ〇プなどと言ってはいけませんっ!」
「リリちゃんも焦って口走っているけれど」
状況は一気に混沌を極めた。
どうにか下着を脱ごうとするシャルルと、それを止めるフラン。真っ赤になってあわあわしているリリに、ツッコミを入れるアイリス。そして、もがくロキ。
「とととにかくっ! ダメなのですっ!」
「あっ」
運の悪いことに、リリの平手がフランの背中を叩いた。その拍子にフランの手は滑り、シャルルの下着をずり下げる。
もはや、シャルルの下半身を包むものは何もない。
そんな状態でシャルルは仰向けのロキに跨り、ロキのパンツまで脱がし始める。
「お前らなぁっ! いい加減にしろっ!」
ロキが本気で力を入れた。
その勢いでフランはシャルルの下着を持ったまま、ベッドの下へ転落。リリは咄嗟に翼を広げて部屋の上方向へ退避し、転がるフランを回避。
シャルルの拘束は解けた。馬乗りになっていた彼女は、上体を無理やり起こしたロキに、逆に押し倒される体勢となる。
「あら、正常位ね」
「アレク様っ!」
「あたたた。ロキ君、せめてうちが落ちんように手加減してや」
三人はいつも通りの調子だが、果たしてシャルルは。
「は、れ? 私、どうしてたんだっけ?」
「正気に戻ったか。まったく。フランたちが来なければ、危うくお前を天井に突き飛ばしていたところだ」
「え? あ、うん? ご迷惑をおかけしまし、た?」
「ほっ。シャルル様がその、変態様に、なってしまったのかと思いました」
「シャルちゃん、何も覚えてへんの?」
「う、うん。ロキに甘えてたまでは覚えてるんだけど」
「さて、どこまでが甘えるの範疇なのかしら? 今の状況も、場合によっては甘えるだけれど」
「へ?」
シャルルは自分の状況を省みた。
下半身は裸。上半身は、ボタンの外れたブラウスとスポーツブラジャー。オマケに体勢は、足を広げ、下腹部がロキの腰と密着しているときたものだ。
途端、シャルルの顔が羞恥で真っ赤に染まる。
「ぴ、ぴにゃあああああああ!」
そして、涙目になってロキの頬に平手を放つのであった。
「んな理不尽なっ!」
シャルルの悲鳴とロキの叫びがこだまする。月もとっくに通り過ぎた深夜、部屋は大層賑わった。
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。




