オアシスとお約束
〜訓練後〜
日課の朝訓練が終わったあと、フランはパーティメンバー全員を呼び出した。
「見ての通り、太陽が二つあるわ」
「うん。常識を覆されたね」
「これは他の地域とは違う。ここでだけ二つの太陽が出現するのはおかしいわ」
「学術研究所で大々的に論争が行われているわけですから、少なくとも人間の手によるものではないでしょう」
「原因は機械か、それとも炎帝か。炎帝と言うくらいだからな。太陽の真似事くらい出来るのかもしれん」
「そうは言うたかて、なんのためにするん?」
「わざわざ太陽に擬態するって、意味がわかんないよね」
「行ってみればわかるのではないかしら? 第二の太陽を炎帝と仮定すると、行動範囲は決まっているでしょう?」
「そうですね。ですが、相手は太陽にも匹敵する魔物、神獣です。皆様の強さは十分承知しておりますが、準備を怠らない方がよろしいかと」
「そうだな。しばらく準備時間としよう。準備が整い次第攻め入る」
「了解や。砂漠を進まなあかんし、その準備もせなな」
〜学術研究所〜
各々が砂漠越えの準備、武器防具の整備など、必要なことを済ませていく中、アイリスの姿は学術研究所にあった。
「少しお話を良いかしら?」
「おや、昨日のお姉さんじゃないか。どうしたんだ?」
「この土地に太陽が二つあるのだけれど、それについて知っていることを話してちょうだい」
「何言ってんだ? 太陽は太陽だろ?」
「王都や他の地域では、二つの太陽なんてありえないのよ。この世界に太陽は一つしかないわ」
「ふむ」
「どうしたのかしら?」
「この研究所にも、太陽は一つだけだと主張する者はいる。そいつらはみんな、ここより東から来たやつばかりだ。ここでは二つの太陽だが、お姉さんの言うことも正しいんだろう」
「分かってもらえて何よりよ。それと、別にお姉さんは太陽が二つあることを否定するためだけに来たわけではないの。二つ目の太陽について、知っていることを教えて欲しいのよ」
「俺は生まれも育ちもガルダだからな。二つ目も何もわからんが、資料室になら何かあるかもしれない」
「見せては貰えないかしら?」
「お姉さんの頼みじゃあ仕方ないな。秘密だぜ?」
「ありがとう」
「良かったら今度、食事でもどうだい」
「ごめんなさい、遠慮しておくわ」
「そうかいそうかい。ははは。まったく、いつになったら春が来るのやらね」
「きっと良い人が見つかるわ」
「ありがとよ」
〜学術研究所・資料室〜
「ここね。手早く済ませましょう。好奇心でロキ君たちを待たせるわけにいかないわ」
それらしい本をいくつか手に取って流し読む。
「どこかにあるはずよ」
アイリスにはお目当ての本の見当がついているらしい。
「あったわ。やっぱり、昔から太陽が二つあったわけではなさそうね」
アイリスが手に取ったのは、過去の天体観察記録を纏めたものだった。
「二つ目の太陽はいつも太陽と逆側から昇り、同じ側へ沈む。たまに軌道を間違えることがある? やっぱり無機のものではないようね」
二つ目の太陽についての部分だけを読み進める。
「二つ目の太陽は日に日に輝きを増していく。大きさも本物の太陽と遜色なくなってきた」
そこまで読んだところで、資料室の外から足音が聞こえてくるのに気が付いた。
「バレると迷惑が掛かってしまうわね。名残惜しいけれど、ここまでにしておきましょう。電磁加速」
アイリスの姿は稲妻を僅かに残して消えた。
〜砂漠〜
太陽の位置は、およそ真上。ジリジリと照りつけているはずの太陽であるが、地上の気温は大したこともない。
「シャルル様、それはなんですか?」
「日傘だよ。砂漠だと遮蔽物が無いから眩しいし」
「そういえばシャルちゃん、前に肌弱いとか言っとったっけ?」
「そうなのですか?」
「うん、まあね。日に当たりすぎると赤くなっちゃうんだ。森だらけの田舎出身だからかな?」
「それでもシャルちゃん、肌白いやんな。羨ましいわ」
「ですが、長袖を着ているのに日傘が必要なのですか?」
「昔、服の上からでも赤くなったことがあってね。それで気をつけるようにしてるの」
「ああ、そういえばそんなこともあったな。一日中訓練をした日だったか。大急ぎで家まで連れ帰った覚えがある」
「そうそう。あれで一悶着あったんだよね。お父さんもお母さんも心配性なんだから」
「せやけど、その気持ちもわかるで。こんな可愛い娘が全身真っ赤で帰ってきたら、そらびっくりするわ」
「普通は心配しますね」
ここでロキは、今まで一言も発していないアイリスへ話を振る。
「アイリス、お前はどこへ行っていたんだ?」
「買い物に行っとったにしては、荷物がいつもと変わらんやんな」
「ええ。お姉さんは学術研究所へ行っていたのよ」
「どうして?」
「二つの太陽について詳しく調べるためよ。炎帝のヒントでも得られればと思ってね」
「どうでしたか?」
「やはり二つ目の太陽は炎帝、またはそれに準ずる生物で間違いないようね。けれど、弱点なんかはわからなかったわ。そもそもどんな形なのかもね」
「行って会えばわかることだ。調べるまでもない」
ロキは自信たっぷりに言う。
「その余裕が不安なのだけれどね」
「心配しすぎやって。何にせよ、会ってどうにかせなあかんやんか」
「国王陛下の勅令ですからね」
「それに、昔の居場所とは違うみたいだから、ヒントも少ないし」
「そうね。考えても仕方がないわ。今更南まで行って情報収集なんていうのも馬鹿らしいもの。それに、ロキ君たちは炎帝について何も知らないのでしょう?」
「ああ」
「なら、砕けない程度に当たりましょう」
アイリスは心配を振り払うように笑顔を浮かべた。
〜数時間後〜
ロキたちは砂漠を歩き続けた。
振り返っても、ガルダの街はもう見えなくなっている。
「そろそろ休憩しない?」
「暑くはないけれど、砂に足を取られて疲れが溜まるわ」
「わかった。ならもう少し歩け」
「言ってることと言ってることが矛盾してんで」
「フラン様、それはただの矛盾です」
「何もおかしなことじゃない。この先にオアシスがあるからな」
「オアシス! いいね! 服の中でも砂の感触がするんだもん。早く解放されたいよ」
「水浴びね。賛成よ」
「いや寒いだろ。俺はやらんぞ」
「リリちゃん、水着持っとる?」
「いいえ。持ち合わせておりません」
「そうなの?」
「リリちゃん一人、体を洗えないのも可哀想ね」
「うちらもやめとく?」
「お気になさらず。私は寒いので、遠慮しておきます」
それから、ものの数分で五人はオアシスへ辿り着いた。
「岩石砲、特大バージョン!」
フランが魔法で巨大な岩を作り出し、その陰で水着に着替えることとなった。
「リリちゃん、ロキが着替えを覗かないように見張っててね」
「はい。わかりました」
「見ねえよ」
「うちもロキ君やったら大丈夫やと思うけど」
「せっかくだし、縛っておくのはどうかしら?」
「たまに出るよね、お姉さんのサディストな一面」
「わかりました。縛っておきます」
「本当に縛るのか。別に構わんが」
「まあ、ロキ君やったら腕力で引きちぎりそうやんな」
「いいえフランちゃん。こういうものは縄で縛るという行為に意味があるのよ」
「はっ! いつもは温厚で優しリリちゃんが不遜なロキ君を縛っとる! なんか、なんか興奮するわ!」
「でしょう?」
「私、二人の性癖にだけはついていけないよ」
三人は岩陰に入った。
水辺付近には縛られたロキとリリが残されている。
「ロキ様」
「どうした?」
「あの方は何と言って出ていったのですか?」
リリが指しているのは、彼女の元婚約者である。
「前にも言っただろう。男を磨くために王都へ戻ると言っていた。生まれ変わってリリを聖職者から引きずり下ろすとか言っていたか」
「ふふっ。楽しみですね」
「お前は実際のところどうなんだ?」
「と申されますと?」
「あいつのことをどう思っているんだ?」
「ロキ様がそのようなことを仰るのですね」
「柄にもないことをしている自覚はある。だが、俺も俗世間に染まってきたようだ。俺を友人と言ったあいつの恋路を知りたいと思う。で、どうなんだ?」
「さあ、どうでしょうか」
「はっきりしないな」
「これからあの人は生まれ変わるのでしょう。それまでは何とも言えませんよ」
「今のところはどうなんだ?」
「そうですね。今のところは」
リリは顎に手を当てて言葉を探す。
「特には。友人としては良い人だと思いますが、恋愛感情はありません」
「そうか。バッサリだな。これはあいつも報われない」
「だからこそ、変身が楽しみですよ。ふふふ」
リリは彼を試す気なのだろう。実際に聖職者を辞めるかは別の話だが。
「リリちゃーん、ちょっとちょっと」
「どうかなさいましたか、フラン様?」
「ええからええから」
岩の後ろからフランが手招く。
「覗いてはいけませんよ」
「誰が覗くか」
一応ロキに忠告をしてから、リリは岩陰に入った。
「どうかなさったんですか?」
「リリちゃん、ちょっと失礼するで」
「ふぇ?」
岩陰に入った途端、リリはフランに後ろ手を拘束された。
「フランちゃん、ほんとにやるの?」
「リリちゃん一人は寂しいやろ? 無理矢理にでもやったらええて。どうせロキ君は見いひんのやし」
「フラン様、それはどういう」
「ごめんね、リリちゃん」
「こういうことやで」
フランはリリのスカートを下ろした。可愛らしいハートマークが印刷されたピンクの下着が顕になる。
「きゃあ! 何するんですか!」
「リリちゃんも一緒に水浴びしようや」
「やっぱり仲間外れは良くないわ」
「気になさらないでください! こんな格好で水浴びなんて出来ません!」
「そんなこと言うても、体は正直やで?」
「至る所に砂の感触があるもの」
「結構ですから! 離してください!」
「まあまあそう言わんと」
「きゃあっ! 恥ずかしいです!」
「良いではないか良いではないか。ぐへへへ」
「フランちゃんその笑い方どうにかならないの?」
フランはリリのブラウスのボタンを外し始めた。下とお揃いのピンクの下着がちらりと見える。
と、ここでアイリスがミスを犯した。拘束を緩めてしまったのである。
「あら、逃げられてしまったわ」
「白々しいな。元々その予定やったやんか」
「あっ、待ってリリちゃん! そっちは!」
全力で逃げ出したリリは、岩陰の外へ飛び出してしまった。
「何してんだお前ら」
「っ!」
縛られたままのロキと、下着に半脱ぎのブラウス一枚というリリの目が合った。
みるみるうちにリリの顔が赤らんでいく。
ロキはその様子にため息を吐いた。縛られているため、目を逸らしてやることもできない。
「はぁ。お前も災難だな」
「み、見ないでください!」
「目は瞑っといてやる。さっさと戻れ」
「はい。今見たものは、くれぐれも忘れてくださいね」
「わかっている。さっさと戻れ」
リリは岩陰に戻った。
「リリちゃん、ほんまごめんな。ここまでする気はなかってん」
「まさか飛び出して行ってしまうのは予想外だったわ」
「はぁ。もういいです。着替えますから服を返してください」
「リリちゃん、そのまま着替えるの? 今のゴタゴタで足とか砂だらけだけど」
「うっ。たしかにこのまま着ては気持ち悪いですね」
「せっかくやし、リリちゃんも水浴びしようや」
「それが良いと思うわ」
「ぐむむ。よくもぬけぬけと言えますね。ロキ様の目はどうするんですか」
「ロキ君やったら目隠しでもしとって貰えばええって。それに、別に見られたかって布面積はうちらと一緒やで」
「素材の差だけよ。気にすることはないわ」
「わかりました。私もこのまま着るのは嫌ですから、水浴びをします。ですが、条件があります」
「何かしら?」
「ロキ様の見張り役を一人つけてください。交代制で構わないので」
「お安い御用やで。お詫びの印や」
というわけで、水浴びタイムが始まった。
目隠しをされたロキに感じ取れることは、楽しげな甲高い声だけであるが。
「はぁ。俺の扱いが日に日に酷くなっていないか?」
「気のせいやで」
「目隠しの上に監視まで付けられて、これでまだマシなのかよ」
「あー、ほな特別サービスや。ロキ君が見たいものをうちが見て言葉で伝えてあげるで。何がお望み? 透けそうなリリちゃんのパンツとブラジャー? それともお姉さんの胸?」
「お前が見たいだけだろうが。そんなサービスはいらん。それより水をくれ。喉が渇いた」
「つれへんなぁ。はい、お水」
「助かる」
「ちなみにそれ、うちの飲みさしやで。って、めっちゃ普通に飲むやんか。間接キッスやで?」
「別に気にならん。唾液の味がするわけでもない」
「えー。ちょっと甘かったりせんの?」
「しないな。唾液は甘いものなのか?」
「知らんけど、そうやって言われることが多いで。官能小説では」
「何読んでんだよ」
「んー、じゃあシャルちゃんの飲みさしも飲んでみいや」
「本人に確認を取ってからにしろよ。幼馴染とはいえ気にする年頃だろう」
「シャルちゃんやったら別にええって。むしろ喜びそうやわ」
「なんだそれ」
「まあええわ。ほら飲んで。くいっと」
「ふむ。少し甘いな」
「ほんま?!」
「嘘だ」
「なんやねんな。期待させんとってや。もしほんまやったらシャルちゃんの唾液を舐り取ったろうと思ったのに」
「俺は意図せずシャルの危機を救ったらしいな。これであいつの水を飲んだことは帳消しになるか」
「むしろプラスやて。シャルちゃんにとったら」
天気はともかく、気温の観点から、水浴びはすぐに終わった。
また少女らは岩陰で着替え、ロキの目隠しも外れた。
「結構遊んだつもりやったけど、あんまり時間経ってへんみたいやな」
「そうね。まだ陽が高いわ」
「あれ? でも、太陽がもう一つあるよ。そっちはもうすぐ沈みそうだけど」
「真上にある太陽、なんだか近づいてきていませんか?」
ロキたちは空を見上げる。たしかに、だんだん日差しが強くなってきている。
「もしかして、あの近づいてるように見える太陽って」
「もしかしなくても、炎帝のようね」
「水浴びが終わったんを見越したようなタイミングやね」
「いや、タイミングは良いんだが。何とも張り合いがない登場のしかただな」
その場の全員がロキの言葉に頷いた。
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。




