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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第五章・天使の降臨
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甘味と学術

〜女子部屋〜



 ロキたちは昨日のセジメントジャッカルの依頼を終えて、しばらくはお金に困らないほどの財を再び築いた。


 そのため、今日この日は、仕事のことを忘れ、休日にすることとなった。



「というわけで、今日くらいはゆっくりしてはどうかしら」


「良いんじゃないか? 俺たちは炎帝を見つけに来たが、手がかりなんてそうそう見つからないだろう」


「何しろ、昔は白帝が支配していたそうですから」


「街を散策しながら探したほうが有意義だよね」


「まだガルダの街を見回ってへんかったし、洗濯機以外の古代技術も気になるわ」


「洗濯機?」


「ロキ君の部屋には無いのかしら。自動で洗濯をしてくれる機械よ。少しうるさいけれど」


「ああ、うるさいと思ったらそれの音か」



 ピーッ、ピーッという機械音が部屋に響いた。



「ちょうど終わったみたいだね。出してくるよ」


「え、シャルル様っ」



 リリが制止しようと手を伸ばすも、あまりに遅い。シャルルは洗濯機の扉を開け、中から洗濯物を取り出した。


 リリが手を伸ばしたまま固まる。



「シャルちゃん、それ、リリちゃんのものよね?」


「うん、そうだけど?」


「昨日砂まみれになっとったもんな」


「リリちゃんのものはリリちゃんにやらせてあげた方が良いんじゃないかしら」


「え、どうして?」



 洗濯物を取り出すモーションの途中で、シャルルは止まった。


 そして、リリの顔が真っ赤に染まる。



「それが入っているからですっ!」


「え? あ」



 シャルルが手にしていたのは、水色にクマのマークが入った子供用の下着であった。


 羞恥心で顔を真っ赤にしながら、リリは座り直した。洗濯物はロキから見えない場所に置いてある。



「シャルル様はデリカシーが足りませんっ」


「ごめんね、リリちゃん。飴あげるから許して?」


「シャルちゃん、リリちゃんを子供扱いしすぎやで」


「そうです。飴玉一つでどうにかなると思わないでください。貰ってはおきますが」



 リリは貰った赤色の飴を口に含むと、頬を緩めた。



「次からは気をつけてくださいね」


「案外チョロいのね」


「リリちゃん、甘い物が好きなの?」


「はい。とても。贅肉がついてしまうので、あまり頻繁に食べられないのが難点ですが」


「わかるわ、その葛藤。女の子に一生ついてくる悩みやんな」


「そう? いくら食べても変わらない気がするけど」


「お姉さんはそもそもあまり食べないわ」


「お姉さんは良いとして、シャルちゃんの発言は許されへんな」


「はい。今、世界中の甘い物好きを敵に回しました」


「え、そんなに?」


「たしかにシャルちゃん、お肉がつきにくそうな体をしているわ。羨ましい」


「お姉さん、どこ見て言ってんの? 場合によっちゃあ暴力沙汰も辞さないよ、私」


「あっ、そっか。ごめんな、シャルちゃん。お肉がつかへんのは羨ましいけど、他の部分が」


「憤ってしまい申し訳ございません。ですが安心してください、シャルル様。私も大差ありません」


「上等だよ! 今すぐその憐れむ目をやめて表出ろやい!」


「賑やかだな、お前ら」



〜ガルダ・街頭〜



 ずっと部屋で駄弁っていても良いが、それでは情報収集が出来ないからと、昼食を兼ねて外に出ることにした。



「寒っ」


「こらロキ。発案者が帰ろうとしないの」


「ですが、確かに寒いですね」


「日は出ているはずだけれど、どうしてかしら」


「それよりも、なんか温かいもん食べたいなぁ」


「さっさと店に入ろう。暖炉のある場所が良い」


「寒がりだなぁ」


「あの店などどうでしょうか」


「ミルク鍋? 嫌な予感がするけれど、美味しいのかしら?」


「案外美味しかったりするかもしれへんで。それに、鍋って言うんやから温かいやろし」


「よし、さっさと入るぞ」



〜料理店〜



 ロキが足早に入店したその店は、なかなか繁盛していた。


 ミルク鍋というものの珍しさもあるのだろうが、この集客には料理の美味さも関係しているだろう。



「ミルク鍋とやらを五人前だ」


「かしこまりました。少々お待ちください」


「ロキ、注文が早すぎるよ。メニューとか見ないの?」


「ええやんええやん。このお店に来る人、みんなこれ頼んどるみたいやで。それだけ人気なんやから、失敗はないって」


「些か不安ではあるけれど、ね」


「きっと大丈夫ですよ」



 少女たちがいつものように歓談を始める中、ロキの耳は他の客の席へ向いていた。



「最近だんだん寒くなってきたよな」


「ああ。おかげでここのミルク鍋が美味いよ」


「そんな悠長なこと言ってていいのかよ。異常気象だぞ? こんな砂漠の街が日中でもこんなに冷えるなんて、さすがにおかしいだろ」


「たまにはそんなときもあるさ。太陽だって休みたいときもあるだろう」


「はぁ。お前はいつもマイペースっていうか、楽観的だよな」


「お前が神経質すぎるんだよ」


「こんなこと今まで無かったんだから、何が起こるかわかんねえんだ。気をつけておくに越したことはないだろ」


「そうだな。あぁそうだ、なぁ、知ってるか? 学術研究所でカイロってのを配ってるらしいぞ」


「なんだよそれ?」


「振ると熱を持つ機械だってよ」


「へぇ、遺産は便利だな」


「それが今回ばかりは遺産じゃねえんだ。なんでも」



 ロキが他のテーブルから聞こえる話に耳を澄ませていると、彼のすぐ眼前にシャルルの顔が来ていた。


 しかしロキは、露骨に驚くことなどしない。



「ねぇロキ、聞いてる?」


「いや、聞いていない」


「その至近距離で聞いてへんとか、ある意味才能やで」


「お悩み事? お姉さんが相談に乗ってあげるわよ?」


「私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」


「そういうことじゃない。俺はお前らと違って真面目なんだ」


「どういうこと?」


「あ、シャルちゃん。料理来たで。ちゃんと席座り」



 ロキの眼前まで乗り出していたシャルルは腰を落ち着けた。


 その後で店員が運んできたのは、真っ白な出汁の鍋であった。ミルク鍋と言うくらいなのだから、当然である。


 ロキたちはまず、出汁をズズズと飲んだ。


 そして、五人全員がほわぁと息を吐く。



「まろやかでコクがあって、とても美味しいですね」


「案外といえば失礼だけれど、とても美味しいわ」


「ちょっぴり甘くて、女の子に好かれる味だね」


「あったまるわ」



 女性陣が口々に絶賛する中、ロキは夢中で鍋をつついていた。



「ロキ、取りすぎ。ゆっくり味わって食べなよ」


「早い者勝ちだ」


「シャルちゃん、別に咎めんでも、足りひんかったら注文したらええんやで」


「そうよ。ここはお店で、シャルちゃんが用意する必要は無いんだもの」


「はふはふ。ほんのり甘くて美味しいれふ」


「もう、リリちゃんまで。可愛いから良いけど」


「何か理不尽だな」


「そう思うんやったら、またロキちゃんになったらええんちゃう?」


「うふふ。そうしたらシャルちゃんも見逃してくれるかもしれないわ」


「何のお話でしょうか?」


「やめろ、思い出させるな」



 そんなロキの黒歴史を掘り起こしつつ、甘い団欒の時間は過ぎていった。



〜ガルダ・街頭〜



「美味しかったね」


「あのお店は当たりやったな」


「シャルちゃん、また気が向いたらミルク鍋を作ってくれないかしら」


「私もまた食べたいです」


「うん! 任せて!」



 パーティの料理番、シャルルは笑顔で頷いた。



「甘い上にお菓子ほど太らへんって言うし、最高やね」


「ああ、そうだな。というわけで、体が冷えないうちに帰るか」


「ストップ。情報収集するんでしょ。帰ったらダメだよ」


「良いだろ。情報収集もしたぞ」


「いつ? ぼーっとしてたとき?」


「ああ。お前らにはそう見えたかもしれんがな。どうやら、この寒冷化は異常気象らしい」


「って言うと?」


「過去に例を見ない寒冷現象のようだ。もしかすると、炎帝が何か関係あるのかもな」


「それはさすがにこじつけじゃない?」


「そうかもな。ああそれと、学術研究所でカイロとやらを配布しているらしい」


「何それ?」


「振ると温かくなる機械だそうだ。それも、遺産ではないらしいぞ」


「学術研究所といえば、王都でも有名です。過去の技術を紐解き、あるいは新しい法則を見つけ出して各々が発表する場なのだと聞きます」


「お姉さん、少し興味が湧いてきたわ」


「うちも。面白そうやわ」


「使える情報があるかもしれないし、行ってみよっか」



 学術研究所を目的地に決め、歩くこと数分。ロキたちは謎の人だかりを発見した。



「あそこでカイロを配ってるらしいよ」


「そこで技術の説明も受けられるみたいやで」


「機械をこれだけ大袈裟に配って大丈夫なのかしら?」


「大丈夫じゃなきゃ配らんだろ」


「早速貰いに行きましょう」



 美少女四人衆のお通りとあって、割とすんなりカイロを受け取ることが出来たロキたち。


 そこでは研究員が熱心にカイロの解説をしていた。



「このカイロは、厳密に言えば機械じゃない。目の粗い紙に鉄の粉と塩水を入れただけのものなんだ。それが何故温かくなるのかと言えばだな。端的に言えば、中で鉄が燃えているからだ」


「鉄が燃えるん?」


「ああ。だが、炎を出して燃えるわけじゃない。そんなんじゃ、熱くて触れたもんじゃないだろう? 鉄が燃えるのはゆっくりなんだ。じんわり熱を持ちながら、ゆっくり燃えていく。そして、薪が燃え滓になるように、この鉄もやがて熱を発しなくなるわけだ」


「どうしてそれが燃え滓だってわかるの?」


「鉄を火で炙ったものがあってな。それと重さも色も同じだってんで、同じ物質だと決定づけたわけよ」


「より詳しい研究なんかは無いのかしら?」


「お姉さんの美貌に免じて、特別に教えてあげよう。研究によって、鉄が燃えるには空気が必要ってことがわかった」


「どうやって発見したのかしら?」


「燃やす前のカイロと、燃やした後のカイロ。その重さを比べると、燃やした後の方が少しだけ重かったんだ。試しに燃やす前のカイロを密封してやると、カイロの中身は鉄のままだった。だから、鉄が燃えるためには空気が必要なんだ」


「つまり、物が燃えるには空気が必要ということですね」


「そういうことだ」


「なるほどな。天上界でも同じようなことを習った覚えがないことはない。おそらくその説は正しいだろう」


「お姉さんたち、学術に興味があるんなら、ぜひ中も見てってくれ。今は討論をやってるはずだからよ」


「ありがとう、お兄さん」


「よせやい。お兄さんなんて年じゃねえよ」



 研究員は照れくさそうに頬をかいた。



〜学術研究所〜



「気の良い人だったね」


「研究にかける情熱も凄かったし、ええ人なんは間違いないわ」


「討論とやらにも期待が膨らむわ」


「第一会議室、ここのようです」



 扉を開けた瞬間から、討論の声が活発に聞こえ始めた。開始時刻ピッタリだったらしい。



「私が考えるに、この世界は完全な球体で出来ている。そのため遠ざかるほど物は下がって見え、終いには完全に見えなくなってしまうのだ」


「だからといって、完全な球体だと断定出来るわけではないだろう。私の考えでは、この世界は半径の広い球体の一部だ。その上で太陽が回っていて、さらにその上では鏡がここを覆っていると考える」


「根拠を教えてもらおう」


「二つの太陽が根拠だ。互いに正反対の方角から登り、頂点に達したかと思えば一つは消える。いや、消えているのではない、重なっているように見えているのだろう」


「しかし、その発言には無理がある。反射の法則は知っての通りだ。であれば、あの空は何と表現するのか。砂漠など少しも映さぬではないか」



 討論の内容に、五人は首を傾げた。


 なぜなら。



「太陽が二つあるってどういうこと?」


「そういう仮定をしての討論ということではないかしら?」


「ですが、それではあまりに実用性がありません」


「この話はようわからんし、他のとこ見に行こか」



 五人は最初の主張だけ聞いて、退室してしまった。



〜数時間後〜



 日も暮れかけ、女性陣はほくほく顔で学術研究所から出てきた。



「いやぁ、楽しかったね」


「本当ね。興味深い話ばかりだったわ」


「うち、あの星の研究が一番面白かったわ」


「わかります。なんと言うか、ロマンがありますよね」


「全くわからん。学術なんぞの何が楽しいのやら」



 ロキだけは辟易とした様子であったが。



「それにしても、最初の話ってなんだったんだろうね」


「太陽が二つある、だったかしら?」


「朝から正午まで太陽が二つ出続けているという話でしたが」


「あはは。うちらが何年空を見てきたと思ってんの。そんなん見たことないわ。そんなことあるわけないって」



 安いフリである。



〜翌朝〜



 目を覚ましたフランは朝一番に空を確認した。



「ほんまや」



 夜明けの空には見事に、二つの太陽が浮かんでいた。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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