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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第五章・天使の降臨
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純白の想い

〜砂漠・元オアシス〜



 炎帝の放つ熱波により、少女らは皆火傷を負っていた。特にシャルルの症状は酷い。


 リリは休むことなく彼女らを治療していた。


 しかし魔力枯渇により、回復魔法を行使することさえ出来なくなってしまった。


 そんなリリへ純白の光が集まり、彼女の背に翼を形成した。



「天、使?」



 シャルルの呟きはもっともなものであった。


 一対の翼は純白で、リリの体は淡い光を放っている。金色の長い髪も相まって、さながら天使のようであった。



「力が溢れてきます。これなら。回復(ヒーリング)!」



 シャルルの火傷はものの数秒で完治した。



「すごい。速度まで上がっています」


「何が起こってんのやこれ?」


「聞いたこともないわ」


「ありがとう、リリちゃん。火傷だけじゃなくて、何だか気分まで良くなってきたよ」



 シャルルはその場でぴょんぴょんと跳ねた。熱に弱いシャルルであるが、その様子は微塵も感じられない。



「その翼のおかげかしら?」


「そんなスキルあるん?」


「いいえ。聞いたことがありません」



属性:回復(ヒーリング)


スキル:治癒術、魔力、精神強化、未開放



「以上が私のスキルです」


「未開放のスキルが発現したとしか考えられへんな」



 リリの翼について考察していると、そこへロキが割り込んできた。



「お前ら! そろそろ対策の一つでも思いつけ! いつまで鬼ごっこを続けさせるつもりだ!」


「あっ。ごめんロキ! 何にも考えてない!」


「阿呆か! 俺を使うだけ使っておいて!」



 どうやらロキは、炎帝を遠くへおびき寄せ、全力ダッシュで戻ってきたらしい。


 これでしばらくは時間を稼ぐことができるという判断であった。



「リリちゃんの翼に気を取られすぎたわ。どうにかして炎帝を止めないと」


「翼だと?」


「そうやで。魔力枯渇しとったリリちゃんに生えてん」


「本当だな。いやそれよりも、先に対策を考えろ。あと五秒で考えつけ」


「私に案があります。ロキ様の許可は必須ですが」


「言ってみろ!」


「はい。早速お伝えします」



 少女たちはリリの考えた作戦に難しい顔をした。



「可能かもしれないけれど、それは危険過ぎると思うわ」


「下手をするとロキまで死んでまうわ」


「問題ない。それで良い」


「正気なの? 死んじゃうかもしれないんだよ!」


「どっちにしろジリ貧だ。もうすぐあの馬鹿鳥も俺に勘付く。決行するぞ」



 ロキは砂を巻き上げ、囮に戻った。



「もう! 勝手なんだから! 心配する気も知らないで!」


「皆様。ロキ様が動かれている以上、作戦を実行するしかありません」


「はぁ。そうね。必ず死ぬと決まったわけではないもの。フランちゃんとロキ君が上手くやれば問題ないわ」


「うちにかかってるんやな。気張っていかな」


「みんな、やる気なの? ロキが死んでも良いの?」


「ええわけあらへん。やけど、炎帝に追われとるんはロキ君や」


「魔物と同じように炎へ耐性があるからといって、それがいつまで持つかも分からないし、炎帝が他の攻撃手段を用いてロキ君を打倒するかもしれないわ」


「そうなったらどの道ロキ君はやられてまう。やから、ここは一つ、うちとロキ君を信じてや」


「フランちゃん、アイリスお姉さん」


「シャルル様、ご安心ください。何があろうと、全責任は私が負います。ロキ様がどんな怪我をされても、私が治してみせます。ですから、共に炎帝を倒しましょう」


「リリちゃん」



 シャルルは顔を俯かせた。


 やがて拳を握りしめ、顔を上げる。



「うん、やろう! 絶対成功させるんだ!」


「よっしゃ! やったるで!」


「ありがとうございます。ではフラン様、こちらです」



 少女らは移動する。


 その頃、ロキは炎帝を誘導していた。



「はぁ。馬鹿なのは助かるが、もう少し早く移動出来んのか」



 ロキと比較されては、炎帝も哀れなものである。



「さて、どのあたりだったか。砂漠で探すのは骨が折れる」



 一人で愚痴を言ったロキは、水筒を傾けた。



「ぷはぁっ。もう水も無くなった。リリが作戦を考案しなければそのうち干からびていたな」



 ロキは万が一にも炎帝を荷物に近づけさせてはいけないため、水を補給に行くことが不可能なのである。


 ロキの炎耐性が適応されるのは、ロキが身につけていると判別できる場所まで。この判定の曖昧さは、いわゆるご都合主義である。



「そこか、リリ」


「はい。ちょうどここです。では、手はず通りに」


「ロキ君、これを渡しておくわ。これで指示するから、その通りに動いてちょうだい」



 アイリスはロキに、手製の人形を手渡した。人形とアイリスの間で会話ができるというものである。



「ああ。わかった」



 ロキは不敵に笑みを浮かべた。



「さっさと来いよ、馬鹿鳥。ようやくこの無駄な鬼ごっこも終わるんだ」



 ロキはそう言って、穴へ飛び込んだ。


 以前、ロキとリリ、そしてリリの元婚約者の彼が落ちた、あの穴である。


 炎帝はロキが落ちた穴を覗き込んでいる。



「さっさと落ちて! 氷槌(アイスハンマー)!」



 そこへシャルルが氷の塊をぶつけた。


 炎帝は先程のように爆発を起こすことなく、氷に押されるようにして穴へと落ちた。



「はぁ、はぁ。もう魔力が限界だよ」


「お疲れさん。あとは任しとき」


「ロキ君、まずは奥へ誘導よ」



〜地下〜



 地下の教会で、ロキは返事をした。



「了解」



 炎帝もゆっくりとロキを追って教会へと入る。


 その熱量は未だ衰えず、教会の柱を少しずつ溶かすほどだ。



「こっちだ鳥頭」



 ロキは炎帝をさらに奥へ誘導する。


 教会の更に奥、広大な太古の居住区である。



「さあ、ここがお前の墓場だ」



 首を傾げる炎帝に、ロキはより黒く笑んだ。



「そこらへんに転がっている骨もこの間のスコーピオンも、お前がいれば火葬状態だな」



 つまらないことを言っていると、人形から声が届いた。



「そのまま奥へ。まだしばらくかかりそうよ」


「だそうだ。最期の鬼ごっこを続けよう」



〜地上〜



探知電波(エレクトロサーチ)



 アイリスは魔法を行使し、ロキの居場所を掴んだ。



「順調のようね。フランちゃん、準備を始めましょう」


「了解や。せやけどこんな大規模な魔法行使、初めてで緊張するわ」


「大丈夫。フランちゃんならきっと出来るよ」



 フランはシャルルの言葉に頷きを返し、魔力を練り始めた。



「それにしても、上手く誘い込めて良かったわ」


「そうだね。また爆発されたらってヒヤヒヤしたけど」


「おそらくですが、あれはもう使えないのでしょう。溜め込んだ熱を一気に放出する技のようですが、あれだけの熱量はもうないと思います」


「そうね。もしあったのなら、フランちゃんの魔法のときもシャルちゃんの魔法のときも使っていたはずだもの」


「ロキも馬鹿鳥って言ってたし、温存なんて考えはないだろうからね。ほんと、馬鹿で良かった」


「炎帝が可哀想に思えてきたんはうちだけやろか」



 そうこうしているうちに、フランの魔力が練りあがった。



「ほな、みんな離れとって。お姉さんの合図で発動するで」


「わかったわ。ロキ君、聞こえているかしら? カウントダウンを始めるわ。避難を開始してちょうだい」



〜地下〜



「了解」



 ロキは短く返し、目の前の、懲りずに彼を追いかけてくる炎帝へニヤリと笑った。


 地下の奥。居住区の最深部とも呼べる場所である。


 特に変わったところはない。居住区の、行き止まり。それだけである。



「ここまで来たら、のろまなお前は脱出出来ない。チェックメイトだ」



 そこでロキは、これ以上ない全力で出口へ駆け出した。


 炎帝もすぐに追いかけようとするが、ロキの十分の一ほども速度が出ていない。



「カウントダウン開始。三」


「はぁ。これでようやくあの鳥から解放されるのか」


「二」


「この出口を抜ければ俺の勝ちだ」


「一」


「神を害するなんぞ百年早い」



 カウントダウンが終わる前に、ロキは居住区を抜け、教会へ滑り込んだ。



〜地上〜



「フランちゃん!」


「よっしゃぁ! 地動割(クラック)、最大展開!」



 フランが発動した魔法は、地下にある居住区の天井全てを崩壊させた。


 まさしく天変地異。天災と呼ぶに相応しい魔法である。



「フラン様!」


「やば。自分のこと考えてへんかった」



 その中心で、魔法を発動したフラン自身は地面と一緒に落下を始めていた。



「これは、うち、死ぬかも」


「させません! フラン様!」



 フランの体をリリが掴んだ。


 背中の翼で浮遊しているリリが。



「うぇえ?! 飛んどる?! そんなこともできんの?!」


「うわっ! 暴れないでください! 結構ギリギリなんです!」



 リリはどうにかフランを安定した陸地まで運んだ。


 それと同時に、アイリスの雷よりも大音量の轟音が響いた。


 シャルルとアイリスが駆け寄る。



「上手くいったようね」


「うん。大成功やわ」


「良かったぁ」


「アレク様、ロキ様は大丈夫なのですか?」


「そうね。確認しましょう。ロキ君、無事かしら?」



〜地下〜



「ああ。問題ない」



 ロキは崩壊した居住区を眺めながら呟いた。



「炎帝は天井の下敷きだ。さすがに、これはどうこうできないだろう。天井に封じられて空気を取り入れることさえも許されない。炎も出せない状況で炎帝に力はないはずだ」



 やがて、轟音は収まった。



「しかし酷い揺れだ。王都まで届いているんじゃないか?」



 ロキがそんな軽口を叩いたとき。


 柱が嫌な音を立てた。


 柱は炎帝が通った折に、半分ほど溶かされていたのである。


 そこへ過度な揺れが加わればどうなるか。



「まずいっ!」



 ロキは出口へ走る。が、天井は無慈悲に崩落する。



「くそがああああ!」



〜地上〜



「ロキ君?! ロキ君っ?!」


「どしたんお姉さん! ロキ君は?!」


「ロキは大丈夫なの?!」



 狼狽える少女たちの耳に、さらなる崩壊の音が聞こえた。



「まさかっ、あの中にロキ様が?!」


「嘘っ! ロキ!」



 シャルルが一目散に駆けていく。


 アイリス、フラン、リリも追随し、穴へ入った。



〜地下〜



「嘘っ。嘘だよね?」


「そんなっ! ロキ君! 返事してや!」



 逃げ遅れたロキは、手だけを最初の部屋へ出し、後は全て教会だった場所で天井の下敷きになっている。



「嘘だ。嘘だよ! ロキが死ぬはずない! 約束したじゃん! 私を世界で一番にしてくれるって! まだその約束は終わってないよ!」



 アイリスがシャルルの肩に手を置く。



「シャルちゃん。残念だけれど、ロキ君は」


「嘘! ロキはまだ生きてる! これはきっとニセモノなんだ! きっとどこかに隠れてるんだよ!」



 錯乱したシャルルは、アイリスの手を払い除けて辺りを見回した。



「そうでしょロキ? 早く出てきてよ! 早く! っ! 早くっ!」


「シャルちゃん!」



 現実を受け入れまいと、がむしゃらに叫ぶシャルル。


 そんな彼女をフランは抱きしめた。



「ごめん。ごめんな。うちの魔法が。ううん。うちが未熟で、制御が甘かったから。うちが、うちがもっと凄い魔法使いやったらっ!」


「フラン、ちゃん」


「ごめん。ごめんっ」



 地下はしんと静まり返った。


 沈黙を破ったのはリリだった。



「皆さん、まだ、ロキ様は助かるかもしれません」


「リリちゃん、どういうこと?」


「出来るかどうかは、私にもわかりません。世の理を超越しなければなりませんから」


「どういうことなん?」


「やって見せます。ひとまず、ロキ様の遺体を掘り起こしましょう」


「お姉さんがするわ。フランちゃんとシャルちゃんは休んでいて」



 アイリスは少女二人に見せぬよう、時間はかかったものの、遺体を掘り起こした。



「出来れば、あの子たちに淡い期待なんて持たせてあげたくないのだけれど」


「分の悪い賭けです。何しろ、世の理をねじ曲げるのですから。ですが、必ず成功させてみせます」


「ええ。わかったわ。やってみて」


「リリちゃん、お願い。頑張って」


「頼むわ、リリちゃん」


「はい。やってみせます」



 リリは今まで、何人もの人間にそう乞われてきた。


 そして、リリは、その悉くにおいて成功させてきた。


 その自信が、彼女の翼に一層の光を与える。



蘇生(リザレクション)



 リリの体がふらつく。


 生の後に死は訪れる。それは自然の摂理であり、覆すことは不可能である。


 だが、リリの翼はそれを可能にする。



「はああああああ!」



 リリの体から、白い光の粒子が溢れ出す。


 いつしかそれは地下の部屋全体を満たし、そしてその次の瞬間、圧死したはずのロキの体へ流れ込んだ。


 ロキの潰された体が徐々に元へ戻り始める。


 そして、ロキの体は完全に元通りとなった。



「お願いします、神様。ロキ様が、どうか目を覚ましますように。私はまだ、彼に伝えなければならないことがあるのです。どうか。どうかっ」



 祈りが通じたのだろうか。



「ん、んぁ?」



 ロキが目を、開けた。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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