遺物
また投稿し忘れていた部分がありました。
本当に申し訳ございません。
〜砂漠〜
「ちっ」
リリの元婚約者の彼がアリジゴクに飲み込まれた後で、ロキは舌打ちをする。
「そんなっ!」
「大丈夫だ、安心しろ。これは」
言い切る前に、藻掻くことを止めたロキもアリジゴクへ飲み込まれた。
「ロキ様っ!」
「リリちゃん、話終わった?」
「あれ? ロキ君とあの人はどこ行ったん?」
「まさかとは思うけれど、これに巻き込まれたのかしら?」
「はい。ロキ様は大丈夫だとおっしゃっていましたが、あの方の慌てようからして、きっと厄介な魔物でしょう」
「まあ、ロキが大丈夫って言ってるんなら大丈夫でしょ」
「せやな」
「どうにかするでしょうね」
「皆様、ロキ様のことが心配ではないのですか?」
「全然。だって、ロキが冗談以外に嘘をついたことがないもん」
「神は約束を破らへんのやと」
「ロキ君は多分、人類最強よ。そんな人がこんなところで怪我でも負おうものなら、人は魔神に滅ぼされるわ」
「そう、なのですか」
「お姉さん、未来視に魔神とロキ君の戦いが映ったりするの?」
「そうやんか。お姉さんの未来視があれば、神獣の出現もすぐ分かるし」
「それがね、お姉さんの未来視には制限があるのよ。見たいものを何でも見られるわけじゃないわ」
「呑気すぎませんか。皆様の言う通り、ロキ様は心配無用かもしれません。ですが、あの人だって落ちているのですよ」
リリが深刻な表情で訴えかける。
すると、シャルルたちの表情にも曇が見え始めた。
「それは、そうだね」
「ロキ君がついとるにしても、ちょっと心配やな」
「けれど、助けに行くにしても、行く方法が無いわ」
「フラン様の魔法でどうにかなりませんか?」
「うちの魔法でも、砂の動きを止めるので精一杯やわ。お姉さんみたいに多重展開なんて出来ひんもん」
「お姉さんだって、同じ魔法でしか多重展開なんて出来ないわ。それも思考強化スキルのお陰だもの」
「そう思えば、育成教室で出会った校長の息子さんって凄いことしてたんだね。初めて気づいたよ」
「そういえばそうやったな。特別なスキルでも持ってるんやろか」
「それは置いておいて、どうしたものかしら」
悩む四人の中で、リリが手を挙げた。
「私、一度降りてみようと思います」
「えっ?! それは危ないよ! やめといた方が良いって!」
「そうやで。この中で一番自衛能力低いやんか」
「もし、あの方やロキ様が危篤状態にあるならば、治せるのは私だけです。手遅れになる前に、行かせてください」
「そうね。お姉さんはリリちゃんの肩を持つわ」
「どうして? こんなちっちゃい子に危険なことさせられないよ」
「だって、ロキ君が大丈夫と言ったのよ。あのロキ君だもの。脅威があれば即座に排除するでしょう。可能性としては、元婚約者さんが危険な状態である方が高いわ」
「そっか、それもそうやな。リリちゃんを送り込んだ方がええわ」
「じゃあ、これ。ロープで降りよう。リリちゃんが婚約者さんを治したら、これでまた戻ってきてよ」
「はい。分かりました。よろしくお願いします」
リリはロープの片側を持ち、流れ落ちる砂へ自ら身を投じた。
〜地下〜
ロキたちが落ちた先。そこには魔物など潜んでいなかった。
彼らの目の前には、砂漠の地下とは思えない広大な空間がある。
「っつつ」
「立てるか?」
「ロキ様も落ちてこられましたか。どうやら僕は打ちどころが悪かったようです。もう少しだけ休ませてください」
「ああ。そこでは砂がかかるだろう。壁まで連れて行ってやる」
「助かります」
二人は壁際へ移動した。彼はどうやら腰を痛めたらしい。歩く度に顔を顰めている。
「っはぁ、はぁ。また、ご迷惑をお掛けしてしまいましたね」
「まあそうだな。迷惑と言えば迷惑だ」
「ははは。真っ直ぐな人ですね」
「そうでもない。俺の半生は語ったはずだ。そんなことよりも、どうやって抜け出すかだな」
天井の一箇所に穴が開いている。ロキたちはそこから落ちてきたのだが、そこには砂山が出来ていた。
「戻ろうにも、砂が落ちてくる限りは同じことだな」
「砂が止まるまで待ちましょう。ここは横に広いですが、そこまで深いわけでもありません。直に止まります」
「ああ。そうだな」
ロキも壁にもたれかかった。そのとき、元婚約者の彼が声を上げる。
「別の部屋があるようですね。そこに入口がありますよ」
「みたいだな。行ってみるか」
「怪我人を置いて行かないでくださいよ」
「わかっている。冗談だ。一度上がって、リリに治してもらえ」
言った途端に、天井の穴から砂と一緒に降りてくる人影。リリである。
「リリ様! どうして降りてきたのですか!」
「貴方を心配して来たのです。取り返しがつかなくなっては遅いですから」
「俺のことは心配しなかったのか」
「ロキ様は大丈夫だとおっしゃいましたから」
「正しい判断だ。残念ながら危篤状態とはいかなかったが、こいつを治してやってくれ」
「はい。もちろんです。そのためにここへ来たのですから。回復」
リリは元婚約者の彼に駆け寄った。
「不思議だったのですが。怪我をして、体が痛みを訴えているはずなのですが、この時ばかりは幸せな気分です。回復魔法の効果でしょうか?」
「いいえ。今まで沢山の人を治療してきましたが、そんな効果はありませんでした」
「そうなのですか。ではきっと、リリ様のお心遣いが骨身に染みているのでしょう」
「上手く言いますね。そうやって女性を手にかけてきたのですか?」
「そんなことはございません。今まで僕がずっと貴女一筋だったことはご存知でしょう?」
「冗談です。はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます」
地下に広がる空間からは、いつの間にかロキが消えていた。
怪我が治った彼は、思い切り立ち上がって言った。
「リリ様、今なら二人きりです。お答えをいただけませんか。と言っても、分かりきっていますが。どんな答えでも、僕は諦めません。ですがどうか、どうすれば認めていただけるのか、お聞かせください」
「わかりました。貴方の気概を踏みにじるようで悪いのですが」
「おーい! ちょっと来てくれ!」
二人きりにしておきながら、なんとも間の悪いロキである。
「はぁ。わかりました! 向かいます! リリ様、お返事はまた後で伺います」
「いや、あのっ」
しかし、気勢が削がれたのは彼だけではない。リリもである。
何を言おうとしたのか、彼にとって知る由もないが。
〜地下・奥地〜
「これは」
「古代文字、ですか?」
「お前なら何かわかるかと思ってな」
広間の奥には、一回り小さい部屋があった。右側の壁にはビッシリと文字が刻まれている。左側の壁には更なる奥地があるらしい。
また、そこには八つの柱が二本ずつ並んで築かれ、その全てには謎の絵が彫られている。
そして、その柱が並んだ先には十字の彫刻があった。
「ここは、古代の教会でしょうか。聖職者の身としては興味深いですね」
「ガルダの街とはえらい違いだがな。古代は古代でも、文化レベルは低いらしい」
「これ、もしかしたら読めるかもしれません」
「本当か?」
「古代の言葉ですよ?」
「文法は今の言葉と変わりません。あとは単語さえ繋がれば」
彼はすらすらと読み進めていく。
「白い、神、獣? の持ち出した「カガク?」によって、世界は荒れ果てた。緑豊かだった大地は痩せ、人間はさらに生存が難しくなった。神よ、どうか我らをお救いください」
「ロキ様、もしかして」
「ああ。予想はついていたが、あの遺産は魔物のものだったらしいな」
「これであの伝説の信憑性も増しましたね」
「これでこの文章は終わりです。次の文は、どれどれ。また食われた。白神獣は際限なく強くなる。奴らの技術が進化すれば、ここがバレるのも時間の問題かもしれない。ああ神よ」
「大変だったようですね」
「次で最後のようです。遂に見つかった。奴は人間に懸賞金のようなものをかけているらしい。白神獣を除き、魔物に高度な知能はない。同情は見込めないだろう。ここはおしまいだ。神は我らを見放した。もし誰かがこれを読むことがあるならば、この奥には絶対に近づくな。死にたくなければ」
「あっ」
「どうかしましたか、リリ様?」
「残念ながら、忠告は守られませんでした。飽きたロキ様が先に進んでしまって」
「大丈夫でしょうか」
「ロキ様のことですから、大丈夫かとは思いますが」
そんなリリの楽観的な言葉の直後。ロキが入ったはずの部屋から断末魔が聞こえてきた。
「ロキ様っ?!」
一瞬顔を見合わせた二人は、すぐにロキが入った部屋へ駆け入った。
「なんですか、これ」
部屋は広大であった。最初の間よりもさらに広い。
「さしずめ古代人の居住区といったところでしょうか。こんなもの、見たことがありません。文献で語られた人間は地上で生活していたはずですが」
「かつては細かく区分けされていたようです。壁だった瓦礫や、横たわって白骨化した死体もあります。先程の声はいったいどこから?」
「リリ様、あちらです」
彼が指さした方向には、ロキが立っていた。その視線は、壁に向かっている。
「来たか。さっきからずっと流れているんだが、これもカガクとやらの一種か?」
「わかりません。幼少期を王都の図書館で過ごした僕ですが、こんなもの、見たことも聞いたこともありません」
「おそらく、この地の人間が魔物から盗んだものでしょう。映像を記録するもののようです。この映像はおそらく、ここが滅んだときのものでしょう」
「よく動力が残っていたものだな」
「それはどこの遺産でも言えることです。ともかく、これは持ち帰りましょう」
元婚約者の彼は、その小型の機械へ手をかけた。
「待ってください。嫌な予感がします。女の勘ですが」
「リリ様がそう言うのであれば、手を引きましょう。確かにこれは怪しいです。手を、引き、あれ?」
「どうかしたのか?」
「手が動かせません。手首を掴まれているような感覚です」
「引っ張ってやろうか?」
「えっ?!」
「リリ様? 今度はどうなさいました?」
「い、遺骨が掴んでいます。貴方の手首を」
「ぅえぇっ?!」
見てみると、確かに手首を白く細いものが掴んでいる。
「ぴぎゃああ!」
「落ち着け。ただのスケルトンだ。白骨化した遺体は偶に魔物化するはずだったろう」
「そう、ですね。はぁ、ビックリしました」
取り乱した彼であったが、魔物と知って安堵した様子。戦鎚を取り出し、手首を掴む骨を叩き潰した。
「容赦ないな」
「これで死んでは元も子もありませんから」
「ご冥福をお祈りいたしております」
「さて、戻るか。俺も嫌な予感がする」
「そうですね。そろそろ砂も落ち切ったことでしょう」
婚約者の彼が立ち上がると同時に、ロキとリリの嫌な予感は的中した。
大量のスケルトンが同時に立ち上がったのである。
目など無いが、彼らの目は当然侵入者へ向くわけで。
「これは面倒なことになったぞ」
「いくらスケルトンとはいえ、この数を相手にするのは愚策です。逃げましょう」
「いいえ、不可能です。私たちを逃がさないつもりでしょうか。入口近くを重点的に塞いでいます」
「はぁ。脳みそなんてねえだろうに。仕方ない。全部吹っ飛ばすか」
「リリ様、お守り致します」
ロキはコートを脱ぎ捨て、拳に炎を纏わせた。
「かかってこい、老害共」
「老害などという範疇を超えていると思いますが」
ロキは拳を振るった。何度も何度も。迫り来る遺体の山へ向けて。
戦鎚、拳、砕けた骨、炎が飛び交う戦場である。
ロキは無双状態。次々とスケルトンの骨を砕き、弾き飛ばして後続にも打撃を与え、骨をカルシウムの塊へと変化させていく。
「はぁ。鬱陶しい。アイリスの範囲攻撃が羨ましいな」
「ははは。ロキ様なら、あっても無くても変わらないと思いますが」
「そうですね。今にもスケルトンを駆逐し終えようとしているのですから」
まるで、寄ってくる虫を払うかのようにスケルトンを倒していったロキ。いつしか視界はすっきりしており、足元には骨がゴロゴロと転がっている。
「しかしこいつら、俺たちを攻撃する意思が薄くないか? 入口を塞いでばかりだぞ」
「私たちを殺害することではなく、逃げさせないことが目的ということでしょうか」
「いいえ。違います。おそらくですが、彼らは逃げているのです。全くもって、彼らに攻撃の意思が見られませんでしたから。それに、入口を塞ぐという知恵を持つなら、もう少しまともな攻撃手段があっても良いでしょう」
ロキたちの戦闘において、スケルトンは武器という武器を使わなかった。その気になれば、包丁でも何でもあっただろうにもかかわらず。
「だから、逃げている?」
「何から逃げているというのですか?」
「そいつはきっと、もうすぐ姿を現すでしょう。死体になっても逃げ出そうとするほどの魔物が」
彼の予想通り、その魔物は現れた。
堅牢な甲殻、鋭い爪。その体躯は全長二十メートルほどだろうか。
真っ赤なサソリの魔物である。
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。




